相対性理論『天声ジングル』感想&レビュー(アルバム) | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。少数派のための、あるいは、少数派への優しさを持った多数派のための音楽。



■相対性理論を特徴づけるもの
一曲目「天地創造SOS」の頭からやくしまるえつこのボーカルが聴こえてくる。軽く萌え声だけど分かりやすいアニソン声ではない。感情を露にせず、遠いファンタジーの星からやってきた不思議ちゃんなボーカル。これだけでもう相対性理論。

ザ・バーズを始原にザ・スミスからネオアコに至るまでの清冽なギターサウンドの系譜上にある永井聖一のギター。リバーブをかけたクリーンでノスタルジックなギターが鳴り響くと、これだけでもう相対性理論。

相対性理論はやくしまるえつこの声と永井聖一のギターさえあれば、相対性理論になる。あとは曲のディテールをどう詰めるか。

前作『TOWN AGE』を聴き、真部脩一がソングライターに加わっていた頃のメロディー、リズム、ハーモニーのマジックは薄れたようにも感じられた。本作は更にそのマジック(ポップの魔法)が薄れているように感じられる。

■やくしまるボイスの不思議
だが、相対性理論の核の一つには、やくしまるさんの声がある。リミックス盤『正しい相対性理論』において、やくしまるさんの声にフィーチャーしたものが多かったように、彼女の声は特徴的だ。萌え声のようでもあり、まだ聞いたことのない天使の歌声のようでもある。

『TOWN AGE』では、よりシンガーソングライター的になったやくしまるさんが聴ける。息漏れもして声がより感情を持ったのだ。やくしまるさんがやくしまるさんであることをより主張し始めた。本作『天声ジングル』ではその流れが加速している。

■現実の位相をずらす
さて、相対性理論の現在までのディスコグラフィーを見ると、アルバムタイトルに一定の法則のようなものがあることが浮かび上がる。
『シフォン主義』←資本主義
『ハイファイ新書』←解体新書
『シンクロニシティーン』←シンクロニシティ
『TOWN AGE』←タウンページ
『天声ジングル』←天声人語
現実にある言葉を少しずらすのだ。

相対性理論の音楽は、意味の位相を少しずらす。そのことによって、「ここではないどこか」でも「今のここ」でもない、あるいはその両方とも言えるファンタジーを描いてきた。

息漏れは、自分自身までファンタジーになってしまわないように、ファンタジーの中で生きるリアルな自分を表現しているように見えた。本音にしか聴こえないやくしまるさんの言葉はより切実に胸に響く。

位相を完全にパラレルワールドに移すと、やくしまるさんの完全にタガが外れた、人によっては難解とも言う一部のソロ作品になるのだろう。それらの作品で見せる現代的なセンスは非凡であり、やくしまるさんの果てしない才能を感じさせるものだった。

■誰でもないものの歌
どこかのファンタジーを歌っているような相対性理論の音楽は聴くためのエネルギーが全く必要ない。聴くために多大なエネルギーを必要とする大森靖子や銀杏BOYZと対極にある音楽だと思う。誰かの歌になるために歌う大森靖子や銀杏BOYZと違い、誰でも聴いてよい誰でもないものの歌である相対性理論の歌は、全方位に開かれている。

心を傾けて聴けば、大森靖子や銀杏BOYZは、リスナーが消耗したエネルギーと同じかそれ以上の愛憎入り交じった生のエネルギーを返してくれる。相対性理論を心を傾けて聴くとどうだろう? 心の中の憎悪がすっと消えていくような気がするのだ。現実世界の現実に注がれる憎悪を薄めてくれるような思いになる。愛情まで薄めてしまわないのは、やくしまるさんがいつもファンタジーの中で愛を歌っているからだ。

本作『天声ジングル』は、真部脩一がいた頃の曲のマジックがない分、そういった憎悪に対抗するための愛とかファンタジーといったような意味性が強まっているように感じる。

■魔法は使わず聖書を打ち立てる
本作『天声ジングル』では、今までのようなメロディのキャッチーさ、ポップさ、中毒性で勝負していないのだ。聴けば聴くほど味の出るスルメソングであるのだが、それと同時に、鳴らされる一瞬一瞬の音がこの上なく心地よい。それに、本作ではリズム隊も本領発揮し、大活躍を見せている。

そしてリピートし続けると、これまで全く味わったことのないような意味が立ち上がる。永井聖一の特徴的なギターを封じたリード曲の#11「FLASHBACK」にそれは顕著だ。ミステリアスな雰囲気を持った打ち込みのこの曲には、新しい世界の新しい聖書を打ち立てるような新鮮な響きがシンセサイザーにもボーカルにもリズムにもある。

ジャケットに書かれた「NEW WORLD!」という言葉は、新しい世界を見せるよという意思表示にも思える。

アルバム一枚を通して鳴らされるNEW WORLDの鐘の声をあなたにも体感してほしい。

その時、あなたは知るだろう。「あと十三段」「あと十三秒」という歌詞(#3「ウルトラソーダ」) 、#5「13番目の彼女」という曲名に含まれる「13」という数字に込められた意味を。#1「天地創造SOS」の「天地創造投げ出して あれから世界は」という歌詞や、#10「おやすみ地球」の「おわるよおわる 人類の歴史がいま幕を引く」という歌詞に込められた意味を。今、終わっていく地球の光景がFLASHBACKする。眼前にはNEW WORLD。


FLASHBACK