診療において,患者さんの納得が大切です。インフォームドコンセントとは、患者中心の医療,患者が自ら選び取る医療において,最も根本にある考え方です。
治療法などについて,医師から十分な説明を受けた上で,患者さんが正しく理解し納得することです。医師は平易な言葉で患者の理解を確かめながら説明します。患者は納得できる治療法を選択し,同意します。医師が治療法を決めるのではなく,かといって患者にすべてを決めてもらうのではなく,”ともに考える医療”です。
私は,それぞれの患者さんの理解力を見極めた上で,できる限り易しい言葉や表現を選び,患者さんが分かっているかどうか一つ一つ確かめながら,ゆっくりと話を進めることが大切と思っております。とくに片頭痛治療においては必須のことです。
ここでは、”中学生”を例にして、片頭痛と診断した場面を想定して説明致します。
当医院では、必ず頸椎X線検査を行った上で、ストレートネックを確認します。
これを説明する際に、必ず、患者さんに次のように、お聞きすることにしています。
これまで、保健体育で、人間の背骨はどのようになっていると教わりましたか?と・・ この返事をお聞きした上で、S字状の湾曲を呈していることを説明します。
ところが、あなたの首はまっすぐになっていて、なおかつ前へ倒れています。
このため、常に、後頸部の筋肉群は引っ張られた状態にあります。このため、後頸部の筋肉群の”凝り”は、上方へ拡がることによって肩こりによる頭痛を引き起こしてきます。
さらに、この後頸部の筋肉群の”凝り”の刺激は、頭蓋内の「三叉神経核」へ常時送られることになり、これが片頭痛を引き起こす”準備状態”を作ってきます。この状態に加えて、何らかの”引き金”となる刺激が追加されて、激しい頭痛発作を引き起こしてきます。(これらは、図示して理解しやすいように説明します。)
そして、頸椎X線検査上みられる「ストレートネック」の原因について説明します。
この原因には、3つあります。
1.前屈みの姿勢・・ゲームのし過ぎ、スマホの操作
2.脳内セロトニンの低下
3.ミトコンドリアの働きの悪さ
この説明を行うために、まず「ミトコンドリア」について説明します。
ここでも、再度、患者さんにお聞きすることにしています。聞き慣れない語句は必ず、理解度を確認することにしています。
ミトコンドリアとは、体の”どこにあるもの”で、何をしていますかと・・
その答えに合わせて、改めて説明します。
私たちの、すべての体の細胞の中にある、小さな器官であり、私たちが生きていく上で必要とされる”エネルギー”を作る大切な場所です。
このミトコンドリアが最も多い場所は、私たちの体を支える背中の筋肉に分布しています。このため、ミトコンドリアの働きが悪くなれば、姿勢が正しく保てなくなり、体の歪みを引き起こし、これが首にまで波及してストレートネックを作ってくることになります。
私たちの生活をスムースに行うには「神経系」の働きが正常でなくてはいけません。この神経系には、手足の動きを司る”運動神経系”、手足の感覚を司る”知覚神経系”、さらに内臓諸臓器の機能を調節する”自律神経系”があります。そして、これらの”運動神経系””知覚神経系””自律神経系”を統率している”セロトニン神経系”があります。そして、ミトコンドリアの働きが悪くなれば、この”セロトニン神経系”に影響が及ぶことになります。その結果、「脳内セロトニンの分泌が悪くなり」、脳内セロトニンの低下が引き起こされます。
脳内セロトニンの働きとしては
1.大脳皮質を覚醒させ、意識のレベルを調節する
2.自律神経調節する
3.筋肉へ働きかける
4.痛みの感覚を抑制する
5.心のバランスを保つ
この5つがあります。このなかの 「3.筋肉へ働きかけ」です。
セロトニン神経は、筋肉へ働きかける役割を担っています。
セロトニン神経は直接体を動かすのではなく、筋肉を緊張させることで、影響を与えています。セロトニン神経が働きかけるのは、抗重力筋です。抗重力筋とは、重力に対して姿勢を保つために働く筋肉のことです。まぶたが開き、首が立ち、背筋が伸び、歩いたりできるのは、この抗重力筋のおかげです。セロトニン神経が活性化していると、まっすぐな姿勢や生き生きした表情になることができます。反対にセロトニン神経の働きが弱まると、背中が丸まったり顔の表情がどんよりしてしまいます。
このため、セロトニンが不足してきますと、「体の歪み」を引き起こしてきます。
このように3つの原因が重なりあって、現在のストレートネックが引き起こされています。このことから、この3つを改善させていく必要があります。
ここまで説明した段階で、理解してもらえたかどうか、まず、確認するため、雑談を必ず入れることにしています。分かっていなければ、再度、別の言葉で説明しなおします。
そして、ミトコンドリアの働きである”エネルギーを作る”ために必要な栄養の摂取の仕方に移っていきます。ここで、家庭科で”食育”について、どのように教わったかを確認します。エネルギーを作るために必要な栄養素、ビタミン、ミネラルが必要であることをお話しします。細々としたことは省略し、満遍なくバランスのよい食事が必要であることを強調し、このためには”偏食”が最も悪いことを説明します。
そして、ミトコンドリアは日中、休みもなく働きづめであるため、夜は睡眠を十分にとることによって、ミトコンドリアを休ませる必要があると説明します。
そして、「脳内セロトニンを低下」させないように、「セロトニン神経系」の働きをよくするようにしなくてはいけません。そのためには、最低限、早寝・早起きが大切で、朝起きたら太陽の光を浴びる習慣をつけましょう。そして、朝ご飯はきちんと食べて、よく噛んで食べるようにしましょう。そして、睡眠時間は、最低7時間前後確保し、このためには、朝余裕をもって起床するように指導します。
そして、付き添いのお母さんの指導を含めて、マグネシウム不足、市販の鎮痛薬の弊害(ミトコンドリアの働きを悪くさせるため)について説明します。
そして、偏食がよくない点を説明し、マグネシウム、トリプトファンを積極的に摂取させるような献立を考えてもらうようにお願いします。
最後に、ストレートネックそのものを改善させるために、日常生活の過ごし方を確認し、スマホ、携帯電話、ゲーム機の操作時間を確認した上で、長時間に渡る場合は、30分に1回は休憩を挟むように指導し、毎日、就寝前には「背骨伸ばしのストレッチ」を1回3分間習慣づけるように指導し、極力、ストレートネックの改善に努めるように指導します。 このようにしながら、市販の鎮痛薬の服用は月6回以内に抑えるべく指導します。
さらに、頭痛ダイアリーを記録して頂いて、頭痛の頻度を確認すると同時に、片頭痛発作の誘因(引き金)を探るべく指導し、次回の診察まで記録してもらいます。
これは、片頭痛を発症させる要因として、これが「ミトコンドリアに関連したものか」「脳内セロトニンの低下によるものか」「体の歪み(ストレートネック)によるものか」のいずれなのかを推測するためのものです。
そして、問題は付き添いで一緒に来られたお母さんに対する説明が残されています。
多くの付き添いで一緒に来られたお母さんの方々は、片頭痛は遺伝的疾患ではないのか、という疑問です。これに対して、説明することが求められます。
そこで、片頭痛は遺伝的疾患であるとすれば、お母さんのご兄弟は、すべて片頭痛なのですか?とお聞きします。あるお母さんは、すべて兄弟姉妹すべて、片頭痛であるとお答えになる人もおられます。しかし、こうしたすべて兄弟姉妹の子供さん、すべてが片頭痛になっているのかを、改めてお聞きすることにしています。この中では、必ず、すべての子供さんには片頭痛を発症していないことが理解して頂けます。
こうしたことから、片頭痛を発症させる”遺伝素因”はあるものの、その後の生活環境によって、片頭痛を発症する場合もあり、片頭痛を発症しない場合もあると説明し、これは、生まれた後の生活様式の問題から片頭痛を発症するものである、と説明します。
これは、糖尿病の家系、のある方々が、すべて糖尿病を発症する訳ではなく、その後の生活習慣・・食べ過ぎ・運動不足・肥満等々が原因で起きてくるものであり、こうした後々の生活様式の問題で起きてくるものであり、片頭痛も全く同様であると説明します。
以上のように、「ミトコンドリア」「脳内セロトニン」「体の歪み(ストレートネック)」の、この3つが、片頭痛発症の鍵を握っていることを納得してもらいます。
そして、頭痛専門医によっては、片頭痛発症当初からトリプタン製剤を服用すべき、とか「抗てんかん薬のデパケンの服用を強要する」場合がありますが、こうしたことは、片頭痛発症間もない子供さんには不適切この上もないことであり、仮に「トリプタン製剤を服用」して、頭痛が消失すれば、以後、すべて「トリプタン製剤」に頼る気持ちを植え付けることになり、根本的に治そうとされず、これが一生「トリプタン製剤」の餌食になってしまい、挙げ句の果ては「トリプタン製剤」の中毒を作ってしまうことになりますので、こうした事態は極力避ける必要があります。そして、「抗てんかん薬のデパケンの服用を強要する」場合がありますが、これは長期的にみれば「抗てんかん薬のデパケン」の副作用として「ミトコンドリアに対する毒性」および、てんかんでもない子供さんにこのような「抗てんかん薬のデパケン」を服用させることは、将来的にみて「抗てんかん薬のデパケン」からの離脱が困難となることから、安易に服用すべきではありません。
このためにも、これまで申し上げてきました「ミトコンドリアを弱らせない」「脳内セロトニンを低下させない」「体の歪み(ストレートネック)」の是正に的を絞れば解決されます。「抗てんかん薬のデパケンの服用を強要する」医師は、こうした観点もなく、単純に「脳過敏」を抑制するために「抗てんかん薬のデパケン」を勧めているに過ぎず、まさに”極めて、単純な素人以下の発想”に過ぎないことを理解することが大切です。
そして、食事の作り方を考えてもらうことです。
その要点は「肉の多食」「脂肪の摂り過ぎ」「砂糖の摂り過ぎ」「野菜の不足」”肉・牛乳(乳製品)・卵の摂りすぎ、ビタミン・ミネラル不足、低食物繊維、マグネシウム補充、植物油の使い方、トリプトファンです。
この詳細は「片頭痛の生活習慣の改善」という冊子http://taku1902.jp/sub132.pdf
をご覧になられるようにお願いしています。そして、今後の治療の方向がどうあるべきかの参考にして頂くことにしています。
そして、診察が終了した段階で、もう一度、理解できたかどうかの確認を忘れないようにしています。
以上のような説明は口頭では到底理解されるはずはありません。このため図示して説明するようにしております。
以下が、その図示した説明です。→ http://taku1902.jp/sub181.pdf
このようにして、初診時に、片頭痛が、多因子遺伝という遺伝形式により先祖代々から受け継がれ、その”環境因子”として「ミトコンドリアを弱らせる””環境因子”」「脳内セロトニン低下を来す”環境因子”」「体の歪み(ストレートネック)を引き起こす”環境因子”」によって発症してくる頭痛である、ということを理解して頂き、「片頭痛の生活習慣の改善」という冊子http://taku1902.jp/sub132.pdf を帰宅後に改めて、ご覧頂くようにお勧めし、今後の治療指針にして頂くようにしています。