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今日も目覚ましのアラームで起こされる。下に下りるとお世話さんがいて。
「坊ちゃま。おはようございます。」
「ん…おはよう。」
「そういえば坊ちゃま。昨夜はどちらへ参られていたのですか?」
お世話さんはいつになく真剣なまなざしで俺のことを見てくる。まずい。言葉に詰まった。どうするべきか。ここで頭をフル回転させて言い訳を考えないと、あまり良い空気にはならない。
「えーとですね。気分転換にちょっと外を散歩したくなっただけだ。心配するほどのものじゃない。」
「そうでございますか。ならばよろしいのですが…」
よし、自分ではあまり上手くいかなかったと思われたが、意外に上手くいった。早めに朝食を済ませ、俺は学校へ向かった。

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今日も校門の近くで吉野と会った。昨日の今日だからなんとなく恥ずかしい。
「おはよー、染井君!」
「あぁ、おはよう。」
「昨日ね、学校の予定表見たんだけど明日は学校の創立記念日だから休みなんだよねー。」
「そうか、じゃあ、久しぶりにうちに来るか?子供の頃は結構、吉野もうちに来てたけど最近来て無いだろ。」
吉野は少し考えた後、口を開いた。
「じゃあ、明日は染井君の家にお邪魔しようかなぁ。」
そんな会話を交わしたあと、予鈴が鳴る。
俺達は教室へ急いだ。

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授業が終わって、帰り道。
「日曜日は最後だから、この町の観光でもしたいんだよね。」
「観光?」
「うん。要するに私は転校するわけじゃない?だから、この町の思い出を染井君と作りたいんだよねー。」
一緒に思い出を作ろうなんて言われると照れる。
「な…何言ってるんだよ!」
「えー?まさか照れてるの?この愛いやつめー!」
「そ…そんなんじゃねぇよ!」
吉野の笑い声が聞こえてくるが、無視することにした。ちょうど、桜公園の前を通ると、桜の木が見えたが、今日は何かおかしかった。
「あれ…?少し桜の花減ってないか?八分咲きくらいになってる…。」
「え…?うん…そうだね…。」
「さすがにもうご臨終かな?ご苦労な事で。」
「…でもさ!私、桜好きだしさ!もうちょっと咲いててください!ってお願いしようよ。」
「えーなんでー。」
「いいでしょー!?もう私達は恋人同士なんだし、私の言うことだって少しは聞いてくれたって良いじゃない。」
「へいへい。了解しましたよー。」
平静を装ったつもりだったが、顔が赤くなっているのは、ばれていないだろうか。恋人同士とか言う言葉、ドラマとか小説だけだと思ってた。
…桜の木の近くまで来た俺達は桜の木に向かって手を合わせ、もっと長い間咲いていてくださいとお願いした。どっかの神木でもないのに意味はあるのだろうか。
「よし、これでオッケーだね!」
「あぁ…。しかし、なんでまた桜相手に手を合わせて願ったんだ?」
「あ、知らないの?この桜は結構昔からずぅっと咲き続けてるんだって。」
「へぇ、そうなのか。それは初耳だな。」
「うん、だからこの桜がずっと咲いていれば良いのにな…と思ったんだよ。」
どうも、引っかかった。まるでこの桜がこれから完全に散っていくことを分かっているような口ぶりだ。
そのことを問いただそうとすると
「そろそろ帰ろっか。」
と言ったので、そのときは聞けずに帰った。

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帰り着くとお世話さん…いや本当は名前がある。渡辺さんというんだが、その渡辺さんが今までには絶対に起こさないと思われていた行動を起こしていた。
煙草を吸っている。
今までこの人が煙草を吸っているところは見たことが無い。もしかしたら俺の知らないところで吸っていたのかもしれないが、こんな堂々と吸うことはないはずだ。
渡辺さんはこちらの視線に気づいたらしく話しかけてきた。
「おぅ、おかえり。」
「はぁ…ただいまです。渡辺さん…。」
煙草の火を灰皿で揉み消して渡辺さんは言った。
「実はな、俺は本当は渡辺なんて名前じゃないんだ。」
それを聞いた瞬間疑問符が頭の上に浮かんだ、意味が分からない。いきなり実はな…とか言われてもこっちの反応としては困る。
「俺の本当の名前は『篝(かがり)火(び) 焔(ほむら)』 あんたのオヤジさんの会社の課長を務めている。」
渡辺さん…いや、篝火さんは名刺を渡してきた。そこにはやはり『染井株式会社課長』と書いてある。
「偽名を使う必要があったんですか?」
「あぁ、今朝の質問に嘘をつかなければ、あのままでも良かったんだが、お前嘘ついただろ?」
図星だった。社長の一人息子ということで俺には勝手に決められた婚約者がいる。だから昨夜も家を出るときも、今朝篝火さんに嘘をつくときも悟られないように振舞っていたはずだった。
「嘘って言う根拠はあるんですか?」
篝火さんは新しく煙草に火をつける。
「あるさ。俺はガキのころからお前を見ていたんだぞ。嘘をつくときの癖ぐらい手に取るように分かる。」
駄目だ。全て見抜かれている。このままでは俺の父親に報告されるかもしれない。そうしたら即転校決定。知らない間に監視を付けられていたって言うことか…。
「まぁ、別に俺はお前のオヤジさんに報告しようとか考えて無いから安心しろ。そんなことより俺に言うことはあるか?」
まるで心の中を見透かされたような気分がしたが、そこはあえて気にしないようにする。
「…明日、幼馴染の吉野がうちに遊びに来ます。」
「そうか、あのお嬢さんが遊びにくるのか、ふむ…。じゃあ、明日菓子でも焼くか。」
ここらへんの気遣いはこの人の根の部分らしい。今までも俺のことを良く気遣ってくれていた。
篝火さんは煙を吐きながら言った。
「まぁ、上手くやれよ。坊ちゃん。」
「あぁ…はい…。」
子ども扱いされているようで嫌な感じはしたが実際子供なんだから仕方が無いかと諦めて俺は自室へ戻った…。

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夜。またメールが来た。
『桜公園で待っています。』
とても単純な文章だが何か心に響くような気がする。俺の気のせいかもしれないが。
出かける準備をして下に下りる。もうばれてしまったので篝火さんに報告してから行くことにした。
「少しまた出かけてきます。」
「あぁ、それじゃあ帰りに煙草を買ってきてくれないか。」
「分かりました。何を買ってきますか?」
「マイルドセブンを頼む。」
「はい…じゃあ行って来ますね…。」
…桜公園への道を歩きながら、俺は枯れない桜について考えていた。
桜公園の枯れない桜はこの町では有名なほうだが、全国に報道されるというほどではない。この町の人間は桜は見慣れてしまっているのでわざわざ春に花見なんかしないし、夜桜を見に行こうと思うやつなんていう変わり者は居ない。この俺もそうだった。俺なんて通学路を通るときにいやでも目に入るからな。やはり、この公園に一本だけぽつんと植えてある桜には特殊な魔力とか磁場でもあるんじゃないかと思ってしまう。しかし、まじまじと見ると、やっぱり桜は綺麗だなぁと思うし、この桜に限って何か変わったところがあるかというと、そうでもない。
今日の帰りに見たときには八分咲きくらいになっていた。この木もやっぱりそろそろ寿命なのかもな。
そんなこんなで公園に着いた俺は…何故か制服姿の吉野を見つけた。
「用事ってなんだ?」
「遊びに行くのはいいんだけど、何時ごろ染井君の家に行けばいいのか決めてなかったでしょ?だから少し相談しておかないと、と思って。」
「そんなの別にメールでもいいじゃないか…。昼ごろでいいんじゃないか?そんな家が離れているわけでも無いんだし。」
「分かった。じゃあ明日の昼ごろに遊びに行くからね!」
妙に嬉しそうな顔をしている。ガキの頃には嫌になるほど遊んだのにな…。
10分程度で別れ、帰り道篝火さんから頼まれていた『マイルドセブン』を自動販売機で買った。未成年が煙草の箱を持って徘徊しているなんて怪しいものだが決して俺は怪しいやつなんかでは無い。

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桜公園へ行き、帰りに煙草を買ってだいたい30分。俺は篝火さんの言っていた銘柄のタバコを持って、リビングに入った。
「篝火さぁーん。煙草買ってきましたよー。」
「おぉー。机の上に置いといてくれー。」
煙草を机の上に置き、自分の部屋に戻った。
部屋に入り、ベッドに寝転んで考えたのは明日のこと。何だかんだいって明日には年頃の男が年頃の女の子を自分の家に招くのだ。幼馴染とはいえ、今は恋人とはいえ、やはり意識してしまうことは普通だろう。…ここ最近は自分でも考えられないことばっかりが立て続けに起こっているような気がする。次は何が起こるんだろうかと心配している。
恐らく俺は、何か重大な決心をするときに考えすぎて失敗するようなタイプなんだろうなぁ…。
とりあえず、今俺に出来ることは明日に備えて寝ることだ…。眠れなさそうな気もするけど…。

故郷のある公園で俺は夜桜を見ていた。俺は大会社、染井株式会社社長という肩書きを持っている。桜の下で、俺は地元で起こった不思議な出来事を思い出していた…。

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朝。目覚まし時計の騒音のおかげで目をこすりながら俺は体を起こした。俺の名前は染井清壱郎。大会社染井株式会社の社長、染井厳重郎の息子。ようするに、社長の一人息子って言うやつだ。

身支度をし、リビングへ降りると

「おはようございます。坊ちゃん。」

「あぁ…おはよう。」

おはようと迎えてくれたのは母でもなく父でもなく1人のお世話さんだった。子供のころから本当にお世話になっている人だ。父も母も仕事で忙しく、正直自分の中ではこの人が実質的な親みたいな感じだ。俺は父と母の顔も覚えてないし、もしかすると見たことが無いのかもしれない。世の中はこういう人のことをじいやと呼ぶらしい。

今日の朝食であるトーストを食べ、時計を確認し、玄関でいってきますを言って学校への道を歩き出した。

私立守塚高校はうちから歩いて5分ぐらいの場所にある。学校の人たちに俺が社長の一人息子であると言うことは言っていない。もちろん、そんなことを知られてしまったら、即転校…だと思う。でも、一人だけ訳ありで知っているやつがいる。そいつが別に悪いやつって言うわけではないんだけど…。

「染井くーん!」

来た。来てしまった。ハルマゲドン級のインパクト。

「おっはよー!染井君!青春満喫してる?」

「おはよう。」

それだけ言い返すと、彼女は不服そうにこちらを見据えた。

「なーに朝っぱらからしけた(つら)してんのよぅ!毎日元気に登校して勉学に励むのが私たち学生の仕事でしょー?あ、そっか。染井君は次期社長だから勉強も普通出来るよね…。」

「おい!あんまり大きな声で言うなって!」

「いいじゃーん!染井君とあたしの仲だよ?」

意味が分からん。頭が痛くなってくる…。

そんないつも元気いっぱいの彼女の名前は「吉野(よしの)御法(みのり)」という。一応幼馴染という間柄でもある。

そんなこんなで考えていると、予鈴のチャイムが鳴った。急がないと。

吉野を放置し教室へ向かう。しかし吉野と俺は同じクラスだったのだ…。

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教室に入ると黒板には自習の文字が俺を待っていた。

自習時間に自習するやつなんて極めてまれだ。試験前でもないのにそんなことをするやつはいないだろう。だから大抵は友人と喋ったり本読んだりとかになる。そして何の因果か知らないが、俺の隣の席には元気オーラ絶賛放出中の吉野がいた。

「ねぇ。学校で『シン』って呼んじゃ駄目?」

「駄目に決まってるだろ。いくら幼馴染と言っても恋人同士でもないんだし下の名前で呼び合うのはおかしいんじゃないか?」

「そうかなぁ。ちっちゃいころは『シン』って呼んでたし、染井君だって御法って呼んでくれてたじゃない。」

「今俺達はもう高校生だぜ?そんなのなんか恥ずかしいじゃないか。」

「むぅー。染井君のケチー。減るものでもないでしょー?今みたいなよそよそしい呼び方はやめようよー」

「嫌だね。そういうのは好きじゃない。」

吉野は諦めたようだ。他の友達と喋り始めた。

俺は俺で、勉強なんかせず最近読んでいる本を読み進めた。こんなうるさいところで勉強したって勉強なんかにはなりゃしない。ま、うちの教室で勉強しているやつなんて皆無だけどな。

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今日の授業が全て終わり、帰る支度をする…。俺は野球部とかサッカー部には所属していない。いわゆる帰宅部。なのですぐに帰れる。

「ねー、染井君一緒に帰ろ?」

「お前と俺帰る時嫌でも一緒になるじゃないか…。」

そう、これもまた嘘だといいたくなるぐらい、吉野と俺の家はご近所さんなのだ。しかしさすがに行きは一緒じゃない。さすがにそこまでするのは俺の気が引ける。

校門を出て、少し歩いたところで吉野が口を開いた。

「やっぱりさ、染井君は会社の後継ぐの?」

「俺は嫌だけど、周りの大人がそう決めたんだから仕方が無いじゃないか。」

「でもうちのお父さんは染井君のお父さんに救われたんだから、染井君にはそういう人にはなって欲しいんだよねー。」

「なんだそれ。それは俺が継ぐこと前提か?」

吉野の父さんは昔、料理人を目指していて小さな料亭をこの町に開いたらしいが、最初はなかなかうまくいかなくて、経済的に困っていたらしい。そんなときに、俺の父親がその料亭に飯を食べに行き、とても気に入り通いつめている間に経済的に困っているところに援助金をだした。確かン十万とかいう大金を借りていたがそこから吉野の父さんも頑張り着々と借金も返し、今やこの町では結構有名な料亭になった。と大体、吉野から聞いた。俺は父親とは物心ついた後にはもう一回もあっていないのでそんな話は一切聞いていない。そんなことを考えていると公園の前を通りかかった。

「あ、やっぱりあそこに咲いてる桜。ずぅっと咲いてるよね。」

この町の有名な観光スポットである一年中咲いている桜の生えている公園の前を通って家路に着く。嘘みたいな話だが、本当に一年中咲いているのだ。この桜は。

風が吹けば花びらは散るのに何故か枯れない。植物の専門家によるとただのソメイヨシノらしいが。そのおかげか、この公園の名前は『桜公園』と名づけられた。まんまだな。

「でも綺麗だよねー。桜はなんで散っちゃうのかなぁー。とか思ってたけど子の木は枯れないし、寂しく無いよね。」

「一年中しようと思えば花見も出来るしな。」

「言えてるー!」

そしてこの後吉野と他愛も無い話をしながら家へ帰った。

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帰って晩飯を食べて、明日の宿題を済ませ、ベッドに寝転んでいるとメールの着信を知らせるメロディが流れる。

From:吉野 御法…か。」

メールの内容は

『夜分遅くにごめんね。今すぐ桜公園に来てくれないかな?言いたいことがあるんだけど…。』

『分かった。今すぐ行く。』

返信するかどうか迷ったが、何かありそうだったので返信した。

身支度をして外に出た。星が光っている。

「本当に変なところだよな…都会に近いところのはずなのに、ド田舎並みの自然が周りを囲んでるなんて…。」

桜公園に着くと吉野が桜の木の下にいた。何故か制服のままだ。

「どうしたんだ?いきなりこんな時間に公園に呼び出して。」

吉野は俯いている。

「あのね…。染井君に今日どうしても伝えておきたいことがあってね…。メールじゃ駄目なの。直接会って話さないといけないの…。」

「そんなに大事なことなのか?」

「うん…」

いつも元気な彼女がいつも見せないような深刻な表情をしている。本当に何があったんだろうか。

「…で、結局俺に伝えたいことって何だ?」

「あのね、私。この町にいることが出来るのはあと3日間しかないの。」

「え?」

今までずっと当たり前のようにおせっかいを焼いてきた吉野がいきなりいなくなるなんて全然考えていなかった。

「だからね…あの…。」

語尾がよく聞こえない。俺が呆けていたというのもあるのかもしれないが。

「あー、ごめん。それで、何て?」

「残り3日間、私と付き合ってくれない?」

え…なんだって?あの吉野が俺と?俺と付き合ってくれだって?何故俺なんかを選んだのか全然分からなかった。その場で色々聞きたいこともあったが、口が動かなかった。今まで告白とかされたことなかったし。

「で…いいかな?これから3日間私と付き合ってくれる?」

「こんなこと聞くのもアレだけどな。うん。その付き合ってくれって言うのは特別な意味でか?」

「もちろん。」

「…俺で良いなら。」

「本当に!?」

吉野が笑顔になったことに俺は少しほっとした。

「じゃあ、明日からの金・土・日よろしくね!後、出発は月曜日だけどね。日曜日はどこかに出かけない?」

「あぁ、分かった。」

「うれしい!染井君がこんなに私をかまってくれるなんて初めてじゃない?」

「だって、残り3日しかここにいないんだろ?幼馴染なんだし、付き合うぜ、どんなところでも。」

俺は少し気恥ずかしくなってしまって吉野から目をそむけた。いまだに心臓がバクバク音を立てている気がした。

「じゃあまた明日!」

おぉ、じゃあな。と言おうと視線を戻すとそこには誰もいなかった