坂本慎太郎『物語のように』感想&レビュー【音楽愛のふとさ】 | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



●音楽愛のふとさ

音楽好きから篤い支持を受けるミュージシャン「坂本慎太郎」の新譜をレビューします。誰?と思った方でも、2010年に解散したゆらゆら帝国のフロントマンと言えば分かる方もいるかもしれない。

アンダーグラウンドなミュージシャンと形容されることもあるが、ゆらゆら帝国は有名だから、アンダーグラウンドではないのかな。では、アンダーグラウンドはどこからアンダーグラウンドになるのだろうか。今日の疑問。

ちなみに、過去にスピッツ草野マサムネさんのラジオ番組を聴いていたら、草野さんがカラオケでよく歌う、ロックナンバー2トップはエレカシの「奴隷天国」か、ゆらゆら帝国の「ゆらゆら帝国で考え中」だそうだ。


さて、この新譜『物語のように』である。オシャレというよりもラディカル(≒抜本的、根本的)な玄人好みのポップが展開されている。上質な時間とコーヒーを提供するカフェで流れているようなグッドバイブスな音楽だ。アルバムタイトル曲である#3「物語のように」からして女声のコーラスが心地よく、レイドバックしたサウンドにずっと浸っていたくなる。



ネスカフェCMの「違いがわかる男」が好きそうな、こだわりのある名演がいくつもある。たとえば、#8「愛のふとさ」で魅せるサックスプレイヤー西内徹のフリーキーな演奏は、マイルス・デイビスのトランペットくらい雄弁に音楽への愛を物語る。管楽器の自由はここにある。

そして、アルバム一枚を通して表現していることの幅が豊かだ。ディストピアからふんわり日常へ…!

一曲目「それは違法でした」は、日常の何気ない行為や作品が違法になってしまうディストピアを描いている。リズムボックスで同じリズムパターンを執拗に繰り返しているところに僕は少しの恐れを感じるのだ。



#9「ある日のこと」は、マンガの『よつばと!』的なふんわり日常感がたまらない。作り込み具合からは、音楽への真率な愛情を感じる。こちらもリズムボックスを使っているが、「それは違法でした」とは違う使い方をしており、リズムの音が背景に退いているのが特徴だ。


また、坂本慎太郎という名のとおり、慎み深い音楽を鳴らしている。過剰というよりも抑制の美を感じる。以前にレビューしたシャムキャッツの音楽のように抑制されたゆえの美意識を感じるのだ。

しかし、10の器に正確に10の熱量を注ぎ込み、その正確性で魅せるような音楽よりも、 10の器に12の熱量を注ぎ込んだ過剰な音楽が僕は好きだ。

たとえば、あふれたぎる熱とダウナーな憂鬱を行き来しながら音で叩きつける"神聖かまってちゃん"。あるいは、狂騒と滋味のアンビバレントをアートなオルタナサウンドで表現する"うみのて"。この二組のバンドほどの熱量を今はやりのシティポップバンドの多勢や坂本さんソロでは感じない。

しかし、坂本さんと神聖かまってちゃん&うみのてはスタイルがそもそも違うというだけだ。僕はかまってちゃんとうみのてのスタイルの方が好きなのだが、坂本さんのスタイルも好きだ。どちらのスタイルも尊重したいし応援したい。

そうそう、ゆら帝や坂本慎太郎さんは、『ミュージック・マガジン』の常連だ。"くるり"と並んでミューマガから評価されている印象を僕は持っている。スノビッシュな雑誌に思われる方もいるだろうが、僕にとって音楽的な気づきが一番多い雑誌でもある。廃刊したが『スヌーザー』も音楽的学びがある雑誌だった。

マニアックなツボを刺激する知的さはお笑いで言えばラーメンズ。音楽的知性を重視するミューマガから坂本さんの音楽が評価されるのは、さもありなんといった感じだ。

普段着でくつろぎながら幽玄の音楽を奏でる坂本さんは無二の存在。彼の音楽の世界観は日常から幻まで地続きで続いている。僕も現実に負けそうな時、心地よくサイケなギターを鳴らすこのアルバムを聴いて自意識を薄くすることで疲れを逃れたい。

Score 8.1/10.0

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