(3)腸内環境
人間の腸の中には、およそ500種類以上、100兆個以上もの細菌が住んでいます。100兆個といえば、私たちの身体を形成する細胞の数よりも多く、その細菌を集めれば肝臓と同じくらいの重さになると言われます。腸内細菌の多くは、小腸の終わりから大腸全体にわたって住みつき、私たちの健康状態を決定する重要な働きをしています。
腸内細菌の住み家である大腸は、かつては最後の消化器官で、水分を吸収して便をつくるところ、老廃物の蓄積場所といった程度の認識しかなされていませんでした。しかし腸内細菌の働きの重要性が明らかになるにつれ、大腸に対する見方も根本的に変わることになりました。
最近では“エコロジー”が人々の関心を集め、私たちを取り巻く環境の悪化や自然崩壊が、人類に多くの悪影響を与えていることが知られるようになってきました。ところが考えてみれば、私たちにとって最も身近で最大のエコロジー的世界とは、腸内細菌の世界であると言えます。人間と腸内細菌は、持ちつ持たれつの関係の中で共存しているのです。
「100兆個以上もの生き物が住みついて生命活動を行い、私たちの健康に重大な影響を及ぼしている」「人間は腸内細菌からさまざまな恩恵を受けて生命を保ち、腸内細菌は人間によって活動する場所を与えられ存在している」という事実は、人間の体に備わっている免疫システムの働きを考えると、とても神秘的で不思議なことなのです。
人間の免疫システムは、外部から侵入してくる細菌を強力に排除して、生命に危害が及ばないようにしています。免疫システムは、人間を病気に至らせる多くの病原菌や有害物を排除して人体を守ろうとします。腸内細菌は免疫の対象となる病原菌と同じように“細菌”なのですが、腸内細菌は免疫システムによって排除されません。この不思議な事実は――「腸内細菌が人体にとって有益な働きをするために、免疫システムが味方として認め、存在するのを許している」ということを意味しています。
腸内細菌がいなければ、私たち人間は細菌の海の中で生きていくことはできません。細菌は必要性があって腸内に住みつき、それによって私たちは自然界の中で生活することができるようになっているのです。
善玉菌と悪玉菌
腸内細菌は、私たちが食べたものをエサにして生命を維持し、さまざまな物質をつくっています。そうした細菌の中には、人間に有益な働きをする「有益菌」もいれば、逆に有害な働きをする「有害菌」もいます。これが一般に言われている「善玉菌」「悪玉菌」です。その他に「日和見菌」と呼ばれる腸内細菌がいます。日和見菌とは、腸内の状態によって有害な働きをしたり、無害であったり、有益な働きをする菌のことです。腸内細菌は大きくこの3種類に分けられます。有益菌が多ければ健康が保たれ、有害菌が増えると病気にかかりやすくなります。
有益菌は食物繊維やデンプンをエサにして活動し、腸内で「発酵」を進め、人体にさまざまなプラスの影響をもたらします。有益菌の代表的なものは「ビフィズス菌」です。ビフィズス菌は「乳酸菌」の1種で、発酵により乳酸などの「有機酸」を生成し、腸内の酸性度を高めて有害菌の繁殖を抑えます。有益菌が活発に活動していれば消化・吸収が促され、免疫力は高まり、健康を保つことができます。(※乳酸菌は乳酸発酵に関与する細菌の総称で、現在までに約350種類が確認されています。ビフィズス菌はそのうちの1種で、現在までに約35種類が確認されています。ビフィズス菌は人間の腸内に住みつくことのできる細菌で、腸内細菌の中で最も重要な役割を担っています。)
有害菌はタンパク質を好み、腸内で「腐敗」を起こし、健康にマイナスをもたらします。有害菌の代表的なものは「ウエルシュ菌」です。その他にも「大腸菌」や「ブドウ球菌」などが知られています。有害菌はタンパク質や脂肪を分解して「有害物質・発ガン物質」を生成し、腸内環境を悪化させます。それによって老化が早まり、病気にかかりやすくなるのです。(※悪玉菌として名高い「ウエルシュ菌」は、腸内に常在する有害菌「クロストリジウム」の1種です。)
このように聞くと大半の人々は、何とか憎い悪玉菌を体内から追い出して、善玉菌だけにしたいと思うかもしれません。そして善玉菌を増やすために、ヨーグルトをせっせと食べるかもしれません。こうした考えが世の中に常識として定着し、安易なヨーグルトブームを生み出すことになっています。しかし、その考え方は間違っています。
腸内細菌のバランス
一般的に腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」に区別され、悪玉菌はもっぱら不用な厄介者のように思われていますが、そうではありません。もし悪玉菌と呼ばれている菌が本当に人体に害をもたらすだけのものであるなら、免疫システムの働きによって、とっくに排除されているはずです。一生懸命にヨーグルトを食べて腸内から追い出そうとしなくても、とっくにいなくなっていることでしょう。ここに大きな生命活動の神秘があるのです。
免疫がいわゆる「悪玉菌」を排除しないでいるということは、実は悪玉菌は人体にとって必要な存在であるからです。人体に有益な働きをするために、あえて生かしているのです。これからは従来のように腸内細菌を善玉・悪玉に分けるのではなく、ともに必要なものとして、ひとまとめに考えなければなりません。100兆個もの細菌を、単純に善玉・悪玉と区別することはできません。どの細菌も必要性があって存在していると、とらえるベきなのです。
最新の研究は、まさにそうしたことをも明らかにしつつあります。例えば普通“汚くて恐い”と思われている「大腸菌」であっても、状況によっては他の病原菌からの感染を防いでくれます。その反対に、有益菌の代表である「ビフィズス菌」が、発ガン物質をつくり出すこともあるのです。「同じ細菌が環境によって、プラスにもマイナスにもなる働きをしている」ということです。環境によって有害・無害が左右される以上、単に1種類の細菌だけを取り上げて善玉・悪玉と論じることは間違いなのです。
ここでもう1つ重要な点は、「有益菌と有害菌と日和見菌は、先天的に一定のバランス比率をもって体内に存在している」ということです。私たち1人1人の顔つきや指紋が異なるように、人によって腸内細菌の状態は違っており、その基本的なバランスは生まれつき決定していると言われるようになってきました。“生まれつき”が遺伝的なものなのか、あるいは出生時における母親からの細菌情報の伝達なのか、研究者の間で意見が分かれていますが、1人1人にふさわしい腸内細菌の個性的比率は、おおよそ決まっているのではないかと考えられています。そうした基本的なバランスのうえに食事やストレスなどの後天的な要因が影響を及ぼし、現実の腸内細菌の状態が決定しているということなのです。
もともとその人間に合った腸内細菌のバランスが保たれていればよいのですが、それが後天的な要因によって崩れると、さまざまな問題が生じるようになります。バランスがとれていたときには何の問題も起こさなかった「有害菌」や「日和見菌」が、悪い働きをするようになるのです。
腸内細菌のアンバランスを来す要因
腸内環境はいろいろな原因で変化しますが、なかでも食生活は大きな影響を及ぼします。欧米型の食事に偏り、肉や脂肪・砂糖などを大量に摂取すると、間違いなく腸内環境は悪化します。食物繊維が不足した「不健全な食事」では、腸内細菌のよい働きを引き出すことはできません。高タンパク・高脂肪・低食物繊維の欧米型食事は、腸内環境にとって最大の敵と言えます。
また「ストレス」や「過労」も腸内環境に深刻な影響を与えます。「運動不足」も問題です。さらには「抗生物質」などの化学薬剤も、腸内細菌に決定的なダメージを与えます。抗生物質は病原菌をやっつけるだけでなく、よい腸内細菌まで殺し、腸内フローラを悪化させます。家畜に投与された抗生物質が肉を摂ることで体内に取り入れられ、有益菌を弱らせるようなこともあります。
こうした食事やライフスタイルの間違いが、腸内細菌のバランスを崩し、人体にマイナスの働きを引き出すことになってしまいます。人間と共存・共生している細菌のトータル的な働きを、よい方向に向けられるかどうかは、人間サイドの姿勢によって決まるのです。
特に食事のよし悪しは、腸の健康にとって決定的ともいえる重要性をもっています。高タンパク・高脂肪の肉や牛乳などを減らし、野菜料理に漬物や納豆などの発酵食品を加えた伝統的な日本食にすれば、“腸内フローラ”の崩れたバランスは回復し、健康を取り戻すことができるようになります。「食物繊維」の豊富な食事によって、腸内細菌をよい状態に維持することができるのです。欧米型の食事をやめて、野菜や発酵食品を中心とした伝統的な日本食にすることが、腸内細菌をよい状態に保つ強力な方法となります。腸の健康のためには、真っ先に「食事改善」に取り組まなければなりません。
以下は、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生の見解です。
腸内環境は健康には欠かせません
腸内環境の大切さは、あなたもよく知っているはずです。毎日欠かさすヨーグルトや乳酸飲料をとったりしているのではないですか?
腸内には、おもに小腸の粘膜部分などにいる「常在細菌」と、大腸で食べたもの(内容物)に生息する「腸内細菌」の2種類がいます。常在細菌は母親から受け継いでいて、小さい頃の食習慣や生活環境によって育まれ、少年・少女期にはほぼ「確定」し、あとは通常、死ぬまでそのままです。
ところが、抗生物質を長期間とったり、大きなストレスを受けたり、糖質制限や無理な断食なんかをするとダメになってしまい、一度そうなると復活しません。とても繊細ですから大事にして下さい。
なぜ大事にしたいかといいますと、常在細菌もトリプトファンからナイアシン(ビタミンB3)をつくってくれるからです。常在細菌がナイアシンをたくさんつくってくれれば、その分を体内でつくる必要がなくなって、脳内セロトニン用の材料となるトリプトファンを余分に確保できるのです。
「腸内細菌のために、毎日ヨーグルトを食べなきや!」と思ったあなた、それちょっと待って下さい! 腸内環境を悪くするのは、肉類や乳・乳製品といっだ動物性タンパク質”たっぷりの食事です。ですから、ヨーグルトはむしろ逆効果なのです。
ヨーグルトで善玉菌を増やそうと思ったら、毎日数リットル単位で食べないと意味がありません。このようなことは土台無理な話です。
「ヨーグルトはカラダにいい」と信じている女性は多いと思います(男性も?)。でも、毎日相当な量を食べないと効果は期待できないようです。なぜでしょう?
ヨーグルトの原料は牛乳。だから含まれる乳酸菌は動物性”で、これが日本人の体質にはあまり合わないのです。
わたしたち日本人は長いあいた、西欧人とはちがって乳製品をほとんど食べない生活をしてきました。ですから、そもそも動物性乳酸菌とは相性がイマイチなのです。それに比べると、お漬物などに含まれる“植物性乳酸菌”はすっと食べてきたものですから相性がよいのです。ラブレクラウト(後藤日出夫先生の提唱されるものです)には「ラブレ菌」という植物性乳酸菌がたっぷりと含まれているので効果も出やすいというわけです。
「それなら、ラブレ菌の入った乳酸飲料を飲めばいいんじゃない?」と思うかもしれません。でも、とり方も大事なのです。
腸内で細菌が生きていくには、仲間同士で集まって、他の集団と戦ったり共存したりする必要があります。この集まりを「細菌叢」といい、この状態をつくらないと細菌は生きていけません。
ヨーグルトや乳酸飲料の場合、乳酸菌たちが細菌叢をつくれず無防備な状態のまま、胃酸や胆汁、免疫や他の細菌の攻撃を受けてしまうため、ほとんどが負けてしまって腸まで届きません。
一方、ラブレクラウトの場合、乳酸発酵したキャベツ自体にラブレ菌が定住します。いわば食物繊維にラブレ菌が守られているような状態です。食物繊維は消化されにくいので、“船”のようにラブレ菌を腸まで運んでくれるのです。
腸内細菌にも種類がある
さて、ここからは腸内環境と腸内細菌の話です。皆さんも「健康と美容にヨーグルト」という認識があると思います。「生きたまま腸まで届く乳酸菌」というような、いかにも大腸まで乳酸菌が届いて活躍するといった宣伝文句を見ることもありますが、それは本当のことなのでしょうか?
じつは、腸内細菌はそんなに簡単に操作できるようなものではないのです。
ひとくちに腸内細菌といっても、どこに住んでいる細菌かで性質も役割も異なります。
腸の粘膜やその近くに定住する「常在細菌」と、腸管内容物(食べた物)に生息する「管腔内細菌」(以下「腸内細菌」と記述)の2つに大きく分けられます。
常在細菌は、特に小腸に多く生息する細菌です(大腸にも生息)。これは出産時に母親から引き継がれ、乳児期・幼児期の食習慣や生活環境(細菌類への接触)などの影響を受けながら形成されます。そして少年期にはほぼ定まり、その後は大きく構成を変えることなく、ほぼ生涯にわたって引き継がれます。
しかし、抗生物質の長期間摂取や食習慣の著しい変化(糖質制限食など)、過激なストレスなどによって、常在細菌の構成が変化してしまうことがあります。この菌交代現象が起きると、今まで保たれていた腸内細菌叢の免疫的な働きが乱され、悪玉菌が優勢となることに加えて、腸内でビタミンやホルモンがうまく作られなくなったり、さらに腸の炎症を起こしたり、病原菌などの感染を受けやすくなったりします。
一旦、常在細菌の菌交代が起きると元の状態には戻りません。健全な常在細菌を抗生物質などで損なうことは絶対に避けるべきです。運悪く悪化させてしまった常在細菌を復活させるには、生き残った善玉菌の好むエサを摂取して増殖させる必要があります。
いずれにせよ、気長に常在細菌の健全化を図っていくしかありません。
【細菌叢とは】 腸内で細菌が生息しようとすると、単独では他の細菌からの攻撃に対して非常に脆弱であるため、同一種の細菌が集まって「叢」を作ります。腸内で生き抜くために、個々の細菌同士ではなく、「細菌叢」という集団での戦いが行われており、勢力を拡大したり、縮小したりを日々繰り返しています。
動物性乳酸菌ではなく植物性乳酸菌をとろう’!
「乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を生きたままとってより健全な腸を作る」などと謳われています。しかし、現実には常在細菌に直接作用することはなく、腸内で攻撃対象になることはあっでも定住することはありません。
また、「善玉菌」の代表選手である乳酸菌やビフィズス菌のすべてが有用かというと必ずしもそうではなく、それらの中にもビオチンなどのビタミンを好んで消費してしまう悪玉菌が少なからず存在します。
もっといえば、わずかな量の乳酸飲料をとったからといって、腸内環境を健全にできるわけではありません。ヨーグルトや乳製品を常食としている人が、多量のヨーグルトをとり続けることによって、健全な腸内細菌を維持することは可能かもしれませんが、乳製品が主食でない食習慣の日本人が、ほんのわずかな量(100グラム程度・数回)の動物性乳酸菌飲料をとったからといって、腸内細菌が健全になると期待するには無理があります。ある程度の効果を期待するのなら、継続的かつ多量な摂取(1日に数リットル以上)が必要だと思われます。
基本的に常在細菌の在り様には個人差があります。他人の腸内細菌や動物由来の腸内細菌などが他者の腸内で共生できるはずがなく、わずかな乳酸菌を摂取しても、腸内で菌が生き残り細菌叢を形成することは極めて困難です。むしろ私たち日本人には、動物性乳酸菌ではなく、漬け物などで伝統的に摂取し続けてきた植物性乳酸菌のほうがなじみやすく期待が持てると私は考えています。
「すぐき漬け」や、私かお勧めする「ラブレクラウト」は、ラブレ菌が細菌叢を形成した状態のままとることができるので効果的です。
いずれにせよ、腸内粘膜に善玉菌を定住させる可能性の少ない乳酸菌飲料に期待するよりは、常在細菌が好むエサを供給して善玉菌を元気にし、増殖させることのほうが実際には役立つ方法です。
小腸常在細菌のエサとなるのは、おもに消化過程の糖質(ブドウ糖など)やタンパク質(アミノ酸)、およびペクチンなどですので、それらの栄養素をバランスよくとることが大切です(ただし、アミノ酸は悪玉菌を優勢にしますのでとり過ぎに注意)。
じつは「万能健康ジュース」も、そうしたことを考えて作ったものなのです。
腸内細菌の働きとは?
小腸では腸の内容物に生息する腸内細菌の数が少なく、おもに腸の粘膜に生息する常在細菌の健全性が重要でした。しかし、内容物が盲腸まで達すると、腸内細菌の数が急激に増加し、大腸では常在細菌以上に、内容物(糞便)に生息する腸内細菌が健全かどうかが重要となってきます。
大腸の腸内細菌は、善玉菌によるビタミン類やホルモン類の合成に加え、酢酸などの栄養素の産生といった有益な働きがあります。それと同時に、大腸の後半の部分では、悪玉菌がアンモニアや硫化水素などの有害物質を産生しますので、これをいかに抑制するかが重要となります。
盲腸以降の糞便に生息する善玉菌は、小腸で消化吸収されることなく大腸に到達した未消化糖質や難消化性糖質など、炭水化物のカスをエサとして増殖します。そして、善玉菌はそのカスから酢酸やプロピオン酸、酪酸、乳酸といった栄養素を作り出して私たちにエネルギーを供給してくれるのです。また、善玉菌は悪玉菌が作る有毒物のアンモニアや発がん物質もエサとして消費してくれます。
芋類や穀類、豆類などの植物性の食品は、小腸で栄養素として消化吸収されたあと、大腸では善玉菌のエサとなって酢酸などの栄養素となり、元気になった善玉菌は、悪玉菌が作り出す有害物質や発がん物質まで食べてくれるというわけです。
この善玉菌のエサとなる炭水化物のカスが、いわゆるオリゴ糖やポリデキストリンといったものです。
オリゴ糖やポリデキストリンは、酵素反応によって人工的に作られます。 天然のオリゴ糖やポリデキストリンが含まれている食品には、ゴボウ、キクイモ、タマネギ、にんにく、ヤムイモ、大麦、ライ麦、大豆などがあります。
ところで、市販の乳酸飲料の乳酸菌が大腸まで届くというのはおおいに疑問です。なぜなら、乳酸菌が生息している栄養素のほとんどは小腸で消化吸収されてしまい、すみかを奪われた細菌が単独で大腸まで生き延びていくのは至難の業だからです。
発酵食品(味噌、漬け物など)には食物繊維というすみかがあるため、乳酸菌が胃や小腸の荒波を乗り越えて大腸まで細菌叢として到達できるのです。食物繊維やオリゴ糖、ポリデキストリンには、このような善玉菌のすみかとしての働きもあるのです。
善玉菌と悪玉菌の関係
悪玉菌も善玉菌と同様に未消化物などの分解を行いますが、その生成物が人体に有害であり、また人体に必要なものを消費してしまうがゆえに悪玉菌と呼ばれます。
善玉菌の多くが、炭水化物のカスを発酵させて酢酸などの有益な物質を生み出すのに対し、悪玉菌はタンパク質を分解(腐敗)・合成してアミン類やアンモニア、硫化水素、インドール、スカトール、フェノール類など、さまざまな有害物質を生成します。
この悪玉菌のエサとなるのは、食物の未消化タンパク質、胃や十二指腸などから分泌される消化酵素、腸の細胞などから新陳代謝により脱落した細胞などのタンパク質です。
また、唾液や消化液、腸液に含まれる尿素も悪玉菌のエサとなります。
こうして見ると、食物の未消化タンパク質を除けばすべてが体の中で作られるものばかり。ですから、断食しても悪玉菌の増殖は続きます。私たちにできる悪玉菌への「兵糧攻め」は、食物からの未消化タンパク質を減少させることだけです。
ところで、一般的に動物性タンパク質の消化吸収率は比較的高く、ほとんどが小腸で 吸収されます。しかし、食べ過ぎはタンパク質の消化を悪くします。 また、コラーゲンやゼラチンなどを多く含むもの、乾燥・煉製・焦げなど、タンパク質が変質したもの、魚卵などの外皮、脂を多く含むタンパク質などは、小腸で消化吸収されずに未消化タンパク質として大腸に達し、そのほとんどが悪玉菌のエサとなります。
それから、大豆などのでんぷんに含まれるタンパク質の消化吸収はあまりよくないものの、同時に善玉菌の好むエサを多く含むことから、有害物質の生成は抑制されます。
なお、大腸内容物が酸性であると悪玉菌の増殖は抑えられます。ですから、乳酸菌やビフィズス菌など、酸を生成する細菌の増殖を促すことが推奨されるのです。
勘違いしないでほしいのは、「悪玉菌が少なければ少ないほどよい」というわけではないということ。善玉菌は、悪玉菌が作り出すアミノ酸を体の成分として増殖します。
したがって、必ずある程度の悪玉菌が必要なのです。善玉菌は悪玉菌なしでは生きてはいけないということです。
腸内細菌、健全化のための7ヵ条
大腸は、その働きによって大きく前部と後部に分けられます。前部では未消化炭水化物の発酵や未消化タンパク質の分解などを行い、その生成物は栄養素などとして吸収活用されます。
後部では未消化タンパク質の腐敗と糞便を形成する働きがあります。そのため、便秘などで排泄が滞ると、悪玉菌による有毒な物質が生成され続け、体が毒されていくことになります。
乳酸菌飲料を少量とったところで効果はほとんど期待できないという話はすでにしましたが、実際のところ、胃酸にさらされ、胆汁にさらされ、栄養成分が小腸で消化吸収されてしまったあとは細菌叢を作ることもできず、他の腸内細菌に襲われるわ、免疫に襲われるわで、盲腸まで生きてたどりつくことができる菌はほとんどいないといってもよいでしょう。結局、穀類や芋類、豆類、野菜類など食物繊維の多い食品をとることが、腸内の健全性を保つためにもっとも重要なことなのです。
[腸内細菌、健全化のための7ヵ条]
○抗生物質や抗生物質を含む食品、防腐剤や抗菌剤を使用した食品をとらない
O発酵食品(味噌、酒かす、納豆、漬け物、キムチ、ラブレクラウトなど)を努めてとる
○食物繊維や難消化性糖質(オリゴ糖など)を充分にとる
O高脂肪、高タンパク質食品をとり過ぎず、摂取する場合は必ず食物繊維や難消化性糖質とI緒にとる
○大腸内の糞便はなるべく早く排泄する(少なくとも1日1回以上の便通を)
O空腸内細菌にダメージ与えるため、多量または高濃度(10%以上)のアルコールをとらない
Oお腹を冷やさない、冷たいものをとり過ぎない
腸内細菌を健全に保ち続けることは、いかなる病気を治すためにも、健康であり続けるためにも、絶対に必要です。
断食の危険性と小断食のススメ
健康のために「断食」を勧める健康法があります。その目的は、体にたまった毒素を抜くこと、ホルモンなどのバランスを整えることです。
断食をすると、体内に貯蓄されているグリコーゲンや体脂肪などからエネルギーを作るようになり、通常は食べ物の消化吸収などに向けられているさまざまな代謝が、生命を維持するための最小限の代謝を重視するようになります。 人間本来の生命力を回帰する方向へと向かうわけです。
しかし、断食を始めると腸内に善玉菌のエサがまったくなくなり、さらに胃液や腸液などの分泌物や腸細胞の脱落物など悪玉菌のエサばかりとなるため、悪玉菌が優勢の状態となり、アンモニアや硫化物などが異常に発生します。このように断食にはよい面と悪い面の両方があるということを知っておいてください。
断食で大きな問題なのは、じつは断食後の胃や腸の機能回復です。腸の細胞は、糖質やタンパク質などの栄養分のとり方によって、数日のあいたに消化吸収能の異なる細胞 へと変化します。外から栄養分をとらなければ、腸の消化吸収能は退化し、数日後には通常の食事から栄養分をほとんど処理できない腸へと変わってしまうのです。もしこのような状態で通常の栄養分を摂取すると、消化不良による下痢などのほか、腸細胞を傷つけてさまざまな炎症性の疾患を起こすことになります。したがって安易な断食は行わないほうが賢明です。
大切なのは次の3点です。
①腸内細菌を悪玉菌優勢にしないこと
②胃や腸など消化管の機能を低下させないこと
③肝臓の解毒負荷を軽くすること(ほとんどの有害物質は肝臓で解毒分解される)
私かお勧めしたいのは「小断食」。朝は「万能健康ジュース」だけの食事とし、週に一度、または月にI~二度は、三食とも「万能健康ジュース」の”小断食デー・を設ける。これが家庭でできる安全な体内代謝回復法かつ健全なダイエット法です。日々の食事で有害物質を摂取しがちな肝臓を救ってあげる「救肝日」にもなります。
インスリン過剰分泌と腸内環境との関連
インスリン過剰分泌と腸内環境との関連について考えてみましょう。
インスリン過剰分泌を起こさせない食事法は、片頭痛体質の形成阻止だけでなく、生理痛、糖尿病、肥満、花粉症・アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患、高血圧・癌などさまざまな生活習慣病の体質改善や健康・美容を維持するための最も共通した基本となる食事のとり方だということができます。
そこで、誰にでもできる“正しい食事のとり方”をご紹介しましょう。
その“鍵”となるのが「インスリン」です。「インスリン」は「糖質」や「タンパク質」をとった際に分泌されます。「脂質」はインスリン分泌を促しません。
タンパク質の刺激によるインシュリンの分泌は、糖質の時のように“一度にドッと”という分泌の仕方ではなく、消化が終わるまでダラダラと長く続きますので、無駄な分泌は少なく、食事量に見合ったインスリンが分泌されます。
なお、インスリンは血糖値が高くなった時に血糖を下げる唯一のホルモンですので、血糖を必要以上に上げすぎないことが改善のポイントとなります。
そこで、“一度にドッと”分泌し過ぎないためには、次のように食事を心掛けることです。
ⅰ、単品に近い食事のときは血糖上昇の緩やか食品を選ぶこと、複数の食品の食事では血糖が上がりにくい組み合わせにする(インスリンを過剰に分泌させない)
ⅱ、食品の消化・吸収の速度が早くなりすぎないように食事をとる(滞胃時間、食べる順番、咀嚼(そしゃく)時間などで調整する)
ⅲ、血糖を上げない甘味料(難消化性糖質、オリゴ糖など)などを使用する
腸内環境については、この分野の第一人者である藤田紘一郎先生のブログをご覧下さい。
腸内フローラ健康法
http://腸内.com/
このなかで、腸内環境は以下のように述べられています。
腸内フローラは、自分で体の悪いところを治す「自然治癒力」を作る工場
人間の体には、外からやってくる外敵や、体内で生まれる敵を倒そうとする「免疫力」とともに、自分の力で、病気や傷を治してしまったりする「自然治癒力」も備わっています。
たとえばケガをしても、やがて血も止まってかさぶたができて、傷がだんだん消えていったり、日焼けした肌がまた元の肌に戻っていったりしますね。軟膏などの薬は傷の治りをはやくしてくれるかもしれませんが、皮膚をくっつけてくれるのは、この自然治癒力です。
それに風邪をひいて熱が出ても、汗をかいて熱を発散させて体を正常に戻そうとします。髪の毛や爪が切ってもまた伸びてくるのも、自然治癒力の一種と考えてもいいかもしれません。
体に有毒な物質が入ってくると吐いたり、下痢をしたりして排除する腸の機能は「免疫力」のところで紹介するのですが、これもまた自然治癒力のひとつと見てもいいでしょう。
ですから、免疫力と自然治癒力は、時にほぼ同じようなものとしても語られますが、実際のところは、体に備わった自然治癒力のひとつが免疫力だといっていいでしょう。
この自然治癒力、人間なら誰にも備わっているものです。では、腸内フローラの、ことに善玉菌は、バランスが崩れた状態、要するに「病気」の体を、どのような形で健康体に戻すのに貢献しているか、あげていきましょう。
まずは、糖や脂質の代謝の活性化ですね。糖分、コレステロールや中性脂肪などの脂質の消化、吸収をコントロールして、余分なものを排泄するために働くのです。ですから、あとで詳しく触れることになりますが、血糖値を下げて、糖尿病を予防したり、肥満になりにくい体を作るのも、彼らの役割の一つなのです。
体を整えるホルモンやビタミンの生産にも関与しています。
ビタミンの例をあげれば、腸内細菌は、ビタミンB1、B2、B6、そして、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ナイアシンというビタミンB群、さらにビタミンKを合成する能力を持っています。
ビタミンB12などは、不足すると、末梢神経障害を起こし、うつ、物忘れという脳の障害まで引き起こすことが分かっていますが、それも作っているのは腸内フローラなのです。
腸のぜん動運動の活性化も、腸内フローラが手助けしています。
「便秘」はあらゆるものの大敵で、悪玉菌が増殖し、体も心も蝕んでいきます。引きこもりで、家庭内暴力を行っていた少年の話も前にしましたが、彼もひどい便秘でした。その症状が治った途端、まずピタリと家庭内暴力がおさまりました。
認知症にも、便秘は強く関わっている、と私は考えています。その便秘の最大の要因が、便を肛門まで運んでいくぜん動運動の低下です。逆にいえば、ぜん動運動さえ回復すれば、便秘はよくなり、体の各部の健康度もアップするわけです。
各種臓器の機能の活性化や保全にも、腸内フローラは関与しています。
腸内フローラの中には、肝臓や腎臓、脳などの働きに関係して、その機能を生かすために働く菌がたくさんいるのです。
まだ研究中の部分も多いのですが、これからも、腸内フローラが自然治癒力を作り出している大切な工場だと教えてくれる新しい発見は次々に出てくるでしょう。