ドレスコーズ『バイエル』感想&レビュー【美メロが際立つ"やさしい"アルバム】  | とかげ日記

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●美メロが際立つ"やさしい"アルバム

志磨遼平(ex.毛皮のマリーズ)のドレスコーズによる7枚目のニューアルバム。このアルバムを語る上では、その成り立ちを書かない訳にはいかないだろう。以下、音楽サイトのナタリーから引用する。

「“まなびと成長“というコンセプトを掲げた「バイエル」は、一定期間が経つと新たな楽器が加わる「成長する」アルバムとなっている。ドレスコーズは4月にピアノによるインスト曲のみで構成された11曲入りアルバム「バイエル(I.)」を配信し、その後ボーカルが入った「バイエル(II.)」、ギターやドラムのサウンドが追加された「バイエル(III.)」を順次配信。」
(ナタリーより)

僕が寡聞なだけなのかもしれないが、このようなプロジェクトは聞いたことがない。とても音楽的に気づきのあるプロジェクトだと思う。

弾き語りのバージョン「バイエル(II.)」で既に曲の骨格があらわになっていて、そこには、素朴で聡明な"うた"の世界が広がっているのだろう。しかし、伴奏がピアノだけというのも寂しい。僕が音楽に求めるものの一つは"バンド感"だからだ。

そこへきて「バイエル(III.)」はバンド感があり、余計な装飾もないハーモニーが素晴らしい。僕の好きなバンド"うみのて"のように、オルタナ由来の体温のこもった触感があり、Jの外れたポップのように普遍的な"うた"がそこにある。

「バイエル」とはピアノ初学者が練習で使う教則本のことだ。本作『バイエル』は、初めて志磨遼平さんの作品に触れる人でもやさしい(優しい/易しい)作りをしている。メロディも分かりやすいし、ひらがな多用で小学生でも理解できる歌詞の言葉がより一層のやさしさを演出する。

ジャケットのピアノ練習する少女のようにいじらしく、歌が抱きしめようとするやさしさは、日々不安を煽っているネットニュースやテレビのワイドショーとは対極の安心感を与えてくれる。

本作収録の「不良になる」なんて、自分のことを指して「札付きのワルだけど」と歌う歌詞なのだけど、こんなに優しい不良なんて滅多にいないと思うよ。愛が歌のスキマから滲み出ている。美メロとは、要は"愛"なのだ。

本作は「大疫病の年に」という曲から始まる。リバービーな空間の中、志磨さんの囁くような歌が聴こえる素敵な小品だ。その後、何度でも聴けちゃう美メロの筆者オススメ曲「ちがいをみとめる」などの名曲を挟み、アメリカのミュージシャン名をタイトルにしたスタンダードな傑作曲「ピーター・アイヴァース」で幕を閉じる。

僕は志磨遼平さんの全キャリアの中では、毛皮のマリーズ時代の『ティン・パン・アレイ』が最も好きなのだが、『バイエル(III.)』は比較的それに近い質感があると思う。二作とも細部にまで愛が張り巡らされ、とんでもなくウェルメイドで音楽的なアルバムになっている。この二作に通じる博愛(やさしさ)が世界に広がってほしい。

Score 8.4/10.0





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【平成ベスト】
平成のベストアルバム 30位~21位(邦楽)
平成のベストアルバム 20位~11位(邦楽)
平成のベストアルバム 10位~1位(邦楽)

【2010年代ベスト】
2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→21位
2010年代ベストアルバム(邦楽)20位→11位
2010年代ベストアルバム(邦楽)10位→1位