Thom Yorkeソロアルバム『Suspiria』感想&レビュー | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。





●ダークでハイファイな音像を聴きながら濃密な時間を過ごせる佳作

タイトル欄にタイトルが入りきらなかったが、正式な名称は、『Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)』。Radioheadのトム・ヨークがホラー映画『サスペリア』リメイク版のために書き下ろしたサウンド・トラック集だ。トム・ヨークが映画のサントラを手がけるのは初めて。ホラー映画のサントラといえど、おどろおどろしくはなく、日本的な湿気はない。だが、瘴気はある。恐怖を駆り立てるような、極めて洗練されたサウンドスケープが広がっていく。

ポストロックのサウンドをバックにトム・ヨークのファルセットが美しい曲や、ダークでアンビエントな曲、そして、「Olga's Destruction(Volk tape)」など、ピアノのミニマルな反復と電子音楽が重なるポスト・クラシカルな音像の曲が収録されている。テクノロジーを取り入れ、音楽のその先を模索する姿勢は、Radioheadと同様だ。

煩悶とする反復するピアノをバックに、憂いを帯びたファルセットが希望のように鳴り響く「Suspirium」は必聴。美声のファルセットはトム・ヨークの音楽的アイデンティティの一つだよね。

この曲を始めとして、本作に収録された多くの曲はリズム楽器の音がない。ベースレス、ドラムレスにすることにより、リズムという普遍的規則を強調しない作りになり、トム・ヨークの個人的な世界にリスナーを閉じ込めることに成功している。そこには、密室の閉塞感も感じるが、奥行きのある内的世界の可能性も同時に感じる。

一聴して思ったのは、とにかくハイファイであること。そして、楽器をリフのためと同等以上に響きのために用いる本作の手法はハイファイであることと親和性がある。この世の果てのような美しい響きに魅せられながら、一曲一曲進んでいく。とても濃密な時間だった。











Score 7.7/10.0