緊張型頭痛がひどくなると片頭痛になる?
「日常的に肩こりを自覚していて,疲れたり睡眠不足になると肩から後頭部に重い感じの
痛みが上がってくる。後頭部の鈍痛で終わるときもありますが,我慢していると頭仝体がガンガン痛んで吐き気も出現し,ひどいと嘔吐する。ガンガン痛いときには,家族の話し声もうるさく感じて,静かな部屋で暗くして横になると少し楽になる」といった患者さんはよく遭遇します。ひどい頭痛はおそらく片頭痛と診断して問題はないでしょう。後頭部の鈍痛に関しては、緊張型頭痛と診断される場合が多いと思われます。このように緊張型頭痛で始まり、程度が強くなると拍動性の頭痛を伴うものを、オーストリアの Lance は tension-vascular headache と命名しました。
片頭痛が緊張型頭痛に化ける?
「20 歳ころから時々片頭痛発作を起こし結婚後片頭痛発作が頻繁になるが、40 歳ころから緊張型頭痛が加わってきて、50 歳を過ぎると寝込むようなひどい頭痛発作は起こらない代わりに、だらだらと重く締め付ける感じの頭痛が続くようになった。」このような患者さんは古い分類で混合性頭痛としていた典型例です。国祭頭痛学会分類では、以前のものは片頭痛で、中年以降の頭痛は緊張型頭痛と診断されるでしょう。このようなパターンを片頭痛が加齢とともに変化(transform)したということで、米国の Mathew は変容性片頭痛 transformed migraine という概念を提唱しています。ただ国祭頭痛学会分類のカテゴリーとしては現在のところ認められていません。一方、片頭痛の治療に鎮痛薬などを乱用していますと頭痛が発作性の型から、連日性になっていくことがあります。いわゆる薬物乱用による慢性連日性頭痛ですが、これも 変容transform した片頭痛の一種と考えられています。
片頭痛と緊張型頭痛の一元論
Featherstone (1985) は「 Migraine and muscle contraction headache: a continuum」と題する論文で、片頭痛と緊張型頭痛は連続したものであるとしました。これは2つの頭痛の症状の違いは頭痛型よりむしろ頭痛の程度に相関するとするもので headache severity model とも呼ばれています。事実、電気生理検査、生化学的検査、自律神経機能などの検討で、両方の頭痛の差は程度の差のみで、質的に同様な異常を示すものが少なくないのです。脳波の検討では片頭痛、緊張型頭痛いずれでも 6 & 14 Hz positive spike や、突発徐波などの脳波異常を認めることがあり、家族性に脳波異常を伴う頭痛家系を調査すると、臨床頭痛型は、同一家系内に片頭痛、緊張型頭痛のいずれもが認められました。セロトニンの代謝異常、血小板機能の異常は片頭痛でよく知られていますが、緊張型頭痛でも少なからず異常を認めました。血清中、唾液中マグネシウムの異常もいずれの頭痛でもみられます。瞳孔機能検査、起立試験などの心血管系自律神経機能検査でも片頭痛、緊張型頭痛ともに末梢交感神経機能低下が示唆されており、その差は質的な差ではなく程度の違いであるとの報告もあります。ミネソタ多面人格試験などによるパーソナリテイ研究でも、片頭痛患者と緊張型頭痛患者に特徴的な差異は認めないとされています。
実際の頭痛診療でどのように考えるか?
”片頭痛”と”緊張型頭痛”の関係が、本質的に同質のものであるのかまったく独立したものかという議論は、学問的に興味深いのですが、結論はなかなか出ないように思われます。一方、”片頭痛患者”と”緊張型頭痛患者”の境界は不明瞭で、慢性頭痛の患者さんの大部分は、片頭痛と緊張型頭痛の両方の要素を併せ持っています。
緊張型頭痛と片頭痛の関係
慢性頭痛患者の症状を多変量解析したところ、緊張型頭痛、片頭痛の因子を区別することができました。したがって、個々の頭痛発作に関しては緊張型頭痛と片頭痛を区別できますが、個々の頭痛患者さんでみてみますと、両方の要素をそれぞれの比率で併せもっていて、境界は不明瞭です。
片頭痛因子は、拍動性、片側性、高度頭痛、悪心・嘔吐などで、すべて国祭頭痛学会分類の診断基準に含まれています。症状の上で緊張型頭痛、片頭痛の因子を区別することは可能です。片頭痛因子を多くもつものが片頭痛患者であり、緊張型頭痛因子を多くもつのが緊張型頭痛患者です。およそ半々でもつものが、片頭痛と緊張型頭痛を合併した患者で、以前は混合性頭痛、連合性頭痛などと呼ばれていた患者群に相当します。
片頭痛と緊張型頭痛の多くは症状は重複
片頭痛と緊張型頭痛の症状の多くは重複していて、個々の症状のみで診断することは困難です。たとえば、軽度~重度の頭痛、両側性および片側性の頭痛は両者に認められます。
また、片頭痛、緊張型頭痛ともに拍動性でないことが多い。さらに、緊張型頭痛の特徴と認識されることの多い「肩こり」も多くの片頭痛で随伴しています。
片頭痛因子(血管症状)
拍動痛
片側性
高度頭痛
悪心・嘔吐
緊張型頭痛因子(筋症状)
締め付け感
圧迫感・頭重
後頭部の頭痛
肩こり
片頭痛は、一回の発作においても段階によって症状の変化がみられる頭痛です。大きく分けると、予兆(前ぶれ症状)、前兆、頭痛発作、後症状になります。前兆(閃輝暗点:せんきあんてん)の有無には個人差がありますが、予兆は大抵の方にあります。予兆の症状の中で、一番多いのが「肩こり」です。「生あくび」や「空腹感」が現れる方もいらっしゃいます。
この予兆は、頭痛をよく知っている医師にとってはごく当たり前のことなのですが、国際頭痛学会による「片頭痛診断基準」では、触れられていません。ですから、一般の医師の中には、予兆を知らない方も多いようです。患者さん自身が誤解していらっしゃることも多く、初診で来たときに、「肩こりから起こる頭痛だと思うのですが・・・」とおっしゃる方がよくいらっしゃいます。私はその後の頭痛の経過を詳しく聞きますが、もし予兆を知らない医師であれば、「肩こり」だから「緊張型頭痛」と診断してしまうことになります。 肩こりを訴えて首のレントゲンを撮った結果、首に異常が見つかり、「緊張型頭痛」と診断される方も多いようです。片頭痛は女性に多い病気ですが、首がきゃしゃな人で40歳以上であれば、首のちょっとした異常は多少なりともあります。肩こりや首の異常を理由に、片頭痛の人が緊張型頭痛と診断されて薬を出されても、その薬はほとんど効果がありません。そこで、病医院に行くのをあきらめて自分で市販薬を買って対処しているうちに今度は薬剤誘発性頭痛になって、毎日のようにつらい頭痛に悩まされる患者さんが非常に多いわけです。私のところにいらっしゃる患者さんでは、以前他の病院で緊張型頭痛と診断された方の8割以上は片頭痛であることが判明しています。まず、医師も患者さんも、片頭痛の予兆に「肩こり」があることを知っておくことが大切なのです。
片頭痛の痛み方そのものも、発作の過程や時期によって変化します。最初は、ドクンドクンとした拍動性(脈に合わせて痛むこと)であっても、市販薬を乱用して薬剤誘発性頭痛を引き起こしていれば、痛みはドーンとしたものに変わってきます。また、片頭痛は女性ホルモンと関係が深い頭痛ですから、女性ホルモンの年齢的な変動によっても痛みは変化し、更年期になるとやはりドーンとした痛みに変わるようです。拍動性の痛みでないからと言って、片頭痛を否定することはできません。
片頭痛だから片側が痛む、と思いこんでいる方も少なくないのですが、これも間違いです。片頭痛でも、左右どちらかの痛みを強く感じる場合はあるにせよ、基本的には両側が痛むことが稀ならずあるのです。
このように予兆の「肩こり」だけでなく、「拍動性」「片側が痛む」という症状も、片頭痛と緊張型頭痛の診断にはあまりあてにはなりません。
それではどのように見分けるかというと、片頭痛に特徴的な随伴症状で判断します。例えば、「動くとガンガン響いてつらい」「吐き気がする、吐いてしまう」「光、音、匂いに過敏になる」がそうです。これらは、痛みが拍動性ではなくても、肩こりを伴う場合でも、片頭痛であればみられる特徴的な症状で、国際頭痛学会による「片頭痛診断基準」でも取り上げられています。このような随伴症状があれば、片頭痛と思って間違いはありません。自分で頭痛を見分ける際にも、頭を振るなど体を動かしてみて、頭痛がひどくなるかどうかをみるのが有効です。「動くとガンガン響いてつらい」症状は、片頭痛であれば予兆のような比較的早い段階からみられますが、緊張型頭痛の場合は動いてひどくなることはあまりありません。
頭痛が起こり始めた時、この頭痛がどこへ行くかはミステリーなのです。緊張型で終わるのか、緊張型頭痛経由片頭痛なのか、片頭痛直行なのか。これは患者さんにも分かりませんし、医者にはもっとわかりません。
頭痛体操やストレッチ、階段の上り下りをしてみても見極めがつかない場合は、飲み慣れた使いやすい鎮痛剤を飲んで戴いて、30 分後に頭痛が悪化してくるようならトリプタン系薬剤を飲んで下さい。また、朝から痛い場合は片頭痛と考えられますし、ご自分の経験上片頭痛だとわかる場合には、最初からトリプタン系薬剤を服用して下さい。
以上のように、緊張型頭痛も片頭痛も共通して、ストレートネックを高頻度に認めるわけですので、このように臨床症状には、重複するものが多いということです。
片頭痛としての、特徴的な症状を把握しておくことが極めて大切なのです。
発作時の、おくすりの服用の仕方を考える際の重要な点になります。
以上の点は、片頭痛も緊張型頭痛も、ともにストレートネックを基盤として、頭痛が引き起こされ、これらの頭痛がどのような”形”になるかは、その時、その時に、誘因(引き金)が、いくつ重なるかで決定されるのではないでしょうか?
少ない”引き金”では軽い緊張型頭痛で終わり、複数の”引き金”が重なれば、重度の片頭痛発作が引き起こされるものと思われます。
その程度も、さまざまだろうと思われます。