二宮和也主演『ラーゲリより愛を込めて』感想&レビュー【ネタバレなし】佳作! | とかげ日記

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●峻厳の寒さの中で

ラーゲリ(露: Лагерь)とは、ソビエト連邦における強制収容所のこと。僕の亡くなった祖父がシベリア抑留の当事者であったことから、自分のルーツを知るためにも観た方がよいという半ば義務感から観にいった。

これが大正解。ラスト10分で涙がボロボロの(僕にとって)良作。泣けることと作品の質には関係がないと言う人もいるけれども、綺麗に泣かせるというのはスゴいことなんだよ。ロジックを積み重ねて作品の質を主張するよりも、"泣ける"という直感的な感情の作用の方が重要だと僕は考えている。(もちろん、泣かせないタイプの映画にも良い作品は当たり前にあるし、泣かせようとする魂胆が見え見えの作品は嫌いだけどね。そして、泣かせる【もしくは心を揺さぶられる】ことは、作品の質を決める数多ある基準の中の一つに過ぎない。どの基準を重視するのかについては、観客に委ねられている。)

監督の瀬々敬久さんは『糸』『64-ロクヨン- 前編/後編』『アントキノイノチ』などの人気作を過去に撮った売れっ子監督。その前にはピンク映画も多数手掛けていたようで、その時の経験が、本作『ラーゲリ~』の出演者の息遣いまで感じさせる肉感的な撮り方に活きているのかもしれない。

主演の二宮君(僕と同じ歳で誕生日一日違い)が難しい役所を好演していたし、その妻役の北川景子さんはハッと息を飲むほど凛々しく美しかった。あと、辛い描写が続く中で中島健人が演じる青年の健気さにも救われた気がした。もちろん、松坂桃李さん、寺尾聰さん、桐谷健太さん、安田顕さんもそれぞれの持ち味を演技で発揮していた。

リアリティもあった。厳しい寒さの描写が辛かった。詳細は違うのかもしれないが、祖父が置かれていた状況はこうなのかなと想像をめぐらすことができた。祖父もロシア語の通訳担当だったみたいだしね。

また、 「歌」が大きな役割を果たしていた。主人公が劇中でよく歌っていたアメリカ民謡の「いとしのクレメンタイン」が印象的だった。第二次世界大戦中は敵国だったアメリカの民謡を歌う主人公の歌声がとても純朴に響く。そう、良い歌や文学(主人公はロシア文学にも惹かれている)にはアメリカもロシアも関係ないのだ。ここに、人間性を感じる。この点に限らず、非人間的な冷酷さに対して、温度のある人間性は打ち勝てるのかということが本作のテーマの一つなのだと思う。そして、こういう状況ではどのように行動するのか、観客の一人一人に問いかけているのだ。

そう、本作に限らず、人間性を感じさせることは感動につながる重要なポイントだ。本作は厳しい状況下でのふとした希望(人間味)を見事にすくい上げて描写している。そして、二宮さんの迫真の演技からは"人間"の喜怒哀楽が温度を伴って伝わってきた。

出演している役者のファンにも、良い作品が好きな映画ファンにも、映画代を損させない佳作です。

Score 8.0/10.0

祖父についてのプチ伝記はこちらから💁‍♂️
命日なので再録「おじいちゃんが亡くなった。」

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