片頭痛とセロトニン | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 これまでOCNのブログ「頭医者のつぶやき」に掲載していたものです。
 アクセス数の多かったものを、ここに再度掲載させて頂きます。


 現在、脳内のセロトニンの働きとして、5つくらいの機能が、すでに基本的な機能としてわかっているとされています。それは以下のようなものです。

  その1:大脳に働きかけて覚醒の状態を調整する。
  その2:心の領域に働きかけて、心のバランスに関係する

  その3:痛みの調節をする。
  その4:自律神経への働きに関係する。
  その5:姿勢筋に緊張を与える。

 このうち、片頭痛と関連する機能として、2から5までが関与していると考えられます。


 片頭痛とセロトニンに関しては、これまで断片的にその関連が論じられて参りました。


 まず、片頭痛と「セロトニン」に関しては、片頭痛の患者さんに「セロトニンが不足している」理由として、生まれつきのものなのか、セロトニン不足を来す生活習慣に由来した後天的なものか、異論の多い所です。これに関しての考え方として、「片頭痛を発症する人は、どうも生まれつき、セロトニン神経の調子が悪い」という考え方です。 
 
 神経終末でセロトニンを放出する神経をセロトニン神経とかセロトニン作動性神経とか表現しますが、ここではセロトニン神経と呼びます。
①セロトニン関連遺伝子がある? 残念ながら現在同定されていません。
 うつ病などでも薬物に早期から反応が良好で軽症の方と、薬物の反応が不良で増量してもなかなかよくならない方はなんらかの遺伝的素因が想定されています。
②1991年に片頭痛治療薬スマトリプタン(GSKのイミグラン)が発売されその薬理学的作用の研究が進みました。
 現在、コンセンサスが得られている機序は3つです。
a)トリプタンはセロトニンの5-HT1B受容体を刺激し、血管の平滑筋を強力に収縮させる。
b)トリプタンはセロトニンの5-HT1D受容体を刺激し、三叉神経終末で神経伝達物質CGRP(カルシトニン遺伝子関連蛋白)の放出を抑制し疼痛の波及を抑制する。
c)トリプタンはセロトニンの5-HT1D/1F受容体を刺激し、三叉神経脊髄路核での疼痛閾値を上げる。ゲートコントロールとして作用する。

 要するに、セロトニンの調子があまりよくないということです。

 基本的に、片頭痛発作の時はセロトニンと呼ばれる脳内物質が減少あるいは機能が低下することが知られています。片頭痛発作の時に、セロトニン様作用をもつトリプタンがよく効くのは、機能低下状態に陥っているセロトニンをバックアップするためなのです。


 さらに、2011年9月中旬にNHKためしてガッテンで「不眠・めまい・耳鳴りは過去の片頭痛が原因だった。」という内容の番組を放送していました。
 その中で、片頭痛では”脳内のセロトニンが減少する”と起こりやすくなるとはっきりと説明していました。
 セロトニンが減ると脳の血管が拡張して痛み物質が発生するために頭痛が起こる。
 片頭痛の治療薬トリプタンは痛み物質を抑えて脳の過敏状態を防ぐことができる。
抗うつ薬も脳の過敏状態を抑える薬なので、めまいや耳鳴りに使われると説明していました。
 頭痛専門医でない医師にとって、そこまっでわかっているなら、どうして減っているセロトニンを増やそうとしないのかな?と不思議に思うことは、素朴な疑問です。
 セロトニンの合成経路を考えて、必要な材料をたっぷりと補充してやれば、ちゃんと合成するはずです。
—トリプトファン(アミノ酸)、ビタミンC、カルシウム、ビタミンB群、鉄、マグネシウム。

 これこそが片頭痛の根本的な治療ではないでしょうか?

 当院にいらしている片頭痛の患者さんは月に4~5回以上片頭痛がおこり、トリプタンを飲んでも2~3日は寝込むのだそうです。
 そしていつ片頭痛が起こるのか心配でとおっしゃっていました。
いつ起こるかわからない片頭痛におびえながら暮らすなんて、つまらないと思いませんか?
この患者さんは血液検査から鉄、ビタミンB群が不足が明らかで、セロトニン合成の材料が不足していました。
サプリメントを飲んで頂き、今は片頭痛は月1回しかおこらず、症状もぐっと軽くなり寝込むことはなくなったと喜んでおられます。
 症状を根本から解決し、将来の病気を予防することこそ、自分が受けたい医療です。
患者さんだって、きっとそう思うはずです。


 以上のように、片頭痛の方は生まれつき「セロトニン神経」の働きが悪い「頭痛体質」を持っており、このために、些細なことで痛みを感じやすくなっていて、これを「脳が興奮しやすく」なっていると表現されています。

 また、脳内セロトニンの不足が色々な病気の原因の一つとして知られています。片頭痛、不眠症、睡眠障害、冷え性、うつ病、産後うつ、更年期障害、月経前症候群などの様々な病気が誘発されているとこれまで言われてきました。
 片頭痛の患者さんの60 ~ 80%ぐらいが、アロディニアを伴うといわれていますが、発症5 年以上たたないと、アロディニアは出てこないことが多いようです。
 このアロディニア症(異痛症)は、「脳内セロトニンが減少している」ため”痛みを抑制することが出来ず”に容易に痛みが出現しやすくなるということです。


 Diksicらによれば、健常男性は女性より約52%脳内セロトニンを産生する能力が高く、またセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏すると、女性では脳内セロトニン合成が男性の4倍減少する、と言われています。(Diksic M. et al.,94: 5308-5313, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1997)

 月経周期と片頭痛の関連は1970年代に報告され、特に性ホルモンとして知られるエストロゲンの血中濃度の変化と深く関係していることが示唆されました(Somerville, 1971)。エストロゲンはセロトニン合成を促進し、セロトニンは血管収縮を引き起こすことから、排卵や月経に伴うエストロゲン血中濃度の急激な低下がセロトニン濃度の低下、ひいては脳血管の拡張を引き起こすという仮説が提唱されました。また、卵巣切除ラットを用いた実験では、エストロゲンを補充してやることでセロトニン放出を増加、あるいは血管径を収縮させることが出来ることが示され(Pardutz et al., 2002; Mehrotra et al., 2007)、性ホルモンであるエストロゲンがセロトニンを介し脳血管径に影響を与え、月経周期に同期した片頭痛発作を誘発している可能性が示唆されました。セロトニン神経の起始核である縫線核にはエストロゲンの受容体が豊富であり、性周期に伴う気分の変動についても、エストロゲン濃度の変動が影響していることが考えられます。

 このため、片頭痛は男性より女性に多い頭痛なのです。
 そして、季節的に、春は、脳内のセロトニンの変動が大きく、ほぼすべての片頭痛の方々が一番苦手とする季節であるという事実があります。


セロトニンと姿勢の関係


「セロトニン」には5つの機能がありますが(前述)、このなかで、「よい姿勢の維持」という機能があります。それは、「抗重力筋」につながる運動神経に直接刺激を与えることができる為、姿勢がよくなる、ということです。。
(抗重力筋は立った姿勢を維持する為に使われる筋肉の事。首・お腹・背中・脚の筋肉など。)
 このように、セロトニンと抗重力筋には深い関係があります。抗重力筋とは、首筋、背骨の周囲、下肢の筋肉、まぶた、顔面の筋肉等です。眠っているときはこれらの筋肉は休んでいますが、人が起きているときには、これらの筋肉は常に働いています。
 まぶたや顔面に筋肉は、顔にしまりを与えます。首筋や背骨の筋肉は姿勢を正しく保つために大切な役割をしています。
 セロトニンは、首筋、背骨の周囲、下肢の筋肉、まぶた、顔面の筋肉等筋肉に対し、運動神経のレベルを上げる働きをしています。ですから、セロトニンが活性化されているときには、背筋がピンとしていて、顔にもハリがあるのです
 実は、この「抗重力筋」、ラットを用いた動物実験では、抗重力筋に関わる脳の部位を電気刺激しますと、 脳内の「セロトニン(5HT)」という精神を安定させるホルモンの発火を引き起こすことが明らかになっています。
 人の脳内のセロトニン量の測定方法に関しましては、まだ一定の手法が確立しているとはいえませんが、少なくとも動物実験の結果から、「抗重力筋」と「セロトニン」には密接な関係があると考えられます。
 このような理由が直接関係しているかどうかは分かりませんが、実際、うつの方には、猫背気味になっている方々が多いように感じます。
 うつだから猫背になるのか?または猫背のようにしているから気分がうつ気味になっていくのか?これはどちらが先に引き起こされる現象かは正確には分かりませんが・・・、

 この点から推測されることは、セロトニン不足により、「体の歪み」が引き起こされる可能性です。逆に、「体の歪み」のため、セロトニン不足を助長しているのかもしれません。(ニワトリが先か、タマゴが先か、不明ですが・・)


 特に、小児期に「体の歪み」が多いことが指摘されていますが、これも「生まれつき、ミトコンドリアの働きが悪く」このため「セロトニン神経の働きの悪さ」による「セロトニン不足」が関与しているのかもしれません。
 この場合も、どちらが原因で、どちらが結果なのかは、症例毎に、点検する必要があると考えます。


 以上のように、片頭痛の方は、生まれつき「ミトコンドリア」の働きが悪く、このため「セロトニン神経の働き」を悪くし、一寸したことで「痛みを感じやすくなっており」これを”脳が興奮するといった「脳の過敏性」を持っている”と表現されておられるようです。
 さらに、このため「正しい姿勢」を保持することが困難なため「体の歪み」を起こしやすくなって来ます。
 「体の歪み」については、これが長期間持続することによって「片頭痛の誘発・増悪因子」となって来ます。

 このような観点から、基本的に「セロトニン神経」をいかにして鍛え、「セロトニン神経」を減弱させない「セロトニン生活」が極めて重要となってきます。


ストレートネックとの関連


 平成24年9月に当医院で、頸椎レントゲン検査を行った1969例の中で、ストレートネックの出現頻度をみてみますと、以下のようでした。
 ここでの「ストレートネック」とは先日述べたような診断基準に従った「頸椎異常」指しております。


 頭痛あり  1,212 例中 1,023 例 84 %
 

  その内訳は、以下のようでした。


    緊張型頭痛 1,054 例中 874 例 83 %
    片頭痛    155 例中 146 例 94 %
    群発頭痛    3 例中  3 例

 頭痛なし   757 例中 202 例 27 %


 と明らかに、その出現頻度に差を認めました。

 また、男性に比べて女性では圧倒的に「ストレートネック」の出現頻度が高かったことが示されておりました。

 これまで、頭痛と首に関する研究を長年されてこられた先生は、緊張型頭痛は明らかに、頸部筋肉の異常緊張が関与し、これを改善させることにより緊張型頭痛が完治すると述べておられ、片頭痛の一部も、この頸部筋肉の異常緊張が関与し、これを改善させることにより片頭痛が治るものがあると指摘されています。
 私の成績では、緊張型頭痛以上に、片頭痛の場合にストレートネックの合併頻度が高かったということを示しています。
 このような結果をみますと、少なくとも、ストレートネックが「片頭痛の誘発・増悪因子」となっているものが存在することが推測されます。


「体の歪み」→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓               ↓
↓       脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓               ↓
↓       中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓               ↓
↓        脳の過敏性、頭痛の慢性化

自律神経失調症状 → 交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
                              (慢性頭痛)


 片頭痛も緊張型頭痛も共通して「頸部筋肉群の疲労」を基盤として発症すると考えられます。この根拠として、両頭痛に共通してストレートネックが認められる点です。
 
 遺伝的素因のない場合は、首の筋肉のこりは、大後頭神経に痛みのみ起きることによって、「純粋な緊張型頭痛」を発症します。
 遺伝的素因があれば、すなわち、片頭痛の場合は、生まれつきセロトニン神経が働きが悪いことによる「痛みの感じやすさ」が存在するところに、首の筋肉のこりの刺激が、大後頭神経から三叉神経に絶えず刺激が送られ続けます。このため、「痛みの感じやすさ」がさらに増強され、常時、脳の過敏性が高まった状態が継続していきます。
 このような基盤ともとにして、これまで言われてきたような、誘因(引き金・・トリガー)が加わって、容易に、「片頭痛」発作が引き起こされるものと思われます。
 この際、トリガーとなるものが、どの程度重なるかで、片頭痛発作の程度が決まってきます。
  まず神経系の変調があると予兆を、神経活性物質変化で前兆を、三叉神経が感作されると(軽度の頭痛)緊張型頭痛が引き起こされます。 
 さらに血管が賦活されると神経血管系感作を引き起こし(中等度~重度の頭痛)片頭痛へ、中枢感作が起きるとひどい片頭痛(重度の頭痛)が起きて来ます。

 このような起こり方をするため、片頭痛は人によって、また同じ人でも、そのときの体調などによって、とてもひどいときとそうでもないときがあります。さらに、発作の起きる頻度も、人によって、年1回であったり、週に2回であったりとまちまちなのです。


 以上のように、片頭痛はセロトニンと極めて深い関わりがあることが推測されます。
 そして、これを無視した片頭痛治療はあり得ないと考えております。