ホメオスターシス・恒常性には自律神経、内分泌系、免疫系の3つの働きが深くかかわっており、3つの相関関係は「ホメオスターシスの三角」と呼ばれます。
一方「ホメオスターシス三角」を形成する3つのなかの、自律神経系の調節には、”セロトニン神経系”が関与し、内分泌系は”ホルモン”と”生理活性物質”が関与し、免疫系には”腸内環境”が重要な位置を占めています。
”生理活性物質”には、セロトニンだけではなく各種のものがあり、慢性頭痛とくに片頭痛発症要因として、脂肪酸由来物質(エイコサノイド)・プロスタグランジンがあります。これは、頭痛だけでなく、痛み全般の発症要因ともなるものです。
細胞に物理的な刺激が加わった場合や炎症などはアラキドン酸が遊離するきっかけとなるため、いったんプロスタグランジンが産生され、炎症が起きると、アラキドン酸の遊離が促進され更にプロスタグランジンが産生されるという悪循環が生じることになります。
炎症の初期にプロスタグランジンの産生をしっかりブロックすることは、痛みを悪化させないための重要なポイントです。
プロスタグランジンの原料になるのは食物の中に含まれる脂肪です。
このため、脂肪分の多い食事を摂りすぎますと、頭痛・痛みそのものが出現しやすくなります。
この内分泌系の要因として、”生理活性物質”としての脂肪酸由来物質(エイコサノイド)があります。
脂肪酸由来物質(エイコサノイド)は、必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6で作られ、この摂取バランスがよくないと、局所ホルモンのエイコサノイド・プロスタグランジンのバランスを乱すことになります。
必須脂肪酸は生体膜(細胞膜)を構成しており、オメガ3とオメガ6の摂取バランスがよくないと、ミトコンドリアの機能・セロトニン神経系の機能にも影響を及ぼし、結果的に、細胞機能のバランスを欠くことになります。
これまでの臨床頭痛学では、このような”生理活性物質”の観点から論じられることは全くありません。このため、このような立場から食事摂取上の注意点が言及されることは皆無でした。
今後、このような観点から、「臨床頭痛学」は見直す必要があります。
「慢性頭痛の基礎」6.生理活性物質
https://ameblo.jp/yoyamono/entry-12187079825.html
今回は、脂肪酸由来物質(エイコサノイド)を中心に述べることにします。
生理活性物質としてのエイコサノイド・・「プロスタグランジン」
全身のさまざまな生理機能を調節するもの(生理活性物質)には、「ホルモン」がありますが、特定の内分泌腺でつくられ、全身を支配しているのに対して、局所ホルモン(エイコサノイド)がこれとは別にあります。こうした調節物質を、ここではまとめて「プロスタグランジン」と呼ぶことにしますが、プロスタグランジンは個々の細胞でつくられ、細胞レベルでの調節を行っています。(そのため局所ホルモンと呼ばれています)しかし、その働きはきわめて重要で、身体全体の機能に関係していると言ってもよいほどです。
局所ホルモン(エイコサノイド)は、必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6という脂肪酸からつくられます。
必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6が体内で化学変化を繰り返し、各種の「プロスタグランジン」が生成されていきます。(食物として体内に吸収されたオメガ3・オメガ6の大部分は、他の脂肪酸と同じく燃焼に回されますが、細胞膜からピックアップされた一部がプロスタグランジンに変換されます。)
プロスタグランジンは原料である脂肪酸の違いによって、3つのグループに分けられます。そして、そのグループ内でさらに複雑な変化をして数十種類のプロスタグランジンがつくられます。
ここで大切なことは、プロスタグランジンは大きく3つのグループに分かれ、グループごとに異なる働きをしているということです。なかでも「オメガ3系のEPA」からつくられるプロスタグランジンと、「オメガ6系のアラキドン酸」からつくられるプロスタグランジンは、相反する働きをして細胞機能のバランスをとっています。
もう少し詳しく見てみると、オメガ6系からは2つのグループのプロスタグランジンがつくられ、互いに相反する働きをしています。現在、その材料となる「オメガ6」は大量に摂取されています。そのうえ大半の人々は、肉・乳製品・卵などの動物性食品を多く摂っていますが、そうした食品には直接「アラキドン酸」が含まれています。そのためアラキドン酸由来のプロスタグランジンが大量につくられることになります。つまり1グループ目に比べ、2グループ目のプロスタグランジンだけが過剰に生成され、細胞機能のバランスを欠くことになります。
2グループ目のプロスタグランジンと、オメガ3系からつくられる3グループ目のプロスタグランジンも、相反する働きをしています。しかもこの2つは、オメガ6系のグループ同士より強力な競合関係にあり、一方が大量につくられると、他方はその分だけつくられなくなります。ということは、現在のような「オメガ3欠乏」の状態では、圧倒的に「アラキドン酸」由来のプロスタグランジンが生成されることになるのです。「オメガ6」と「動物性食品」の過剰摂取から2グループ目のプロスタグランジンだけが異常に多く生成され、「オメガ3」の欠乏から3グループ目のプロスタグランジンが極端に不足してしまっているということです。そのために細胞機能のバランスが大きく崩れ、ミトコンドリア機能に障害をもたらすことになり、さまざまな障害・病気が引き起こされているのです。
例えば“炎症”という作用の場合、それを抑制するプロスタグランジンが「オメガ3」からつくられるのに対して、アラキドン酸由来の「オメガ6」からは炎症を激化させるプロスタグランジンがつくられます。このように―「血栓を減らしたり、増やしたり」「発ガンを抑制したり、促進したり」「子宮を弛緩させたり、収縮させたり」「血管を拡げたり、狭めたり」して、互いに相反する働きかけをしています。車にたとえれば、アクセルとブレーキのようなものです。1つの生理作用に対して、それぞれ反対の働きかけをしながらコントロールしているのです。多種類のプロスタグランジンが互いに関係をもちながら、身体全体の機能を維持しているのです。
「オメガ3」と「オメガ6」の脂肪酸は、単なるカロリー源や組織の構成成分となるだけでなく、細胞機能を調節するプロスタグランジンの材料となっています。プロスタグランジンは、神経系・ホルモン系に続く「第3の調節系」と言われ、油の中でも最新の研究分野となっています。1982年には、欧州の3人の研究者がノーベル医学生理学賞を受けています。
オメガ3とオメガ6のアンバランスを引き起こす原因
では、どうしてこのような異常な事態を引き起こすようになったのでしょうか。
「オメガ3」も「オメガ6」も、植物性食品や植物油の中に多く含まれています。そして、その植物油がアメリカや日本において大量に摂取されるようになったのは、1960年以降のことです。食事が欧米型に向かい、油料理・揚げ物料理が多くなった時期ということです。
食事の欧米化の中で摂取量が増え続けてきた油と言えば、コーン油・大豆油・サフラワー油(紅花油)などです。そして、それらをベースにしたマヨネーズやドレッシング・マーガリンなどです。実は、こうしたどこの家庭でも毎日のように使う油には、「オメガ6(リノール酸)」が豊富に含まれているのです。
(一般に使われる油の中には、45~75%もの「オメガ6」が含まれています。)
一方、「オメガ3(アルファ・リノレン酸)」を多く含む油としては、シソ油・エゴマ油があり、欧米では亜麻仁油があります。しかし現代人のほとんどは、これらの油を料理に使うことはありませんでした。(日本ではあまりなじみのない「亜麻仁油」ですが、食用に用いられた歴史は古く、ギリシャ・ローマ時代からだと言います。北欧諸国では第2次世界大戦の前まで、どこの家庭でも使われていました。)
また食品によっては、オメガ3を比較的多く含むものもあります。野菜(特に緑の濃い冬野菜)・海藻・魚(背の青い大衆魚)などです。そしてこれらの食品は、昔の日本人は日常的によく食べていました。そのためかつては、かなり「オメガ3」を摂取することができていたのです。油料理をひんぱんに摂るような現代とは違って、オメガ3とオメガ6のバランスは自然に良好だったのです。
現代人は、オメガ3の摂取源となる野菜・海藻・魚などをあまり摂らなくなっているのに対し、オメガ6の摂取量は激増しています。食事が欧米型に傾けば傾くほど、「オメガ6」だけが多くなってしまうのです。こうして必然的に、「オメガ3」と「オメガ6」のバランスは大きく崩れてしまいました。
現代人の深刻な「オメガ3脂肪酸欠乏」
食生活の欧米化が深刻な「オメガ3欠乏」を招いていますが、その一因としては、次のようなことも挙げられます。一般に現代人は、寒い地域の食物より、温かい地域の食物を好んで食べるようになっています。温室栽培や輸入によって、冬でも、トマトやキュウリ・ピーマンなどの夏野菜が食べられるようになりました。実は、「オメガ6」が暖かい地域の農作物に多く含まれているのに対して、「オメガ3」は寒い地域の農作物に多いのです。 ホウレン草・シュンギク・小松菜・白菜・ブロッコリーなどの冬野菜は、よいオメガ3の摂取源となっています。
また精白技術の進歩が、オメガ3不足に拍車をかけています。穀類の胚芽にはオメガ3とオメガ6がともに含まれているのですが、精白することで「オメガ3」が失われてしまいます。
さらにオメガ3不足の大きな原因として現代式の製油方法が挙げられます。食用油といえば、かつては手絞り的な圧搾法「コールド・プレス(低温圧搾法)」で製造されていました。しかし現代では、そうした方法でつくられているのは亜麻仁油・オリーブ油などの一部の油のみです。それ以外のほとんどの食用油は、化学的溶剤で原料の中の脂肪を溶かし出し、その後に溶剤を除去するといった方法でつくられています。そして最後の脱臭工程では、230℃以上もの高温処理がなされています。取り出された油には、部分的に水素が添加されます。“水素添加”とは、不飽和脂肪酸の二重結合部分に、高温高圧下で強引に水素をつなげて油を飽和状態に変えてしまうことです。こうすると油は酸化しにくくなって日もちがよくなり、商品寿命が延びるからです。
こうした製油過程で真っ先に失われてしまうのが、水素と最も反応しやすい「オメガ3」なのです。原料となる大豆やゴマなどの種子類には、わずかですがオメガ3が含まれていますが、今述べたような製油方法では、ほとんどなくなってしまいます。そのうえ「トランス型脂肪酸」という有害な脂肪酸が生成されることになります。(「溶剤使用」「高温処理」「水素添加」という現代式の製油方法の中では、オメガ3だけでなく、ビタミンなどの栄養素も失われてしまいます。
このような原因が重なって、現代人の「オメガ3不足」は、きわめて深刻な状態になっています。
そして、ミトコンドリアの働きまで悪化させることになります。
酸化ストレスを悪化させる危ないやつ!
植物油に多く含まれるのが「リノール酸」です。リノール酸は「必須脂肪酸」で、わたしたちのカラダには欠かせません。でも、穀類や豆類中心の食事をしていれば、充分に必要量がとれます。
リノール酸は、活性酸素の発生などを抑える「生理活性物質」(体内でのさまざまな生命活動を調整したり影響を与えたりする)の原料になりますが、とり過ぎてしまうと逆にそれを抑制してしまいます。現代人の食生活は植物油を多くとり過ぎなので、むしろ活性酸素を過剰に発生させてしまっているのです。
それから問題なのが「トランス脂肪酸」。これは天然の植物油(昔ながらの低温圧搾でつくられたもの)にはほとんど含まれません。
大量生産で工業的につくられる場合にできる副産物で、いわば人工的な有害物質です。 ですから、精製・加工された植物油には多くのトランス脂肪酸が含まれています。このトランス脂肪酸も酸化ストレス・炎症体質を悪化させます。
トランス脂肪酸は多くの国で使用が制限され、表示義務があります。ところが、日本ではほぼ“Free”という状況です。ほとんどの人がその危険性をよく知りません。あなたは知っていましたか?
トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングにもたくさん含まれています。マーガリンは即やめたほうがいいし、ショートニングを使っているお菓子なども、やはり気をつけたほうがいいです。そのほかでは、市販の揚げ物なども要注意です。何度も使い回しができる“持ぢのよい「硬化油」という植物油が使われていて、これにはトランス脂肪酸がいっぱいです。
健康によい油
リノール酸は「生理活性物質」の原料になります。この生理活性物質には、
①「炎症を悪くする」、
②「炎症を抑える」、
③「両者の働きを調整してバランスをとる」
の3種類があり、リノール酸はとり過ぎると①になってしまいます。
大事なのは③です。「酸化ストレス・炎症体質」にならないようにコントロールしてくれるからです。その原料となるのが「α-リノレン酸」や「EPA・DHA」です。
サプリメントのCMで見たことがあると思いますが、EPAやDHAは青魚に多く含まれています。「α-リノレン酸」。α-リノレン酸は、体内でEPAやDHAに変わってくれるのです。α-リノレン酸は「エゴマ油(シソ油)」や「亜麻仁油」に多く含まれています。 αーリノレン酸やEPA・DHAは「オメガ3系脂肪酸」といいます。健康の決め手はオメガ3です。
慢性頭痛の周辺 その42 生理活性物質
https://ameblo.jp/yoyamono/entry-12000478595.html
これに関連して、以下のような記事を掲載してきました。
脂質の摂り方が「片頭痛根治の鍵」になります
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-12293077912.html
「酸化ストレス・炎症体質」と生理活性物質(エイコサノイド)の働き
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-12289765984.html
脂質の役割
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-12285407939.html
食事の摂り方と健康 その5 「脂質」
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-12282762137.html
その5 脂質の役割
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-12258409353.html
生理活性物質 ダウンロード版です
http://taku1902.jp/sub453.pdf