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…俺は携帯電話を取り出した。夜の11時半。時刻を確認し、公園にあるベンチに座った。
今現在。時はめぐり、あの3日間から5年後。あのときは高校2年生の時だったから…17歳か。今は22歳。あの時の約束はちゃんと守っている。社長の座を継ぐという現実から目をそむけずに生きている。
携帯電話にはあのとき俺が買ったガラス細工に紐をつけ、携帯ストラップのようにしている。ガラス細工の桜の花びらはところどころ欠けている。しかし俺は忘れられない。毎春この桜公園に来ているが…いいや、何故か吸い寄せられるように足を運んではいるものの、彼女には1回も会っていない。彼女のことしか考えられないし、誰かのことを好きになろうとか新たな恋をしようとかも思わなかった。自責の念は今でも残っている。あの時言っておけばよかった…という。悔やんでも時が戻るわけではないのに、俺の心には苦々しくその傷は残っている。

あぁ、それにしてもいつ見ても綺麗な桜だ。今の季節は春。満開の桜が俺の目の前にある。どこか幻想的な雰囲気をかもし出している。
「…すいません、隣よろしいですか?」
いきなり声をかけられたものだから、びっくりはしたが、俺はさほど気にせずその人物を隣に座らせた。
「桜…綺麗ですね。」
「あぁ…そうですね…。」
「ここの桜に特殊な思い入れでもあるんですか?」
色々聞いてくるな、と少し不審には思ったが、その時の俺の気分は悪くなかったようで、ぺらぺらと話した。
「いやぁ、ここが5年前僕の恋人と僕が別れた場所なんですよ。」
「別れた…と言いますと?」
「別に関係が続かなかったとかではなくて、離れ離れになってしまった所なんですよ。あぁ、あのときいきなり風が吹いてきて、目を話した隙に彼女は…。毎年、春になるとここへ帰って来てしまうんですよね。」
俺は、質問に答えた後、隣の人物に目を向けた。
そこに座っていたのは綺麗な女性だった。よく見ると、首にペンダントを下げている。…桜の花びらの形をしたガラス細工が下げられている。これは、あの時俺が買ったおそろいの物…。
「そうですね…本当にあの時は申し訳なかったです。でも、『シン』も元気そうで何よりです。」
間違いない。桜の花びらの形をしたガラス細工、彼女しか呼ばない俺のあだ名。彼女は正真正銘、吉野御法だ。
「吉野…なのか?」
「そうですよ。私もやっとこの思い出深い場所に帰ってくる事が出来ました。」
「そうだったのか…。じゃあ、あの時言えなかったことをここで言っていいか?」
吉野は頷(うなず)いてくれた。
5年間という歳月は本当に長かった。しかしこの気持ちだけは変わらない。あの時言えなかったことで失くしていたチャンスをもう一度与えられたのだ。
…言う心の準備は出来ている。
「俺は…染井清壱郎は…吉野御法。キミの事が好きだ。」
彼女…いや、御法は俺に昔のままの笑顔を見せてくれた。

                                  Fin…

                   あとがき。
(注)学校で見せる分と、ネットに公開する分。あとがきを分けて書くのがとっても面倒臭いので、一つに統一します。
こんにちはー。このしょぼい小説を書いた、ナンバーとか言うクソガキです。最近学校では俺の事をオタクとかドMとか知ってるやつ意外に多くてびっくりだよ!ってか、俺の事をMたんって呼び始めたやつは表に出ろ(何)
えー、この小説は恋愛小説でございます。俺は恋愛なんてした事ないので、カップル?デート?何すればいいの?って感じだったので変な部分があるかもしれません。…さすがにデートでゲーセンは行かないかな!?やっぱり!俺の文章力の低さのせいだよ!俺は悪くないんd(殴
小説を書こうと思ったきっかけはと言いますと、ネットで知り合った「郁夜」という少年にですね。俺、小説書こうと思うんだけどどうよ?と聞いたところ、恋愛小説を書いてみやがれというね…。
俺が小説書くときって、大体キャラから作り始めるんだけれども、今回出したキャラは結構前から考えてたキャラを出演させてみました。
主人公である「染井清壱郎」は社長の息子ということで、金とか地位とかそこらへんのドロドロしたストーリーの主人公にさせようとか思ってたんですが、俺の文章力のなさによって挫折。ヒロインである「吉野御法」はなんか出てきた。っていうか、キャラの特徴を書いていたノートに「染井清壱郎」とコンビで出てきてたから、一緒に出しとくか…的なノリです。まぁ、思惑はあったんですけどね。名字だけ合体させると「ソメイヨシノ」になる…とか。桜についての小説じゃなかったら分からなかったかもね。
小説の原案を書き始めたのが夏休みの終わりごろで、原案を書き終わったのが10月の中旬。そんで清書し終わるのが12月ってどういうことなんだよ…と自分のダメさ加減を再認識。いつまでに書けなかったら罰ゲーム☆ とかリア友とかとやってたけど、結局締め切りは守れず罰ゲームと。その時のことはあんまり思い出したくないから聞いちゃダメだぜ!(死んだ魚の目で) まぁ、この小説を読んで「おもんねー。」と思ったり「まぁ、いいんじゃね?」とかそういう感想は色々あると思います。でも俺の中では一瞬でも「面白いじゃん…」と思ってもらえれば幸いです。
てなわけで、謝辞など。
この小説を書こうと思わせてくれた郁夜。原案をバスの中で書いている間、ノートを覗き込まないで居てくれた、阪急バスご利用の乗客の皆様。
そして、この文章力のない稚拙な小説を読みたい!と言ってくれた人達に感謝を。
また、他の書いたら読んでやってもいいよという方がいましたら言ってください。こんなもの書いてみて欲しいとか、そういうリクエストも募集してみます。まぁ、ご期待に添えられるかどうかは分からないけどね!でもやる気は俄然変わってきます。それでは皆さんまた会いましょう!




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朝8時。目覚まし時計のアラーム音が鳴り響く。とりあえずこの騒音を鎮めてから時刻を確認。うん。昨日セットしたとおり8時にちゃんと起こしてくれたようだ。偉いぞ。
昨夜は特に篝火さんに何か言われる、ということはなかった。ただ、買ってきた煙草を美味しそうに吸っていたけれど。まぁ、来年ぐらいから俺みたいな未成年が勝手に煙草を変えないようなシステムを自動販売機に導入するらしいから自分で買いに行くようになるだろう。

1階のリビングに降りると篝火さんが、朝っぱらからやっぱり煙草を吸っていた。下手したら24時間吸っているんじゃないかと思うほどの勢いだった。篝火さんはかなりのヘビースモーカーだ。
「今日はちょっと出かけてきますね…。」
「あぁ、気をつけて行ってこいよ。」
会話終了。
適当に朝食を済ませた後、ある程度身なりを整えて、待ち合わせ場所である守塚駅へ向かった。

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9時50分。待ち合わせ10分前の時刻。駅へ着くとすでにそこには吉野がいた。やっぱり制服姿で。
「早いな。そして制服か。」
「うん。遅れるよりはいいと思って。あ、あと制服は気にしないほうがいいよ?」
「あぁそれは分かったが…待たせたか?」
「ううん。私も今来たばっかりだから大丈夫だよ。」
それなら良かったと俺がほっとしていると、待ち合わせしたのは良いが、どこを回るのかは決めていなかったことを思いついた。
「とりあえず…どこへ行く?」
「うーん。あんまり考えて無いしとりあえず、歩いてみない?」

駅前をスタート地点にこの町を俺達は適当に歩くことにした。
この町には特に観光名所と呼ばれるようなものは無い。枯れない桜も地元の人しか知らない。まぁ、ここも悪いところではないと思うんだがな。
駅前から5分ぐらい歩くとデパートを見つけた。吉野は何か思い出すように言った。
「懐かしいなぁ…このデパート。子供の頃よくお父さんにつれてきてもらったなぁ…。」
「少し寄っていくか?屋上からこの町を見ていくのもいいんじゃないか?」
「うーん、デパートの中は見て行きたい気もするけど、屋上は別にいいや。」
「じゃ、少し寄ってくか。」
店に入ると、綺麗な装飾品の店が並んでいた。目がチカチカする。カバンとか、服とか、アクセサリーとか、女の子が好きそうな物がずらりとそろっている。吉野はやっぱり女の子だし、キラキラした物に弱いみたいだ。
「これ、可愛いけど…高いなぁ…。」
ぶつぶつ何かを呟きながら帰ってきた。
「ここの商品はとっても良い物がそろっているけれど、高いし私には買えないや!」
すっぱり諦めたらしい。

デパートから出て次の目的地を決めあぐねていると、目の前にはゲームセンターがあった。
「なぁ、吉野…。」
「ん?何?」
「げーむせんたー…だろ?あれは。行ってみないか…?俺行ったこと無いんだよ…。」
これは本当のことだった。学校の行き帰りに寄って行った事は無いし、休日にわざわざゲームセンターに行こうなんて思ったことはなかった。
「ふぅ…そういう時だけ箱入り息子っぷりを発揮しないでよ…まぁいいけどね。」
なんとか吉野を説得し、ゲームセンターに入ってみるとそこは未知の世界だった。色々面白そうなアーケードゲームが並んでいる。お、あれがUFOキャッチャーとかいうやつか。
そのなかで、一番目を引いたのは太鼓が二つ並んでいるゲームだった。
「なぁ、吉野。これやってみないか?」
俺が指差したのは『太鼓の素人』というゲームだった。1人PLAY100円、2人PLAY200円と書いてある。吉野は俺のことを見て、
「音ゲーが好きなの…?」
「俺、太鼓なんてたたいたこと無いし、なんか面白そうじゃん。吉野はこのゲームやったことあるのか?」
「まぁ、多少はあるけどね…。」
「じゃあ、やってみよーぜー。」
俺は早く遊んでみたくて、先に100円を入れた。
「先にやっていいよ。染井君。あたしは後でやるからさ。」
「いいのか?」
「うん。」
吉野の先に『太鼓の素人』をプレイすることにした。
「やさしい」「ふつう」「むずかしい」があるが、俺は初めてなので、とりあえず「やさしい」を選択し、曲を選んだ。
…見ている分には簡単そうに見えるがやってみると案外難しいものだ。ノルマクリアはしたものの、フルコンボとはいかなかった。そんな感じで、2曲打ち終わった後、吉野に替わった。
吉野は100円を入れてバチを持った。おぉ、難易度は「むずかしい」でプレイするらしい。結局、吉野は目にもとまらぬバチさばきで2曲ともフルコンボで終え、堂々のハイスコアをたたき出し、名前を残していったのだった…。

ゲームセンターから出て、ファーストフード店で少し小腹を満たした後、古い店が並んでいる通りを歩きまわった。
「ねぇ、ちょっとあそこの店寄ってみない?」
吉野が指差した店は、アクセサリーを中心に売っている店らしい。ガラス細工が店頭に並んでいる。なかば、吉野に引きずられるようにして店に入ると中には棚いっぱいにガラス細工が並んでいた。時間は昼過ぎということもあり、太陽の光が反射して綺麗に光っている。店長であろうか、カウンターに座っているじいさんは、寝てしまっている。のんきなものだ。
「これとか、染井君に似合いそうじゃない?」
吉野が出してきたものは桜の花びらを綺麗にかたどった携帯ストラップだった。
「うん…俺に似合うかどうか分からないけど、吉野には似合うと思うぜ。」
「じゃあ、おそろいにしよっか。」
吉野がレジへ代金を支払おうとしたのを制して、無理矢理言いくるめ、俺が二人分のガラス細工の代金を支払った。男のせめてもの気遣いだと思う。
店を出て、この町を見渡せる場所に行きたいというので、高台に向かった。
…これは余談だが、店のじいさんに「若いって良いねぇ…。」とか言われ、二人で顔を赤くしたのは、秘密だ。

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高台に着いたころにはすでに夕方になっていた。吉野と俺は綺麗な茜色に染まった町を見下ろしている。何故か、ふと見た吉野の横顔は何か儚い感じがした。
少しでも触れてしまえば、ガラガラと音を立てて壊れてしまいそうだった。
彼女にそんな顔をして欲しくなかった。欲を言えば、転校なんてして欲しくなかった。色々、俺に新鮮なものを教えてくれる彼女。俺のことをいつも考えてくれている彼女。
ここ数日で俺は完全に、吉野に対する気持ちは幼馴染の気が許せるヤツから恋人に変化していた。しかしその事は、まだ口にはしていない。どこかよそよそしい喋り方をしていた。そんなことを考えているとこちらの視線に吉野が気づいたらしい。
「綺麗な夕日…。」
「なぁ、聞いていいか?」
俺は今日聞いておきたいことがあった。
「なんで転校することになったんだ?」
「そうだね…そろそろ言わなきゃいけないよね…。実はね、行方不明だったお母さんが見つかったの。」
「母親…?」
そういえば、吉野の口からは父親の話しかでてこなかった。母親の話を吉野から聞くのは初めてだ。
「それでね、私とお父さん2人でお母さんの所へ引っ越すことを決めたのよ。」
何か重大な問題があるんだろうとは思っていたが、やはり動揺は隠せなかったようだった。
「最後に桜公園に寄って行きたいんだけど付いてきてくれる?」
「もちろん。今日は吉野のリクエストに答えるって言っただろ!」
夕日は沈んでいく…。

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桜公園に着くと、そこには変わり果てた桜の木が俺たちを待っていた。そこには満開の桜ではなく、枯れ果てた木しかなかった。
ほぼ花びらはついていない。強い風でも吹いたら全て散ってしまいそうだった。
「…う…えな…かな…。」
「ん?何か言ったか?よく聞き取れなかったんだけど。」
「え?ああ!いや!全然気にしないで!」
そうは言っているものの吉野の顔はどこか暗い。
「ねぇ…。今日はさ!私のわがままに付き合ってくれて…ありがとね。染井君との思い出も出来たし、私は思い残すことはないよ。だから…はなればなれになっても染井君、現実から目をそむけないって約束してくれる?…これは最後の私のわがままだけどね…。」
俺に否定する理由はない。
「あぁ、もちろんだ。」
そして、俺は気づいた。吉野の目には涙が浮かんでいることを。
「一応言っておくね…。さようなら。」
「まだ、早いだろ。出発は明日の月曜日なんだろ?…それに俺も実は1つ言いたいことがあるんだ。」
「何?」
「それは…。」
その時。
強い風が吹いた。突風のような。
一瞬目が開けられなかった。風がやんだころ。そこにはもうすでに、彼女の姿はなかった。
俺の頭では、もう帰ってしまったのかなとか、そんな馬鹿らしい考えしか浮かんでこない。あぁ、そうだ。こういうときの携帯電話ではないか。
吉野の携帯電話に発信する。
お願いだ、出てくれ…という希望も空しく散り、俺の耳に聞こえてきたのは、『この電話番号は現在使われておりません…』
「くそっ!」
俺は駆け出した。桜公園を出て、手当たり次第に探した。畜生、こんなことになるなら初めから言えばよかった。言うのが恥ずかしかったから?相手からの好意に気づいていたのに?何故。何故言えなかったんだ。こんなの理由になるわけがない。俺の中の好きだという気持ちは絶対変わらないはず。ゆるぎない物だったはずなのに…。
言うタイミングだっていくらだってあった。
「俺は…俺はお前のことが好きだったのに!」
空しく響く叫びは暗い暗い闇に溶けていった。
まっくらな そらには ほしが きれいに かがやいていた。

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眠れなかった。
やっぱり意識しているんだろうか。色恋沙汰とは無縁だった俺がいきなり告白されるんだもんな。しかしまぁ、3日ってのは短い。このままでは俺は吉野への気持ちを整理できないまま別れてしまうかもしれない。でも、俺はできるだけそれは避けたいと思っている。やはり早めに決心しなくてはいけない…。時計を見ると、針は午前9時をさしていた。今日は学校が創立記念日で休みだ。吉野は昼から来るみたいだし、もう少し寝るか否かを脳内裁判をした結果、寝ると有罪という判決が下ったのでおとなしく下に下りる。
下に下りると篝火さんが煙草をふかしていた。本当に煙草が似合う人だな。
見ていると篝火さんはこちらに気づいたようで
「よぉ、眠れたか?」
「いえ…あまり眠れませんでした…。」
吉野への気持ちを整理していたら眠れなかったなんて口が裂けても言えない。
「今日はお嬢さんが来るんだろう?」
「お昼ごろに来るらしいです…。」
「じゃあ、俺は菓子でも焼いておく。お前さんも何かすることがあるんだったらしておけよ。」
篝火さんの作るお菓子ははっきり言ってしまうとそんじょそこらのお菓子屋のお菓子よりよっぽど美味しい。特にクッキーなんかは絶品だ。
こうして、時間をもてあましてしまった俺は、これからすることを色々考えてみた。
とりあえず、二度寝は無理だ。寝てしまうと恐らく起きることは出来ないだろう。勉強も無い。近くに試験があるわけでも無いし。…部屋の片付けでもするか。机の上はかなり汚かったかもしれない。とりあえず、自室に戻ることにした…。

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プリント、ノート、教科書…最近そんなに片付けていなかったからか、かなりゴチャゴチャだ。プリントを整理している間に一枚の写真が出てきた。
「これは…」
知らない男女と小さい男の子が写っている。どこかで見たことがあるような気がする。っていうか俺の部屋の中にあるものなんだから、知らない赤の他人のもの、てわけでもないだろう。
男女ともに、今が幸せという顔をしている。
後ろに写っているのは観覧車みたいだ。遊園地での写真と思っていいのだろうか?
…何かが引っかかる。どこかで見たような顔だ。見覚えはないのだが…何故だろう?俺の中で謎ばかりが増えていく。幼馴染のいきなりの転校の理由、俺の自室から出てきた見覚えの無い一枚の写真。
考えるべきことはどんどん増えてくる。幼馴染のいきなりの転校の理由は今日、本人が来るので解決すると思うけど…。
重要な一つが、欠けている。それが何か分かればこの胸騒ぎみたいなものも収まる気がする。
そんなこんなしているうちにもうお昼近くだ。気になることはあるけれど今は待つしかないようだ。積もる話もあるだろう。部屋をきれいにした後はベッドに寝転んで時間を潰していた。

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インターフォンの音が鳴った。遂に来たのだろう、吉野が。とりあえず、寝転んでいた体を起こし、玄関まで下りる。少し時間がかかったからだろうか、インターフォンの音が何回も鳴り響いている。急いで玄関の扉を開けるとそこには私服姿の吉野が…と思ったら制服姿だった。
あまりにも突然だったので聞いてしまった。
「なぁ…今日は学校無いんだろ?なんで制服なんて着てるんだ?」
「あたし、私服にはあんまり自信が無いから。どうせ家は近いんだし、特に誰にも見られずにここまできたよ?」
「そういう意味で言ったわけではないんだけどな…。でもやっぱり顔なじみなのに学校の制服ってなんかおかしくねぇか?」
「え…ダメだった…?」
吉野の目には涙が浮かんでいる。やっぱり男としては女性を泣かせてはいけないと思う。
「いや、あんまり気にはして無いけどさ。ただびっくりしただけさ。ほら、最近は物騒なご時世だろ?」
「うん…それならよかった!」
悲しんだり喜んだり忙しいやつだ。本当に吉野は喜怒哀楽がはっきりしていて分かりやすい。
「ねぇ、今あたしのことを分かりやすいやつだなー。とかそんなこと考えていたでしょ。」
ご名答。と心の中で答えつつ、「まぁ、立ち話もなんだから入れよ。」と言ってごまかした。
「じゃあ、遠慮なくお邪魔しまーす。」

リビングへ進むと篝火さんが待っていた。
「おやおや、大きくなりましたね。お嬢さん。」
「あ、渡辺さん。お久しぶりですー。」
ここらへんはプロだよなぁ。吉野の前では渡辺さんを演じてるけど、俺の前ではどこか気だるそうな篝火さんなんだもんな。まだ、あの人のことはあまりつかめない。過去の篝火さんについて、俺は何も聞いて無いし、聞いちゃいけないような気がする。あの人自体聞いてみても喋りそうに無いし。
「クッキーが焼けておりますので、坊ちゃんのお部屋でお召し上がりください。」
「わー!渡辺さんありがとうございます!」
吉野も篝火さんのクッキーは大好物だ。余分に貰っては家に持ち帰って食べているようだ。作り方を教えてもらえばいいのに。
「じゃあ、染井君のお部屋をご拝見だね。ベッドの下にまたいやらしい本でも隠してるんじゃないの!?いや、男の子なら隠すべき!」
「何の力説をしているんだ。ないから。」
即答した。でも本当に無い。神に誓っても良い。別に俺はキリスト教徒ではないが。俺は友達もあまりいないので、同級生の男共からは、『付き合いの悪いやつ』で通ってるらしい。そのことは実を言うと、吉野から聞いて知ったことだ。無知って言うのは恐ろしいな。
「染井君の部屋って入ったこと無いんだよねー。どんな感じなの?」
「さぁ。特に何も無いぞ。」
俺は自分の部屋と廊下を隔てる扉を開いた。そこには先ほど片付けた小奇麗な。悪く言えば殺風景な部屋があった。
「あらまー、何も無いねー。ポスターとかカレンダーとか貼ってないわけ?」
率直な感想を聞いた後、吉野の問いに答える。
「カレンダーなんかは机に乗るタイプで十分だよ。」
「…にしても、見渡してみて机、本棚、ベッドしかないってどういうことよー。男の子の部屋にしては綺麗過ぎない?もっとすごいのを想像してたのにー。」
「人が上がってくるんだから少しぐらい片付けるのは当然のことだろ。しかもお前の想像は何か間違っているような気がするのは俺だけか?」
「ふーん…ってことはいつもはこんなに綺麗じゃないんだね?」
吉野はへぇーとか、ふーんとか、ほほーとか言っている。お前はオヤジか。
「ところでさぁ…むぐむぐ。」
「食うか喋るかどっちかにしろ。クッキーが美味いのは俺も分かるから。」
クッキーを咀嚼(そしゃく)し、飲み干すと同時に吉野は言った。
「なんで社長になるのは嫌なの?」
あまり考えたくない問題が一番最初に来てしまったことが運の尽きだった。
「嫌なものは嫌なのさ。」
あまりにも子供っぽい回答に少し吉野はあきれているようだ。
「…そうして逃げていてもいつか追いつかれるよ?背を向けて現実から目をそむけて必死に逃げているつもりなんだろうけど、絶対追いつかれるよ。」
話を聞くのが嫌で、俺はわざと話題を逸らそうとした。
「…音楽でも聴くか?最近流行のJ-POPとか…。」
「そもそも音楽プレーヤーが無いじゃない。」
「失敬な。ウォークマンの音量を最大にすれば、あら不思議、普通の音楽プレーヤーとほぼ同じに…」
「茶化さないで!!」
…数秒気まずい空気が流れる。
最初に沈黙を破ったのは吉野のほうからだった。
「ごめんね…染井君にとっては重大な問題なのに勝手に口を挟んで怒っちゃって…。」
「いや、あんまり気にして無いから。俺だっていつかは考えなきゃいけないことを遠くに回していたんだし…。心配してくれてることはとてもうれしいし。吉野の言うとおり俺は逃げているのかもしれない。でも俺は堅苦しい社会のルールに縛られて生きていくのは嫌なんだ。」
「じゃあ、もし社会のルールなんかに決して縛られない存在が居るとしたらどう思う?」
「そんな知り合いが居るんだったら是非、紹介してくれ。」
正直な感想だった。俺は社長とかそういう地位が欲しい訳じゃない。少し皮肉を言ったところもあったかもしれない。吉野はひどく俯いている。
「まぁ…クッキーでも食えよ。」
「うん…。」
クッキーを一枚食べた後、いつになくまっすぐな目でこちらを見据えて言った。
「染井君はね、現実から目を背けすぎだと思う。確かに苦しいよ。怖いよ。でもね、いつかは考えなきゃいけないことなんだよ。ひどいときは、もう手遅れかもしれない。私にとって大切な染井君にはそういうことになって欲しくないんだよ。それが私の正直な気持ち。」
ぐぅの音も出なかった。吉野の言うとおりで俺は逃げている。現実を怖がって見ることが出来ない。人間なんて皆そんなものだろうと思っていた。いや、思い込んでいた。自分に嘘をついていた。
「ねぇ…ねぇってば!」
「え…?」
自分の弱さを目の前に突きつけられて動揺していたのかもしれない。少しの間ぼーっとしていたらしい。
「今日は遊びに来ただけだったのに…、本当にごめんね…。」
「そんな!今から楽しくしていけばいいじゃないか!」
できるだけ平静を装ったつもりだったが、ばれていないだろうか。この後、吉野と他愛も無い話をしている間にもさっき言われたことをずっと考えていた。自分のことなのに自分で考えず、目を逸らし、逃げていた。自分で気づかなきゃいけないことなのに他人に言われてから気づくなんてよっぽどだ。そろそろ俺も決意を固めなきゃいけないんだろうか…。
ふと頭に浮かんだのは吉野の転校の理由を聞くことを忘れていた。
「なぁ、吉野。お前ってさ、なんで転校することになったんだ?」
転校するといえば、どこに行くのか、またどうして転校してしまうのかという質問は容易に想像できるはずだった。でも俺の考えていたことと吉野の反応は違うものだった。
「えーとね…、それは…、今は言えないの。この町を出て行く前には言えると思うから…。それまで待ってくれないかな…。」
「ってことは明日には教えてくれるんだな?」
「うん。」
その後俺達は夕方までずっと話し込んでいた。

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その日の夜。またメールが来た。
「From:吉野御法…」
文面は至極簡単。
『これで最後だから。今日の夜も桜公園に来て欲しいです。』
夜に出かけることは篝火さんからはOKをもらえるのでかまわないのだが、こう毎日夜に呼び出されるのはかなり不思議な気分がする。そんな疑問を抱きつつも俺は身支度をして桜公園への道へとくりだした。
やはり夜は冷える。もう少し着込んでくるべきだったか。
空には星が綺麗にまたたいている。
今日はとてもいろいろなことについて考えさせられる一日だった。ただ単に俺が今まで何も考えてこなかったツケだと思うが。
またもやうんうん悩んでいるうちに桜公園に着いていた。
ここ最近桜公園に通うことが増えてきたので考え事をしながらでも着くようにはなっていた。

夜の無人の桜公園はいつもと変わらない。枯れない桜の木がある。はずだったがそこには変わり果てた桜の木があった。
花びらが散っている。満開の桜はそこにはなく、半分ほど散っていた。あまりこの桜には思い入れはないがここ2、3日は見る機会が多かったのでどうしても目に付いた。
…メールをくれた吉野はまだ来ていないようだった。
「…ごめんね、遅れた。」
「うぉぉう!?」
吉野は俺の背後にいた。おかしいな、全然気がつかなかった。
「桜、散ってきてるね…。」
何か悲しそうだ。この桜に特別な思い入れでもあるのだろうか。
「なぁ、吉野。お前この桜に何か特別な思い出でもあるのか?」
「え…、だって今まで何もなく平然とそこにあったものが変わったり消えてしまったりすること。とても寂しいし不自然なことだと思わない?」
俺はよく、吉野の考え方にびっくりさせられる。俺の中からはそんな考え方、恐らく一生できないだろうし、何故か吉野が言うと、説得力があるのだ。
しかし、今はそんなことより吉野に何故またここに呼び出したのかを聞かなくては。まさか、何も用事も無いのに呼び出すということは無いだろう。
「でさ、今日は何の用があって呼び出したんだ?」
「え?特に用は何も無いよ?」
…沈黙。
「…帰る。」
「わー!ちょっと待って!待ってよお兄さん!」
どこの店の客引きだ。
「いやぁ、明日の予定の確認をしたかったから呼び出しただけだよ。」
「メールでいいじゃないか。それぐらい。」
「あたし、メール嫌いなの。」
「そーですか…。」
そういえば、明日はこの町の色んな所を回りたいとか言っていたような気がする。
「明日の夕方には引っ越すからさ…。」
「そうか、じゃあどこかで待ち合わせでもするか?」
「そうだねぇ…駅前に10時集合ってのはどうかな?」
としたら、いつごろ起きればいいだろうかと自分の休日のタイムスケジュールを頭の中に浮かべながらその提案を俺は承諾した。
待ち合わせの約束をした後、俺達はそれぞれ自分の家へ帰った。
ついでに篝火さんにも煙草を買っていくかと考えつつ…。

                  ♪
「私がいなくても…もう大丈夫だよね。もう子供じゃないんだし。染井君には染井君の問題があるんだしね。わがまま言っていたのはあたしのほうかもしれないなぁ…。」
星が綺麗に真っ暗闇を照らしていた。