「片頭痛は一次性頭痛の代表格とされ、「脳のなかには異常がない」とされています。
片頭痛は、これまで長い間、脳を取りまく血管の病気、つまり「血管性頭痛」であると考えられてきました。しかし、片頭痛前兆の研究や片頭痛特効薬トリプタンの作用メカニズムなどから、現在では血管の疾患ではなく、大脳の深い部分にある間脳あるいは脳幹と呼ばれる器官の付近に「片頭痛発生器」があると考えられるようになってきました。つまり片頭痛は「中枢神経疾患」であると頭痛専門家は考えているようです。
このように、「脳のなかには異常がない病気」と定義しておきながら、”トリプタンで片頭痛の病態”のすべてが説明されるとの考えから、「脳の中に原因がある」と主張されます。
こういった矛盾を矛盾とまったく認識していないようです。
片頭痛の病態を説明する仮説として,これまで血管説,神経説および三叉神経血管説の3つの機序が考えられ,それぞれ独立して唱えられてきました.今日では,これら3つの仮説は片頭痛における病態の一部をそれぞれ反映しているものとして捉えられています.片
頭痛の前兆は大脳皮質拡延性抑制が主な病態であり,疼痛は三叉神経血管系の神経原性炎症です.これらを引き起こすもの,結びつけるものとして”片頭痛発生器”の存在が提唱されています.一方,片頭痛の痛みの起源に関しては,脳血管や硬膜など末梢性に起因するという考えと,脳そのものにより三叉神経脊髄路核が活性されて生じているものではないかという考えがあります.片頭痛の病態生理にはいまだに解明されていない点がありますが,片頭痛とは,「素因を有する個体において何らかの刺激により起こる神経系および血管系の異常反応である」ことに間違いないようです.すなわち,「セロトニンの生体内での異常変動が惹起する,全身反応を伴う頭蓋血管の異常状態」といえます.
片頭痛発生器とは
まず、片頭痛を考える上で重要なポイントは、発作のトリガーが生じた時に、その発作が増強されやすくなる特性を、もともと片頭痛患者が有している可能性です。
これは、一部の遺伝性片頭痛患者において Ca2+ チャネル異常による神経細胞機能の変調が存在する事や、片頭痛患者において発作間欠期に交感神経系の機能低下の存在することと一致します。(この点がストレートネックの関与が示唆される点です)
このような”片頭痛を増強しやすいと考えられる母体”に、何らかの原因で脳幹に存在していると考えられている“片頭痛発生器”が活性化され、大脳皮質拡延性抑制spreading despression や三叉神経血管系の異常な活性化により頭痛が生じると考えられています。
つまり、全てヒトに片頭痛発生器があり、それが活性化することはあるのですが、一部の人に、その刺激を増幅してしまう“体質”があり、それが臨床的な“片頭痛”として現れるとされています。
そして、その片頭痛発生器ですが、片頭痛発作発生源として脳幹の縫線核、青斑核および、中脳水道周囲灰白質 なとが候補に挙げられています。とくに 中脳水道周囲灰白質 は前頭葉や視床下部から入力を受け、三叉神経脊髄路核や脊髄後角へ投射する下行性痛覚抑制系の神経回路を形成する一部であり、高解像度 MRI により片頭痛患者で中脳水道周囲灰白質における鉄含有量の増加が認められたことと合わせ、注目されています。
また、中脳水道周囲灰白質の血管奇形からの出血で慢性片頭痛となった症例が報告されており、この系の疼痛抑制の障害により頭痛発作が助長された可能性が考えられています。
片頭痛発生器への刺激、すなわち、前頭葉や視床下部へは、ストレスやいろいろな刺激・食物などが原因となるということです。
一方、発作時にトリプタンの効果が認められない症例などの機序の一つとして、脳過敏という概念も注目されています。これは、脳が外からの刺激に過敏になることで、片頭痛発作が起こりやすい状態になっていること言います。主な症状は「臭い過敏」、「音過敏」、「光過敏」などで、片頭痛が正しく認識されていなかった結果、適切な治療が行われていなかった症例がこの状態となることが推測されています。
(しかし、このような状態は「脳内セロトニンが低下もしくは枯渇した状態と考えるべきです。)
こうした脳過敏の起こるメカニズムとして脳幹部の機能低下と考えられており、こうした部位は鍼の鎮痛効果のメカニズムと一致することから、鍼治療はこうした脳過敏を正常化することで片頭痛患者に寄与しているものと考えられています。
さらにArterial Spin Labeling MRIを用い、鍼刺激が片頭痛患者の脳血流に及ぼす影響について検討を行い、片頭痛患者に顔面部及び頸肩部に対し鍼刺激を行うと、鍼刺激中、鍼刺激直後、鍼刺激15分後、鍼刺激30分後に有意な脳血流の増加が認められ、同部位は片頭痛発生器と一致しさらに鍼の鎮痛メカニズムの中枢であることから、こうした部位への反応が片頭痛の発作予防に関与する可能性があることについて報告されています。
この点も示唆的なものと思われます。
参考までに、セロトニン神経は、脳の中心にある「脳幹」の、さらに中央に位置する「縫線核」という部分にあります。
「縫線核」は片頭痛発生器が存在する可能性のある部位でもあります。
以上のように、頭痛研究者は、片頭痛の病態はトリプタンで説明可能とすることに起因しているようです。そして、これ以外のものには全く関心がないようです。
これが、現在の頭痛研究者の考え方です。
これまでの、脳の中には異常がないという原則は、いつの間にか忘れ去られたようです。
こうした矛盾点を矛盾と認識されないことを問題にしています。