羊文学『きらめき』感想&レビュー | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
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●魔法が解けたら

羊文学が本日発表したEP。去年の年末に発表した「1999」はキャッチーなポップソングで羊文学の新しいモードを感じさせた。期待に胸を膨らませながら聴いた本作。それでは、各曲を見ていこう。

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#1「あたらしいわたし」。シャッフルのリズムと乾いた響きのギターに合わせて歌われる、カントリーの香りがする曲。アメリカンな音楽性は晴れ上がった空のようにカラッとしていて、まさに新しい羊文学を感じさせる。しかし、ボーカルやベースには、憂いの雨のような艶やかさがあり、羊文学のオリジナリティの根源も備えている。

#2「ロマンス」。女の子の無敵さをサウンドにしたゴキゲンなロックナンバーに「ロマンス」というタイトルをつける、その独特な才気といったら! そして、「ロマンス」という曲名の主人公に痛々しいストーカーを据えるというひねくれ具合が好きだ。

ギターリフがいかにもなロックだぜ! かと思えば、曲の途中でギターの音の洪水がなだれ込むシューゲイズパートがあり、一筋縄ではいかない。

#3「ソーダ水」。エフェクトをかけたギターの質感やギターの一音目と二音目からスピッツの「ロビンソン」を連想したが、そこから「ロビンソン」とは全く異なる音世界に突入する。このスローでダルいグルーヴのサウンドを聴き続けると、そこに何にも代えがたい快楽を発見する。

羊文学の歌詞は「魔法をかけたら」ではなく、「魔法が解けたら」なんですね! そのリアリズム! 「おとぎ話よ 一瞬で魔法が解けたら/深呼吸して本当の言葉で話そう/綺麗じゃなくてもそうしよう」。このラインに僕は感銘を受ける。巷のJ-POPによくあるような夢見がちな歌詞ではなく、リアリズムと建設的な姿勢がここにはある。

#4「ミルク」。最初はジャジャッと同じ音を二回ピッキングしただけだったギターとベースのフレーズが曲が進むにつれて増えていく。それにつれて、グルーヴが深化していく気持ち良さ。

間違った恋でも、偽物の恋でも、意味のない毎日を積み重ねるのは幸せだという歌詞。ここでいう「幸せ」とは、フレーズを積み重ねて深化していくこの曲のグルーヴみたいなことなのではないかという気がしている。

#5「優しさについて」。作品の締めくくりにふさわしいチルな一曲。ギターの深い響き、音程が下降していくベース、四分音符で刻まれるシンバルの厳かな音響でリスナーの精神は弛緩していく。しかし、音にはどこか緊張感や不安感があり、その矛盾の成熟さが羊文学らしい。
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本作『きらめき』は"女の子"をテーマにしたEPで、昔作った曲も混ざっているとのこと。タイトルのとおり、生きることを肯定するポップな「きらめき」がここにはある。そのきらめきは、リード曲の「ロマンス」の歌詞に「女の子はいつだって無敵だよ」とあるように、女の子を活き活きと生きているからこその無敵なきらめきだ。そして、作品にだけではなく、今の羊文学というバンド自体にも、この無敵なきらめきがあると思う。バンドという生き物だから放てる無敵のバイブスがここにはある。本作が多くの人に聴かれますように。

Score 8.0/10.0