PELICAN FANCLUB『解放のヒント』感想&レビュー【ホットな心、クールな音楽】 | とかげ日記

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●ホットな心、クールな音楽

男性スリーピースバンド"PELICAN FANCLUB"による、クールでアーバンなメジャー1stアルバム。

曲始めのチョップされたボーカルが印象的な#1「儀式東京」からフルスロットルで近未来の世界へ! 音楽には浮遊感よりも土臭さを求めている僕だが、このバンドの曲には土臭さはない。だが、ラディカル(≒抜本的、徹底的)な姿勢が感じられて革新的で魅力的な作品になっている。

また、アート寄りにも思えるが、ポピュラーなロックソングとしての即効性も感じる。アニメともタイアップしたようだが、それくらい大衆性があるのだ。

アルバム全体で鳴らされるのは、ギターにディレイやリバーブをかけてコクトー・ツインズのように夢心地なサウンドでありつつ、リアリズムと共に透明な風よりも速く疾走するドリームポップ。

ドラムとベースが演出した風の中を淡く駆け抜けていくようなギターボーカルの爽やかさ。人間の心の奥底を鳴らして照らすような音楽的な濃度。暗さと明るさ、冷たさと温かさ、その間にある明度と温度で歌がつむがれて聴きやすい。

ただ、一周目に聴いた時はどの曲も金太郎飴のように同じように聴こえた。それは、彼らの音楽への僕の理解が浅かったためだろう。(知人でスピッツの曲はどれも同じように聴こえると言っていた方がいた。曲によって多彩な個性があるスピッツについて、そんなふうに言うのに驚いた。同じように聴こえたり、ボーカルがお経のように聴こえたりするのは音楽への理解が十分ではないからだと思う。)

二周目、三周目と聴くにつれて、それぞれの曲に仕掛けられたギミックが段々と分かってきた。音楽的な知性をそれぞれのギミックに感じた。それでも、まだどの曲も似たように聴こえる…。

また、二枚目路線の立ち位置と音楽だと思う。歌声もイケボ(魅力的な男声)だし。端正なクールネスを曲とアルバム一枚通して貫いている。音楽性は異なるが、立ち位置的にはアレキサンドロスと共通していると思う。

しかし、鳴らす音楽はクールネスよりもユーモアがあった方が僕は好きだ。ユーモアは優しさだと思うし、僕の孤独を削ってくれる。

そして、クールな表現よりも、ホットな表現の方が好きだ。野球選手で言えば、イチローを一言で表現するなら、"クール"で、大谷翔平の場合は"ホット"だと思う。クールもホットも良いところがあるけど、自分はホットな人間性と表現により惹かれるのだ。僕が好きなバンド(神聖かまってちゃんや"うみのて")もホットだよね! クールにスカすよりも、ホットで人間味のある表現が好きなのだ。

さて、このアルバムのオススメは#2「新世解」#3「俳句」だ。曲の世界観が突き抜けていてキャラクター性が強い良曲です。また、yonigeの牛丸ありさをフィーチャリングした#4「星座して二人」も雰囲気と匂い(⇄機械的)があって好きだ。そして、最後の曲#16「少女A 」も散り際の花のようで美しい。





本作は自己愛がテーマだそうで、自己愛こそが自分や世界を解放するヒントだという結論に納得する。自分をまっすぐに愛する勇気さえあれば、世の中から犯罪は少なくなるだろうし、他人を愛せる勇気へも一歩踏み出せるだろう。

上記でペリカンファンクラブの音楽をホットというよりもクールだと書いたが、クールな表現を採った一方、フロントマンのエンドウアンリやメンバーは熱い心を持っていると思う。彼らの熱に感化された新しいリスナーが増えていくことを願ってやまない。

Score 7.7/10.0

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