たとえアヒトイナザワがネトウヨだとしても | とかげ日記

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ナンバーガールのアヒトイナザワがネトウヨであるとして、左派の人たちから集中攻撃に会っている。

2010年に発表され、アヒトイナザワが作詞したVOLA&THE ORIENTAL MACHINEの曲「Flag」は、右翼思想に満ちた歌詞だ。「左に傾く君の姿勢の悪さを修正」「特A(=特定アジア)に媚び売る君の姿勢の悪さを修正」「子供たちの levelの低下 原因作ったの誰だ 二区競争(=日教組)」など、左派を批判する歌詞になっている。



また、アヒトイナザワがツイッターでフォローしているのが、杉田水脈などネトウヨ界隈の人たちが複数いるのも彼がネトウヨと言われる所以だ。

アヒトイナザワは確かにネトウヨかもしれないが、実際にその思想信条を曲にしたのは、9年前の1曲だけではないか。それ以外にネトウヨ的行動を対外的にしている訳でもないのでしょう? 思想を持っていても、行動に移さなければ害はないです。彼をネトウヨだとして排撃するのは思想狩りだ。

まず、大前提として、僕はネトウヨのレイシズムは嫌いだ。同じアジアで生きる韓国人や中国人とも手を取り合って生きるべきだと思っている。

しかし、ネトウヨと左派の対話も必要だと思う。お互いにお互いを頭ごなしに否定する今の状況は何とかならないものか…。

僕が在日だったりしたら、傍観できるのかということを、アヒトさんを排撃する人は問うているのだろう。攻撃されない対象だからこそ、傍観できるのではないか、と。

しかし、彼は「Flag」の発表以外は、ネトウヨ的行動もしていないし、暴言も吐いていない。咎める必要はないと思う。そして、その「Flag」にしても、レイシズム的発想の言葉はない。「Flag」が攻撃しているのは、左派であり、韓国人や中国人ではない。

人を貶めたり、差別的な発言をしなければ、どんな思想を持つ自由もあるはずだ。そして、その原則がある限り、右寄りでも左寄りでもミュージシャンが政治的発言をする自由もあるし、それを咎める必要はないはず。彼が差別的な発言をしてから批判の対象にするべきだと思う。

継続的にネトウヨ的思想に則って行動しているのなら彼を批判すべきだが、9年も前の1曲を取り上げて批判の俎上に上げることは、昔のツイートを掘り起こして炎上させる行為と類似しているのではないか、と思う。

作品の芸術性は摩耗しないが、個人の思想や姿勢は変遷していくものだ。そのネトウヨ曲だけ批判するのなら、僕は何も言いませんよ。だけど、ネトウヨだと批判する人たちは、アヒトさんのこと全体、ナンバーガール全体のことを批判している。作品は憎むべきだが、人は憎まないべきだ。

アヒトさんは現在はネトウヨでない可能性も高いが、もしもネトウヨだとしても…

アヒトイナザワさんには、ネトウヨ以外の様々なアイデンティティがあるはずなんですよ。

例えば、僕だったら、会社員としての自分、一児の父としての自分、夫としての自分、統合失調症患者としての自分、Xジェンダーとしての自分、音楽好きとしての自分、ブロガー・ツイッタラーとしての自分など、様々なアイデンティティがある。

アヒトさんにも、右翼としての自分、日本人としての自分以外にも、ナンバーガールのドラマーとしての自分とVolaのギターボーカルとしての自分など、様々なアイデンティティがあるはず。

彼をネトウヨだとして排撃する人は、そのことを見落としている。おそらく、アヒトさんにとっては、ネトウヨとしての自分よりも、ミュージシャンとしての自分のアイデンティティの方が大きいはず。そして、僕らリスナーが彼をミュージシャンとして見ているのなら、ネトウヨとしての彼のことはその間は忘れていて良いはずなんですよ。

ネトウヨと左派の対話が起こらない理由は、お互いに「ネトウヨ」「左翼」と政治的な色付けをして、人間としてのその他のアイデンティティを反故にしているからだと思う。例えば、音楽という話題を共通項にして、ネトウヨと左派の対話は可能なのだと思います。そこから、相互理解が進んで、ネトウヨを辞める人も出てくるかもしれないし、左派を辞める人も出てくるかもしれない。僕は左派の政治的な正しさを信じているし、右派のアイデンティティの確かさも信じています。

彼をネトウヨだと排撃する人には、彼のネトウヨ以外の側面にも目を向けてほしい。ネトウヨとしてのアヒトさんは嫌いだけれども、ナンバーガールのドラマーとしてのアヒトさんは好きだという感情は自然に成り立つ。今はナンバーガールの復活を素直に喜びましょうよ。


NUMBER GIRL - OMOIDE IN MY HEAD (last live, last song)

ナンバーガールを聴いても良さが分からないと言う方におすすめしたい動画。彼らの解散ライブの最後の曲。一曲の光景の中から、瞬発的な輝きを凝縮したギターロックの放つ共振力の魅力が見えてくる。

ナンバーガールの魅力について書いた、こちらの記事もどうぞ。
97年の世代のデビューアルバムをレビュー(ナンバーガール,くるり,スーパーカー)

【2019.2.22.追記】その後、アヒトさんは自分がレイシストであることを明確に否定しています。9年前の一曲を取り上げてレイシストだと批判するのは拙速だったのではないかと思います。