故郷のある公園で俺は夜桜を見ていた。俺は大会社、染井株式会社社長という肩書きを持っている。桜の下で、俺は地元で起こった不思議な出来事を思い出していた…。

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朝。目覚まし時計の騒音のおかげで目をこすりながら俺は体を起こした。俺の名前は染井清壱郎。大会社染井株式会社の社長、染井厳重郎の息子。ようするに、社長の一人息子って言うやつだ。

身支度をし、リビングへ降りると

「おはようございます。坊ちゃん。」

「あぁ…おはよう。」

おはようと迎えてくれたのは母でもなく父でもなく1人のお世話さんだった。子供のころから本当にお世話になっている人だ。父も母も仕事で忙しく、正直自分の中ではこの人が実質的な親みたいな感じだ。俺は父と母の顔も覚えてないし、もしかすると見たことが無いのかもしれない。世の中はこういう人のことをじいやと呼ぶらしい。

今日の朝食であるトーストを食べ、時計を確認し、玄関でいってきますを言って学校への道を歩き出した。

私立守塚高校はうちから歩いて5分ぐらいの場所にある。学校の人たちに俺が社長の一人息子であると言うことは言っていない。もちろん、そんなことを知られてしまったら、即転校…だと思う。でも、一人だけ訳ありで知っているやつがいる。そいつが別に悪いやつって言うわけではないんだけど…。

「染井くーん!」

来た。来てしまった。ハルマゲドン級のインパクト。

「おっはよー!染井君!青春満喫してる?」

「おはよう。」

それだけ言い返すと、彼女は不服そうにこちらを見据えた。

「なーに朝っぱらからしけた(つら)してんのよぅ!毎日元気に登校して勉学に励むのが私たち学生の仕事でしょー?あ、そっか。染井君は次期社長だから勉強も普通出来るよね…。」

「おい!あんまり大きな声で言うなって!」

「いいじゃーん!染井君とあたしの仲だよ?」

意味が分からん。頭が痛くなってくる…。

そんないつも元気いっぱいの彼女の名前は「吉野(よしの)御法(みのり)」という。一応幼馴染という間柄でもある。

そんなこんなで考えていると、予鈴のチャイムが鳴った。急がないと。

吉野を放置し教室へ向かう。しかし吉野と俺は同じクラスだったのだ…。

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教室に入ると黒板には自習の文字が俺を待っていた。

自習時間に自習するやつなんて極めてまれだ。試験前でもないのにそんなことをするやつはいないだろう。だから大抵は友人と喋ったり本読んだりとかになる。そして何の因果か知らないが、俺の隣の席には元気オーラ絶賛放出中の吉野がいた。

「ねぇ。学校で『シン』って呼んじゃ駄目?」

「駄目に決まってるだろ。いくら幼馴染と言っても恋人同士でもないんだし下の名前で呼び合うのはおかしいんじゃないか?」

「そうかなぁ。ちっちゃいころは『シン』って呼んでたし、染井君だって御法って呼んでくれてたじゃない。」

「今俺達はもう高校生だぜ?そんなのなんか恥ずかしいじゃないか。」

「むぅー。染井君のケチー。減るものでもないでしょー?今みたいなよそよそしい呼び方はやめようよー」

「嫌だね。そういうのは好きじゃない。」

吉野は諦めたようだ。他の友達と喋り始めた。

俺は俺で、勉強なんかせず最近読んでいる本を読み進めた。こんなうるさいところで勉強したって勉強なんかにはなりゃしない。ま、うちの教室で勉強しているやつなんて皆無だけどな。

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今日の授業が全て終わり、帰る支度をする…。俺は野球部とかサッカー部には所属していない。いわゆる帰宅部。なのですぐに帰れる。

「ねー、染井君一緒に帰ろ?」

「お前と俺帰る時嫌でも一緒になるじゃないか…。」

そう、これもまた嘘だといいたくなるぐらい、吉野と俺の家はご近所さんなのだ。しかしさすがに行きは一緒じゃない。さすがにそこまでするのは俺の気が引ける。

校門を出て、少し歩いたところで吉野が口を開いた。

「やっぱりさ、染井君は会社の後継ぐの?」

「俺は嫌だけど、周りの大人がそう決めたんだから仕方が無いじゃないか。」

「でもうちのお父さんは染井君のお父さんに救われたんだから、染井君にはそういう人にはなって欲しいんだよねー。」

「なんだそれ。それは俺が継ぐこと前提か?」

吉野の父さんは昔、料理人を目指していて小さな料亭をこの町に開いたらしいが、最初はなかなかうまくいかなくて、経済的に困っていたらしい。そんなときに、俺の父親がその料亭に飯を食べに行き、とても気に入り通いつめている間に経済的に困っているところに援助金をだした。確かン十万とかいう大金を借りていたがそこから吉野の父さんも頑張り着々と借金も返し、今やこの町では結構有名な料亭になった。と大体、吉野から聞いた。俺は父親とは物心ついた後にはもう一回もあっていないのでそんな話は一切聞いていない。そんなことを考えていると公園の前を通りかかった。

「あ、やっぱりあそこに咲いてる桜。ずぅっと咲いてるよね。」

この町の有名な観光スポットである一年中咲いている桜の生えている公園の前を通って家路に着く。嘘みたいな話だが、本当に一年中咲いているのだ。この桜は。

風が吹けば花びらは散るのに何故か枯れない。植物の専門家によるとただのソメイヨシノらしいが。そのおかげか、この公園の名前は『桜公園』と名づけられた。まんまだな。

「でも綺麗だよねー。桜はなんで散っちゃうのかなぁー。とか思ってたけど子の木は枯れないし、寂しく無いよね。」

「一年中しようと思えば花見も出来るしな。」

「言えてるー!」

そしてこの後吉野と他愛も無い話をしながら家へ帰った。

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帰って晩飯を食べて、明日の宿題を済ませ、ベッドに寝転んでいるとメールの着信を知らせるメロディが流れる。

From:吉野 御法…か。」

メールの内容は

『夜分遅くにごめんね。今すぐ桜公園に来てくれないかな?言いたいことがあるんだけど…。』

『分かった。今すぐ行く。』

返信するかどうか迷ったが、何かありそうだったので返信した。

身支度をして外に出た。星が光っている。

「本当に変なところだよな…都会に近いところのはずなのに、ド田舎並みの自然が周りを囲んでるなんて…。」

桜公園に着くと吉野が桜の木の下にいた。何故か制服のままだ。

「どうしたんだ?いきなりこんな時間に公園に呼び出して。」

吉野は俯いている。

「あのね…。染井君に今日どうしても伝えておきたいことがあってね…。メールじゃ駄目なの。直接会って話さないといけないの…。」

「そんなに大事なことなのか?」

「うん…」

いつも元気な彼女がいつも見せないような深刻な表情をしている。本当に何があったんだろうか。

「…で、結局俺に伝えたいことって何だ?」

「あのね、私。この町にいることが出来るのはあと3日間しかないの。」

「え?」

今までずっと当たり前のようにおせっかいを焼いてきた吉野がいきなりいなくなるなんて全然考えていなかった。

「だからね…あの…。」

語尾がよく聞こえない。俺が呆けていたというのもあるのかもしれないが。

「あー、ごめん。それで、何て?」

「残り3日間、私と付き合ってくれない?」

え…なんだって?あの吉野が俺と?俺と付き合ってくれだって?何故俺なんかを選んだのか全然分からなかった。その場で色々聞きたいこともあったが、口が動かなかった。今まで告白とかされたことなかったし。

「で…いいかな?これから3日間私と付き合ってくれる?」

「こんなこと聞くのもアレだけどな。うん。その付き合ってくれって言うのは特別な意味でか?」

「もちろん。」

「…俺で良いなら。」

「本当に!?」

吉野が笑顔になったことに俺は少しほっとした。

「じゃあ、明日からの金・土・日よろしくね!後、出発は月曜日だけどね。日曜日はどこかに出かけない?」

「あぁ、分かった。」

「うれしい!染井君がこんなに私をかまってくれるなんて初めてじゃない?」

「だって、残り3日しかここにいないんだろ?幼馴染なんだし、付き合うぜ、どんなところでも。」

俺は少し気恥ずかしくなってしまって吉野から目をそむけた。いまだに心臓がバクバク音を立てている気がした。

「じゃあまた明日!」

おぉ、じゃあな。と言おうと視線を戻すとそこには誰もいなかった