慢性頭痛の周辺 その1 後頭神経痛 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 三叉神経や後頭神経に現れる神経痛があり、それらをまとめて”頭部神経痛”と呼びます。今回は、このなかの後頭神経に現れる神経痛の「後頭神経痛」です。
 後頭部の皮膚には、皮膚の知覚をつかさどる末梢神経が分布しています。
 1つは耳のうしろの付近の皮膚に分布する大耳介神経、2つめは側頭部に分布する小後頭神経、3つめが後頭部から頭頂部に分布する大後頭神経の3本です。大耳介神経、小頭部神経、大後頭部神経の3つを総称して後頭部神経とよぶこともあります。
 後頭神経痛は、大後頭神経及び小後頭神経の支配領域に一致した発作性の突くような痛みです。
 後頭神経痛は頭部に分布しているところから一瞬ピリッツとした痛みが出た瞬間に多くの患者さんは、「頭の血管が切れた!」と思いがちです。


 最初に患者さんをご紹介します。Tさん36 歳の男性


 3日まえ、1日中細かい仕事をしてずっと前かがみになっていました。夕方になって頭を上げたところ、右後頭部にズキッツとする痛みが走りましたので、しばらく頚を動かさないようにしていました。それから2時間ほどはなんともありませんでしたが、頚を回したときにまた同様の痛みが走り、そのうち、特に頚を動かさないときにも同様の痛みが現れるようになり、疲れだと思って早めに寝ました。
 翌日、眼を醒まして体を起こしたとき、また右後頭部にズキッツと痛みが走り、それ以後も何度となく現れ、多いときにはズキッツ、ズキッツと激しく反復性に繰り返しました。強い頭のてっぺんまで響くのです。後頭部の髪の毛に軽く触れるとピリピリします。そのためにずっと横になっていましたが、寝ていてもときどき同様の痛みが現れました。
 今日になって、回数はだいぶ減ってきましたが、まだときどき痛みが出るので心配になり受診することになりました。


 神経痛とは、末梢神経のなかで起きる「放電」現象なのです。従って痛みのパターンとしてはピリッツとする電撃的な痛みを示すのです。そんな痛みですから、だらだらと持続的に痛みが続くわけではなく、ビリッとした次の瞬間には痛みが止まります。この止まっているあいだのことを間欠期と呼びます。一定の時間間欠期が続いたあと、再び痛みが現れます。したがって、ピリッツ、ピリッツとした反復性の痛みを示します。間欠期の時間が短ければ、ピリッツ、ピリツ、ピリツと電気でしびれたように一見持続性の痛みに感じられることもあります。
 後頭神経痛では、大後頭部神経痛が最も多く、小後頭部神経痛、第耳介神経痛は比較的少ないのです。三叉神経痛と後頭神経痛の患者さんの数を比較すると、後頭神経痛のほうが4~5倍くらい多く存在します。


1)一瞬走る「電気」


 神経痛の痛みは、すでに述べたように、電撃的な一瞬の痛みを起こします。長く続いたとしてもせいぜい数秒にすぎません。このような痛みが1回だけ単独に現れ、以後全く出現しないような場合もありますが、ふつうはこの痛みを反復します。反復の頻度が低い場合には、数秒ないし数時間後に再来することもありますし、頻度が高い場合には、チクンチクンチクンと束ねた針で繰り返しつつかれるようにほとんど間欠期がないまま持続性に感じる場合もあります。痛みの程度は様々で、強い場合には、「一瞬焼け火箸を突き刺したよう」と表現する患者さんもいます。一方、軽い場合には痛みというほどではなく、単なるピリピリした違和感だけということもあります。


2)皮膚の病気と錯覚しやすい


 片頭痛や緊張型頭痛では、「頭の芯」が痛いように感じられることが少なくありませんが、三叉神経痛でも後頭神経痛でも、痛みは皮膚の表面に近い部分に存在するように患者さんは感じます。このように表在性の痛みであることも神経痛の特徴の1つです。特に三叉神経痛では、皮膚の表面だけの痛みのように感じられることがあり、皮膚の異常と思って皮膚科を受診する患者さんも少なくありません。
 しかし陳旧例、すなわち何年も神経痛が続いたり繰り返したりしている患者さんでは、深在性の痛みに変化していく場合もあります。


3)神経の枝の走っている所だけで起きる痛み


神経痛は、異常の起こす神経の枝が分布している領域のなかでしか痛みを現すことはありません。たとえば、右の大後頭神経痛の場合には、左の大後頭神経が分布している左後頭部には決して痛みは出ません。


4)触覚や痛覚の障害で出ることがある


 神経痛を起こした末梢神経が分布している皮膚の領域では、知覚障害が存在することがあります。知覚障害とは末梢神経の異常のために感覚が正常に脳へ伝達されないために起きる現象です。知覚障害にはいろいろなタイプがありますが、神経痛のときにしばしばみられる異常知覚といって、痛いわけでなくても何かジンジンとしているような感じが感じられることがあります。しばらく正座していて足がしびれたとき、ジンジンしているあの感覚と同じです。
 またこのような異常知覚に比較すると少ないのですが、知覚鈍麻といって神経支配領域内の感覚が鈍くなる場合もあります。皮膚を針などで軽くつついても、針による痛みが弱く感じられることがあります。
 さて、以上のような、異常知覚や知覚鈍麻とは別に、神経の分布領域内の皮膚に触れると、ビリビリッツとした神経痛が誘発されることがあります。これを引き金、すなわち誘発点と呼びます。誘発点は必ずしもその神経の支配領域全体ではありません。 直径2センチメートルくらいの範囲であったり、もっと狭いある1点だけであったりすることもあります。もちろん神経支配領域全体に広がっていることもあります。
 この誘発点は、三叉神経痛、後頭神経痛のすべての患者さんに存在するわけではありません。どちらかといえば、三叉神経痛でかつ比較的病歴が短い患者さんに比較的多く存在する傾向があります。


5)診断に必要な圧痛点


 解剖学的にみると、各後頭神経は、上部脊髄(頚随)の数カ所から分岐し、合流したり分かれたりして、最終的には、大耳介神経、小後頭神経、大後頭神経となり後頭部へ分布しています。三叉神経、後頭神経のいずれもが、深い所から、皮膚の直下へ現れる部分が存在します。もし神経痛があるときには、その皮膚直下へ現れる部分の皮膚を指で強く押さえると、非常に強い痛みを感じます。この痛みを発する部分のことを圧痛点とよんでおり、われわれにとっては診断のうえで重要な所見です。


 以上、大後頭神経痛の特徴は以下のようにまとめられます。


1.大後頭神経の支配領域に一致した痛みです。
2.ビリッとする電撃痛です。
3.持続時間は、一瞬のことが多く、長くても数秒です。
4.痛みのない間欠期が存在します。間欠期にしびれ感・違和感などが残ることがあります。
5.多くの場合、圧痛点が存在します。
6.頚や肩のこりを伴うことが多い。


 帯状疱疹ウイルスによる頭痛:頭痛の性状は、大後頭神経痛とよく似ています。この疾患は、大後頭神経領域に痛みが出現し、数日後にその支配領域に発赤・疱疹が出現します。 三叉神経領域に出現する帯状疱疹ウイルスによる顔面痛は、発赤・疱疹が見えやすいので診断は容易ですが、後頭神経領域のものは、頭髪に隠れ、見落とすことがあります。


神経痛の原因は?


 大まかに分けて神経痛は、特発性神経痛と症候性神経痛の2つがあります。
 症候性神経痛の代表的なものに座骨神経痛があります。一般に特発性神経痛は、今までに述べたように電撃的、間欠的な痛みを呈するのに対し、症候性神経痛では必ずしもそうではなくジクジク痛むことがあります。座骨神経痛は、椎間板ヘルニアなどにより神経が圧迫されるという原因がわかっていますので「症候性」神経痛とよばれるのですが、それに対して、「特発性」とは原因がわかっていないことに対して用いられる用語です。後頭神経痛については、症候性神経痛ではないかとの説のほうが有力です。脊髄から枝分かれして脊椎(頚椎)のあいだを通り抜ける部分(椎間孔)で圧迫されるとの説もありますし、また後頚部の筋肉によって圧迫されるのではないかとの説もあります。しかし後頭神経痛の患者さんのほとんどが典型的な反復性の痛みを示しますので、本当に圧迫性の神経痛であるのかどうか疑問に思えてきます。それらの細かな点については今後の医学研究が必要でしょう。
 さて、神経が圧迫されるにせよ、されないにせよ、どうして痛みが出るかについてまだ確実なことはわかっていないのです。可能性としては2つの考えがあります。
 1つは、末梢神経のなかでの「放電」現象です。これは末梢神経はいわば神経伝達の電線の束のようなものですから、一部の「電線」どうしが「漏電」をして痛みを現すのではないかとの考えです。
 もう1つの説は、それらの末梢神経の根本の細胞、後頭神経では頚髄にある神経細胞などが「異常興奮」をするからではないかとの考えです。
 誰でも、肘の神経が通っている部分を机などで強く打つと、手先に向かってビーンとした痛みが走った経験があるでしょう。このような事実から考えると前者の末梢神経内での「漏電」が原因ではないかと考えたくなるのですが・・・。


筋肉による圧迫?


 大後頭神経痛、小後頭神経痛、大耳介神経痛の原因として、後頸部の筋肉の〈こり〉が関係することがあります。
 後頭部には後頸部の筋肉が付着していますが、これら3本(左右で計6本)の神経は後頭骨(頭蓋骨のいちばん後ろになっている部分)に沿って走っていますから、筋肉の付着部を貫いて通っているのです。
 したがって、首の筋肉がこったときには、それらの筋肉によって圧迫され神経痛を発することがあります。首がこったときに急に首をまわすと、シカツと痛みが走ることがありますが、そのためなのです。ですから、緊張型頭痛が強い場合には、頭部神経痛も同時に引き起こされることがあります。しかし、この説はまだ推定の段階で、はっきりと医学的に調査されているわけではありませんが、頸椎X線検査ではストレートネックがほとんどの方々に認められます。


骨による圧迫?


 大後頭神経、小後頭神経、大耳介神経は脊髄から枝分かれし、首の骨(頸椎)の間にある穴(椎間孔)を通ってでてきますが、その椎間孔(周囲は骨)が老化現象などをおこして狭くなり、そのために神経が圧迫されるという説があります。
 この考え方は、頭部神経痛の原因説のなかでは、昔はもっとも有力な説でした。しかし、実際に首のレントゲン写真を撮ってみますと、それらの穴が小さくなっている患者さんは10 % あるかないかなのです。
 しかし、症候性神経痛の場合もあり、首のレントゲン写真は必須の検査となります。


保温によって改善する


 原因については、以上のようにまだまだはっきりしていない点が多いのですが、治療の方法はたくさんありますので、安心して下さい。
 神経痛の痛みは、シカツとする痛みですので、だれでもはじめて経験したときはびっくりします。誰もがたいてい、「ついに頭の中の血管が切れた!」と感じます。しかしこんなときには、落ち着いて、もう一度痛みの様子を観察してください。そして、神経痛なのかどうかを確認するために、前述の圧痛点を押してみてください。2つの神経に同時に神経痛がでることもありますから、必ずしも圧痛点は1つだけとは限りません。
 それから、暖かい濡れタオルなどで、圧痛点を中心として痛みのひびく部分全体をそっと温めるとよいでしょう。熱すぎるとかえって刺激になるのでよくありません。 温めることによって末梢神経に対する血流がよくなり、9割以上の人で痛みが減ります。痛みの度合いがへることもありますし、反復する回数がへることもあります。 完全に止まってしまう場合もけっして少なくないのです。
 氷で冷やしたり、冷湿布をはったりしてはいけません。逆に血管を収縮させ、神経に対する血流をへらしますので、かえって悪くしてしまいます。


医師がおこなう治療


 昔から、神経痛に対する治療は様々な方法がありました。もっとも野蛮ともいえる治療法は、神経の切除です。これは、神経を切ってしまえば神経痛はおきないという考えによるものです。しかし神経を切ると痛みもなくなる反面、三叉神経ならば顔面の、後頭神経ならば頭部の皮膚の知覚がわからなくなってしまいます。もちろん最近ではこんな方法を用いることはありません。


ビタミンB12 の効果


 神経痛の痛みがでている最中の患者さんに対して、ビタミンB12を静脈注射しますと、過半数の患者さんでは、5 ~ 10 分後には痛みが消えてしまうか、かなり軽くなります。どうしてよくなるかはわかっていませんが、戦後まもない頃より知られた事実です。最近では活性型ビタミンB12が市販されていますので、昔のものより効果の立ち上がりがよいようです。
 点滴にいれてゆっくり注射するとあまり効きません。一発で注射すると非常によく効くことが多いのです。いったん効果がでると、それをきっかけにして痛みがでなくなってしまう場合もありますし、1日ぐらいで効果が切れる場合もあります。もし痛みが再来したら、また静脈注射すればよいのです。
 この方法は、薬の安全性がとくに優れていること、老人や妊婦にも用いることができる方法であること、技術的にどの科の医師でもおこなえるところから、もっとも推奨される治療法です。
 この方法の注意点としては、日本で発売されているビタミンB12の注射剤のなかで、筋肉注射だけにしか適応を認められていない薬剤を静脈注射で使用しないことです。ショック死の可能性があるからです。筋肉注射だけでもかなりの効果はありますが、静脈注射に比較すると効果の立ち上がりは少し遅いようです。
 同じビタミンB12の経口剤でも効果はみられます。しかし経口剤では激しい痛みをすぐに抑える作用は弱いのです。注射でいったん痛みを抑えたあとに経口剤の服用をしばらくつづけると、痛みが再来することなく、消えていくことが多いのです。


神経ブロック


 痛みをおこしている神経に麻酔作用のある薬を直接注射して、痛みを止めることを神経ブロックといいます。麻酔科では、神経の奥深く注射することもありますが、内科医、外科医、平均的な脳外科医は、もっと末梢部で注射をおこないます。圧痛点の場所にプロカインという麻酔薬を注射するのです。このプロカインは、虫歯の治療などで歯茎に注射する〈しびれ薬〉と同じものです。
 虫歯の治療をしたことのある人ならすぐわかるでしょうが、しばらくの間は付近の皮膚に触っても感覚がなくなっているでしょう。神経痛の治療の時でも同じです。しばらくはその神経が分布している領域の皮膚の知覚もなくなります。
 薬の効果としては1~2時間ぐらいで切れてしまうのですが、それによって神経痛がすぐに再来することはまれなのです。このブロックによる効果は、ビタミンB12や抗てんかん剤よりも確実性の高い治療法です。
 しかし、あまり何回もやりすぎると、注射の針によってたびたび神経が傷つけられるわけですから、神経の中で癒着が起きてしまい、持続性の痛みが定着してしまうこともあります。ですから、他に効果が得られなかった場合に、必要最小限におこなうべき治療法と言えます。
 また非常にまれなこととはいえ、プロカインによるショック死があります。はじめてこの薬を使うときには事前にテスト液を注射することもありますが、ショックをおこす人はテスト液ですら死亡することがあるのが実情で、まだ医学的に正しい事前チェックができない側面もあるのです。


このように、大後頭神経痛は、ストレートネックと関連して、緊張型頭痛に伴いやすく、日常茶飯事にみられる”神経痛”ですので、取り上げてみました。