二次性頭痛(その他) 13 カルシトニン遺伝子関連ペプチド | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 片頭痛では三叉神経末端が刺激されてそこからカルシトニン遺伝子関連ペプチドが分泌され、血管拡張を誘発して片頭痛が起こるとされています。
 このようにカルシトニン遺伝子関連ペプチドは強力な血管拡張作用を有することから頭痛を誘発してきます。


「国際頭痛分類 第3版 β版」では、「物質の使用または曝露による頭痛」のなかに


 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)誘発頭痛


  即時型CGRP誘発頭痛
  遅延型CGRP誘発頭痛


として分類されています。


片頭痛とカルシトニン遺伝子関連ペプチド

 片頭痛は、器質的疾患とは異なり、脳や体に病気がないのに繰り返し起こる機能性頭痛の1つです。日本人における片頭痛の頻度は人口の6~7%、また、欧米では15~20%といわれています。比較的若年者に発生し、女性が多いとされています。
 国際頭痛学会においては、発作の発現状況により、前兆を伴わないものと、前兆を伴うものとに大別されており、それぞれに診断基準が定められています。
 ストレスや体調不良など、何らかの刺激が原因で頭蓋血管周囲の誘因による刺激で三叉神経からサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide:CGRP)などの神経伝達物質が過剰に分泌されます。このCGRPは血管に働きかけ血管を拡張させることによって血管の透過性が亢進し、血管の周囲に炎症が起こります。これが三叉神経を経て脳に痛みとして伝達され、片頭痛がおこる、という仮説です。

 その病態には、セロトニン、ノルアドレナリン、一酸化窒素等、様々な生体内物質が関与する可能性が考えられています。中でも、セロトニンについては、片頭痛発作中のセロトニンの減少、発作後の尿中セロトニン代謝物の増加、セロトニンを減少させるレセルピンの投与による片頭痛様発作の誘発等が報告され、片頭痛発作に深く関わっていることが確認されています。
 セロトニンによる片頭痛発作誘発の機序については、血小板等からセロトニンが過剰に放出されて脳血管が収縮し、放出されたセロトニンがMAO-Aによって代謝されて枯渇すると、今度は血管の拡張が起こり、頭痛が発現するとの説がよく知られています(血管説)。
 また、最近では、先程の、三叉神経終末からCGRP、サブスタンスP等の神経ペプチドが遊離され、これらによって血管壁の透過性亢進、肥満細胞の脱顆粒等が起こり、局所の血管周囲の炎症から頭痛に至るとの説も有力となっています(三叉神経血管説)。
 セロトニンは血管に作用するだけではなく、三叉神経からのカルシトニン遺伝子関連ペプチドの遊離を引き起こすことも報告されており、これに対しては、5-HT1B、5-HT1Dとともに、5-HTF受容体が関与する可能性が指摘されています。スマトリプタンは、5-HT1B、5-HT1Dとともに、5-HTF受容体に対してもほぼ同等の親和性を示すことが試験管内の実験により報告されており、新たな作用点として注目されています。

 片頭痛は脈打つような激しい頭痛が何時間も続いて繰り返すことが特徴ですが、その主な原因は、脳神経の三叉神経から過剰に放出される「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」というペプチドであることがわかってきました。ペプチドとは、アミノ酸が2個以上つながったもので、神経伝達、抗菌、ホルモン作用などさまざまな生理活性作用をもっています。CGRPは32個のアミノ酸が連なっています。
 片頭痛の主な原因は、先に述べたようにCGRPの過剰放出ですが、トリプタンにはこれを抑制する作用があり、服用すると約30分で効果が現れます。


カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)について


 37個のアミノ酸からなるペプチドで、血管の拡張に関係し、血管の平滑筋細胞に作用して、血圧を下げる作用があることが知られています。また、三叉神経節や脳血管周囲に広範に分布しており、脳の血管を拡張することから、片頭痛の原因の1つと考えられています。片頭痛時に血液中にCGRP値が高くなり、治療で正常化することが確かめられています。
 CGRPという名前は20数年前、CGRPを産生する肺がん(ホルモン産生腫瘍の1つ)があることから知られました。同じ塩基配列から2つの異なる遺伝子が生じることがあります。選択的スプライシングalternative splicingという遺伝子を構成するエクソンがスプライシングの違いから異なる組み合わせを生じ、2つのメッセンジャーRNAが出来るという現象です。カルシトニンは甲状腺から分泌されるペプチドで、骨からカルシウムの濃度調整を行っています。CGRPはカルシトニンと選択的スプライシングの結果、生じる遺伝子です。しかし、CGRPの作用はカルシトニン同様骨の吸収に関連しているという理解でした。
 CGRPが最近注目されたのは、降圧作用、頭痛の原因だけではなく、抗酸化作用を持つことからです。すなわち、CGRPには酸化ストレスを抑える作用があると考えられています。イソフラボンやカプサイシンなどがCGRPの産生を刺激し、分泌を促進するのが、抗酸化に働くのではないかとの報告があります。


カルシトニン遺伝子関連ペプチドと生体防御 


 岡嶋研二先生は、「医学のあゆみ 208:161-162, 2004」で以下のように述べておられます。


•CGRPは脊髄後根神経節で産生されます。
•温痛覚を伝えるカプサイシン感受性知覚神経(capsaicin-sensitive sensory neurons:CSSN)末端より放出されます。
・CGRPは強力な血管拡張作用を有します。

◦血管内皮細胞のCGR-1受容体に作用し,NO産生を増加させることによります。
◦サブスタンスPとともに放出されます。

•局所の充血や敗血症性ショックの発症に関与し,炎症反応形成に重要です。
•CGRPによるNOはCOX-1を活性化させ、プロスタグランディン(PG)の産生を増加させます。
◦PGは臓器微小循環動態を適切に維持します。
◦CGRPがむしろショックや炎症反応抑制、組織傷害抑制の可能性があります。
◦CGRPは多彩な生物学的作用を有し、恒常性維、生体防御系に重要な役割を担っています。
◦CSSN-CGRPは向炎症的ではなく,抗炎症的な機能を発揮すると思われます。
◦CSSNは知覚神経としての作用に加えておいても重要な役割を担っています。
•神経系による抗炎症作用は迷走神経においても報告されています。


CGRP受容体拮抗薬


 片頭痛の治療はトリプタン製剤の出現により大きく変わりました。しかし、トリプタン製剤は、狭心症や心筋梗塞の既往のある患者さんには禁忌とされています。また、トリプタン製剤が効果ない患者さんもいます。このような場合にも、安心して使用できる薬剤の開発が望まれています。その一つが、CGRP受容体拮抗薬で、現在、欧米で開発中です。
片頭痛の出現には、CGRPが重要な働きをしているといわれています。その働きには、次に示すように二つに大別されます。


A.三叉神経終末からCGRPが放出され、血漿タンパクが漏出し神経性炎症を惹起し、血管拡張を引き起こすといわれています。
B.中枢神経系において、痛みの伝導に重要な役割を果たすと考えられています。


 CGRP受容体拮抗薬は、これらの働きを阻害し、片頭痛を抑えると考えられ、特に中枢神経系に働くと考えられています。現時点では、虚血性心疾患を合併した片頭痛の患者さんにも使用可能と考えられています。

 現在、世界で開発中の代表的なCGRP受容体拮抗薬には、オルケゲパントとテルカゲパントがあります。オルケゲパントは注射薬で、テルカゲパントは内服薬です。 テルカゲパント300mg製剤は、ゾルミトリプタン5mgと同様の効果があると考えられています。しかし、テルカゲパントは副作用として肝機能障害がみられ、その後の開発は中止されました。


 CGRP受容体拮抗薬telcagepantはトリプタン系薬と同等の効果で安全性高い


 現在,成人の片頭痛発作に対してはトリプタン系薬が第一選択薬ですが,全く異なる機序を持つカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬が登場し,注目を集めています。CGRP受容体拮抗薬には,血管収縮を起こさないという利点があります。Lancet 4月22日オンライン版に,片頭痛の新しい治療薬に関するシステマチックレビューが掲載され,CGRP受容体拮抗薬のtelcagepantおよび国内ではてんかんに適応があるトピラマートについて報告されました。telcagepantの効果はトリプタン系薬と同等で,より安全性が高く,トリプタン系薬が奏効しない患者や心血管疾患を有する患者での使用が期待されます。


telcagepant 150mg,300mgによる有害事象はプラセボとほぼ同等


 スウェーデン・ルンド大学病院のLars Edvinsson氏と,ノルウェー工科自然科学大学のMattias Linde氏は,片頭痛の新しい治療薬であるtelcagepantと,慢性片頭痛を予防するために多くの国で第一選択薬とされているトピラマートの効果と安全性を検証するため,2010年2月までの過去4年にMedlineとPubMedに掲載された論文を検索,分析しました。

 片頭痛を起こした健康人の急性期治療において,リザトリプタン 10mgと,telcagepant 25mg,50mg,100mg,200mg,300mg,400mg,600mgを比較した二重盲検ランダム化比較試験(RCT)では,2時間後の無痛効果は,telcagepant 300mg群68%,同400mg群48%,同600mg群67%,リザトリプタン群69%で,プラセボより有効でした。telcagepant全体では2時間後の無痛,24時間後までの鎮痛,24時間後までの無痛,2時間後の羞明なし,音声恐怖症なし,機能障害なしについても有効であり,その効果はリザトリプタンとほぼ同等でした。

 欧米81の施設で中等度から重度の片頭痛発作を起こした1,380人を対象に実施されたtelcagepant,ゾルミトリプタン,プラセボの3剤による二重盲多施設RCTでは,2時間後と24時間後の無痛,羞明,音声恐怖症,嘔気に関するtelcagepant 300mgとゾルミトリプタン 5mgの効果は同等で,telcagepant 150mgやプラセボより優れていました。telcagepant 150mgはプラセボより効果が高かった。1,294人の片頭痛患者を対象としたプラセボ対照試験二重盲検RCTでは,telcagepant 300mgと150mgの投与では48時間後も無痛効果が続きました。

 また,24人の片頭痛患者にtelcagepant 600mg,スマトリプタン 100mg,プラセボを投与した第I相試験では,スマトリプタン単剤使用または,telcagepantと併用後の片頭痛間欠期の平均血圧は同様でした。また,スマトリプタン単剤または,telcagepant併用は,投与後2.5時間後の平均半横臥位血圧を上昇させましたが,telcagepant単剤では血圧上昇はありませんでした
 各試験におけるtelcagepant 150mg,300mgによる有害事象はプラセボとほぼ同様で,telcagepantは安全で忍容性が良好でした。

 片頭痛の急性期治療においてtelcagepant 280mgとリザトリプタン 10mgを18か月間投与した長期安全試験では,トリプタン系薬関連の副作用はリザトリプタンより少なく,ドライマウス9.7%,眠気 9.0%, めまい 8.9%,嘔気 8.7%などでした。3例で肝臓のトランスアミナーゼ値が上昇しましたが,ビリルビンの増加はなく,いずれも薬剤との関連はないと考えられました。

 telcagepantの最も懸念される副作用は,トランスアミナーゼの上昇ですが,片頭痛の発作時に断続的に用いられる場合には,問題がないと考えられました。ただし,米国立衛生研究所(NIH)臨床試験レジストリーによると,片頭痛予防を目的に片頭痛をもつ健康人にtelcagepant 140mg,280mgを1日2回,12週間投与した試験では,最後の数週間に一部の患者に肝酵素の上昇が見られたために,試験が中止されています。


片頭痛発作にCGRP受容体拮抗薬のtelcagepantが有効


 片頭痛の治療に新しい作用機序を有するtelcagepantが有効であることを示す試験結果が,米バーモント大学などのグループによりNeurology の9月22日号に発表されました。

 片頭痛の病態生理にカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が関係していると考えられています。同グループは,経口のCGRP受容体拮抗薬であるtelcagepantの片頭痛発作に対する効果を検討する臨床第III相試験を実施しました。

 前兆の有無を問わず成人片頭痛患者の中等度~重度発作をtelcagepant 50mg(177例),150mg(381例),300mg(371例),プラセボ(365例)のいずれかで治療しました。一次評価項目は投与後2時間の頭痛の解消・緩和,光および音過敏と悪心がないこと,二次評価項目は2~24時間持続する頭痛の解消としました。

 その結果,telcagepant 300mgは一次評価項目のすべてと二次評価項目においてプラセボより効果的でした(P≤0.001)。また,telcagepant 150mgとの比較でもほとんどの評価項目で上回っていました(P≤0.05)。用量反応性の確認を目的としたtelcagepant 50mg投与の効果は,プラセボとtelcagepant 150mgおよび300mgの中間でした。

 有害事象の発現率はtelcagepant 50mgが32.2%,150mgが32.0%,300 mgが36.2%,プラセボが32.2%と差がありませんでした。

 同グループは「片頭痛発作に対するtelcagepant 300mg投与は2時間後の頭痛と他の症状の緩和に有効で,頭痛の解消は最大24時間後まで持続した」としています。

  Connor KM, et al. Neurology 2009; 73: 970-977.


新しい作用機序を有する片頭痛治療薬の有効性を確認


 片頭痛発作に対する新規治療薬telcagepantの有効性が臨床第III相試験で確認されたと,欧州と米国の共同研究グループがLancetの12月20日号に発表しました。
 Telcagepantは,片頭痛の病態生理に関係すると考えられるカルシトニン遺伝子関連ペプチドの受容体に対する経口拮抗薬。片頭痛発作の治療に広く用いられているセロトニン作動薬のトリプタン系薬とは異なり,血管収縮作用がないという特徴をもっています。
 第III相試験の対象は,国際頭痛学会の基準で片頭痛と診断された成人1,380例。中等度~重度の発作の治療にtelcagepant 150mg(333例)または300mg(354例),ゾルミトリプタン(345例),プラセボ(348例)のいずれかを服用する群にランダムに割り付けました。主要評価項目は,治療2時間後の頭痛の消失,緩和,随伴症状である光過敏,音過敏,悪心の解消としました。
 その結果,telcagepant 300mg群はプラセボ群と比べ,頭痛の消失(27%対10%,P<0.0001),頭痛の緩和(55%対28%,P<0.0001)をはじめ,光過敏や音過敏,悪心の解消のいずれにおいても有意に有効でした。telcagepant 300mgとゾルミトリプタン5mgの有効性はほぼ同等で,ともにtelcagepant 150mgより効果的でした。有害事象の発現率はゾルミトリプタン5mg群の51%と比べ,telcagepant 300mg群では37%と少なかった。
 同グループは「telcagepant 300mgの有効性はゾルミトリプタン5mgと同等だが有害事象が少なく,片頭痛の急性期治療に効果的である」と結論しています。

  Ho TW, et al. Lancet 2008; 372: 2115-2123.


以前にもこれは記事に致しました。


  http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11946296982.html