第10回 第6章 自然治癒力 その3 生理活性物質 | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

(2)生理活性物質

 生理活性物質とは、わずかな量で生き物の生理や行動に何らかの特有な作用を示し、身体の働きを調節する役割をもった物質のことです。例えばビタミンやミネラル、核酸、酵素などがそうです。また、アミノ酸から作り出されるホルモン、神経伝達物質、サイトカインなども生理活性物質のうちの1つです。

 生理活性物質は、体内でタンパク質やアミノ酸などから合成されます。また、ある種のビタミンやミネラルのように体内で合成できないものは、食物から摂取する必要があります。さらに、自然界に広く生息する微生物が、ヒトにとって有益な生理活性物質を作り出すことも知られています。アオカビの作り出す抗生物質ペニシリンなどはその代表的な例です。

 私たちのカラダの中では、食べ物を分解したり、エネルギーを作り出したり、侵入してきた敵から身体を守ったりなど、絶えず、さまざまな生命活動が行われています。それらをうまく調節するために欠かせないのが生理活性物質です。生理活性物質の主なはたらきには、次のようなものがあります。
 生理活性物質が正常に働くことによって、細胞や臓器など、体内の各器官が一定のバランスを保ちながら、健康な体を作り上げているのです。生理活性物質が不足すると、それらの正常な機能は乱れ、さまざまな器官に疾患が現れます。生理活性物質は、私たちのカラダがきちんと働くために欠かせない物質なのです。

生理活性物質の種類

 生体調節物質(生理活性物質)には下記のように3つあります。

                            作用範囲                   運命

神経伝達物質  狭い(20 ~ 30nm)  極めて短い(mm 秒単位)
オータコイド     中間(近傍の細胞)  中間(分単位)
ホルモン       広い(全身?)          長い(時間単位)


 オータコイド(Autacoid)とは、動物体内で産生され微量で生理・薬理作用を示す生理活性物質のうち、ホルモン(特定の器官で分泌され体液で輸送されて他の器官に作用する)および神経伝達物質(シナプスでの情報伝達に与る)以外のものの総称です。オータコイドは、身体に異常が加わったとき、それに対処するように動員され、これが動員されること自体で新たな病態を生じることがあります。次のようなものが知られています。

      ヒスタミン
      セロトニン
      エイコサノイド(プロスタグランジンなど)・・脂肪酸由来物質
      アンジオテンシン
      ブラジキニン
      一酸化窒素(NO)

 また、サイトカイン(細胞から分泌され免疫応答や増殖など各細胞の機能に作用する)を含めることもあります。
 オータコイドは局所ホルモンとも呼ばれ、比較的局所にのみ働く傾向がありますが、ホルモンや神経伝達物質と厳密に区別されるものではありません。アンジオテンシンやブラジキニンはホルモン的遠隔作用も持ちます。またセロトニンは神経伝達物質としても働くことが知られています。機能としては炎症・アレルギー反応(ヒスタミン、エイコサノイド)や平滑筋への刺激(セロトニン、アンジオテンシン、ブラジキニン、NO)などがあります。物質としてはアミン(ヒスタミン、セロトニン)、脂肪酸由来物質(エイコサノイド)、ペプチド(アンジオテンシン、ブラジキニン)、ガス状物質(NO)に分けられます。NOは細胞内におけるセカンドメッセンジャーであるとともに、隣接する細胞にも容易に拡散してオータコイドとして働きます。ヒスタミンやセロトニンなどは細胞内に貯蔵されていて刺激に応じて細胞外に放出されます(神経伝達物質と同様)が、その他のものは刺激に応じて合成されます。
 この生理活性物質には、以下の大きな3つの働きがあります。

    ①炎症を悪くする、
    ②その炎症を調整する、
    ③それらの働きを抑制する


 たとえば、血管を広げる生理活性物質があれば、それを収縮させる逆の作用を持つもの、さらにそれぞれの作用を抑制するものが存在します。この3つがバランスよく保たれていれば何も心配ありませんが、バランスが狂ってしまうと、「酸化ストレス・炎症体質」を形成してくる、ということになってしまいます。

 脂肪酸由来物質の「エイコサノイド」

 「ホメオスターシスの三角形」の一角に”内分泌系”があり、全身のさまざまな生理機能を調節するもの(生理活性物質)には、「ホルモン」がありますが、特定の内分泌腺でつくられ、全身を支配しているのに対して、局所ホルモン(エイコサノイド)がこれとは別にあります。こうした調節物質を、ここではまとめて「プロスタグランジン」と呼ぶことにしますが、プロスタグランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を行っています。(そのため局所ホルモンと呼ばれています)しかし、その働きはきわめて重要で、身体全体の機能に関係していると言ってもよいほどです。
 ここでは、脂肪酸由来の生理活性物質であるエイコサノイドについて述べます。

局所ホルモン(プロスタグランジン)の働き

プロスタグランジンとは?

 必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6は、全身のさまざまな生理機能を調節する局所ホルモンの原料になります。この脂肪酸からつくられる局所ホルモンはエイコサノイドと言われ、「プロスタグランジン」「ロイコトリエン」「トロンボキサン」などの種類があります。 そうした調節物質を、ここではまとめて「プロスタグランジン」と呼ぶことにします。
 従来のホルモンが特定の内分泌腺でつくられ、全身を支配しているのに対して、プロスタグランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を行っています。しかし、その働きはきわめて重要で、身体全体の機能に関係していると言ってもよいほどです。

プロスタグランジンの生成過程と種類

 プロスタグランジンは、次のようなプロセスで生成されます。
 必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6が体内で化学変化を繰り返し、各種の「プロスタグランジン」が生成されていきます。(※食物として体内に吸収されたオメガ3・オメガ6の大部分は、他の脂肪酸と同じく燃焼に回されますが、細胞膜からピックアップされた一部がプロスタグランジンに変換されます。)
 プロスタグランジンは原料である脂肪酸の違いによって、3つのグループに分けられます。そして、そのグループ内でさらに複雑な変化をして数十種類のプロスタグランジンがつくられます。

プロスタグランジンによる生理調節作用

 ここで大切なことは、プロスタグランジンは大きく3つのグループに分かれ、グループごとに異なる働きをしているということです。なかでも「オメガ3系のEPA」からつくられるプロスタグランジンと、「オメガ6系のアラキドン酸」からつくられるプロスタグランジンは、相反する働きをして細胞機能のバランスをとっています。

 もう少し詳しく見てみると、オメガ6系からは2つのグループのプロスタグランジンがつくられ、互いに相反する働きをしています。現在、その材料となる「オメガ6」は大量に摂取されています。そのうえ大半の人々は、肉・乳製品・卵などの動物性食品を多く摂っていますが、そうした食品には直接「アラキドン酸」が含まれています。そのためアラキドン酸由来のプロスタグランジンが大量につくられることになります。つまり1グループ目に比べ、2グループ目のプロスタグランジンだけが過剰に生成され、細胞機能のバランスを欠くことになります。
 2グループ目のプロスタグランジンと、オメガ3系からつくられる3グループ目のプロスタグランジンも、相反する働きをしています。しかもこの2つは、オメガ6系のグループ同士より強力な競合関係にあり、一方が大量につくられると、他方はその分だけつくられなくなります。ということは、現在のような「オメガ3欠乏」の状態では、圧倒的に「アラキドン酸」由来のプロスタグランジンが生成されることになるのです。「オメガ6」と「動物性食品」の過剰摂取から2グループ目のプロスタグランジンだけが異常に多く生成され、「オメガ3」の欠乏から3グループ目のプロスタグランジンが極端に不足してしまっているということです。そのために細胞機能のバランスが大きく崩れ、さまざまな障害・病気が引き起こされているのです。

 例えば“炎症”という作用の場合、それを抑制するプロスタグランジンが「オメガ3」からつくられるのに対して、アラキドン酸由来の「オメガ6」からは炎症を激化させるプロスタグランジンがつくられます。このように―「血栓を減らしたり、増やしたり」「発ガンを抑制したり、促進したり」「子宮を弛緩させたり、収縮させたり」「血管を拡げたり、狭めたり」して、互いに相反する働きかけをしています。車にたとえれば、アクセルとブレーキのようなものです。1つの生理作用に対して、それぞれ反対の働きかけをしながらコントロールしているのです。多種類のプロスタグランジンが互いに関係をもちながら、身体全体の機能を維持しているのです。

「オメガ3」と「オメガ6」の脂肪酸は、単なるカロリー源や組織の構成成分となるだけでなく、細胞機能を調節するプロスタグランジンの材料となっています。プロスタグランジンは、神経系・ホルモン系に続く「第3の調節系」と言われ、油の中でも最新の研究分野となっています。1982年には、欧州の3人の研究者がノーベル医学生理学賞を受けています。

生体膜の構成・・・脂肪酸の種類の違い

 脂肪酸は体を構成している約60兆個の細胞の膜と、細胞内のミトコンドリアなどの小器官の膜をつくるのに使われています。体の働きを行う酵素は、細胞膜の助けを借りて働いています。また細胞膜は物質輸送の場でもあります。細胞膜には食べた脂肪酸がそのまま使われますので、どのような種類の脂肪酸を含む脂質を食べたかにより、細胞膜の状態が大きく異なり、細胞の働きが左右されます。

 例えばミトコンドリアで働く酵素はリノール酸型の脂肪酸により膜に支えられていますが、もし、これがリノレン酸型などの他の脂肪酸だと酵素は膜から離れてしまい、エネルギーをつくることができません。
 神経細胞はナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えることで神経を伝達しています。このナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えるたんぱく質を挟み込むように固定しているのがDHAやEPAです。もし、この脂肪酸がリノール酸型であれば、たんぱく質は固定できず神経は伝達できません。
 脂肪酸の種類によるもう一つの大きな違いは、膜の柔らかさです。融点が低い脂肪酸の方が体温では柔らかいのです。これらの脂肪酸がさまざまな組合せで膜をつくるのですが、その組合せにより膜の硬さ、つまり動きやすさが異なるのです。どのような組み合わせがよいのかはそれぞれの細胞が決めます。

「酸化ストレス・炎症体質」と生理活性物質(エイコサノイド)の働き

・3 種類の生理活性物質が作られる道のり!

 「酸化ストレス・炎症体質」は、次のような3種類の生理活性物質(エイコサノイド)の働きによりコントロールされています。

  ①炎症を悪くするもの
  ②その炎症を調整するもの
  ③それら両方の働きを抑制するもの

 そして、そのバランスが色々な場面において臨機応変に、非常に精密にコントロールされ、体の機能を調整しているのですが、このバランスが狂ってしまった状態が「酸化ストレス・炎症体質」でもあります。
 これら3種の生理活性物質が作られる道のりは、一般的に、次のように言われています。

①炎症を悪くするオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)
②その炎症を調整するオメガ-6調整系経路(γ-リノレン酸経路)
③それら両方を抑制するオメガ-3抑制系経路(EPA経路)

①炎症を促進するオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)

 この経路で作られる生理活性物質は炎症を悪くする、いわゆる「錆び体質」を誘発するものですから、この経路での代謝をいかに抑制するかが重要です。
 この経路の出発物質は「アラキドン酸」ですが、この「アラキドン酸」はおもに3 つの経路、

①「リノール酸」が体内で変換されて「アラキドン酸」となり生成される、
②動物性の高脂肪高タンパク質食品から直接摂取される、
③体を構成する細胞膜の新陳代謝により生成されます。
 しかし、その大部分の「アラキドン酸」は、体を構成する細胞膜の新陳代謝や炎症により破壊された細胞膜から供給されます。
「アラキドン酸」は細胞膜の重要な構成成分の一つで、細胞の柔らかさや電気信号の伝わりやすさにかかわっています。通常、細胞は新陳代謝(細胞の破壊と再生の繰り返し)されていますので、「アラキドン酸」は常に生成され、新たな細胞膜として再利用されています。体に炎症がおきますと、破壊される細胞が多くなりますので遊離した「アラキドン酸」の量は増加することになります。遊離したアラキドン酸はアラキドン酸カスケードという代謝経路を経て、炎症性の生理活性物質(エイコサノイド)に変換されます。
 炎症性の生理活性物質としては、2系のプロスタグランジン(PG)、2系のトロンボキサン(TX)および4系のロイコトリエン(LT)などがあります。
 これらの生理活性物質が生成する過程で強力な活性酸素であるヒドロキシラジカル(・OH)が生成されます。ということは、この経路から片頭痛発症にかかわる、「炎症性の物質」や「活性酸素」が作り出されるということです。
 そのため、この経路が活性化されますと、炎症作用が高まり、活性酸素の発生も増加しますので「酸化ストレス・炎症体質」を益々悪化させることになります。
 アラキドン酸から合成される生理活性物質(エイコサノイド)には多くの種類があり、その各々は異なった働きがあります。

 たとえば、プロスタグランジンE2は胃粘膜を保護するという私達の健康にとって好ましい作用がりますが、炎症を起こせば発熱を起こし、ブラジキニンという生理活性物質とともに疼痛を起こし、腫脹(はれ上がる)を酷くするなどの炎症促進作用を示します。

 因みに、片頭痛の痛みはこのプロスタグランジンE2やブラジキニンなどの発痛物質により引き起こされることになります。
 また、この経路で生成されるトロンボキサンA2は、血管を収縮させるとともに血小板を凝固させ、片頭痛発症の引き金となる生理活性物質です。
 このように、トロンボキサンA2は非常に悪い生理活性物質のようなイメージがありますが、一方では怪我などで血管が破れ止血する際には必要不可欠な物質でもあります。
 同じ生理活性物質であっても、その場面によって、人にとって好都合にも不都合にも働くのですが、この経路で合成される生理活性物質は、片頭痛をはじめ多くの疾患に対して、炎症性、血管収縮、血栓促進、免疫力低下、アレルギー病状増悪、癌化促進などの好ましくない作用が多くあることから、一般的に「炎症性」または「悪性」として扱われます。
 このオメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)の代謝活性を抑制するためには、次のことが重要です。

・オメガ3系の油(α-リノレン酸、EPA,DHAなど)をとる
・軽い空腹感を作る(グルカゴンや副腎皮質ホルモンの分泌を促す)
・血糖値が上がり過ぎない食事をする(インスリンの過剰分泌を抑える)
・アラキドン酸の多い食品をとり過ぎない

 また、副腎皮質ホルモンやアスピリンの服薬はこの代謝を非常に効果的に抑制することができますが、いずれも副作用が強く体質改善には用いることはできません。
 これら以外には、効果のほどは定かではありませんが、以下のものが有効であったという報告があります。

・共役リノール酸(牛乳・乳製品に含まれる)をとる
・エクストラバージンオリーブ油(有効成分:オレオカンタール)をとる
・ゴマ(有効成分:ゴマリグナン)を摂る
・赤ワイン(有効成分:レスベラトール)

 「酸化ストレス・炎症体質」が改善されれば、炎症細胞からのアラキドン酸の生成が抑制され、さらに炎症体質が改善されるという、良い循環が起きるようになります。

②炎症を調整するオメガ- 6 調整系経路(γ-リノレン酸経路)

 この経路の生理活性物質は炎症作用が強くなりすぎないように調整するものですから、
この経路をいかに活性化させるかが「酸化ストレス・炎症体質」の改善に重要となります。
 この経路の出発物質は「リノール酸」ですが、体内酵素により「γ-リノレン酸」(正確にはジホモγリノレン酸)に変換された後に、プロスタグランジン1系、トロンボキサン1系、ロイコトリエン3系の調整系生理活性物質を生成します。
 いわゆる、先の「オメガ-6炎症系経路(アラキドン酸カスケード)」で生成する生理活性物質が炎症作用を「活性化する働き」であったのに対し、この「オメガ- 6 調整系経路(γ-リノレン酸経路)」で生成する生理活性物質は生理作用全体をバランスさせるために、炎症作用を「調整する働き」をします。

 例えば、免疫系への作用としては、白血球の中でも抑制や調整作用のあるレギュラトリーTリンパ球という白血球を活性化させ免疫系の過剰な暴走を抑制しアレルギー疾患などを改善します。
 また、アラキドン酸カスケードの引き金である脂質分解酵素の働きを阻害し、炎症性の生理活性物質の生成を抑制するなどの作用があります。
 この経路を活性化することにより、「アラキドン酸」の代謝は抑制されるとともに傷害性の強い活性酸素である「ヒドロキシルラジカル」の発生も抑制されますので「酸化ストレス」の状態を改善することができます。
 また、この経路で生成する生理活性物質は炎症を引き起こすヒスタミン(片頭痛の痛みの原因物質の一種)の放出を抑制するなどの抗炎症作用を示すことや血管拡張、血栓抑制、免疫力増強、アレルギー症状寛解、癌化抑制、血糖調整などの作用があることから、この代謝経路で生成される生理活性物質は「良性」として扱われています。
この経路の代謝を活性化するためには、次のことが重要です。

・オメガ-6系の植物油(リノール酸)をとり過ぎない
・トランス脂肪酸を摂取しない(精製植物油、マーガリン、ショートニングなど)
・腸内細菌を健全に保つ(ビオチン不足を起こさない)
・過剰ストレスを避け、アルコール、タバコ、牛乳・乳製品のとり過ぎない
・ビタミンC、ビタミンB3(ナイアシン)の不足を起こさない

 リノール酸は通常の食事をしているかぎり穀類や豆類から充分に摂取することができますので、さらなる植物油の摂取はリノール酸のとり過ぎになるということです。
 また、マーガリンや精製植物油に含まれている「トランス脂肪酸」はリノール酸がγ-リノレン酸への変換を抑制し、「良性」の生理活性物質の生成を妨害します。
 特に「トランス脂肪酸」は、「遊離脂肪酸」として体の組織を傷害するとともに「活性酸素」も発生させやすく、一般に市販されている加工・精製植物油には注意が必要です。
 昔ながらの圧搾製法で造られた植物油はトランス脂肪酸を含みませんのでとり過ぎでなければ健康上の問題となることはありません。
 加工・精製植物油植物油は、パンやクッキー、ケーキ、マヨネーズ、ドレッシング、チョコレート、レトルトカレー、・・・・・・などにも含まれます。
 また、リノール酸は体内で非常に酸化されやすく過酸化脂質の生成原因ともなりますし天ぷら等で加熱されたリノール酸はヒドロキシルノネナールという有毒な物質を生成しますので、天ぷら油のリサイクルは絶対に行はないことが重要です(特に、アルコールの代謝の悪い下戸の方や子どもは気をつける必要があります)。

③炎症経路を抑制するオメガ-3抑制系経路(EPA経路)

 この経路の代謝はオメガ-6系経路の代謝と競合しますので、結果的にオメガ-6炎症系経路の代謝を抑制することになります。オメガ-6系の生理活性物質はかなり生理作用の強いものばかりですので、その作用を鎮めるのがおもな役割ということもできます。
 オメガ-3系の経路は「α-リノレン酸」からスタートし、体内酵素により「EPA」に変換されます。EPAはさらにDHAに変換されますが、DHAは必要に応じてEPAにも変換されます。
 この「EPA」からオメガ-3系の抑制系の生理活性物質である3系プロスタグランジン、3系トロンボキサンおよび5系ロイコトリエンが作られます。
 このオメガ-3系EPA経路を活性化することにより、炎症性のアラキドン酸カスケードの代謝を抑制し、「酸化ストレス」を弱めることができます。このようなことから、この経路で産生される生理活性物質は「良性」として扱われています。
「酸化ストレス・炎症体質」の改善ためにはこのオメガ-3系EPA経路の代謝を活性化させることも重要となります。
 そのためには、次のことが重要となります。

・オメガ-3系の油分(α-リノレン酸やEPA,DHAなど)の摂取量を増やす
・トランス脂肪酸を摂取しない(精製植物油、マーガリン、ショートニングなど)

「α-リノレン酸」を多く含むシソ油(エゴマ油)や亜麻仁油は、そのほとんどが工業的に造られたものではなく、圧搾製法で造られた植物油ですので「トランス脂肪酸」は含まれません。
 青魚に多く含まれ、また同時に、体内でα-リノレン酸からも変換される「EPA」は体内でのアラキドン酸の生成を抑制し、アラキドン酸が炎症性の生理活性物質を生成することを抑制する作用があります。オメガ-3系脂肪酸は、今日の平均的な食生活でむしろ不足しがちな脂肪酸ですので、積極的にとることをお勧めします。

・自然界に存在しない有害なトランス脂肪酸!

 トランス脂肪酸は構造がトランス型(直鎖状の構造)になった脂肪酸のことをいいます。

 トランス脂肪酸は自然界に存在しない有害物質が、工業的に油脂を精製したり、加工している時にできてしまったというものです。
 昔ながらの圧搾法による植物油や、天然の植物、魚や家禽などの油脂分に含まれる脂肪酸は全てがシス型(折れ曲がった構造)という構造をしています。
 牛などの反芻動物は胃の中で草や藁(わら)を消化する際にバクテリアによってトランス型(直鎖状の構造)をした構造の脂肪酸ができますが、これはバクセン酸や共役リノール酸(ルーメン酸)という構造も明らかな、人体に害を及ぼすことのない脂肪酸です(むしろ、健康サプリメントとして利用されている)。
 工業的に副生される有害なトランス脂肪酸は、おもに次の2つの生成過程を経て生成されます。

①植物油からマーガリンやショートニングを作ることや揚げ油として「持ち」の良い油を作るために、植物油に水素を添加するなどして、油を加工する際に副生物として生成されます。
 本来、室温で液状であった植物油に水素を添加することにより、マーガリンやショートニングのように常温でも固形油脂状にすることができ、長時間の使用に適した酸化劣化の少ない揚げ油を製造することができます。からっと揚がる油もこのようにして造られます。

 ショートニングの中には50%を超えるトランス脂肪酸を含むものあるといわれています。また、これらのマーガリンやショートニングを使用したビスケット、パン、ケーキ類などの加工食品にも有害なトランス脂肪酸は含まれることになります。市販のフライドポテト、フライドチキンなどに使用される揚げ油の中にも有害なトランス脂肪酸は多く含まれていますので、これらの揚げ物にもトランス脂肪酸は含まれることになります。

②植物種子などを圧搾して製造した植物油は、その植物油に含まれる不純物などにより腐敗や変色などの品質劣化をおこすため、市販されているほとんどすべての植物油は工業的に精製・脱臭されています。脱臭工程では高温・高真空下で水蒸気を吹き込むなどの処理がおこなわれますが、この精製・脱臭工程でトランス脂肪酸が副生されます。
 市販のサラダ油などのほとんどの精製植物油には有害なトランス脂肪酸が含まれています。


・ダイオキシン類にも似た、トランス脂肪酸の有害性!

 植物油とともに体に取り込まれた有害なトランス脂肪酸はある程度はエネルギーに転換(異化)されます。しかし、生理活性物質など体の重要な構成成分となることは起こりえません。体のもとなる細胞や生理活性物質の生成などの代謝は非常に緻密に特定された構造のものだけが酵素反応にかかわりますので、自然界にあるシス体とは異なり自然界に存在していないトランス体が体の一部となることはありません。
 しかし、体は無理にでも代謝し続けようとしますので代謝酵素を誘導し続け、補酵素やビタミン、ミネラルを無駄に消費してしまうことになると考えられます。人間が新たに作り出したダイオキシンやPCBのような残留性環境汚染物質を代謝できないのと同じようなことが体内で起きるのです。
 代謝されない脂肪酸は遊離脂肪酸として血流を通して全身の組織・器官に達し、他の重要な代謝にかかわる酵素の働きを妨害するとともに、脂肪酸毒として組織・器官に傷害(又は障害)を与えることになります。
 実際には、血液中に放出された遊離脂肪酸は血液中のたんぱく質(アルブミン)と結合し、その毒性の悪影響が抑制されるのですが、許容限界量(閾値)を超えてしまうと脂肪酸毒として作用することになります。片頭痛や花粉症、アレルギーなどの症状が現れている場合は既にこの閾値を超えた状態であると考えられます。
 また、トランス脂肪酸はエネルギーに転換されることはあるにしても代謝速度は遅く、一部は血流中や組織・器官の細胞内、脂肪組織(皮脂、内臓脂肪、皮下脂肪)などに遊離脂肪酸として蓄積されると考えられます(一部は母乳としてや皮脂腺などを通して排出されると思われます)。
 トランス脂肪酸は、一般的な急性毒性や亜急性毒性的なリスクの心配はほとんどありませんが、心臓病や脳梗塞を始め多くの病気の原因物質として疫学的にも世界的に証明されている有害な物質なのです。心臓病や脳梗塞の影響が明らかなことから、日本を除く先進国ではトランス脂肪酸に対し何らかの規制や含有量の表示義務などが課せられています。
 しかし、日本ではこのような規制などは全くないため食品に含まれるトランス脂肪酸の量さえ知ることさえ出来ないのが現状なのです。マーガリンやショートニングなどの硬化油や硬化油を使用した菓子類などの食品や市販の精製植物油、マヨネーズ、ドレッシングなどには必ずトランス脂肪酸が含まれています。これらの食品を極力摂取しないこと。
家庭で植物油を使用する場合はエクストラバージンオイルや圧搾法による植物油を用いることにより、トランス脂肪酸の摂取は避けられます。

・植物油(リノール酸)の摂取を控え、オメガ3系脂肪酸を摂る(オメガ6/オメガ3比を1.0以下に)!

 植物油のとり方が生理活性物質のバランスを整えるために重要な要因であることは理解できたところで、どの程度の割合が最も良いのかということをご説明します。
 オメガ6系リノール酸は穀類や豆類、芋類、野菜類などに多く含まれていますので、通常の食生活をするかぎりにおいて摂取不足を起こすことはありません。
 むしろ植物油をさまざまな形で摂取する機会が多い今日では、オメガ-6系脂肪酸のとりすぎが問題となります。一方、オメガ-3系の油分は魚介類を除く食品には極少量しか含まれていませんので、魚をあまり摂らない食生活では不足しがちな油分といえます。
 オメガ-6系脂肪酸のとりすぎは「良性」の生理活性物質を抑制し、「悪性」の生理活性物質を活性化させます。オメガ-3系脂肪酸の摂取量が少ないと炎症をより悪化させます。
 簡潔に言い換えますと、オメガ-6系脂肪酸のとりすぎが炎症体質を悪化し、オメガ-3系脂肪酸をとると炎症体質は改善されるということになります。
 これらのことから、摂取する「オメガ- 6 系油とオメガ- 3 系油の比」をもって炎症体質や酸化ストレス体質にならないための油脂の摂取量の目安量を知ることができます。
 いわゆる、オメガ-6系/オメガ- 3 系の比が大きな値を示すほど「酸化ストレス・炎症体質」は悪い状態に向かい、逆に小さな値であるほど「酸化ストレス・炎症体質」は良好な状態に向かうということなのです。
 厚生労働省では実経済への影響を考慮し、望ましいオメガ-6/オメガ-3の比を4.0としていますが、日本脂質栄養学会では健康であるためにはオメガ-6/オメガ-3の比は2.0以下を提案しています。
「酸化ストレス・炎症体質」の改善のためには、厚生労働省のオメガ-6/オメガ-3の比4.0は論外としても、日本脂質栄養学会の提案する2.0以下であることが好ましいように思われます。

 私は体質改善の開始当初は1.0以下を目標とし、体質が改善されてくれば2.0以下を維持することを推奨しています。
 そのためには、オメガ-3系のEPAやDHA含有量の高い青魚を積極的に摂取するとともに、植物油の使用に際してはα―リノレン酸含有量が高いシソ油(エゴマ油)を日常的に用いることを推奨しています。

 ただし、オメガ-3系の油のとり過ぎは免疫系の活性を弱めますので、「酸化ストレス・炎症体質」を改善するためには必須のオメガ-3系の油であってもとり過ぎには注意が必要となります。またオメガ-3系の油は血液をさらさらにする効果はありますが、逆に出血した時には血が止まりにくくなってしまうことがあります。内科医はEPA やDHA の摂取を薦めても、手術の機会の多い外科医はそうでないかもしれません。
 なお、エゴマ油(シソ油)は空気中での加熱安定性が良くありませんので、加熱調理用としては適していません。ドレッシングやマヨネーズなど加熱しないものに限定するか、そのまま頂くことが好ましいでしょう。
 また、オリーブ油の主成分であるオレイン酸はオメガ-9系脂肪酸であり、生理活性物質の代謝には直接関与することはありませんので、加熱用や菓子類の植物油として幅広く利用することができます。

 いずれにしろ、「酸化ストレス・炎症体質」の改善には、マヨネーズ(卵黄、植物油、酢)やドレッシング(植物油、酢)は有害なトランス脂肪酸を含まないシソ油やオリーブ油を用いた自家製に変え、加熱用としてはエクストラバージンオリーブ油か圧搾法の植物油を使用するなどの工夫が必要だといえます。

 また、リノール酸をとり過ぎると体内でのリノール酸の代謝が遅延するため血中のリノール酸濃度が高まり、トランス脂肪酸と同様に血中の遊離脂肪酸濃度を上げることになります。血中や組織の遊離脂肪酸の濃度が高くなれば器官や組織の細胞を傷害するだけでなく、その結果として発生する活性酸素などにより過酸化脂質などの過酸化物を生成しやすくなります。そのため、体は常に酸化ストレスが増大した状態になってしまうのです。

 片頭痛を起こしやすい体質、いわゆる活性酸素を生じやすく、血中の遊離脂肪酸濃度の高い状態は、このようにして作られていくのです。

オメガ3とオメガ6のアンバランスを引き起こす原因

 では、どうしてこのような異常な事態を引き起こすようになったのでしょうか。「オメガ3」も「オメガ6」も、植物性食品や植物油の中に多く含まれています。そして、その植物油がアメリカや日本において大量に摂取されるようになったのは、1960年以降のことです。食事が欧米型に向かい、油料理・揚げ物料理が多くなった時期ということです。
 食事の欧米化の中で摂取量が増え続けてきた油と言えば、コーン油・大豆油・サフラワー油(紅花油)などです。そして、それらをベースにしたマヨネーズやドレッシング・マーガリンなどです。実は、こうしたどこの家庭でも毎日のように使う油には、「オメガ6(リノール酸)」が豊富に含まれているのです。
 (一般に使われる油の中には、45~75%もの「オメガ6」が含まれています。)
 一方、「オメガ3(アルファ・リノレン酸)」を多く含む油としては、シソ油・エゴマ油があり、欧米では亜麻仁油があります。しかし現代人のほとんどは、これらの油を料理に使うことはありませんでした。(日本ではあまりなじみのない「亜麻仁油」ですが、食用に用いられた歴史は古く、ギリシャ・ローマ時代からだと言います。北欧諸国では第2次世界大戦の前まで、どこの家庭でも使われていました。)

 また食品によっては、オメガ3を比較的多く含むものもあります。野菜(特に緑の濃い冬野菜)・海藻・魚(背の青い大衆魚)などです。そしてこれらの食品は、昔の日本人は日常的によく食べていました。そのためかつては、かなり「オメガ3」を摂取することができていたのです。油料理をひんぱんに摂るような現代とは違って、オメガ3とオメガ6のバランスは自然に良好だったのです。

 現代人は、オメガ3の摂取源となる野菜・海藻・魚などをあまり摂らなくなっているのに対し、オメガ6の摂取量は激増しています。食事が欧米型に傾けば傾くほど、「オメガ6」だけが多くなってしまうのです。こうして必然的に、「オメガ3」と「オメガ6」のバランスは大きく崩れてしまいました。

現代人の深刻な「オメガ3脂肪酸欠乏」

 食生活の欧米化が深刻な「オメガ3欠乏」を招いていますが、その一因としては、次のようなことも挙げられます。一般に現代人は、寒い地域の食物より、温かい地域の食物を好んで食べるようになっています。温室栽培や輸入によって、冬でも、トマトやキュウリ・ピーマンなどの夏野菜が食べられるようになりました。実は、「オメガ6」が暖かい地域の農作物に多く含まれているのに対して、「オメガ3」は寒い地域の農作物に多いのです。ホウレン草・シュンギク・小松菜・白菜・ブロッコリーなどの冬野菜は、よいオメガ3の摂取源となっています。
 また精白技術の進歩が、オメガ3不足に拍車をかけています。穀類の胚芽にはオメガ3とオメガ6がともに含まれているのですが、精白することで「オメガ3」が失われてしまいます。

  さらにオメガ3不足の大きな原因として現代式の製油方法が挙げられます。食用油といえば、かつては手絞り的な圧搾法「コールド・プレス(低温圧搾法)」で製造されていました。しかし現代では、そうした方法でつくられているのは亜麻仁油・オリーブ油などの一部の油のみです。 それ以外のほとんどの食用油は、化学的溶剤で原料の中の脂肪を溶かし出し、その後に溶剤を除去するといった方法でつくられています。そして最後の脱臭工程では、230℃以上もの高温処理がなされています。取り出された油には、部分的に水素が添加されます。“水素添加”とは、不飽和脂肪酸の二重結合部分に、高温高圧下で強引に水素をつなげて油を飽和状態に変えてしまうことです。こうすると油は酸化しにくくなって日もちがよくなり、商品寿命が延びるからです。

  こうした製油過程で真っ先に失われてしまうのが、水素と最も反応しやすい「オメガ3」なのです。原料となる大豆やゴマなどの種子類には、わずかですがオメガ3が含まれていますが、今述べたような製油方法では、ほとんどなくなってしまいます。そのうえ「トランス型脂肪酸」という有害な脂肪酸が生成されることになります。(「溶剤使用」「高温処理」「水素添加」という現代式の製油方法の中では、オメガ3だけでなく、ビタミンなどの栄養素も失われてしまいます。
 このような原因が重なって、現代人の「オメガ3不足」は、きわめて深刻な状態になっています。