第7話 わすらるる企業年金連合会
★大屋敷からの提案
「瀬奈先生の事務所で人を雇ってくれまへんか?」
突然の大屋敷からの申し入れで目をパチクリさせる瀬奈
「あきまへんか?」重ねて大屋敷が尋ねる。
「いや、大屋敷さん、ここは1人で充分やって行けるし、たまに娘の陽菜に資料作成や整理を手伝ってもらえれば何も問題ありません。ですから今は特に雇用しようという気はないです」
「そうでっか・・・彼女、残念がるだろうな・・・」
「誰か?うちでバイトしたいと言っている酔狂な人がいるんですか?」
「そうや、瀬奈先生も知っている方ですわー、会田翔子さん。厚生老齢年金の44年ルールを先生が教えてくれはった方です。わしの高校の先輩に当たる方でんがな・・・依頼人が多くてお忘れですか?」
「いえいえ、覚えていますよ」と瀬奈は言いながら、忘れるわけない。あの当時62歳だが、見た目は40代、そしてアニメ声の会田さんだ。若作りの痛いおばさんだったと強烈な印象が残っている。
「その会田さんがどうしても瀬奈先生の所で働きたいと言うんですわ、自分で言えばええやんって言っても、あの声で (嫌、恥ずかしくて言えない) なんて言われたらお手上げですわ・・・」
「そういえば、可愛い声でしたよね。会田さん」と瀬奈も同意せざるを得ない。
「会田さんは63歳まで働いて退職する。その後は特例年金をもらって、厚生年金に加入しない働き方を勧めましたね。もう1年近くになるんですね、そろそろこちらからも連絡しようと思っていました。彼女どうなりました?」と瀬奈が続ける。
「こないだ63歳になって、退職届を会社には提出したらしいが・・・強く引き止められたらしい、経理一筋44年だから後任がいないっていう理由で・・・だが何とか受理されてもうすぐ有給消化に入るらしい」
「それはもう本当に頭が下がりますね。で・・・厚生年金に加入しない働き方がうちなら出来ると・・・そういう事で頼まれた訳ですか?」
「いや、ちゃうねん!瀬奈先生のファンだって会田さんが言うねん!あ!内緒って言われていたのに言うてもうた!」大屋敷は笑っている。
わざとだなと瀬奈は考えた。大屋敷の事だ、また何か企んでるに違いないと警戒しながら
「私のファンですか?嬉しいなあ、私にもファンクラスが出来るなんて」と【しいく語】で話す瀬奈
解説しよう!【しいく語】とは瀬奈が大好きな【しいくがかり】というバンドが使っている特徴的な言葉である。【しいく語】ではファンクラブではなく、ファンクラスとなる。さしずめ瀬奈のファンクラスなら3年B組といった所であろう。瀬奈所有のAI搭載スマートフォンである私からは以上です。
「会田さんがな・・・瀬奈先生の所で本気で働きたい、特にお金が欲しいわけじゃない。瀬奈先生のお手伝いがしたい。別に仕事のある時だけでも良いからっちゅう話なんやけど・・・ ちょっと無理なお願いかのう?」と大屋敷
「いや、無理ではないですよ。本人とお話してみないとわからないですけどね。私の方から連絡してみますよ。退職後の年金の裁定請求の手続きもありますので」
「ほうでっか、先生おおきに~、会田さんはめちゃくちゃ可愛いですし、脈ありでんな〜」と笑いかける大屋敷
瀬奈は大屋敷の狙いがわかった。会田さんと俺をくっつけさせようとしているなと。しかしくっつけさせてこのおっさんに何のメリットがあるのだろうか?このおっさんは親切心で動くようなタマじゃない。
そこが何かひっかかる・・・
「そうですね。明日にでもご連絡してみます」
「おおきに、おおきに」と大屋敷は機嫌よく帰って行った。
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