ジェニーハイ『ジェニースター』感想&レビュー【天才で新時代的なユーモア】 | とかげ日記

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●天才で新時代的なユーモア

川谷絵音がギター& プロデュースを務める5人組バンドの2ndフルアルバム。ジャケの宇宙人のように、その才能は宇宙級! 宇宙人が作るような奇想天外の音楽でありつつ、スターとしての華やポップネスが刻印されている。

ここでジェニーハイのプロフィールを見てみよう。ネット記事から引用してみる。

ジェニーハイ(GENIE HIGH)
2017年に、BSスカパー!『BAZOOKA!!!』をきっかけに結成。さまざまなジャンルのジェニー(フランス語で天才の意)が集結した5 人組バンド。メンバーは、ドラムに小籔千豊(1973年大阪府生まれ)、ベースにくっきー! (’76年滋賀県生まれ)、キーボードに新垣隆(’70年東京都生まれ)、ボーカルに中嶋イッキュウ(’89年滋賀県生まれ)、ギター& プロデュースに川谷絵音(’88年長崎県生まれ)。2018年にデジタルシングル「片目で異常に恋してる」でデビュー。同年にミニアルバム『ジェニーハイ』、’19年にフルアルバム『ジェニーハイストーリー』を発表。9月25日に神奈川県のぴあアリーナMMでライヴ「アリーナジェニー」を行う予定。
※『GOETHE』(https://goetheweb.jp/person/article/20210901-geniehigh) から引用。

陰もあるが、それをユーモアとして音楽に昇華する姿勢にニューウェーブな文学を感じる。それはバンドの成り立ちについてもそう。川谷さん(ゲス不倫)や新垣さん(ゴーストライター)は過去のスキャンダルを抱えているが、それをルサンチマンからは遠く離れたユーモアあふれるキャラクター性に転換して落とし込んでいる。

アーティストは自分がこう見られたいと望むイメージとパブリック・イメージの間で闘っている。そこで、アーティストが一つのキャラクターのイメージをまとうのは、音楽シーンでは武器の一つになる。ジェニーハイのサバイブの仕方を見ていると、彼らはかなり突き抜けたやり方をしていると思う。

ところで、まだ川谷さんがそれ程知られていなかった頃、僕の親友だったバンドマンが楽屋で川谷さんのバンドに挨拶したところ無視されたという。その一件の印象で、個人的に人の良さという点では川谷さんにマイナス点がつく。だが、音楽の面白さや深さと人の良さは関係ない。それに人の心は多面体だ。ある人には冷たくても、他のある人には優しいのかもしれないし、一人の人間の側面には冷酷な一面もあれば温厚な一面もあるのかもしれない。(そして、川谷さんの一連のバンドが奏でる美しさは、川谷さんの心の一面でもあるのだろう。)

こんなに乙女でディテール豊かな歌詞を書く川谷さんは、自らが内に秘める乙女心を女性ボーカルのイッキュウさんに託して歌わせているのではないか。でも、そうだとしても、なんら可笑しいことではない。ジブリの巨匠である宮崎駿だって、自分の心の中にある美しく凛とした側面をヒロインに託しているのだろうから(と僕は思っている)。

#2「夏嵐」のストレートでアップテンポな夏ソングの疾走感にまずノックアウトされる。そして、この曲を聴いた後、台風が過ぎ去った後のような寂しさが僕の心をつかんでは離さない。

#6「良いんだって」#11「ジェニースター」のプログレッシブでドープなトラックをポップに見せるセンス。これだけでもう天才だと思う。

良曲を量産する川谷さんの力量も素晴らしいが、新垣隆さんのピアノが魅力的だと僕は思う。音楽を論理づける音楽理論はロック、ジャズ、クラシックなど、ジャンルによって様々な流派がある。そのため、禁則とされたり、よく使われたりするコードやメロディが異なる。新垣さんは現代音楽からロック/ポップスのジャンルへ横断して演奏しているが、違和感はないし、繊細な演奏が饒舌で上質な魅力を放っている。

イッキュウさんのボーカルも、川谷さんのギターももちろん可憐で素敵なのだが、小籔さんとくっきーさんの芸人2人によるリズム隊の演奏が素晴らしい。水しぶきのように繊細なハイハットを聴かせるドラムと、曲によっては蛇のようにニョロニョロと音程がうねるベースに感嘆する。

巨大な5つの才能が丁々発止でぶつかり合うジェニー(天才)な音楽。メンバー全員によるラップも必聴です。これからも楽しく愉快で痛快(ハイ)な音楽を届けてほしい。

Score 8.0/10.0


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