これまで、片頭痛の comorbid disorders (共存症)として、冠動脈疾患,虚血性心疾患,狭心症,不整脈などの心疾患などがありますが、これらはいずれも片頭痛との関連を示唆する報告があります。
こうした心疾患や脳血管障害の ある患者さんにはトリプタン製剤が使用できないことが問題になっておりました。ところが、これらの発症要因は関連していると考えるのが妥当です。
片頭痛が心臓発作リスクの増大と関連
片頭痛を有する人では心臓発作が起こりやすく、その発生率は片頭痛のない人のほぼ2倍であることが、新しい研究によって示されました。ただし、この2つの状態が関連する正確な理由は未だ不明とされています。
医学誌「Neurology(神経学)」オンライン版の2月号に掲載された今回の研究で、米アルバート・アインシュタイン医科大学(ニューヨーク)神経学教授のRichard B. Lipton博士らは、片頭痛を有する6,102人と片頭痛のない5,243人を比較。研究の結果、片頭痛患者における心臓発作の発生率は4.1%、消耗性頭痛のない人では1.9%であることが判明しました。
以前の研究では、心臓障害や脳卒中などの心血管障害と片頭痛との関連が示されており、女性のみを対象とした研究では、特にアウラ(前兆)と呼ばれる視覚障害を伴う片頭痛を有する場合に脳卒中の発生率が上昇することが示され(女性は片頭痛を有する可能性が男性の最大4倍高い)、男性のみを対象とした別の研究では、心疾患のリスク増大が示されています。
今回の研究では、アウラを伴う片頭痛を有する群の心臓発作の発生率は片頭痛のない群の3倍でした。また、片頭痛患者は心臓発作や脳卒中、その他の心血管障害の古典的な危険因子(リスクファクター)を有する可能性が高かったことが示されました。:糖尿病(12.6%対9.4%)、高血圧(33.1%対27.5%)、高コレステロール(32.7%対25.6%)。
Lipton氏は「これらの危険因子の差によって片頭痛に関連するリスク増大の説明はつかない。既知の心血管の危険因子で調整後もリスク増大が認められました。心血管リスクの低減は誰にとっても重要ですが、片頭痛を有する場合はなおさらです。体重管理、血圧を低く保つこと、コントロール可能なすべての危険因子を修正することに特に注意すべきである」と報告しています。
米ニューヨークプレスビテリアン/ワイルコーネルメディカルセンター(ニューヨーク)のHolly Andersen博士は「明らかに、大多数の片頭痛患者は女性であり、若い女性であることが多い。これは心疾患予防に有用なマーカーである」といいます。別の専門家は「片頭痛を有する女性の脳卒中リスクは明らかであるため、心疾患のリスクがあると考えても無理はない。ただし、これは観察研究であり、メカニズムに対する理解を深めるには研究を拡大する必要がある」としています。(HealthDay News 2月10日)(2010.2.22掲載)
このような、片頭痛と心疾患、脳梗塞の関係をどのように考えるべきでしょうか?
最近、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は、先生の書籍”お医者さんにも読ませたい片頭痛の治し方”の中で、片頭痛は生まれつき「ミトコンドリアの活性低下」があり、このために一寸した「環境の変化」により活性酸素が過剰に産生されると述べています。
それでは、活性酸素とどのような関係があるのでしょうか?
体をさびさせる活性酸素
酸素は地球上のほとんどの動物にとっては、なくては生きていけない大切なものです。しかしその酸素が呼吸によって体内に取り入れられると、その一部が「活性酸素」といわれる不安定な状態になり、近くの物質と結びつこうとします。物質が酸素と結びつくことを酸化といいますが、鉄がさびたり、空気に触れたりんごの切り口が茶色になったり、あるいは雨ざらしのゴムホースがぼろぼろになったりするように、活性酸素が体の中でさまざまな「さび」の状態を作るのです。
活性酸素が過剰になると、物質が酸化によってぼろぼろに壊れてしまうのと同じ現象が、人体の中でも起こると考えてよいでしょう。その結果、がんや動脈硬化、脳梗塞、心疾患、糖尿病、白内障などの生活習慣病を引き起こします。また、活性酸素はしみやしわなどの原因になり、老化の最大の原因であることもわかってきました。
ヒトは理想状態では120歳くらいまで生きられるように、遺伝子がプログラムされているといわれます。しかし、生きていくためにはエネルギーを必要とします。エネルギーは摂取した栄養分を酸素によって燃やすことによって得られますが、そのとき酸素に触れた細胞膜やDNAなどが酸化することは避けられません。活性酸素によるいわば「体のさび」が老化です。
こうして多くのヒトは40歳前後から老化が始まり、50~60代で病気になり、次第に弱ってゆき、遺伝子に組み込まれた時間よりも早く死を迎えるのです。
現在の研究では、活性酸素は全疾患の90%以上に何らかの形で関っているといわれています。
「悪玉」活性酸素の「善玉」の側面
では活性酸素はヒトにとって宿命的な敵でしかないのでしょうか。かの悪名高き(?)LDLコレステロールでさえ、人体になくてはならない細胞膜の材料として、あるいはホルモンや胆汁の原料として使われ、それなしでは生きていけません。活性酸素に善玉としての存在理由が何かあるのでしょうか。
その答えは消毒薬のオキシフルです。オキシフル(過酸化水素水)も活性酸素の一種で、傷口の細菌やウイルスにダメージを与え、傷の悪化を防ぎます。これと同じように活性酸素も、体内に侵入した細菌やウイルスを死滅させる働きを担っています。活性酸素があるおかげで、細菌やウイルスの攻撃から身を守ることができ、健康を保っていられるのです。
活性酸素のメカニズム
酸素は、酸素原子が2つ結びついた(O2)もので通常、2つの原子核の周りを16個の電子が回っています。電子は2個ずつペアになって同一軌道上を回っています。
ところが何らかの原因でペアを組めない一人ぼっちの電子ができてしまことがあります。これを不対電子といいますが、不対電子を含む分子は不安定になり、ペアを求めて他の物質とくっつこうとする性質があります。このように一つの軌道に電子が1個しかない不対電子をもつ原子または分子を、フリーラジカルといいます。
活性酸素はこうしたフリーラジカルをもった酸素のことで、その名のとおりラジカル(過激)に他の分子から電子を奪い取ろうとします。
活性酸素には4つの種類があり、反応の弱い順に過酸化水素、スーパーオキシド、一重項酸素、ヒドロキシラジカルとなっています。
・過酸化水素……不対電子はありませんが、不安定ですが、ラジカルではありません。体内では細菌を殺してくれます。
・スーパーオキシド……17個の電子をもち、そのうちの1個が不対電子になっているものです。最も多いタイプでラジカル性が強いのが特徴です。
・一重項酸素……酸素分子の片側の電子がもう一方の軌道に入ってペアを組み、一つの軌道ががら空きになっているものです。
・ ヒドロキシラジカル……酸素原子と水素原子1個ずつからなり、過酸化水素が銅や鉄などの金属イオンに反応したときにできます。不対電子を1個持ち、活性酸素の中で最も危険なタイプです。
活性酸素の発生源
私たちの体内に取り入れた酸素の2%が活性酸素になるといわれます。食べ物をエネルギーに変えるときに発生するほか、紫外線や大気汚染によっても活性酸素は生まれます。また加工食品中の有害添加物や殺虫剤、レントゲン、電磁波、医薬品なども活性酸素の発生源になります。さらに激しいスポーツをしたり、強い精神的なストレスを受けたりしたときも、活性酸素は発生すると考えられています。これらの活性酸素に対しては体内で追い出すシステムもあるのです。
活性酸素がもたらす病気
動脈硬化の原因はコレステロールだけではない
動脈硬化は、血管がところどころで狭くなったり、硬化し、もろくなったりする病気で、脳卒中や虚血性心疾患を引き起こす原動力となります。動脈硬化をもたらす危険因子としては高血圧、高脂血症、喫煙、糖尿病、肥満などがありますが、直接的な原因はコレステロールの血管壁への沈着と考えられてきました。
それは確かにそうなのですが、近年は「コレステロールだけでは動脈硬化は起こらない」と考えられるようになってきました。
コレステロールは主に細胞膜の材料と使われ、一部はホルモンや胆汁の原料となりますが、水になじみやすいLDL(低比重リポたんぱく)やHDL(高比重リポたんぱく)にひっついて血液中を流れます。このときLDLコレステロールが多くなると血管壁に沈着します。それを掃除してくれるのが「善玉」といわれるHDLコレステロールです。
血管内に必要以上のLDLコレステロールがあり、そこに活性酸素が加わると、酸化LDLという体にとっての異物がつくられます。その異物を掃除するために、今度は白血球の一種であるマクロファージが出動し、体内の異物を食べて処理します。しかし、酸化LDLの量が処理能力を上回ると、マクロファージは壊れて死滅し、血管壁にその残骸がたまっていきます。動脈硬化の原因はこのマクロファージの残骸だったのです。
つまり動脈硬化はLDLコレステロールの過剰、HDLコレステロールの不足に加えて「活性酸素の過剰発生」という条件が加わって引き起こされるというわけです。
こういったことで、片頭痛と心疾患・脳梗塞とは関与していると考えるべきのようです。
現在、頭痛専門医は、これまでの報告例のように、あくまでも症例報告のような感覚でしかみておりません。このために、「活性酸素」との関連性は、エビデンスなしと、頭ごなしに却下されると思われます。
こうした考え方が、永年「頭痛研究」を遅らせてきた最大の理由です。
このように、片頭痛は、従来の生活習慣病と同様の発症様式をするものと思われ、片頭痛に至らなくするためには、従来の生活習慣病と同様の観点から”食生活”が重要であることを示していると言えます。