二次性頭痛(その他) 14 オピオイド | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 ある患者さんの話です。今から2年ほど前、あまりにも頭痛が激しく、市販の鎮痛薬も効かず痛くてたまらないので、近くの病院の救急部に行ったそうです。救急医が脳のさまざまな検査をしたのですが異常はなく、原因はわからないけど痛がっている、というので、ペンタジンという薬を注射しました。ペンタジンというのは、麻薬であるモルヒネに準じる薬で、腹痛などの痛みを止めるのに使用されますが、繰り返すと依存症、中毒になることがあります。
 頭痛はペンタジンの注射で良くなり、患者さんは喜んで帰りました。一度良くなったので、次に痛くなったときも患者さんはその病院の救急部に行きました。するとカルテにペンタジンが効いたと記載されているので、またペンタジンを注射しました。
 数回目に行ったとき、突然「あなたはペンタジン中毒だから、もう注射はできません」
と言われました。ペンタジンの中毒になった患者さんの中には、痛みがなくても注射を打ってもらいたくて病院に来る、というケースがあります。しかしこの患者さんの場合は中毒ではなく、本当に頭が痛いので治してほしくて行ったのですが、病院の方では何度か注射が行われていることが記載されたカルテだけを見て判断したものと思われます。
 患者さんにしてみれば、痛いフリをしているのでも何でもなく本当に痛いので、なぜ打てば治る注射を拒否されるのか、よくわからなかったと思います。病院の医師に中毒の説明をされ、医者が言うことだから正しいのかな、と半信半疑で病院を出たそうですが、頭の痛みはそのままでした。

 現在では、トリプタンの注射薬がありますので、このような例は少なくなったようですが、トリプタンの注射薬がなかった時代は、片頭痛の激しい痛みを何とか緩和させようとして、このような麻薬であるモルヒネに準じる薬であるペンタジン(ソセゴン)を注射していた頃もあったことも事実でした。
 このような麻薬であるモルヒネに準じる薬は、原則として医療機関を受診しない限り投与されることはありませんが、問題は通販で海外から個人輸入で「弱オピオイド系の鎮痛剤」のトラマドール、タペンタドール(商品名:タペンタ)などがネットで購入できる時代ですので、決して無視できないものですので、今回はこれについてです。


 「国際頭痛分類 第3版 β版」では、「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛,MOH)」のなかで「オピオイド乱用頭痛」「オピオイド離脱頭痛」が挙げられています。


まず、オピオイドについて説明致します。


1. オピオイドとは


 オピオイド(opioid)とは、麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類の総称です。
 紀元前よりケシ未熟果から採取されたアヘン(opium)が鎮痛薬として用いられ、19世紀初頭には、その主成分としてモルヒネが初のアルカロイドとして単離されました。1970年代には、オピオイドの作用点として受容体が存在することが証明され、初めて薬物受容体の概念として導入されました。その後、内因性モルヒネ様物質の探索が行われ、エンケファリン、エンドルフィン、ダイノルフィン、最近ではエンドモルフィンなどが単離・同定されました。1990年代には、μ、δおよびκオピオイド受容体の遺伝子が単離精製(クローニング)され 、その構造や機能が分子レベルから明らかにされています。

2. オピオイド受容体の構造と情報伝達


 μ、δおよびκオピオイド受容体は、すべてGTP結合蛋白質(G蛋白質)と共役する7回膜貫通型受容体(GPCR)です。これらオピオイド受容体タイプ間の相同性は高く(全体で約60%)、特に細胞膜貫通領域では非常に高い。いずれの受容体も基本的にGi/o蛋白質と関連しており、オピオイド受容体活性化により、さまざまな細胞内情報伝達系が影響を受けることにより、神経伝達物質の遊離や神経細胞体の興奮性が低下するために神経細胞の活動が抑制されます。
 一方、近年、モルヒネによる鎮痛効果発現における興奮性神経伝達の関与も示され、下行性抑制系の直接的活性化や、細胞内情報伝達系を活性化することで鎮痛効果を発現していることも明らかにされています。
 モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルは、すべてμオピオイド受容体に対する親和性が高いものの、それぞれの薬物間において、認められる薬理作用に違いがあることが知られています。これらの薬物間における薬理作用の違いに関しては、さまざまな見解がなされており、μオピオイド受容体はμ1およびμ2受容体、δオピオイド受容体はδ1およびδ2受容体、κオピオイド受容体はκ1、κ2、κ3受容体などのサブタイプの存在が提唱されてきました。しかし、μ、δおよびκオピオイド受容体をコードする遺伝子はそれぞれ1 種類しか存在しないため、スプライスバリアント依存性サブタイプやオピオイド受容体の多量体化に対する修飾の差異、あるいはオピオイド受容体に対する立体構造変形に基づいたリガンド依存性サブタイプなどの新しい仮説(ligand biased efficacy仮説)が提唱されています。
 下行性抑制系とは、脳から脊髄を下行し、痛覚情報の伝達を抑制する系。脳から脊髄へ神経伝達物質のノルアドレナリンとセロトニンが放出されて抑制します。


3. オピオイド受容体を介した薬理作用


 モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど多くのオピオイドによる鎮痛作用は、主にμオピオイド受容体を介して発現します。μオピオイド受容体を介した鎮痛作用は、脊髄における感覚神経による痛覚伝達の抑制や視床や大脳皮質知覚領域などの脳内痛覚情報伝導経路の興奮抑制といった上行性痛覚情報伝達の抑制に加え、中脳水道周囲灰白質、延髄網様体細胞および大縫線核に作用し、延髄-脊髄下行性ノルアドレナリンおよびセロトニン神経からなる下行性抑制系の賦活化などによります。また、μオピオイド受容体は扁桃体や帯状回、腹側被蓋野、側坐核などの部位に高密度に存在していることから、情動制御にも深く関わっています。さらに、その他の中枢神経系作用として呼吸抑制作用(延髄呼吸中枢の直接抑制作用)、鎮咳作用(孤束核咳中枢への知覚入力抑制)、催吐作用〔延髄化学受容器引き金帯(chemoreceptor trigger zone;CTZ)への直接作用〕などが、末梢神経系への作用として消化管運動抑制作用(腸管膜神経叢でアセチルコリン遊離抑制)などが知られています。
 δおよびκオピオイド受容体の活性化によっても、μオピオイド受容体の活性化と同様に鎮痛作用が認められます。しかし、μオピオイド受容体の活性化は多幸感(報酬効果*1)が生じるのに対して、κオピオイド受容体では嫌悪感を引き起こし(中脳辺縁ドパミン神経前終末抑制によるドパミン遊離抑制)、モルヒネなどによる精神依存を抑制します。また、δおよびκオピオイド受容体の活性化による呼吸抑制作用は、μオピオイド受容体によるものと比べ弱いとされています。

 報酬効果とは、脳内の報酬系(ドパミン神経系)が、欲求が満たされたときや報酬を得ることを期待して行動しているときに活性化し、快の感覚(多幸感、陶酔感など)を与える効果のことを言います。
 精神依存とは、次のうちいずれか1つを含む行動によって特徴づけられる一次性の慢性神経生物学的疾患。①自己制御できずに薬物を使用する、②症状(痛み)がないにもかかわらず強迫的に薬物を使用する、③有害な影響があるにもかかわらず持続して使用する、④薬物に対する強度の欲求があります。


鎮痛剤はオピオイド鎮痛剤と非オピオイド鎮痛剤に分けられます。


 オピオイド鎮痛剤はモルヒネ受容体に結合して痛みを和らげ、麻薬性鎮痛剤とも呼ばれ、モルヒネやコデインなどに代表されます。
 非オピオイド鎮痛剤はモルヒネ受容体とは結合せず、非麻薬性鎮痛剤とも呼ばれ、アスピリンやアセトアミノフェンに代表される解熱鎮痛剤の事をさします。

 医療用に使用する麻薬のことを“オピオイド鎮痛薬”と言います。オピオイドは、アヘン(芥子(けし)の実から作られる)に含まれており、モルヒネ、コデインなどが有名です。最近では、モルヒネとは異なる新しいタイプの医療用麻薬として、フェンタニルやオキシコドンが使用できるようになりました。

“麻薬”と聞くと、心理的に抵抗を感じる方がおられるようですが、モルヒネは一般的に医療現場で使用されている有効な鎮痛薬の1つです。また、日本の研究者によって、がん性疼痛などの強い痛みがある場合、からだに鎮痛薬への依存を抑えるメカニズムが発生することが確認されています。つまり、がんの痛みの治療のために医療用麻薬が使用される場合には、患者さん自身に痛みがあるため、麻薬への依存性が抑えられているのです。がんの治療が効いて痛みそのものが弱くなった場合は、徐々に鎮痛薬をやめたり、量を減らすことも可能です。
 医療用麻薬の使用目的はあくまで痛みをやわらげることにあります。したがってモルヒネを使用しても効果のない痛みに対して、モルヒネなどの医療用麻薬が処方されることはありません。

 ここで注意しておくことがあります。それは「頭痛」と「がんのような全身の病気」に対する鎮痛薬全般の効き方です。例えば、慢性関節リウマチのように長期間にわたって鎮痛薬を服用しても「依存性」を生じることはありません。しかし、頭痛の場合では、どのような鎮痛薬を服用しても必ず「依存性」の問題が起きてきます。とくに「オピオイド鎮痛剤」は「依存性」の問題には注意が必要とされます。


ソセゴン、ペンタジン(ペンタゾシン)の作用機序:疼痛治療薬

 強い痛みが続くようであると、日々の生活が制限されてしまいます。特に手術後やがんなどの痛みはとても強く、痛みによって辛い生活が強いられます。
 そこで、これら激しい痛みを取り除く薬としてペンタゾジン(商品名:ソセゴン、ペンタジン)があります。ペンタゾシンはオピオイド受容体部分作動薬と呼ばれる種類の薬になります。
 がんなどの痛みを取り除く薬として、医療用麻薬が使用されます。麻薬は耐性や習慣性などの問題はありますが、医療用として適切な管理下で使用される場合、大きな問題は起こりません。
 がんは強烈な痛みを引き起こすことで有名ですが、医療用麻薬であれば、がんによる痛みであっても抑えることができます。
 痛みは脳で感じますが、医療用麻薬は脳に作用することでその効果を発揮します。具体的には、オピオイド受容体を刺激します。オピオイド受容体の刺激により、「痛み物質の放出が抑えられる」などの作用によって強力な鎮痛作用を得ることができます。
 つまり、医療用麻薬と同じように、オピオイド受容体を刺激すれば強力に痛みを抑えることができます。
 このような考えにより、オピオイド受容体刺激作用によってさまざまな痛みを取り除く薬がペンタゾジン(商品名:ソセゴン、ペンタジン)です。

 ペンタゾジン(商品名:ソセゴン、ペンタジン)の特徴


 単にオピオイド受容体を刺激するだけであれば、医療用麻薬と同様に厳しい流通制限を受け、法律によって縛られてしまいます。これを回避するため、オピオイド受容体に対する刺激作用を弱くした薬がペンタゾジン(商品名:ソセゴン、ペンタジン)です。
 受容体を刺激するとき、多くの薬は受容体を100%活性化させるように働きます。薬の投与量を多くすれば、どのような薬であっても受容体がフル活動するように作用するのです。
 それに対して、どれだけ薬の投与量を増やしても、受容体の活性化率が30%や50%で頭打ちになる薬があります。このような薬をパーシャルアゴニスト(部分作動薬)と呼びます。パーシャルとは、日本語で「部分的な」や「不完全な」という意味があります。
 つまり、受容体を中途半端に活性化することにより、通常の薬よりも弱い作用を得るのです。ペンタゾジン(商品名:ソセゴン、ペンタジン)がまさにパーシャルアゴニストであり、オピオイド受容体を中途半端に活性化する作用があります。
 弱いオピオイド受容体刺激作用のため、ペンタゾジン(商品名:ソセゴン、ペンタジン)は麻薬という扱いではなく、向精神薬として取り扱われます。ただ「弱い作用」とは言っても、ペンタゾシン30mgの投与によってモルヒネ10mgに匹敵する鎮痛効果を得ることができます。
 このような特徴により、がんや手術後など幅広い痛みを緩和する薬がペンタゾジン(商品名:ソセゴン、ペンタジン)です。
 しかし、現実には、ソセゴン、ペンタジン中毒患者が多く見られることは忘れてはならない点です。


頭痛との関連


 片頭痛の軽度~中等度の発作はNSAIDまたはアセトアミノフェンにより対応します。オピオイド,カフェイン,ブタルビタールを含む鎮痛薬は頻度の低い軽度の発作に有効ですが,過剰使用される傾向があり,反跳頭痛や連日性頭痛症候群を招くことがあります。
 オピオイドは,重度の頭痛に対し他に有効策がない場合の最後の手段(レスキュー薬)とすべきです。ということは、一般的には使用すべきでないとされています。必ず、依存性を生ずることがその理由です。


「国際頭痛分類 第3版β版」では、「オピオイド乱用頭痛」は


 3 ヵ月を超えて、1 ヵ月に10 日以上オピオイドを服用している


1. 3 ヵ月を超えて、定期的に1 ヵ月に10 日以上エルゴタミン製剤、トリプタン系薬剤、オピオイドまたは複合鎮痛薬を使用している。
2. 単一成分の鎮痛薬、あるいは、単一では乱用には該当しないエルゴタミン、トリプタン系薬剤、オピオイドのいずれかの組み合わせで合計月に15 日以上の頻度で3 ヵ月を超えて使用している。
C. 頭痛は薬物乱用により出現したか、著明に悪化している


このように規定されています。


 最近、頭痛に対して、トラムセット、リリカ、トラマドール、タペンタ(タペンタドール)を使うひとも増えているようですが、要注意です。成分を確認すべきです。


■トラムセット配合錠(「トラマドール」とアニリン系解熱鎮痛薬の「アセトアミノフェン」2成分が一緒に作用):中枢神経系に作用し、鎮痛作用を示す。通常、非オピオイド鎮痛剤で治療困難な非がん性慢性疼痛、抜歯後の疼痛の治療に使用。非がん性慢性疼痛:通常、1回1錠を1日4回服用。抜歯後の疼痛:通常、1回2錠を服用。なお、追加服用する場合は、投与間隔を4時間以上空け、上限は1回2錠、1日8錠。空腹時の服用は不適です。主な副作用として、吐き気、嘔吐、傾眠、便秘、目眩等が報告。

■リリカカプセル75mg(プレガバリン):中枢神経系においてカルシウム流入を抑制し、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の遊離を抑制する作用で過剰に興奮した神経を鎮め、痛みを緩和。通常、神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の治療に使用。神経障害性疼痛:通常、初期用量として1回主成分として75mgを1日2回服用し、その後1週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増。年齢・症状により適宜増減。但し、1日最高用量は600mgが限度。線維筋痛症に伴う疼痛:通常、初期用量として1回主成分として75mgを1日2回服用し、その後1週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増した後、300~450mgに維持。年齢・症状により適宜増減。但し、1日最高用量は450mgが限度。主な副作用として、浮動性目眩、傾眠、浮腫、体重増加等が報告。

タペンタ(タペンタドール)の作用機序:オピオイド系鎮痛薬


 がんは死因の上位であり、治療困難な病気でもあります。がんの末期になると激しい痛みに襲われ、それが1日中続きます。そのため、がんでは痛みを抑えることも重要です。
 そこで、がんの痛みをコントロールするために使用される薬としてタペンタドール(商品名:タペンタ)があります。タペンタドールはオピオイド系鎮痛薬と呼ばれる種類の薬になります。

タペンタドール(商品名:タペンタ)の作用機序


 怪我などを負うと、痛みを感じます。このときの痛みを抑えるためには、鎮痛薬が用いられます。頭痛を抑制するときなどに対して、鎮痛薬は有効です。そのため、がんによる痛みにも、最初は頭痛などで用いられる鎮痛剤を使用するように規定されています。
 ただ、がんでは浸潤や転移によって組織が侵され、これによって痛みが起こります。がんの疼痛は激しいため、一般的な鎮痛薬では対処できなくなります。そこで、中等度から高度の疼痛を伴うがんの痛みを抑えるために医療用麻薬が使用されます。
 医療用麻薬としては、モルヒネが有名です。そして、モルヒネと同じような医薬品として、タペンタドール(商品名:タペンタ)があります。
 痛みは生きていくために重要な機構ですが、激しすぎると日常生活に支障がでます。そこで、私たちの脳には痛みを感じなくさせるためのスイッチが存在します。このスイッチの一つとして、μ(ミュー)受容体があります。
 μ受容体は脳内に存在します。この受容体を刺激すると、がんによる痛みであっても強力に抑えることができます。そこで、薬によってμ受容体を活性化させるのです。タペンタドール(商品名:タペンタ)はμ受容体の刺激薬です。
 μ受容体は、オピオイド受容体とも呼ばれます。オピオイド受容体には何種類かあり、その中の一つがμ受容体なのです。そのため、μ受容体を刺激する薬はオピオイド薬と呼ばれます。
 また、神経系の中には「痛みを抑制する神経」というものが存在します。これを、下行性疼痛抑制系神経といいます。そこで、この神経系を活性化すれば痛みを強力に抑制できることが分かります。
 スポーツ選手などでは、試合中に怪我をしても続行していたという話を聞くことがあると思います。これは、下行性疼痛抑制系神経が活発になっていたからなのです。
 下行性疼痛抑制系神経の活性化には、ノルアドレナリンが関与しています。そこでノルアドレナリンの量を増やせば、痛みを感じにくくさせることができます。
 神経から放出されることで、ノルアドレナリンが働きます。ただ、神経から放たれたノルアドレナリンは、再び神経の中に取り込まれます。このとき、ノルアドレナリンの取り込みに関わる輸送体をトランスポーターといいます。トランスポーターによってノルアドレナリンが取り込まれると、それだけ神経間のノルアドレナリン量は少なくなります。
 そこでトランスポーターの働きを阻害すると、神経間のノルアドレナリン量が増えます。その結果、下行性疼痛抑制系神経が活性化して痛みを感じにくくなります。
このような考えにより、痛みの抑制に関わるスイッチを起動させたり、痛みを感じにくくさせる神経を活性化したりすることでがんによる疼痛をコントロールする薬がタペンタドール(商品名:タペンタ)です。


 タペンタドール(商品名:タペンタ)の特徴


 オピオイド系鎮痛薬であるタペンタドール(商品名:タペンタ)は、同じような働きをするトラマドール(商品名:トラマール)という薬を改良したものです。トラマドールよりも強い作用を有する薬がタペンタドールです。
 トラマドールには、μ受容体への刺激作用やノルアドレナリン・セロトニンの再取り込み阻害作用があります。これに比べて、タペンタドール(商品名:タペンタ)ではμ受容体への作用やノルアドレナリン再取り込み阻害作用を強め、セロトニン再取り込み阻害作用を弱めています。
 痛みに関しては、セロトニンよりもノルアドレナリンの方が鎮痛作用に関与していることが分かっています。また、セロトニンの量が増えると、セロトニン症候群など副作用のリスクも高まります。そこで、ノルアドレナリンへの作用を強め、セロトニンへの作用を弱めたのです。
 つまり、トラマドール(商品名:トラマール)に比べてタペンタドール(商品名:タペンタ)では、「μ受容体への作用↑、ノルアドレナリンの作用↑、セロトニンの作用↓」となっています。これによって、より強力な鎮痛効果を得ることができます。
 なお、タペンタドール(商品名:タペンタ)などの医療用麻薬を使用すると、悪心・嘔吐や便秘、眠気などの副作用が表れます。そのため、医療用麻薬を使用している患者さんの中には、吐き気止めの薬や便秘薬を使用している方がいます。これは、薬による副作用を回避するためです。
 このような特徴により、2つの作用メカニズムによってがんによる痛みを強力に抑え、日々の生活を快適に過ごすための支援をする薬がタペンタドール(商品名:タペンタ)です。


非がん性慢性(疼)痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン
(日本ペインクリニック学会による)


 非がん性慢性痛とは、がん以外の変形性関節症や腰痛症など、3か月以上続く、生活を脅かすほど強烈な痛みを伴う病気です。その激しい痛みに対して、強力な鎮痛剤であるオピオイドを、乱用や依存を形成することなく適正に処方する指針です。

 オピオイドは、アヘンが反応し結合する受容体、オピオイド受容体にくっつくことができる化合物の総称です。オピオイド受容体には、3つの種類があります。μ(ミュー)、κ(カッパ)、δ(デルタ)受容体と呼ばれ、脳、脊髄神経、末梢神経と、体中の神経組織に存在しています。
 一般的に痛み止めと呼ばれる薬は、NSAIDs(エヌセイズ:消炎鎮痛剤)です。ロキソニンやボルタレン、イブプロフェンなどの消炎鎮痛剤は、局所で炎症を引き起こすプロスタグランディン類の生成を抑制することで、痛みを止めます。
 一方、オピオイドはNSAIDsと違い、脳から痛みを緩和します。オピオイドは、脳から脊髄、脊髄から末梢神経に向かって痛みを抑制する経路の働きを増強することで、痛みの伝達自体を脳に伝えにくくします。その結果、強力な鎮痛作用を持つ仕組みです。

オピオイドが非がん性慢性痛に使われるワケ

 がん以外の原因となる病気が何であれ、3か月以上つらい痛みで悩んでいると、一体、どうなるでしょうか? 仕事、趣味、家事、学業など、自分がやりたい、もしくは、やらなければならないと思っていたことも、十分行えなくなり、やる気や集中力、記憶力の低下まで引き起こします。思うように働けないことは収入低下と経済的困窮につながり、家事や学業に差しさわりが出ることは、家庭崩壊の原因になります。
 痛みストレスは、なかなか周囲にわかってもらいにくい特徴があります。ストレスから孤立感を深め、無力感を感じる心のストレスまで生みます。その痛みが悪化していくと、うつ病や自殺の原因になる場合もあります。慢性に続く痛みは、あなたの全てを奪う「影の殺し屋:サイレントキラー」なのです。

 オピオイドは、その強い鎮痛作用で、痛みで失った食欲、睡眠、楽しみ、仕事など、日常生活を改善することが立証されています。痛みで打ちのめされたあなたが、本来のあなたとして生まれ変わり、あなたらしく生きる人生のサポーターとして、オピオイドは強い見方です。


オピオイドの分類


WHO(世界保健機構)は、1986年にがん疼痛治療法の薬を3種類に分けました。


・非オピオイド
・弱オピオイド
・強オピオイド


 日本のオピオイド分類は、このWHO分類に加え、「麻薬及び抗精神薬取締法」と「薬事法」での分類があります。


・医療用麻薬
・向精神薬
・習慣性医薬品
・規制の全くない薬物

非がん性痛に適応のあるオピオイドの分類


 全てのオピオイドが、非がん性疼痛に処方されるわけではありません。日本では、非がん性慢性(疼)痛に対するオピオイド鎮痛薬使用は、「麻薬及び抗精神薬取締法」と「薬事法」で適応薬が厳密に定められています。


オピオイドの副作用


 強力な鎮痛作用を持つオピオイドは、適正に使用されないと薬物乱用と依存の可能性があります。なぜなら、非がん性慢性(疼)痛では、がん性疼痛の治療期間より長期間続くからです。がんでオピオイドを内服する期間は、数週間から長くとも数か月。しかし、非がん性慢性(疼)痛では、何年も症状が続くため、長期間服用による副作用が出ることがあります。
 具体的には、吐き気、便秘、ふらつき、眠気、腸機能障害、性腺機能障害、痛覚過敏、乱用と依存症などです。


オピオイド治療の注意点


 オピオイド鎮痛薬は、心因性の痛みに使用してはいけません。オピオイド受容体は、気持ちの浮き沈み、性格、気分、情動に影響する受容体です。精神疾患を併発している患者さんは、オピオイドの乱用や依存になる可能性が非常に高く、がん性疼痛以外の痛み治療として、オピオイドを使うべきではありません。また、覚せい剤やアルコール依存症など、薬物依存症になったことがある人も危険です。


オピオイド使用に学会警鐘 【米国神経学会】
 非癌性慢性疾患には利益よりも高リスク


 米国神経学会(AAN)は2014年9月29日、処方オピオイドによる死亡、過量投与、中毒、深刻な副作用のリスクは、頭痛や繊維筋痛症、慢性腰痛などの非癌性の慢性疾患におけるベネフィットを上回ると注意喚起する声明を発表しました。Neurology誌に掲載。

 既存の複数の研究によれば、3カ月以上オピオイドを使用した患者の50%が5年後もオピオイドを使用している。入手可能な研究のレビューからは、オピオイドは短期的には疼痛を有意に緩和する可能性があるが、長期的には深刻な過量投与や依存、中毒のリスクなしに疼痛緩和や機能改善を導くとする実質的なエビデンスはないことが示されている。
 声明では、モルヒネ1日換算量が80-120mgを超えても痛みや機能の改善が十分に得られていなければ、医師は疼痛管理の専門家と相談するよう推奨。また、オピオイドの安全かつ有効な処方のため、(1)オピオイド治療同意書の作成、(2)薬物乱用歴やうつの有無の確認、(3)尿検査による薬物スクリーニングの実施、(4)催眠鎮静薬やベンゾジアゼピン系薬剤などとオピオイドを併用をしない、(5)州の処方薬モニタリングプログラムを通じて処方薬を監視する、など具体的な対応方法を提案している。


 ということで、オピオイドは「頭痛」には使うべきではないということです。

オピオイド 最期にもたらされる残酷な救い


 脳内麻薬様物質(オピオイド)は交感神経系の興奮によって、GABA神経系から分泌されるエンケファリン、β-エンドルフィンなどを指します。オピオイドは阿片などの麻薬に極めて近い構造を持ちます。
 オピオイドの大量分泌により、精神活動の麻痺や感情鈍麻といった状態に入ります。これは、闘争も回避もできない深刻なストレスにさらされた生物に、「最期の救い」をもたらします。精神活動の麻痺や感情鈍麻によって、完全な降伏と受身の態勢をとり、現実感のなさによって、生物は「静かに捕食者の餌食となる」のです。
 長期間反復的に回避不能のストレスにさらされた個体は、脳内オピオイド受容体の感受性が上昇します。これは阿片などの麻薬を反復投与された個体に見られるものと同じ、生理的な反応です。そしてこのような個体にストレス刺激や麻薬の反復投与を急に中断したり、オピオイドの拮抗物質であるナロキソンやクロニジンを投与すると、同じような退薬症状(禁断症状)を呈します。そのため、オピオイド受容体の感受性が上昇した個体は、強烈なストレス刺激……自分で自分の命を危険に晒したり、自分の身体や心を痛めつける行為……なくしては生きていけなくなります。
 オピオイドの過剰放出は、大脳辺縁系の扁桃体、海馬などにダメージを与えることで知られています。扁桃体に損傷を受けた個体は、「恐ろしいもの」「いやなもの」に直面しても、避けようとしなくなります。
 マラソン中にオピオイドが分泌されることはわりと有名で、マラソンによってオピオイドが分泌された状態のことを「ランナーズ・ハイ」と呼びます。オピオイド濃度の上昇は、他にも手術、接食障害者の嘔吐などで確認されていて、また、リストカット、車での暴走等の自傷行為によってもオピオイドは上昇するそうです。
 オピオイドの大量分泌は離人症的な症状をもたらします。現実感の喪失、自己と外界を隔てる透明な壁のある感じ、自分のことを遠くで自分が観察している感じ、自分の手足の消失する感じなどです。