うみのて「レイシスト」〜自分自身の差別する心と向き合うということ〜 | とかげ日記

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この記事のアップは、新生うみのてに対して物議を醸すバンドとして色を付けてしまうかなとも思って迷ったのですが、僕なんかの影響力ではそういうこともないだろうと思い、アップすることにします。問題提起として読んでください。

まずは、この曲を聴いてください。うみのての新曲です。グリスしてリフレインするベースリフが印象的な一曲だと思います。かなり難しいリフだから、正確に繰り返すサポートベーシストのあきもとさんの力量は凄いなと思います。



この曲を聴いていると、誰もがレイシストの要素があると感じます。一見、荒唐無稽な歌詞ですが、笹口さんは僕らに身近な言葉を用いて、差別するということを描いている。

曲の冒頭では、猫は女っぽい、犬は男っぽいとして、猫や犬を色をつけて見る自分をレイシストだとする。僕たちは、知らない間に犬や猫や豚(「このブタ野郎」と言ったり)を差別しているのです。

その後の「人間分けやすい」から始まるサビの演奏の美しさに耳を澄ましてほしいです。この曲を聴き、誤読して演者の人間性を疑う人は、サビや間奏の演奏の美しさを聴いていないのだと思います。

そして、音楽を差別するから自分はレイシストだとする後半部へ。曲の主人公は最初の一行を聴いただけで、いい曲か悪い曲か分かってしまうと言う。この部分は、差別を好みや意見の一つとして軽く捉えていないかと疑問のわく方もいるでしょう。

しかし、そう疑問に思う方は音楽を軽く捉えているように思います。あるリスナーにとっては尊い音楽を差別する行為は、その音楽を作ったミュージシャンやリスナーにとっては看過しがたい行為です。

あるいは、程度の軽い差別を差別として認めていないように思います。音楽を差別したり、動物を差別したり、ある属性を抱える人を差別したり、そういった行為は受け手によって捉え方が違う。好みや意見と捉える人もいれば、重い差別と捉える人もいる。

この曲を作った笹口さんは以下のようにツイートしています。(「トニー」は映画『グリーンブック』の主人公です。)

「人の数だけ差別の種類も深さも重さもいろいろだし、言葉の意味も重さも使う人、受け取る人でもいろいろだ。

人生は複雑なんだ…トニーの言葉を思い出すぜ」

曲はその後、居酒屋で必要以上に大きい声で喋る人や、他人の自転車のカゴにゴミを捨てる人を「地球から出ていけ」と歌う最終部へ。僕たちも、これらと似たような人を多かれ少なかれ「地球から出ていけ」と思っているのではないでしょうか。そう、僕たちは人間を属性でだけではなく、行為によっても差別しているのです。

在日の方を差別するレイシストは言わずもがな、「普通」の人も、他者を差別主義者として糾弾する人も、差別意識を自身の内に抱えていると思います。

その猥雑としていて混沌とした心を、うみのての「レイシスト」は非難も肯定もしません。ただ、そういった差別意識を抱えていることを意識せよと言っているのです。曲の途中で観客にハンドクラップを促すのも、意識せよという呼びかけに僕は聴こえます。

差別する心は誰にでも持ちうる。ただ、それを意識しているのと意識していないのでは違う。そのように意識していれば、不用意な差別発言も防げるかもしれませんものね。そして、意識していても、僕らは知らずのうちに誰かを傷つけているのかもしれません。

「意識しているのと意識していないのでは違うんですよ。『グリーンブック』が言っていることもそういうことでね」と言っていた笹口さんのMCが記憶に蘇りました。

差別反対の人だけではなく、差別に無関心な人たちにもリーチし得る可能性を持っている曲です。いつだったか、笹口さんがDon't think! Feel.ではなく、Think! Think! Think!だからと言っていたのを思い出しました。歌を聴き、感じ入るだけではなく、色々と考えてみるのも面白いです。僕も考えていました。

そして、挑発的な歌詞や笹口さんのファルセットの綺麗にかかったボーカルだけではなく、あきもとさんの繰り返すベースリフが醸し出す何とも言えない空気感(個人的にユーモアを感じる)や、エフェクトがかかった村井さんのギターの音が薄く貼られる幽玄の美しさや、ワタナベマイさんがベースリフにギターリフをかぶせる時の一体感や、ドラムのころさんの細かいニュアンスを伝えるドラミングにも耳を澄ましてみてください。

現状、笹口さん以外は皆サポートですが(正式メンバー発表が待ち遠しいです)、うみのてヤングチームのこの演奏は、曲に多様な解釈を可能にさせる潜在力があると言えると思います。皆さんもぜひ、聴いてみてくださいね!