トリプタン製剤が出る前、頭痛で医者に来る患者さんに対しては、鎮痛剤か、片頭痛の治療薬としてただ一つだけあったエルゴタミン製剤という薬を処方するのがせいぜいで、あまりひどい場合は痛み止めの点滴をしたりしましたが、これといって効果的な治療法はありませんでした。
エルゴタミン製剤という片頭痛薬は、使い方がとても難しい薬です。
痛くなってから飲んだのでは効かないので、痛くなる前に飲まなければなりません。患者さんは痛くなると大変だからと、頻繁に飲むようになります。すると薬物乱用頭痛を起こしてしまいます。
また、ある程度痛くなってから飲むと、頭痛が治まらないばかりか悪心嘔吐を起こします。エルゴタミン製剤を使っていた片頭痛の患者さんたちの悪心嘔吐は、そのかなりが薬のせいだったと言われているほどです。
また医療機関が処方する鎮痛薬は、市販のものよりは多少強いのですが、片頭痛には効かない場合も多く、忙しい中わざわざ医者に行っても、たいして効かない鎮痛剤をくれるだけなら市販の薬でも同じ、医者に行っても無駄だと、頭痛持ちの患者さんたちを医者から遠ざける原因にもなっていたように思います。
ところがトリプタン製剤は、片頭痛を持つ”多くの”(すべてではありません)患者さんに対して、非常に効果があります。エルゴタミン製剤のように悪心嘔吐を起こしたり、飲むタイミングがとても難しいということもありません。
このように、トリプタン製剤は、従来のエルゴタミン製剤に比べ格段に有効であったことから、片頭痛の特効薬とまで表現されることに至ったわけでした。
こうしたことから、トリプタン製剤が片頭痛に効果があるのは、頭痛が起きる仕組みの根幹部分に作用しているためです。片頭痛にはセロトニンという物質が大きくかかわっています。セロトニンは神経伝達物質のひとつで、感情のバランスを安定させる役割を持ち、血管を収縮させます。ストレスなど何らかの理由でセロトニンが分泌され、収縮した血管は、役割を果たして減少するにつれて今度は拡張します。
血管が拡張することによって血管に絡みついた三叉神経が刺激され、頭痛が起きる、というのが一つ。
さらに、三叉神経が刺激されると、サブスタンスPやCGRPなど炎症を起こす物質が分泌され、血管を刺激して痛みが出てくる、というのが一つ。
この二つが片頭痛が起きるメカニズムです。
このように血管の収縮と拡張に大きく影響しているセロトニンですが、トリプタンという薬は、セロトニンと同じような作用を持っています。そのためセロトニンの代わりに血管を収縮させ、拡張によって三叉神経が刺激されるのを防ぎます。
さらにセロトニンは三叉神経に取りついて、痛み物質のサブスタンスPなどが分泌されるのを抑制する役割がありますが、ここでもセロトニンの代わりにトリプタンが三叉神経に取りつき、サブスタンスPなどの分泌を抑制して痛みが出るのを防ぎます。
このようにトリプタンは脳の中でセロトニンとして働き、血管を収縮させ、サブスタンスPなどの分泌を抑制する、という2つの役割を果たすことにより、片頭痛の起きる原因そのものを排除します。つまりトリプタンは、片頭痛という病気のより本質に近いところに作用して痛みを取るため、効果が高いというわけです。
このように血管の収縮と拡張に大きく影響しているセロトニンですが、最初の引き金となる「セロトニン」は”生理活性物質”としての作用です。片頭痛発作時には、「脳内セロトニン」が不足した状態にあります。トリプタンという薬は、脳内セロトニンと同じよりに、血管には1Bという鍵穴があり、トリプタンはこの鍵穴に作用して、血管を収縮させ、拡張によって三叉神経が刺激されるのを防ぎます。
さらに血管の周囲から「痛み物質」が、シャワーのように血管に降り注いで、血管の拡張と炎症が起こっており、シャワーには1Dという鍵穴があって、トリプタンはこの鍵穴に作用して、「痛み物質」の放出をとめます。ここでもセロトニンの代わりにトリプタンが三叉神経に取りつき、サブスタンスPなどの分泌を抑制して痛みが出るのを防ぎます。
トリプタン製剤が出る前に使用されていた鎮痛剤や市販の鎮痛薬は、本質的な痛みの部分に作用しているのではなく、痛みの伝達を途中でブロックして感じなくしているだけです。
そのため、痛みが強いと効果がなかったり、薬を飲んだときには少し良くなっても、しばらくして薬の効果が薄れてくるとまたすぐに痛くなったり(痛みはずっと続いているため)することがあります。
このようにトリプタン製剤の効き方は、片頭痛のメカニズム(発生機序)から説明され現在に至っております。そして、これが片頭痛の病態そのものと考えられてきました。
こうしたことから、片頭痛というこれまで辛い頭痛を緩和させる唯一の薬剤として、救世主のようにもてはやされることになり、いつの間にか、痛みさえ取れれば一件落着といった安易な考え方が専門家でもされるようになっています。
すなわち、頭痛があれば、まず市販の鎮痛薬を、これでダメなら病院での鎮痛薬NSAIDs、これで効かなければエルゴタミン製剤を、これでもかなければトリプタン製剤が勧められてきました。このように段階的に、”鎮痛薬”の服用が推奨されてきました。
そして、最後の”砦”とされるトリプタン製剤は片頭痛の”特効薬”とされてきました。
このように段階的に、鎮痛薬の服用が提唱されてきました。
しかし、最近では、市販の頭痛薬や痛み止めの大部分は”みかけの痛み”のみを取り払い、水面下で起こっている脳の神経細胞の興奮症状を置き去りにしています。
当然、毎回の片頭痛発作のたびに起きている脳の血管周囲の炎症に関しても放置されたままになっています。
この興奮状態の放置により、片頭痛の回数や程度がだんだんとひどくなってきて、市販の頭痛薬の用法や用量の規定範囲を超えるようになってきたり、飲む回数が増えてきたりします。
このため、片頭痛と診断された場合は、このような段階的に鎮痛薬を服用するのではなく、最初からトリプタン製剤を服用すべきとされています。
そうしていなければ、”興奮状態の放置”により将来、脳過敏症候群や脳梗塞を引き起こしてくると忠告され、こうしたことから片頭痛発作時にトリプタン製剤を服用しておれば、脳過敏症候群や脳梗塞を引き起こすこともなく、片頭痛は治るとされてきました。
これがトリプタン御用学者の見解です。
最近では、「頭痛改革宣言」と銘打って、「頭痛の悩み。つらい頭痛とずっと戦ってきました」「〇〇〇〇〇®Sシリーズ史上、最もプレミアムな処方を実現」と語りかけ、痛みに悩む多くの方々のQOL(生活の質)向上に貢献してゆくブランドメッセージを伝えるといったコマーシャルが、毎日放映されています。
このように、頭痛という痛みさえ、〇〇〇〇〇®Sシリーズ史上、最もプレミアムな処方で治せば、万事が解決するかのごとく、私達は教え込まれています。
そして、学会の偉い先生方は、生まれて初めて経験する極く軽い頭痛から緊張型頭痛まで、これらはまさに取るに足らない頭痛として完全に無視され、さらに、慢性頭痛では、片頭痛だけが最も大切なものであり、これにはトリプタン製剤という特効薬があることから、このような頭痛に対する「市販の鎮痛薬」の服用を野放しにされます。
これまでも申し上げておりますように、〇〇〇〇〇®Sシリーズ史上、最もプレミアムな処方であるにしてもこのような「市販の鎮痛薬」を連用していますと、いずれ、ミトコンドリアの働きを悪くさせ、さらに「脳内セロトニン」の低下を引き起こさせる結果となり、これに様々な生活習慣の問題が加わることによって、緊張型頭痛から片頭痛へと移行させることになります。このようにして、片頭痛を熟成させることに至ってきます。
このように頭痛という痛みを、〇〇〇〇〇®Sシリーズ史上、最もプレミアムな処方であるにしてもこのような「市販の鎮痛薬」やトリプタン製剤で治せばそれですべて万事が解決することになるのかをもう一度確認しておくことが必要になります。
「慢性頭痛を理解する」
http://taku1902.jp/sub396.pdf
このように慢性頭痛そのものに対する意識・認識の改革が今こそ必要とされます。
そうでもされないことには、従来のような悲劇がいつまでも繰り返されることになります。
このように、慢性頭痛がどのようにして起きるのかを理解し、このなかで片頭痛がどのような位置にあるのかを知っておくことが極めて重要になります。
こうしたことから、〇〇〇〇〇®Sシリーズ史上、最もプレミアムな処方やトリプタン製剤をいくら服用しようとも根本的な解決になっていないことを知っておく必要があります。
これで、「頭痛改革宣言」のシリーズを終了致します。