新海誠監督『すずめの戸締まり』感想&レビュー【ネタバレなしで魅力を語る】 | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



≪以下、ネタバレなしでこの映画の魅力を書いていきます。しかし、何をもってネタバレとするのかについては人によって違うと思うので、少しのネタバレも嫌だとする方はそっとページを閉じてください。≫



●魂と記憶を結ぶロードムービー

九州から東北へ、この世界から扉を隔てたその先の世界へ、魂と記憶を結ぶロードムービー。青春感を成熟させたオトナ切ないラッド(RADWOMPS)の曲も相まってエンドロールでは感極まって泣いてしまった。

主人公の女子高生の鈴芽(すずめ)がピュアでイノセントな感じで魅力的だ。すずめ役で声優を務めた19歳の原菜乃華(はらなのか)さんの声質からしてピュア度極まりない。個人的には僕が毎週観ている『太田光のつぶやき英語』のレギュラーである森川葵さん(俳優)に並ぶピュア度だと思う。そして、人によっては、坂道系のアイドルなどのような令和の時代ならではの生き生きとして透明感のある女の子像に感じる方もいるだろう。また、すずめを始めとしてこの映画に息づく登場人物たちのリアリティ描写には、スマホを使用する場面が多いことによる現代ならでは感が一役買っている。

主人公の相手役の男子大学生"宗像 草太"を松村北斗(SixTONES)さんが演じている。落ち着いていて優しげな美声が役に見事にハマっている。もちろん、松村さんの力量もあるが、宮崎駿監督の『ハウルの動く城』に声優として出演した木村拓哉さんの時と並ぶくらい制作陣は声のディレクションが上手いのだろう。木村さんとは同じくジャニーズだしね。また、松村さんが演じる宗像はRADWIMPSのボーカルの野田洋二郎さんの現在とたたずまいが似ていると感じる。あの不思議で紳士な感じ……。



ハウルといえば、ハウル以外にも耳すま、トトロ、魔女の宅急便などジブリ映画へのオマージュが至る所にある。ジブリを始めとしたルーツを大切にしている表現が、この映画の正統性を高めている。

その『魔女の宅急便』のオープニングテーマソングである「ルージュの伝言」(荒井由実)など、70年代から80年代にかけての流行歌が道中の車やスナックでかかるのも特徴的だ。それらの歌謡曲を横軸にし、RADWIMPS&陣内一真の現代的な音楽や歌を縦軸にして、ノスタルジー感あふれる音楽映画になっている。

『君の名は。』でのRADWIMIMPSが神曲すぎたせいか、本作『すずめの戸締り』の主題歌「カナタハルカ」「すずめ feat. 十明」は期待していたほどではなかった(メロディがポップではなかった)。しかし、震災後にほぼ毎年ラッドが作ってきた震災ソングのように、優しい包容力のある「カナタハルカ」やオリエンタルな音階に引力のある「すずめ feat. 十明」も、震災がテーマのこの映画で鎮魂の役割を果たしていた。



サザンオールスターズの「TSUNAMI」がここ3, 4年でようやくラジオなどの場で解禁されてきたように、震災を直接のテーマとしても被災者の傷をえぐることは無いと新海さんは考えたのだろう。そう、東日本大震災からかなりの時間が経ったのだ。

東日本大震災における1万8425名という膨大な死者の中の大切な一人の魂に向き合おうとする方への共感に満ちていた。映画内でかかる音楽を始めとして日本的霊性の磁場を強く感じる映画だった。すずめと草太が「災いの扉」を閉じていくように、この映画自体が戸締まりの役をしてくれたらと願っている。

Score 8.9/10.0

🐼関連記事🐼こちらの記事も読まれたい❣️
RADWIMPS『FOREVER DAZE』感想&レビュー【変わり続けるラッドの現在点】
新海誠監督映画『天気の子』感想&レビュー(ネタバレ)
細田守監督 アニメ映画「おおかみこどもの雨と雪」感想&レビュー