食物と片頭痛 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 多少、古い成績ですが・・・


 食物と片頭痛の関連について検討した海外の報告は多く、食文化の相違や、食生活の様式も片頭痛の発生に影響すると言われています。片頭痛を誘発する可能性がある有名な食物として、チョコレート、チーズ、柑橘類などが挙げられており、それらに含まれる血管作動性のアミンが頭痛の発生に関与する可能性が指摘されています。
今回私は、H 17年2月からH 18年1 月までの1年間に当院を初めて受診し、国際頭痛分類によって片頭痛と診断した約250例の患者さんについて、受診直前の頭痛と食物の関係について調べてみました。その結果について簡単にお話しいたしますが、頭痛出現24時間以内に、約25%の患者さんが、ラーメンや中華料理、チョコレート、柑橘類、ナッツ類、チーズ、ビール、チョコレートを、1か月以上という間隔をあけて、つまり久しぶりに摂取して、片頭痛が起こっていたということがわかりました。また、約10%の患者さんは、これらの食物を二種類以上摂取して頭痛が起こっていました。
 これらの患者さんの、頭痛が出現した時間について検討すると、睡眠中から朝起床時の間に頭痛が起こった割合が明らかに多いことが分かりました。また、それらの食物の摂取から頭痛出現までの時間も検討してみましたが、約3/4の症例が3時間から12時間後までの間に頭痛が出現していました。
 それぞれの食物の摂取から頭痛出現までの時間については、長いものから述べますと、チーズやチョコレートは約12時間、ビールは約10時間、ナッツ類は約8時間、ラーメン・中華料理や柑橘類は約7時間、赤ワインは6時間という結果になりました。チーズやチョコレートを食べてから頭痛が出現するまでの時間は、ラーメン・中華料理または柑橘類による場合に比較して有意に長かったことがわかりました。
 食物の片頭痛への関与を検討する方法として、アンケート調査、誘発食物を除去した食事による検討、あるいは食物に対するチャレンジテストなどが行われてきました。しかし食物と関連して頭痛が起こることを自覚している症例を母集団としている報告もあり、被験者が頭痛の出現を予測することが指摘されています。またチャレンジテストではプラセボ効果により頭痛が出現する可能性があり、テスト中のストレスも結果に影響すると言われています。今回の検討は、初診患者さんに対して、受診直前の頭痛発作と食物について検討いたしましたが、誘発する食物について患者さんの知識や先入観がない状態での検討であり、プラセボ効果を考慮する必要がないことが利点であったと思われます。
 これまでに、食物の摂取から頭痛出現までの時間に関して、最長で27時間との報告がありますが、その他の多くの報告は、食物摂取後24時間以内に出現した場合を食物により誘発された頭痛としています。今回の検討でも、頭痛が出現する前、24時間以内の食物を検討しましたが、その食物を前回摂取した時から今回の摂取までの間隔が1ヶ月以上であった症例が約25%と高率であり、誘発した食物の内容は、ラーメンや中華料理、チョコレート、柑橘類の順に患者さんの数が多く、次いでチーズ、ナッツ類、ビール、赤ワインという結果でした。
 片頭痛が出現する時間に関しては、ストレスを感じることが多い正午過ぎにピークがあるとの報告がありますが、今回の検討では、食物と関連する頭痛は睡眠中から朝、起床時に高率に出現していたことも特徴的な事実と思われます。海外にも同じような報告があり、この出現時間の偏りを考慮すると、食物と睡眠という複数の誘因により片頭痛が誘発されている可能性があると思われます。
 赤ワイン、チーズ、ナッツ類などに含まれるチラミンは、交感神経の終末からノルエピネフリンを放出させることにより血管収縮を起こします。そして、その後に反動として出現する血管の拡張により、片頭痛が誘発されると考えられています。赤ワインに関してはチラミンのみでなく、ヒスタミンやフラボノイドも関与することが示唆されています。また、チョコレートのチラミン含有量は意外に多くはなく、むしろ特徴的に含まれるβ-フェネチルアミンが関与しており、また柑橘類ではオクトパミンが頭痛を誘発すると言われています。
 一方、グルタミン酸による頭痛の誘発には、いくつかの機序が考えられています。実験的には、グルタミン酸には血管への直接的な収縮作用のみでなく、片頭痛と関連することを示されている三叉神経脊髄路核への刺激作用があることが示されていますし、更に大脳皮質において、特に片頭痛の前兆に関連すると考えられるcortical spreading depression の発生、進展、そして維持に重要な役割を担うことともされています。
 また、臨床的にも、片頭痛の患者さんでは頭痛発作中の血漿中グルタミン酸濃度が上昇すること、前兆のある片頭痛の患者さんでは血小板中のグルタミン酸濃度が高いことが報告されており、片頭痛発作やcortical spreading depression の発生にグルタミン酸が関与することが示唆されています。
 今回の検討では、ラーメン・中華料理を摂取した後に片頭痛が起こった症例が最も多かったのですが、それらの食べ物に含まれているグルタミン酸が、頭痛の発生に関与した可能性が高いと考えられます。
 グルタミン酸により引き起こされる頭痛として中華料理症候群が知られており、頭痛以外に全身の脱力、動悸、胸部から後頭部の知覚異常などの症状を伴いますが、この場合、グルタミン酸の摂取から症状発現までの時間は15分から60分と短いと言われています。
 一方、グルタミン酸により誘発される片頭痛では、グルタミン酸の摂取から頭痛出現までの時間が中華料理症候群に比較して長いことが報告されており、今回の検討でも摂取から約8時間後であったことから、中華料理症候群の頭痛と、グルタミン酸により誘発される片頭痛は、異なる機序により引き起こされるのかもしれません。
 また約10%の症例において、複数の食物の摂取後に頭痛が出現していましたが、チラミンがグルタミン酸による血管収縮作用を増強することを示した報告があり、食物の相乗作用により頭痛が誘発された可能性も示唆されました。
 食物の摂取から片頭痛出現までの時間については24時間以内、特に12時間以内が多いと言われています。ある報告では、チョコレート摂取から頭痛出現までの時間は平均22時間であったのに対して、赤ワインでは平均3時間であり、それぞれの成分の吸収速度の違いにより頭痛出現までの時間が異なると述べています。今回の検討で、チーズまたはチョコレートの摂取から頭痛出現までの時間は、ラーメン・中華料理または柑橘類の場合に比べて有意に長いという結果でした。それぞれの食物に含まれる成分により、頭痛誘発までの時間が異なることが示唆されます。
 冒頭で述べましたように、食物の他にも様々な片頭痛の誘因があり、それらの相乗的な作用により片頭痛が誘発されると考えられますが、今回の検討は、予備的な調査であるにしても、特定の食物が片頭痛の誘因になる可能性を示しており、今後本邦においても前方視的検討が行われることが期待されます。


  (田中滋也先生による)