二次性頭痛(その他) 19  トリプタン乱用頭痛 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

トリプタン製剤の登場


 トリプタン製剤は片頭痛に非常に効果のある頭痛専用の薬で、日本では 2000年に販売が許可されました。トリプタン製剤の登場によって片頭痛の治療は画期的に進歩しました。
 トリプタン製剤が出る前、頭痛で医者に来る患者さんに対しては、鎮痛剤か、片頭痛の治療薬としてただ一つだけあったエルゴタミン製剤という薬を処方するのがせいぜいで、あまりひどい場合は痛み止めの点滴をしたりしましたが、これといって効果的な治療法はありませんでした。
 エルゴタミン製剤という片頭痛薬は、使い方がとても難しい薬です。痛くなってから飲んだのでは効かないので、痛くなる前に飲まなければなりません。患者さんは痛くなると大変だからと、頻繁に飲むようになります。すると薬物乱用頭痛を起こしてしまいます。また、ある程度痛くなってから飲むと、頭痛が治まらないばかりか悪心嘔吐を起こします。エルゴタミン製剤を使っていた片頭痛の患者さんたちの悪心嘔吐は、そのかなりが薬のせいだったと言われているほどです。
 また医療機関が処方する鎮痛薬は、市販のものよりは多少強いのですが、片頭痛には効かない場合も多く、忙しい中わざわざ医者に行っても、たいして効かない鎮痛剤をくれるだけなら市販の薬でも同じ、医者に行っても無駄だ、と、頭痛持ちの患者さんたちを医者から遠ざける原因にもなっていたように思います。
 ところがトリプタン製剤は、片頭痛を持つ”多くの”(すべてではありません)患者さんに対して、非常に効果があります。エルゴタミン製剤のように悪心嘔吐を起こしたり、飲むタイミングがとても難しいということもありません。午前中を潰して病院に行くだけの価値は絶対にありますので、片頭痛で悩んでおられる方は是非一度は試してみて下さい。
 トリプタン製剤を治療で使う場合、口から飲む経口薬(頓服)、シュッと鼻から吸収する鼻吸入タイプ、皮下注射という3つの方法があります。注射が最も効き目が早く、打って 10 分もすると頭痛が治まってきます。次に早いのが鼻吸入タイプで 15分ほど、頓服の場合は1時間ほどで効き目が現れます。
 注射器タイプのトリプタンをいつも持っていて、痛くなったら自分で注射する患者さんもおられます。
 片頭痛ではほとんどの場合、痛くなったときにすぐに飲むことができるよう、経口タイプの頓服を処方します。激しい頭痛で吐き気があり、口から飲むことが難しい場合などは、鼻吸入タイプのものを使うこともあります。
 頓服は水で飲みますが、水がなくても口にいれると溶けるタイプのものもあります。
 トリプタンという薬は現在、4つの製薬メーカーから5種類発売されており、いずれも「○○ トリプタン」という一般名がつけられています。
 この5種類のトリプタンは、どれも片頭痛に効果がありますが、飲んで素早く効果の出るもの、効きめが長く持続するものなど、それぞれ少しずつ異なります。さまざまなトリプタンがあれば、それだけ各患者さんの痛みの質に合わせて選ぶことができますので、患者さんにとっても非常に便利です。


トリプタン製剤の使い方


 トリプタン製剤は市販薬ではありません。医療機関を受診し、片頭痛という診断をされて初めて、処方される薬です。片頭痛の痛みには非常に効果的ですが、使い方を間違えると治る頭痛も治らず、薬物乱用頭痛になりかねません。
 単に片頭痛だからトリプタン、群発頭痛だからトリプタンというのではなく、専門医に自分の頭痛の様子や頻度などをきちんと話し、頭痛が起きる誘因を排除したり予防薬と併用しながら、正しく使用することが必要です。
 トリプタン製剤は、これは明らかに片頭痛である、という頭痛が起きたときに飲みます。風邪をひいたときの頭痛に飲んでも効果はありません。必ず、片頭痛のときに服用します。
 またトリプタンも有効率 100 %ではありませんので、体調などさまざまな状況によって、効かないときもあります。一度飲んで、2時間経ってもまだ痛みがあるか、ひどくなっている場合には、もう一度飲むことができます。1日に飲んでも良いと言われている個数はトリプタンの種類によって異なり、2つまでのものと4つまでのものがあります。
 市販の鎮痛薬には、かなりの量のカフェインが含まれていて胃を荒らすことがあり、また1日に何度も飲むことはできません。それに比べるとトリプタン製剤は体にとって優しい薬と言えます。
 ただし、頭痛が起きるかもしれない、と思って予防がてら毎日1錠ずつ何日か続けて飲む、というのは避けなければいけません。他の薬と同様、薬物乱用頭痛を起こすことがあります。1カ月に6回以上激しい頭痛が起きてトリプタン製剤を飲むようであれば、主治医と相談して予防薬を飲むべきでしょう。予防薬と併用することで頭痛の頻度が減り、トリプタン製剤の効き目も良くなります。
 またトリプタン製剤にも副作用があります。服用してしばらくすると、胸の辺りが少しキュッと締め付けられるようになることがあります。これはトリプタン製剤の副作用で、患者さんの心電図などをすべて確認しても異常がないことがわかっており、全く安全なので心配ありません。5分か 10 分すると症状は消えます。

 もう一つ注意が必要なのは、トリプタン製剤服用のタイミングです。服用のタイミングを間違えると、本来なら効く頭痛も効かず、長い時間苦しむことになりかねません。
 トリプタン製剤は、明らかに片頭痛だと思われる頭痛が始まったらすぐに服用するのが最も効果的です。日本人の場合、痛みにできるだけ耐えることを美徳とする傾向があり、痛みが始まってもなかなか鎮痛剤を飲まない患者さんも多いのですが、頭痛がひどくなってからでは、さすがのトリプタン製剤も効果が出ない場合があります。
 初めてトリプタン製剤を処方された患者さんで、効かない、と訴える人によく話を聞いてみますと、痛みをさんざん我慢して我慢して、もうダメだ我慢できない、というときになってやっと飲んだ、という場合がほとんどです。トリプタン製剤は痛みを止めるための薬、痛みを我慢しなくても良いための薬なのですから、始まったな、と思ったらすぐに服用して下さい。
 また片頭痛には前兆のある方もいらっしゃいますが、トリプタン製剤は前兆時に服用しても全く効果がありません。また痛みが引く頃になって飲んでも効きません。あくまでも「痛み」が始まったときに服用します。
 トリプタン製剤は、「明らかな片頭痛の痛みが始まったら即座に」という最も効果的な正しい服用のタイミングを理解して戴き、患者さんは、我慢せずに、痛みが始まったらすぐに飲むこと。これが、患者さんの苦しみを減らし、決して安くないトリプタンという薬を有効に活用するためには、大切なことなのです。


トリプタン製剤はなぜ効くのか


 トリプタン製剤が片頭痛に効果があるのは、頭痛が起きる仕組みの根幹部分に作用しているためです。片頭痛にはセロトニンという物質が大きくかかわっています。セロトニンは神経伝達物質のひとつで、感情のバランスを安定させる役割を持ち、血管を収縮させます。ストレスなど何らかの理由でセロトニンが分泌され、収縮した血管は、役割を果たして減少するにつれて今度は拡張します。
血管が拡張することによって血管に絡みついた三叉神経が刺激され、頭痛が起きる、というのが一つ。
 さらに、三叉神経が刺激されると、サブスタンスPやCGRPなど炎症を起こす物質が分泌され、血管を刺激して痛みが出てくる、というのが一つ。
 この二つが片頭痛が起きるメカニズムです。
 このように血管の収縮と拡張に大きく影響しているセロトニンですが、トリプタンという薬は、セロトニンと同じような作用を持っています。そのためセロトニンの代わりに血管を収縮させ、拡張によって三叉神経が刺激されるのを防ぎます。
 さらにセロトニンは三叉神経に取りついて、痛み物質のサブスタンスPなどが分泌されるのを抑制する役割がありますが、ここでもセロトニンの代わりにトリプタンが三叉神経に取りつき、サブスタンスPなどの分泌を抑制して痛みが出るのを防ぎます。
 このようにトリプタンは脳の中でセロトニンとして働き、血管を収縮させ、サブスタンスPなどの分泌を抑制する、という2つの役割を果たすことにより、片頭痛の起きる原因そのものを排除します。つまりトリプタンは、片頭痛という病気のより本質に近いところに作用して痛みを取るため、効果が高いというわけです。
 トリプタン製剤が出る前に使用されていた鎮痛剤や市販の鎮痛薬は、本質的な痛みの部分に作用しているのではなく、痛みの伝達を途中でブロックして感じなくしているだけです。
 そのため、痛みが強いと効果がなかったり、薬を飲んだときには少し良くなっても、しばらくして薬の効果が薄れてくるとまたすぐに痛くなったり(痛みはずっと続いているため)することがあります。


トリプタン製剤も効かない場合


 今まで述べてきたように、片頭痛に非常に効果のあるトリプタンですが、それでも有効率は 100 %ではありません。中には、トリプタンを使っても完全には治りきらなかったり、部分的にしか効かないという場合もあります。
 そのような場合には、患者さんと一緒になって、何とか少しでもよくなるように、あれこれとさまざまな方法を試すようにします。
 トリプタンは5種類あります。すべて少しずつ異なりますから、どれが一番良く効くか順番に飲んでみたり、また予防薬もいろいろな種類を試し、飲み方や飲む量を加減します。
 故人となりましたが、樋口脳神経クリニックの樋口真秀先生の方式は、片頭痛の方にトリプタン製剤を処方する場合、この5種類のトリプタン製剤を2錠ずつ、いっぺんに処方して、患者さん自身に飲み比べてもらうようにされておられました。
 このような方式で行きますと、薬剤の金額だけで相当な金額となり、これに検査費用が加われば、初診時の患者負担は馬鹿になりません。
 この点、処方する側にも遠慮があるのではないでしょうか? しかし、1度処方されたお薬が効かない場合、2度と受診されない方も多いのも事実です。


 以上のように、トリプタン製剤出現後は頭痛専門医の方々は、上記のようにトリプタンの作用を説明し、あたかも”片頭痛の特効薬”であるかのように宣伝され、トリプタン製剤の販売促進に努めてこられました。


片頭痛の発生機序


 「片頭痛体質(酸化ストレス・炎症体質)」を基盤として、ちょっとしたことで(ストレスなど何らかの理由で)「活性酸素」や「遊離脂肪酸」が過剰に発生することによって血小板から血管外へセロトニンが放出され、血管を収縮させます。その後、役割を果たしたセロトニンは減少しやがては枯渇し、今度は逆に血管は拡張します。
 血管が拡張することによって血管に絡みついた三叉神経が刺激され、頭痛が起きます。さらに、三叉神経が刺激されると、サブスタンスPやCGRPなど炎症を起こす物質が放出され、血管を刺激して痛みが出てきます。この二つによって、片頭痛が起きてきます。
 このように血管の収縮と拡張に大きく影響しているセロトニンですが、最初の引き金となる「セロトニン」は”生理活性物質”としての作用です。片頭痛発作時には、「脳内セロトニン」が不足した状態にあります。トリプタンという薬は、脳内セロトニンと同じような作用を持っています(神経伝達物質としての役割です)。そのためセロトニンの代わりに、血管には1Bという鍵穴があり、トリプタンはこの鍵穴に作用して、血管を収縮させ、拡張によって三叉神経が刺激されるのを防ぎます。
 さらに血管の周囲から「痛み物質」が、シャワーのように血管に降り注いで、血管の拡張と炎症が起こっており、シャワーには1Dという鍵穴があって、トリプタンはこの鍵穴に作用して、「痛み物質」の放出をとめます。ここでもセロトニンの代わりにトリプタンが三叉神経に取りつき、サブスタンスPなどの分泌を抑制して痛みが出るのを防ぎます。

 基本的に、片頭痛発作時には、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質が減少あるいは機能が低下しており、片頭痛発作の時に、脳内セロトニン様作用をもつトリプタンを投与することによって、機能低下状態に陥っているセロトニンをバックアップしています。
 そして、片頭痛発症の根幹には「酸化ストレス・炎症体質」というものが存在し、このために、活性酸素や遊離脂肪酸が過剰に産生されやすく、このため血小板凝集が引き起こされ、これが引き金となって血小板から”生理活性物質”であるセロトニンが放出されることによって、片頭痛発作につながっていきます。


 現在では、このように、神経伝達物質である「脳内セロトニン」の低下を補填するためにのみ片頭痛治療の主眼が置かれ、トリプタン製剤が第一選択薬とされています。
 
 本来、片頭痛治療の焦点は、「脳内セロトニン」をいかにして増やすか、さらに、「酸化ストレス・炎症体質」をどのようにして改善させるかに置くべきはずです。


 トリプタン製剤は、あくまでも片頭痛発作時に減少した「脳内セロトニン」を補填しているに過ぎないことを肝に銘ずるべきと考えております。これだけでは、不適切な治療としか言えないはずです。もっとすべきことがあり、これが「生活習慣の改善」です。
 この点は、ここでは述べないことにします。


 要するに、片頭痛発作時に起きている「脳内セロトニンの低下」の程度によっては、これを”所定のトリプタン製剤の服用量”だけでは補填しきれない場面もあります。こうした場合は、”所定のトリプタン製剤の服用量”だけでは、痛みを緩和させることは不可能となることは容易に理解されるはずです。

 また、片頭痛の発症要因は「脳内セロトニンの低下」だけではありません。これまでも述べてきましたように、これ以外にも「ミトコンドリア」「体の歪み(ストレートネック)」が関与している方々もおられます。こうした方々には「トリプタン製剤」といえども効果が発揮されないことも当然あります。トリプタン・ノンレスポンダーの方々です。

 現在のトリプタン製剤は片頭痛患者のわずかに50~60%だけしか効果が見られず、心疾患のある患者や脳梗塞の既往のある患者、末梢血管障害患者では使うことができないからです。しかも、これらは根本的な治療薬ではない(片頭痛を根治させる薬剤ではない)ため多くの場合頭痛は24時間以内に再発する傾向があります。(頭痛専門医は、トリプタン製剤を”片頭痛の特効薬”と宣われますが・・)


トリプタン乱用頭痛


 トリプタン系薬剤乱用による薬物乱用頭痛では、頭痛の性質として従来からある”片頭痛の重症化や頻度の増加”として現れることが多く、エルゴタミン製剤や鎮痛剤に比べて少ない服用回数でかつ早く薬物乱用頭痛に至りやすい傾向があるのも特徴とされています。


頭痛専門医の考えていること


 ”片頭痛の場合、一般の鎮痛薬で痛みを抑えていると、一部の脳の活性が高まり、そこにつながる血管が異常拡張して、痛みが生じ、血管の異常拡張がさらに脳の活性をもたらし、それが再び血管の異常拡張へとつながり、つまり、悪循環が終わらなくなるのです。それによって常に片頭痛がある状態になります。また、血管の拡張が繰り返されると、血管自体に炎症やむくみが残って、さらに頭痛を起こしやすくなります”。


 一部の頭痛専門医はこういった見解を述べ、極めて軽い片頭痛発作でも「トリプタン製剤」を使用すべきと勧めておられます。


 このように勧められる頭痛専門医は、トリプタン乱用頭痛の恐ろしさを知らないのか、全く念頭になく、トリプタン製剤を処方する際に、こうしたトリプタン乱用頭痛の恐ろしさを説明することなく安易に処方されることが多いようです。このことを片頭痛患者さん自身が知っておく必要があります。そうしませんととんでも無いことが起きてきます。


 こうしたことから、「トリプタン中毒患者」が後を絶たないことも事実です。


 このことは、先日も記事にした通りです。


  http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11974722056.html


 このように、トリプタン製剤は、効くひとには絶大な効果を発揮することは事実ですが、その反面”トリプタン中毒”という地獄が待ち構えていることを忘れてはならない点です。一旦、このような”トリプタン中毒”という地獄に陥ってしまいますと、ここから抜け出すには並大抵なことでなく、至難のワザです。

 こういったことから、トリプタン製剤を服用する場合は、同時に日々の「生活習慣の改善」が必要とされる理由です。


 片頭痛治療はトリプタン製剤がすべてではない、ということです。