SEKAI NO OWARI『ENTERTAINMENT』感想&レビュー | とかげ日記

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SEKAI NO OWARI、メジャーになってから初のフルアルバム。

一聴して感じたのは、インディーズの前作『EARTH』よりも音が深くなっていること。
前作よりも音像に広がりがある。
聴き込んでも飽きない音の作りになっている。

アルバム名『ENTERTAINMENT』の名前の由来は、
人の生き死にも、善も悪も、戦争も平和も、
人の一生に関わる世界のあらゆることはエンターテインメントだとするラディカルな考え方だ。

彼らは自分たちのライブをショーと呼ぶ。
コアな音楽通にウケる尖った音楽をやるよりも、
僕ら大衆を楽しませるエンターテインメントとしての音楽に彼らは注力している。

神聖かまってちゃんと並んで、新しい世代のロックバンドとして注目される彼らだが、
ロックにもこだわりを持っていない。
自分たちのやっていることはポップだと言ってはばからない。

そして、このアルバムにはキラキラと光る魅惑的なポップネスがある。

ピアノの情緒的なフレーズが象徴するドラマチックな曲の展開。

ドラマチックな曲はポップになる。
Mr.Childrenはアレンジがストレンジなのにポップソングとして聞こえるのは、
メロディーも曲の展開もドラマチックだからだ。

一方、セカオワのアレンジはストレートだが、曲に様々な彩りを与えている。
コード進行が似通っていても、それぞれの曲の世界観にカラフルな形を与えている。

メロディーも覚えやすいポップなライン。DJ LOVE以外の3人が作っているが、
メロディーメイカーとして名高いスピッツの草野マサムネに負けない素質を持っていると思う。

リズムもシンプルな打ち込みでノりやすい。
リズム隊がいない変則的なバンド編成の彼らだが、
変にリズムが主張することもなく、その編成が良い方向に働いていると思う。
弾いていて気持ちの良い曲よりも、
聴いていて気持ちの良い曲を目指している彼らの姿勢の表れだ。

(セカオワ・サカナクションの多くの曲も、
 アジカンの「君という花」も、チャットモンチーの「シャングリラ」も四つ打ちのリズムだ。
 これらの曲は共通して日本人のポップの琴線に触れる何かがある気がする。)

そして、ただポップなだけではない。軽く聴き流せないメッセージがある。

音楽はメロディー,リズム,ハーモニーだけじゃない。世界観やメッセージを僕は重視する。
もちろん、世界観もメッセージも音楽の土台があってのことだけど。
音楽の質が悪くて世界観を重視していますってバンドはイタくて好きになれない。

フロントマンの深瀬慧は強固で深い世界観を持っている。
深瀬さんのギターにはあまり魅力を感じないが、
独特の世界観を音楽的に肉付けしていくのが
ギターの中島真一(なかじん)と鍵盤の藤崎彩織だ。

このアルバムにおいて、
なかじん一人で作詞作曲し、メインボーカルを取った曲が2曲あった。
武道館ライブへ向けて作ったという弾き語りの小品「TONIGHT」と、
学生時代は勉強家だったが、過去の勉強や努力は無駄にはならず、
今も血となり肉となり骨となり自分を動かしているという歌詞の「炎の戦士」だ。

なかじんさんの誠実さや実直さが感じられる素敵な2曲だ。
僕は特に「TONIGHT」が、音の響きが宅録っぽくて好きだ。

だが、なかじんの曲はSEKAI NO OWARIのアルバムに多くて2曲でよいと思う。
SEKAI NO OWARIのオリジナリティやユニークネスを形作っているのは深瀬さんだと思うから。

深瀬さんの曲はいつも何かを投げかける
ひねくれた視線で世界を見ている深瀬さんだからこそだろう。

例えば、『天使と悪魔』のこの歌詞。

「いじめは正義だから 悪をこらしめているんだぞ」
そんな風に子供に教えたのは 僕らなんだよ


正義が支配する最悪な世界ではマジョリティーこそが
「正しい」とみんな「間違える」!?
「正義」を生み出した 神様 聞こえていますか
あんなものを生み出したから みんな争うんだよ


この曲ができた頃は大津中のいじめ自殺も報道されていなかった頃だが、
深瀬さんのこの歌詞は時代を捉えていると思う。
リアルな世界で、あるいは匿名のネットの世界で、
人をいじめる人に聴いてほしい。

管弦楽器も使われて色とりどりでキャッチーに曲は進む。
そして、
「「賛成」と「反対」の間に「答」が生まればいい」と結論づける。

最後の歌詞も強烈だ。

否定を否定するという僕の最大の矛盾は
僕の言葉 全てデタラメだってことになんのかな?


「天使と悪魔」が争い否定ソングであるのに対し、
次の曲「Love the warz」は争い肯定ソングだ。
彼らは「天使と悪魔」の一種のアンサーソングとして
「Love the warz」を作ったという。

Peaceや幸福の中では、昼に光るStarのように幸せを見つけられないと
深瀬さんはラップで歌う。
だから、「僕らの世代が戦争を起こします」と続けて歌う。
反復するギターとピアノのフレーズの上に乗る言葉の洪水。
好戦ソングという、一般の人に受け容れがたい歌に説得力を持たせている。

「天使と悪魔」で言っていることと、
「Love the warz」で言っていることは矛盾するのではないか。
しかし、どちらの歌の歌詞で言っていることも本音だと深瀬さんは言う。
そして、それは、天使と悪魔の世界でどちらが正しいか分からないと歌う、
「天使と悪魔」で言っていることと同じなのだ。
この2曲は互いに互いを参照しながら、
聴く僕らに正義や悪とは何か、平和や争いとは何かを問いかける。

また、SEKAI NO OWARIの楽曲の世界観を独特たらしめているものとして、
終わりや死の概念がある。
終わりや死があるからこそ、生や恋は輝くのだと歌う。
それはまるで、死の魔法。
このアルバムでは、「不死鳥」と「眠り姫」で特にその世界観を味わうことができる。
生は一瞬の刹那だ。
僕はこの2曲を聴くと、眉間のあたりがジワっとなって切なくなる。

『ENTERTAINMENT』は、
遊園地をモチーフとした導入SEの1曲目「The Entrance」で始まり、
2曲目「スターライトパレード」の開かれた完璧なポップネスで本格的に幕を開け、
夢と夢の間のまどろみのような3拍子と4拍子の入り混じる「深い森」で幕を閉じるまで、
収録時間の71分をジェットコースターのように駆けていくアルバムである。

相反する二つの概念を行き来しながら、
愛や夢といったあいまいなものを現前させる。
決して感情的になりすぎることなく、
クールでリアリスティックな視点から世界を描写する。
これは僕の求めていた世界観だ。
問いかけは僕に向けられた問いかけだ。
熱心なリスナーの多くもそう思っているだろう。

DJ LOVEのいるSEKAI NO OWARIは、
世界の終わりを始まりとして、この世界でLOVEを歌っている。
音楽ファンにも普段音楽を聴かない人にも、
彼らの愛が届いてほしい。


世界の終わり/天使と悪魔