これまで明らかにしましたように、頭痛領域では、日本神経学会と日本頭痛学会の共同監修によって、EBMに基づいて「慢性頭痛診療ガイドライン」が作成されました。
まず、ここでは、片頭痛は家系内発症例が多く,連鎖解析や双子研究からも遺伝的素因の存在はほぼ確実であり,複数の遺伝子が関与して発症することが推測されていますが,まだ確実な原因遺伝子や疾患感受性遺伝子はみつかっていません.
片頭痛の家族内発症が多いことは以前から指摘されていましたが,それが遺伝的素因に基づくものであるのか,環境因子によるものであるのか,あるいは有病率が高いことによる単なる偶然であるのか議論の多いところでした.
近年の家系解析や双生児研究などの結果,片頭痛は,複数の遺伝的素因と複数の環境因子が関与している”多因子遺伝疾患”であることが示唆されました.
しかし、いまだ、片頭痛が”多因子遺伝”とするなら、その”環境因子”がなにかという肝心要の論点に至ることなく、”環境因子”の追求は、置き去りにされている現状があります。
片頭痛患者のミトコンドリア機能障害の仮説の論点から、マグネシウム,ビタミンB2,feverfew はある程度の片頭痛予防効果を期待することができるとされ、その推奨ランクはBに止まっています。
そして、基本的に、片頭痛発作時には、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質が減少あるいは機能が低下しており、片頭痛発作の時に、脳内セロトニン様作用をもつトリプタンを投与することによって、機能低下状態に陥っているセロトニンをバックアップしています。
現在では、このように、神経伝達物質である「脳内セロトニン」の低下を補填するためにのみ片頭痛治療の主眼が置かれ、トリプタン製剤が第一選択薬とされています。
「慢性頭痛診療ガイドライン」では、片頭痛治療の推奨ランクAとしてトリプタン製剤が挙げられます。このEBMに基づいた評価の問題点は「製薬会社と医師」のシリーズで明らかにしたばかりですので、述べないことにします。
「体の歪み(ストレートネック)」に関しては、「体の歪み(ストレートネック)」に関する専門家とされるカイロプラクター・整体師・鍼灸師の方々はガイドライン作成には参画されていないため、評価されることはまったくなく、記載は存在しません。
「慢性頭痛診療ガイドライン」上では、緊張型頭痛と片頭痛はまったく別物であり、連続したものではないとされ、緊張型頭痛と片頭痛ともに原因不明とされます。
少なくとも、ガイドラインでは、片頭痛は主役であり、緊張型頭痛は取るに足らない頭痛であるという考え方が根底に貫かれています。
慢性頭痛の起点である緊張型頭痛は、「体の歪み(ストレートネック)」に関連したものと考えるべきものであり、これは東京脳神経センターの松井孝嘉先生の業績からも明らかであり、これを現在診療の場面で実証されておられることを忘れてはなりません。
ここに「慢性頭痛診療ガイドライン」の最大の問題点があります。
そして、「片頭痛患者のミトコンドリア機能障害の仮説」といった考え方に示されるように、「ミトコンドリア機能障害」は、第二義的であり、「脳内セロトニン」の低下を補填するためのトリプタン製剤を第一義的に考えていることです。これが問題です。
本来、「ミトコンドリア機能障害」が第一義的であり、「脳内セロトニン」は、これに関連して生じているもののはずです。
すなわち、これまでも繰り返し述べておりますように、「ミトコンドリアの働きの悪さ」は、「セロトニン神経系」そのものの機能低下をもたらします。その結果として「脳内セロトニンの低下」をもたらします。
セロトニン不足のためセロトニン本来の働きである「正しい姿勢の保持」が、困難となり、「体の歪み」を招来し、結果的に「ストレートネック」を引き起こします。
脊柱の両側には直立姿勢に重要な脊椎起立筋が姿勢をガードしています。
背骨を支える「脊柱起立筋」という筋肉は、体の中で最も長い骨を支えるため、赤筋が最も多く存在している筋肉です。持久力のある筋肉は、まさにミトコンドリア系の赤い筋肉です。このように全身を支え、姿勢を整える筋肉グループ「抗重力筋群」に、ミトコンドリア量が多い事がわかっています。
こういったことから、ミトコンドリアの働きが悪くなれば当然のこととして「体の歪み(ストレートネック)」引き起こされることは明らかです。
このように「脊椎起立筋」に対して「ミトコンドリア」は筋肉に、脳内セロトニン不足は神経系に関与して、「体の歪み(ストレートネック)」を引き起こすことになります。
このように、「ミトコンドリア」「脳内セロトニン」「体の歪み(ストレートネック)」は、慢性頭痛発症の要因となっているはずです。この3つのうちいずれかの関与の比重いかんで、緊張型頭痛・片頭痛・群発頭痛の表現型を示すものと考えるべきです。
これら「ミトコンドリア」「脳内セロトニン」「体の歪み(ストレートネック)」3つの働きを悪くする要因は、先日、詳細に述べたばかりです。
そして、これら3つはお互い密接な関係を持っています。決して、別個のものではないはずです。
「ミトコンドリア」「脳内セロトニン」の2つは、「慢性頭痛診療ガイドライン」では、それぞれ、間接的にエビデンスEBMが確立されているはずです。
どうして、これらを有機的に結びつけた考えをされないのでしょうか???
前回に取り上げたような「慢性頭痛診療ガイドライン」でのEBMの考え方では、到底慢性頭痛の病態把握には程遠いものと思われます。
なぜ、このようなEBMの考え方をされるのでしょうか?
論理的に考えることが許されないのが頭痛研究のあり方のようです。
現在のような方法論では、一般の方々には到底納得されないのではないでしょうか?
これが、現在の頭痛専門医の思考過程と考え、諦めざるを得ないのかもしれません。
こうしたことから、患者の病状や治療環境など諸事情を総合的に検討した結果、ガイドラインから外れた診療を行うしかないようです。