【ライブレポ】ササーソニック2019@栃木・岩下の新生姜ミュージアム | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



写真はリハーサル中の笹オケ。

前日に渋谷WWWにおいて、リーガルリリーとの対バンがあったうみのて。僕もネット配信で観たが、過去最多のお客さんを前に堂々とした演奏を披露していた。

本当はリーガルリリーとの対バンライブに僕も行きたかった。だが、今日のこのフェスがあるため、体力的に2日連続は無理だと思って行かなかった。

発表された時から今日のフェスを僕は楽しみにしていた。笹口騒音さん率いる4バンド(うみのて、太平洋不知火楽団、笹口騒音オーケストラ、NEW OLYMPIX)が総登場し、笹口さんと関係の近いバンドも登場する、笹口ファンにとっては夢のフェス。

場所は栃木県の岩下の新生姜ミュージアム。栃木県は家から遠いが、長旅の中でフェスへの期待感が高まっていく。うみのてTシャツも、この日のために買って着てきたよ。

ようやく新生姜ミュージアムに到着。新生姜ミュージアムは料理が美味しく、ファンシーで楽しいところだった。そして、フェスが始まった。

以下、各アクトの感想を書く。新生姜ミュージアムはライブハウスではないのに音が良かった! 動画がないと寂しいので、各バンドで検索して一番上に表示される動画も埋め込んでみた。

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①12:00〜西山小雨
僕には彼女が天使にしか見えない。ピアノ・ウクレレで弾き語るシンガーソングライター。観客も一緒に手拍子し、歌を歌い、観客席は程よく温まる。甘く優しい歌声に観客の脳内は程よくメルトダウンする。映画の主題歌になったと嬉しそうに語っていた西山さん。その映画『無限ファンデーション』の主題歌である「未来へ」を弾き語る。未来を自分で切り拓いていくかのような、力のあるピアノと歌声は真に迫るものがあった。



②12:25〜笹オケ
本日のベストアクト。一曲目「トゥモローランド」はやはり鉄板の盛り上がり! 突然お菓子を配り始めたり、笹オケベーシストの大林いくおさんのお嬢さんである大林つぐみさんがバイオリニストとしてゲスト出演したり、ネタを仕込んでいて飽きさせないステージ。もちろん、演奏する音楽も非常に良く、「燕」や「おんがくのじかん」の新しいアレンジには感嘆させられた。音楽は楽しいだけではないよねぇ。「燕」でツバメの鳴き声に聴こえる小さな笛を吹くなど、演出が凝りに凝っている。



③13:10〜FILMREEL
ギターエフェクターを多用したテクニカルな四人組バンド。とてもロックバンド然としている、かっこいいロックバンド。シティポップをエッジの効いたロックにしたような曲を演奏し、その音楽は僕の好み。横ノリの気持ち良さも演奏の熱気もあるアーバンな曲を連発する。新曲も熱い歌唱を聴かせてくれた。



④13:55〜うみのて
一曲目「キミはレア」から村井さんの弓を使ったギターサウンドが炸裂する。二曲目「NEW DAWN FADES」は初めて生で聴いたけれども、後半の演奏の爆発力が凄まじい。第1期うみのての「恋に至る病」で魅せた、ギターが交錯する音響の愉悦のその先を行くようなサウンド。「SAYONARA BABY BLUE」も弓ギター含めた第2期うみのての演奏は第1期とはまた違った仕上がりに。そして、「砂漠です」の横揺れとベースの気持ち良さといったら! ラストの「東京駅」では、もはや定番?のメンバー紹介兼メンバーのスキルを見せびらかすコーナーを途中に挟む。それぞれのメンバーが確かなテクニックに裏打ちされたサウンドを奏でている。今日は「NEW DAWN FADES」を生で聴けて嬉しかった! 笹口さんのソロであるYAOAY名義の曲で一、二を争う好きな曲だから。ピアノのリフが良いよね。



⑤14:40〜HOMMヨ
女性三人組バンド。うみのてのキクイマホさんがドラムを叩いている。耳をつんざくような爆音ギターサウンドがかっこいい硬派なオルタナティブロックバンド。ボーカルの性別は違うけど、DYGLが売れるのなら、HOMMヨが売れてもいい。歌詞での一人称は「俺」の中性的な女性ボーカルは巧みで魅力的だ。「ガールズバンド」と呼ばれることを拒絶するような漢気のあるバンドだった。リズム隊も鉄壁で、多くの人が身体を揺らしていた。最後の四つ打ちの曲が素晴らしかったです。



⑥15:25〜壊れかけのテープレコーダーズ
男女ツインボーカルの四人組バンド。笹口さん関連バンド以外のバンドではベストアクトだった。まず、音のバランスが良く、気持ち良く聴けた。音源をチラっと聴いた時、ボ・ガンボスやYogee New Wavesのような緩いボーカルが魅力のバンドなのかなと思っていたが、生で聴くと迫力が断然違う、歌謡的メロディが熱くドラマチックなロックンロールバンドだった。ロックンロールだけど、キメの多いサウンドだったり、ディレイを効果的に使ったりと、普通のロックンロールに留まらないサウンドで痛快だ。男性ボーカルの小森清貴が、ロックンロールの化身が乗り移ったような熱量あるステージングを披露し、観客の僕も真っ赤に燃えた。



⑦16:10〜えにわばんど
うみのての円庭鈴子さんがフロントウーマンを務めるバンド。笹口さんもギターで出演。バンドメンバーの4人ともシンガーソングライターだそうだ。柔らかく澄んだ歌声が魅力的で、歌ものとしてポップであり、ポップスとしての強度は今日の出演者で随一だった。「水の声」を生で聴けて満足。笹口さんも気持ち良さそうにウクレレを弾いていたよ。



⑧16:55〜太平洋不知火楽団
「たとえば僕が売れたら」からスタート! そして、2曲目のキャッチーな「売春歌」で鉄板の盛り上がり! 「さくら(毒唱)」や「ADHD」を披露するも、機材トラブルに見舞われる。だが、ラストの曲「Dancing Hell」で観客の熱気は本日最高潮に。ベースを弾きながら何かに取り憑かれたような大内ライダーさんの舞踏、笹口さんのキレッキレのギター、パワフルなツガネさんのドラム。このカオティックな熱気はこのバンドのこの曲だからこそ! 機材トラブルの際には笹オケのベースの大林さんが大活躍。とても俊敏な動きを見せていました。



⑨17:25〜NEW OLYMPIX
一曲目は新曲!? ロックソングとして聴いたことのないメロディとサウンドで新しさのある曲だった。その後、新元号は「生姜」だと言って演奏した「もはや平成ではない」は本日のベストソング! 鬼気迫る迫力と構築美を合わせ持つ演奏だった。速射砲のようにまくし立てて歌うボーカルが激烈だ。そして、「NO MUSIC.NO DANCE」でダンスギターロックの真骨頂とでも呼ぶべき演奏をして、僕もノリノリになる。巷のダンスギターロックの予定調和から離れたこのグルーヴはNEW OLYMPIXにしか出せない味だ。



アンコール〜YAOAY
笹口さんのピアノ弾き語り。曲は「(ネバーエンディング)ドライブ」。これがハートに沁みました。歌詞の「オアシスよりブラー」の箇所を「ブランキーよりミッシェル」と歌い、僕の共感を誘う。



ダブルアンコール
最後は本日の出演者の一部がバンド入り乱れて舞台上に上がり、ニール・ヤングの「ヘイヘイマイマイ」の伴奏に合わせて森高千里の「私がオバサンになっても」を歌うというシュールな光景を展開する。ギターは壊れかけのテープレコーダーズから小森清貴さん。ゲストボーカルはHOMMヨのニイマリコさんと岩下の新生姜の社長(!)。ドラムとベースは太平洋不知火楽団からツガネリョータさんと大内ライダーさん。
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出演するバンドの音楽性も幅広く、楽しいフェスだった。これが無料だなんて信じられない。主宰の岩下の新生姜社長、ありがとうございました。

ああ、僕は死ぬまで笹ボーイを続けるんだろな。笹口さんは妄信的なファンはいらないと言っていたけれども、僕は妄信的ではないよ。彼と彼のバンドが良い作品を作り続けることを理性で確信しているんだよ。

笹口さんは好きと嫌いを鋭く主張する。「好き」しか言わない世の中のバンドも多い中で、「嫌い」ということも激しく主張する。そう、好きという感情と同等の価値が嫌いという感情にもあるはずだ。そして、そんな世の中で「好き」だけしか言わない表現が、好きも嫌いも主張する表現と同じ重みを持てるとは僕には思えない。笹口さんが「嫌い」だと物事や音楽について言えるのは、笹口さんが自分の目と耳に自信を持っているからだ。笹口さんは舌が肥えているからこそ、嫌いな物事や音楽もあるのだ。その好き嫌いのジャッジは的確だと僕も思う。嫌いという表現が使えるからこそのアドバンテージが笹口さんのバンドにはある。曲中にヘイトの感情を混ぜることによって、本当に愛している物事をより強くにじませることができる。それに加え、笹口さんは自分が嫌いと思う音楽や表現から離れた歌が書けて、それが笹口さんのオリジナリティに繋がっている。

笹口さんほど良い歌を書けるバンドマンは他にいない。予定調和に陥らず、一つ一つの歌に深い意味があることだけでも凄いことだ。それだけではなく、一歩も二歩も踏み込んだ表現をして振り切れたロックを演奏するという、日本のロックの中で例外的な存在だと思う。爽やかだけど何も言っていないバンドや、重く見せかけるだけで表現的には何も言っていないバンドとは違う。そして、ただかっこいい音を出すバンドならいくらでもいるが、笹口さんのバンドはかっこいいだけではなく、歌ものとしての骨格が筋骨隆々であり、ポップなのだ。

僕は笹口さんの才能と実力を他のリスナーの誰よりも確信している。次の笹祭(笹口さん関連バンドが総出演するイベント)は11月9日@東高円寺UFOクラブ。素晴らしかった今日を超える演奏を聴かせてほしい。