まず、代表的な症例をお示し致します。
症例1
40代後半の女性で、20代の頃から時々片頭痛がありました。
夜入浴しようと浴槽につかったところ、突然後頭部の激しい痛みが出現。今までとは違う頭痛で、知人がくも膜下出血で倒れたという話を聞いていたので怖くなり、家族に救急車を呼んでもらい救急病院を受診しました。
そこの病院ではCT検査を行いましたが異常はなく、疲労とストレスのせいだろうと言われ、いったん帰宅しました。
翌朝には痛みは軽くなっていたので会社へ行き、夜帰ってからも頭痛は続いていました。 仕事の疲れで肩がこっているせいだろうと思い、お湯に浸かった途端、再び前の晩と同様の強い後頭部の痛みに襲われました。
その後痛みは後頭部から頭全体に拡がってきたため、某脳神経内科を受診しました。
MRI検査で脳の血管を撮ったところ、後大脳動脈(後頭部へ行く血管)や中大脳動脈(横から頭頂部へ行く血管)などに、細い部分と太い部分とが断続的に続いている状態でした。
画像を拡大してみると、血管がくびれて細くなっている部分と、その間がソーセージのような形に膨らんだ部分とが交互に生じています。
これは、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS: Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome)
で「入浴関連頭痛」と言われてきた頭痛の正体です。
脳の血管がけいれんを起こして収縮し、その手前が拡張した状態となって強い頭痛を起こしているのです。入浴がきっかけとなって交感神経系(体を緊張させる神経)が過剰反応を起こす事が引き金となります。
シャワーを浴びただけでなったり、プールに飛び込んだり潜ったりして生じる事もあります。入浴以外にも、息を止めて力を入れる動作や運動、排便、性交、感染、様々な薬の作用などでも発症する事もあります。
この可逆性脳血管攣縮症候群は、片頭痛の方に多い事がわかっています。
症例2
最近、興味ある頭痛患者さんの相談をお受け致しました。
それは、お風呂に入って洗い場でシャワーをかけると激しい頭痛があるというのです。
毎日同じことが起きるので怖くてお風呂にも入れないと大変お困りで相談に来院されました。
これは良性入浴関連頭痛(Benign hot bath-related headache)といわれるものです。この方の特徴はさほど熱い湯をかけたわけでなく、湯船に入らなくても風呂場で顔を洗っただけでも頭痛が生じたことです。入浴せずに体を拭くだけでは生じず、朝、洗面台で洗顔しても起きません。温熱刺激がトリガーになっているわけではないことの証拠です。
「では」と思い立って、診察室で洗い場で体を洗う動作をしていただきました。もちろん着衣のまま。残念ながら頭痛は誘発されませんでした。
文献によると皮膚の刺激がトリガーになっているのではないかとも書いてありますが推測の域を出ません。水着や下着をつけたまま入浴して誘発されるかどうかを確認すれば良いかもしれません。
文献では、入浴を避けることが一番と書いてあります。医者から言われなくても雷が落ちるほどの頭痛(先程のクモ膜下出血のような”雷鳴頭痛”です)が起きますので、患者さんは経験的にそのようにされます。1ヶ月程度持続して治っていくようです。
症例3
先日、それまで頭痛の経験がまったく無かった方が、入浴の最中に突然、頭が割れそうな激しい頭痛が起きたため、救急で総合病院を受診され、頭部CTで異常がなくさらにMRIも行って異常がなかったため、原因不明と言われ帰されたそうです。
その後も、入浴をする度に激しい頭痛が出現するため、最初の頭痛の1週間後に当医院を受診されました。年齢は伏せておきますが、30代後半の女性です。これまで、片頭痛があれば、入浴関連頭痛(もしくは、一次性雷鳴性頭痛)として、経過を診ようかとも考えましたが、これまで一切片頭痛を経験したことがないため、本人には、もう一度、最初の総合病院で、詳しく調べてもらうように紹介状を書きました。
ところが、部長に紹介したにも関わらず、若い脳神経外科医が診察され、MRAの検査だけされ、脳動脈瘤、動脈解離の所見がないことから、片頭痛の診断を下されました。
この返事をみて、ただ唖然とするばかりでした。
この場合、良性入浴関連頭痛の可能性もありますが、この頭痛は、入浴後の数日から2~3週間にわたり、入浴に合わせて起きるそうです。原因は全く分かっていないようですが、名前に”良性”と付いているように、心配する頭痛では無いようです。
このような検査の仕方をみるにつけ時代は変わったものと、自分がもう時代遅れになってしまったように思えてなりませんでした。
少なくとも、MRA検査で、どの程度の脳動脈瘤が見つけられると考えておられるのかということです。
そうなれば、行うべき検査は、髄液検査で、髄液がキサントクロミーを呈しているかどうかを確認するのが原則ではないでしょうか。
さらに、可逆性脳血管攣縮症候群を疑って、頭蓋内超音波検査で、血管攣縮の状態を確認すべきではないでしょうか。
いずれにしても、CTを再検して、血液の漏れた痕跡を確認すべきではないでしょうか。
1週間経過していることから、これだけを確認した上で、何も異常所見がみられなければ、初めて、良性入浴関連頭痛(一次性雷鳴性頭痛)もしくは片頭痛と診断すべきではないでしょうか。
最近では、MRI検査が普及したことによって、MRA検査が脳血管撮影を代用される時代となったようで、隔世の感がします。
果たして、MRA検査では、どの程度までの脳動脈瘤を見つける自信を持っておられるのでしょうか。
私が、以前、脳血管障害の第一線で診療していた時代が思い起こされます。
CTやMRIといった画像診断の無かった時代に生きた人間にとっては、「一次性雷鳴頭痛」という概念はなく、このような突発的な激しい頭痛は、あくまでも「クモ膜下出血」と考え、髄液検査により”血性髄液”を確認した上で、脳血管撮影を4本の脳血管に対して繰り返し、脳動脈瘤の発見に悪戦苦闘したものです。
この場合、脳神経外科医立ち会いのもとに、撮影方向を少しずつ変えて、幾度も撮影を繰り返すことになります。
現在では、CT検査で漏れた血液の部位から脳血管撮影を行う部位が決めることができますが、CTのない時代では、4本の脳血管すべてを行う必要があり、まさに壮絶な検査場面となることが多かったもので、まさに殺気だった雰囲気で行われていたものです。
どうしても動脈瘤を確認できなければ、現在のようにこのような「一次性雷鳴頭痛」とされる症例は”出血源不明のクモ膜下出血”として、厳重な管理下において、ハラハラ・ドキドキしながら2週間入院させた上で、経過観察していた時代が思い出されます。
ということから、こうした患者さんは一般内科開業医が診るべきものではなく、脳神経外科医に委ねるのが原則と考えております。
このような時代に生きたものにとっては、現代のMRA検査を信用される若い脳神経外科医には、苦い思い出はなかったのでしょうか。
何か、痛いめに会わない限りは、MRA検査を過信されるのではないでしょうか。
ただ、片頭痛として、経過をみている間に、致命的な再出血を起こさないことを祈るしかないようです。
一次性雷鳴頭痛
このように、突然の激しい頭痛を訴えて来院される患者がいらっしゃいます。
いわゆる雷鳴頭痛です。くも膜下出血や椎骨動脈解離などの二次性頭痛を否定することが重要となります。
雷鳴頭痛をきたす二次性頭痛の原因となる疾患を列挙してみます。くも膜下出血、椎骨動脈解離、静脈洞血栓症、下垂体卒中、RCVS、低髄液圧症候群・・・などです。
これらの疾患がCTやMRIなどで除外されたら、一次性雷鳴頭痛が考えられます。
【一次性雷鳴頭痛】の「国際頭痛分類 第3版 β版」の診断基準を示します。
1.4 一次性雷鳴頭痛
A.BおよびCを満たす重度の頭痛
B.突然発症で、1分未満で痛みの強さがピークに達する
C.5分以上持続する
D.ほかに最適な「国際頭痛分類 第3版 β版」の診断がない
最近、雷鳴頭痛の原因として可逆性脳血管攣縮症候群が報告されています。
可逆性脳血管攣縮症候群の脳血管収縮の所見は、当初出現しない場合があるので経時的なMRA検査が必要と考えられています。
一次性雷鳴頭痛は診断基準も重要ですが、二次性頭痛を否定するということがより重要となります。
純粋な一次性雷鳴頭痛は果たして実際に存在するのでしょうか?
可逆性脳血管攣縮症候群
これまで、可逆性脳血管攣縮症候群は、6.7.3 中枢神経系の良性アンギオパチーによる頭痛に含まれていましたが、国際頭痛分類第3版β版の中に、6.7.3 可逆性脳血管攣縮症候群による頭痛として新しく分類され、診断基準も明記されました。
ここではその診断基準を紹介します。
可逆性脳血管攣縮症候群による頭痛
診断基準:
A.新規の頭痛で、Cを満たす
B.可逆性脳血管攣縮症候群と診断されている
C.原因となる証拠として、以下のうち少なくとも1項目が示されている
1.頭痛は局在神経学的欠損または痙攣発作(あるいはその両方)を伴うことも伴わないこともあり、血管造影で「数珠(strings and beads)」状外観を呈し、可逆性脳血管攣縮症候群の診断の契機となった。
2.頭痛は以下の項目のいずれかまたは両方の特徴をもつ
a.雷鳴頭痛として発現し、1ヶ月以内は繰り返し起こる
b.性行為、労作、ヴァルサルバ手技、感情、入浴やシャワーなどが引き金となる
3.発現から1ヶ月を超えると著明な頭痛は起こらない
D.ほかに最適な「国際頭痛分類 第3版 β版」の診断がなく、動脈瘤性くも膜下出血が適切な検査で除外されている
可逆性脳血管攣縮症候群
突然の激しい頭痛。嘔気嘔吐を伴う。第一に考えなければならないのは、くも膜下出血です。このほかに、脳出血、動脈解離(特に椎骨動脈解離)、静脈洞血栓症、下垂体卒中、未破裂脳動脈瘤、低髄液圧症候群などを除外しなければなりません。
これらの二次性頭痛が除外されたら、一次性雷鳴頭痛になります。
鑑別しなければならない頭痛に、可逆性脳血管攣縮症候群による頭痛が加わりました。
これまで、可逆性脳血管攣縮症候群は、6.7.3 中枢神経系の良性アンギオパチーによる頭痛に含まれていましたが、2013年6月の国際頭痛分類第3版β版の中に、6.7.3 可逆性脳血管攣縮症候群として新しく分類され、診断基準も明記されました。
可逆性脳血管攣縮症候群による頭痛の特徴は、一言でいうと繰り返す雷鳴頭痛です。誘因として、性交、運動、バルバサルバ負荷、感情、入浴、シャワーなどがある場合があります。
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は、未だ不明な点が多く今後解明されていくものと考えられます。
可逆性脳血管攣縮症候群 入浴関連頭痛
稀に入浴やシャワーなどで、突然の激しい頭痛を訴えて来院される患者がいらっしゃいます。くも膜下出血などの脳卒中や椎骨動脈解離などの二次性頭痛を否定することが重要です。これらが除外されたら・・・・。
入浴関連頭痛という頭痛があります。入浴やシャワーなどで突然に激しい頭痛をきたすもので、2000年に根来先生が発表されました。その後、いくつかの症例報告が発表され、2008年にWang先生らによって21例が報告されました。
ここではWang先生らの論文を紹介します。 この論文での入浴関連頭痛の診断基準は、1)国際頭痛分類第2版の一次性雷鳴頭痛の診断基準を満たす、但し、発作の持続時間は除く、2)入浴時に1)で示した頭痛発作が2回以上ある、というものです。
症例数は21例です。Wang先生らの頭痛専門のセンターで同時期の治療した症例数は5338例で、21例という症例数は0.4%に相当します。全て女性で平均年齢は54±8歳です。13例が閉経期で、1例が分娩後3ヵ月です。
入浴が最初の頭痛発作の引きがねになったのは9例(43%)です。18例(86%)では、体に暖かいお湯をかけて瞬時に頭痛が出現しています。この頭痛が起きる期間は、6-34日間(平均14日)で、その間に平均すると5.1±3.6回の頭痛発作が出現しています。
尚、15例(71%)では、入浴時以外にも頭痛を経験しています。つまり、入浴関連頭痛は、入浴により惹起される頭痛ですが、入浴以外でも頭痛が惹起されることがあります。
入浴関連頭痛について
入浴の方法 19名がシャワー、2名がシャワーとバスタブ
タイミング シャワー開始直後に18名(86%)、中頃に2名(10%)、終わり頃に1名(5%)
お湯は warm water(11名 52%)、hot water(5名)、cold water(2名)、温度関係なし3名
お湯をかけた場所 胸(11名 52%)、髪(6名 29%)、 顔(2名 10%)
頭痛の性状 爆発するような頭痛18名(86%)、拍動性頭痛14名(67%)
頭痛の部位 両側性13名(62%) 両側後頭部8名(38%)
頭痛の持続時間 平均2時間(30分から30時間)
随伴症状 嘔気6名(29%)、 嘔吐5名(24%)、光過敏3名(14%)、音過敏3名(14%)
入浴以外の誘因 運動(9名 43%)、トイレ(9名 43%)、咳(5名 24%)、怒り(3名 14%)、性行為(2名、10%)、歌う(1名 5%)
MRAは全例に施行され(第2病日から第76病日にかけて)、13例(62%)に多発性分節性脳血管収縮(multiple segmental arterial constrictions)を認めています。最近、雷鳴頭痛の原因として注目されている、いわゆる可逆性脳血管攣縮症候群です。中大脳動脈領域12例(57%)、後大脳動脈9例(43%)、前大脳動脈4例(19%)です。頭痛出現後に徐々に改善していきます。血管収縮が出現した群と、出現しなかった群とでは、MRI施行時期に有意な差はなかったそうです。MRIでは2例でreversible posterior encephalopathyを認めています。
治療は、Ca拮抗剤という降圧剤のニモジピン(日本では発売されていません)が19例に使用されています。その内の16例で発作を抑えられています。平均30か月の経過観察で再発は認められていません。
入浴関連頭痛は、閉経期の中年女性に多くみられることから、女性ホルモンの関与が推測されています。
このように、純粋な一次性雷鳴頭痛は果たして実際に存在するのでしょうか?
私は、まず、二次的頭痛として扱うのが無難のように思っております。
CTやMRIといった画像診断の無かった時代に生きた人間にとっては、「一次性雷鳴頭痛」という概念はなく、あくまでも「クモ膜下出血」と考え、髄液検査により”血性髄液”を確認した上で、脳血管撮影を4本の脳血管に対して繰り返し、脳動脈瘤の発見に悪戦苦闘し、どうしても動脈瘤を確認できなければ、現在のようにこのような「一次性雷鳴頭痛」とされる症例は”出血源不明のクモ膜下出血”として、厳重な管理下において、ハラハラ・ドキドキしながら2週間入院させた上で、経過観察していた時代が思い出されます。
ということから、こうした患者さんは一般内科開業医が診るべきものではなく、脳神経外科医に委ねるのが原則と考えております
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