慢性頭痛の周辺 その2 三叉神経痛 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 今回は、前回に引き続き”頭部神経痛”のなかの三叉神経痛です。
 三叉神経痛は、現行の「国際頭痛分類第3版 β版」では、一次性頭痛、二次性頭痛に加え、「第三の項目:有痛性脳神経ニューロパチーおよび他の顔面痛」に組み込まれています。


 ここで取り上げる理由は、三叉神経痛が片頭痛とよく間違われることがあるためです。 これをきちんと区別して理解することが大切であると思うからです。
 前回も”神経痛”の特徴について述べましたが、もう一度、繰り返します。


ビリビリツと鋭い痛みがくりかえす頭痛


特徴


 ●顔面や後頭部でビリツとする一瞬の痛みをくりかえす
 ●皮膚や髪に触れると、ピリピリした痛みが誘発される
 ●概して表在性の痛みである
 ●原因となる神経が分布している領域内に痛みがある
 ●その神経の根元を押さえると強く痛む


どんな症状があらわれるのでしょうか


一瞬の電撃的な痛みがでることも


 世の中には〈神経痛〉という言葉が氾濫しています。医院の待合室などで、患者さんの会話を聞いていますと、「腰に神経痛がでた」とか「肩の神経痛がなおらない」とか話し合っている姿をよくみかけます。
 しかし、一般に用いられている〈神経痛〉と、私たち医師が解釈している神経痛とは、すこし違います。一般の人たちが言っている〈神経痛〉とは、関節痛であり、筋肉痛であり、骨痛であり、私たちのいう神経痛を総合した言葉なのです。
 関節痛は関節を強く曲げたり伸ばしたりすると痛みが強まります。筋肉痛は筋肉をつまんでみると痛みが強まったり、もみほぐすと痛みが軽くなったりします。それらと同様に神経痛にも特徴があります。
 神経痛とは、末梢神経(脳や脊髄から枝分かれしている神経)のうち、知覚を伝える神経の中で起きる痛みです。末梢神経は、電線に例えることができるでしょう。電気を伝えるのと同じように、電気的エネルギーとして命令を伝えるのです。
 電線で漏電がおきると、ビリビリビリツと放電します。神経痛もそれとよく似ています。痛みは、ピリツピリピリツと細かく反復するのです。また電気が走ったように、一瞬ビリツとすることもあります。
 神経痛をおこした患者さんの、痛みの表現の具体例を拾ってみますと、細かく反復する痛みでは、「チキチクチクツと痛い」「束ねた針で繰り返しつつかれたよう」などと言います。また、一瞬の痛みで出る場合には、「シカッとする」「蜂にさされたと思った」「焼け火箸を突き刺されたよう」「感電したかと思った」などといった表現をします。


反復する痛みと間歇期


 チクチクチクツと痛みがつづく場合にせよ、一瞬の痛みが走る場合にせよ、神経痛の痛みが1日中、ずっとつづくことはありません。つづいてもせいぜい十数秒ぐらいなのです。
 そしていったん止まります。止まっている間は痛くありません。このとまっているときのことを〈間欠期〉と呼びます。チクチクチクツとした痛みの場合には、いかにもつづいているように感じますが、じつは一瞬の痛みと一瞬の間欠期を繰り返しているのです。
 この繰り返しは、1日1~2回だけのこともあれば、限りなく多いこともあります。
 そして、1日だけで終わることもあれば、1~2カ月ぐらいつづく場合もあります。
 三叉神経痛は平均して約2週間、いったん消失していくことを確認されています。


髪の毛に触れるとピリピリ


 顔面や頭部に分布する神経は、顔面には三叉神経という神経が分布しています。三叉神経は3本に分岐し、上から順に、第Ⅰ枝、第Ⅱ枝、第Ⅲ枝と命名されています。
 頭痛の範疇にはいる神経痛は、だいたいこれらの神経によって引き起こされます。
 そして痛みの範囲は、その神経の分布している範囲のなかで起きます。本当の神経痛とは、〈犯人〉になっている神経の分布領域の中だけにしか症状は出ないのです。
 神経痛に気づくときは、自発痛(なにもしないのに自然に痛いこと)があるからなのですが、ときには痛みが誘発(誘発痛)されることがあります。髪の毛に手をやったらピリピリしたとか、冷たい風をあびたらビリビリツとしたりすることがあるのです。なかには、これらの誘発痛で気づく人もあります。
 私たちは、軽く触れたりして誘発痛をおこさせる場所のことをトリガー・ゾーン と呼んでいます。トリガーを日本語に訳すと〈引き金〉のことです。もちろん、このトリガー・ゾーンも神経痛をおこした神経の領域内に存在しているのです。


自分で診断できる圧痛点


 自発痛や誘発痛とは異なって、指などで押さえたときに痛みを発する圧痛点があるのも、これらの神経痛の特徴です。三叉神経痛は、深いところから出てきて皮膚の下に神経が現れる場所を押さえると、強い痛みを発します。
 私たちも患者さんを診断するときには、重要な所見として必ずこれらの部位を押さえてみますが、ほとんどの患者さんが「アイイタタタ」といいますので、わりあい簡単に診断できます。筋肉性の痛みは、押さえると痛いながらも何かすっとするような感じであるのに対して、神経痛の圧痛点は、ただ痛いだけですので、感じがまったく違うのです。


秋風の吹く頃に出現?


 三叉神経痛は、約半数弱の人は、割合によく似た季節に痛みが出る傾向があります。季節の変わり目、梅雨期、冬などさまざまですが、秋風がふき始める頃に痛みが出る場合がやや多いようです。これは、冷たい風の刺激によって、誘発痛がでやすいからではないかと思います。


 50 歳以降の女性に多く、顔面の下半分にかけて痛みが起こる


 三叉神経痛の症状は、おかされた神経の支配領域に発作性、電撃性の鋭い痛みが起こり、数秒から1~2分の短い時間つづき、間隔をおいて繰り返し襲ってきます。突き刺されるような痛みとか、鋭い刃物で切り裂かれるような痛みなどで、すさまじい痛みであることがふつうです。
 50 歳以降のとくに女性(男女比はほぼ1対2)に起こりやすく、第Ⅱ枝または第Ⅲ枝の部分、つまり耳から顔面の下半分にかけて痛みが起こることが多いのです。発作は顎を動かしたり、食事の時噛んだり、あくびをしたり、歯を磨いたり、顔を洗ったりするときに誘発されます。季節の変わり目、とくに春や秋には発作があらわれやすい傾向もあります。
 余談ですが、俗に顔がゆがんだ状態をさして「顔面神経痛」が起こったなどと表現するのを耳にしますが、そのようなまぶたを閉じれなくなったり、口を大きく開けると一方にひきつれるような状態は、正しくは顔面神経麻痺と呼びます。この顔面神経麻痺のときには、単に顔の筋肉が麻痺して動きが悪くなった状態であり、痛くもかゆくもないのです。


さまざまな原因


 これらの神経痛の原因は、医学的にはまだ厳密な意味では分かっていません。
 原因のわからないことを、私たちの用語では〈特発性〉というのですが、三叉神経痛は特発性神経痛とされています。頭部神経痛は、特発性だとする説と続発性(なにか他の原因があって、その結果としておきること)とする説があります。要するに、まだはっきりしていないのです。


血管による圧迫?!


 三叉神経は、脳から枝分かれした直後のところで、血管と交叉する部分があります。この血管が動脈硬化などで硬くなっていたり、もともと交叉のしかたが強かったりすると、その圧迫によって三叉神経痛がおきるという考え方があります。
 これは、脳外科の手術で血管と神経を離してやると神経痛が止まることから、この説がでてきたのです。頭部神経痛でも、神経の分岐部(後頭神経の各神経は脊髄から枝分かれする)で同じような手術をしたらよくなったという外国の医学報告もあります。
 手術によってよくなったところから、一時はこれらの血管による圧迫説が重視されましたが、手術をしてもよくならない患者さんがいるところから、原因とまでいいきることができるのか、たんなる1つの誘因にすぎないのかは、まだわかっていません。


 三叉神経痛の約10%が脳腫瘍によるものと考えられています。


そのために、三叉神経痛の場合には、脳MRIで、脳及び三叉神経の詳しい検査を行うのが原則です。特に三叉神経に焦点をあてた脳MRIを撮影しなくてはなりません。
脳腫瘍が三叉神経痛を引き起こすには、大きくわけて次の三つが考えられています。


1.脳腫瘍が動脈を圧迫して、その動脈が三叉神経を圧迫するタイプ
2.脳腫瘍そのものが、三叉神経を圧迫するタイプ
3.三叉神経から腫瘍が発生し三叉神経痛を引き起こすタイプ


1のタイプが最も多く、腫瘍の種類は真珠腫ともよばれる類上皮腫が最も多く、聴神経腫瘍、髄膜腫なども原因となります。
多くの場合では、腫瘍を摘出します。小さな腫瘍の場合、ガンマナイフという放射線治療を行うこともあります。


抗てんかん剤の効果


 昔から、抗てんかん剤の一種であるカルバマゼピン(商品名テグレトール)は、神経痛の治療薬として有名で、よく使われます。
 てんかんは脳の異常興奮によっておきる病気であるのに対して、神経痛は末梢神経の異常興奮によっておきる病気です。神経系にたいする抑制作用という点では共通であるという考えから、治療薬として応用されてきたのです。この薬もたいへんよく効きます。
 しかし一方では、副作用も多いというところが使いづらい点でもあります。
 急性の副作用としては、ねむけ、足元のふらつきなどがありますし、慢性の副作用としては、肝障害があげられます。とくに60 歳以上では、肝障害がでやすくなるといわれていますので、その点での注意が必要です。
 他の種類の抗てんかん剤でもだいたい同様の効果が得られます。クロナゼパムという薬剤をよく使われますが、主作用ではカルバマゼピンに比べやや劣る印象がありますが、副作用はかなり少ないといった特徴がみられます。


三叉神経痛に対しては、他に、手術治療、放射線治療などがあります。


薬剤治療の効果がない場合、薬剤に対してアレルギー反応などの副作用が強い場合、患者さんが手術を希望される場合には、手術治療を行います。


脳外科医による神経・血管の剥離手術


 三叉神経痛の原因のところですこし触れましたが、三叉神経は、脳から神経が枝分かれした直後のところで血管と交叉している部分があります。この部分で神経と血管を剥離して、血管からの圧迫をとる方法があります。
 三叉神経痛の患者さんのうち80 ~ 90 % が、この方法で完全かつ永久的に治ってしまいます。この手術法をあみだした医学者の名前をとって、ジャネッタの手術と呼ばれていますが、これと類似の方法が、最近、外国では頭部神経痛にも応用され、よい成績が得られたとの報告もあります。
 この手術は、うまくいった患者さんからみれば、痛みが将来的にまったく止まってしまうわけですからよい方法なのですが、まだ完全というわけではありません。
 その理由としては、手術をしても改善されない場合が10 % ぐらいあること、さらには、まれながら後遺症として顔面神経麻痺をおこしてしまうことがあること、などの点があげられています。
 薬物治療だけではなかなかよくならない三叉神経痛の患者さんには、この方法が有効であるからと説明して、脳外科へ紹介するのですが、患者さんのほうには脳手術に対する抵抗感もあり、なかなか理解して貰うことができません。どうしても内科的治療でやってほしいとの返答が圧倒的に多いようです。
 しかし最近では、成績が向上しており、多くの脳外科医が手がけるようになってきました。比較的軽い症状の人まで全部手術すると言ったことまではお勧めできません。 なんといっても、脳付近を扱う手術ですので、プロカインの場合よりもアクシデントのおきる可能性は高いと考えざるを得ません。
 脳外科医もそのように考えているからでしょうが、現実には、この手術はかなり頑固な症状を呈する患者さんを中心に行われています。


 しかし、御高齢の方や、全身麻酔を受けることが出来ない場合など、患者様の希望や状態によって放射線治療をおすすめする場合があります。
三叉神経痛の放射線治療は、ガンマナイフ治療が行われます。


帯状疱疹(ヘルペスいわゆる胴巻き)後遺症の神経痛は長引く


 とくに三叉神経痛の場合は、はじめの頃は反復性の痛みが一定期間続いては消えるという症状なのですが、長年の経過を経ると、だんだんジワーッツとした、反復性を示さない持続性の痛みにかわっていってしまう人もあります。すべての人がそうなるわけではなく、過半数の患者さんでは、数年くりかえして、そのうち消えていってしまうことが多いのですが、なかなか長引くとそのようになってしまうことがあるのです。
 これと同じような持続性の神経痛が、帯状疱疹というウイルスによって起きることがあります。このウイルスは、はじめて感染したときには皮膚に水疱を形成します。 そして水疱が消失しても、そのウイルスは脊髄などの中に住みついてしまいます。 そして体調不良とか、免疫の働きが悪いとか、そのウイルスが活動できる機会があると、また〈わるさ〉をはじめるのです。
 ところが、そのときには水ぼうそうの症状を起こさないのです。神経の枝にはいりこんでその神経を侵し、その末端の皮膚で多くの水疱をつくるのです。
それが帯状疱疹です。三叉神経、大後頭神経、小後頭神経、大耳介神経のいずれにも出現する可能性があります。これが治った後、その神経の支配領域に神経痛を後遺症として残してしまうことが多いのです。末梢神経の中の癒着などがその原因ではないかと考えられています。
 この神経痛はなかなか治りません。手術も効きません。対策としては、長期的に経口薬を飲み続けて、症状をある程度抑えていくしかありません。


最後に


 反復する痛みは、片頭痛としばしば間違えやすいのですが、片頭痛では必ず脈拍に合致して反復するのに対して、神経痛は決して脈とは合致しませんので、手首の脈を反対の手で数えて、頭痛と比較すれば容易に両者の区別ができます。
 このような神経痛が、顔面の三叉神経や、頭部の後頭神経で起きるのが頭部神経痛です。三叉神経は、眉から前頭部に分布する第1枝(眼神経)、頬からこめかみにかけて分布する第2枝(上顎神経)、顎の部分に分布する第3枝(下顎神経)の3本に分岐しています。3枝すべてに神経痛が出ることは少なく、これらのうち1~2本に出現することがふつうです。外国人では第3枝の神経痛が多いのですが、日本人では第1枝、第2枝、あるいは1、2枝の両者に出現するのが一般的です。
 
 顔面の痛みはしばしば『顔面神経痛』などとよばれることがありますが、これはまったくの間違いです。もし『顔面神経痛』という診断名を下した医師がいたら、その瞬間からその医師を信頼してはいけません。顔面神経という神経もあるのですが、これは筋肉につながる運動神経であり、感覚神経が感知する痛みを伝える神経ではないので、顔面神経による痛みなど出るわけはないからなのです。顔面の部分ででる神経痛は三叉神経なのです。


三叉神経痛の典型的な患者を紹介することに致します。


47 歳の男性


 以前よりときどき左頬からこめかみにかけてピリッツとした痛みが走ることがあったが、あまり気にしないでいた。昨年秋、冷たい風にあたったとき、同じ部分に同様の痛みが現れ、その日は6~7回痛みが繰り返して出現していた。
 先日よりまた同じ痛みが現れ、1日に何回も繰り返し、翌日からはたえず痛みが持続するようになってきた。食物を食べたり、喋ったりして顎を動かすときには一瞬強い痛みが走り、手を顔にふれても痛みが強くなり、顔を洗うことができないことに気ずいた。何もしなくても頬からこめかみにかけてジンジンしているような感じが続いている。


以上、三叉神経痛は片頭痛と間違われることの多い頭痛ですので、間違わないようにして下さい。治療法も考え方もまったく異なります。