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朝8時。目覚まし時計のアラーム音が鳴り響く。とりあえずこの騒音を鎮めてから時刻を確認。うん。昨日セットしたとおり8時にちゃんと起こしてくれたようだ。偉いぞ。
昨夜は特に篝火さんに何か言われる、ということはなかった。ただ、買ってきた煙草を美味しそうに吸っていたけれど。まぁ、来年ぐらいから俺みたいな未成年が勝手に煙草を変えないようなシステムを自動販売機に導入するらしいから自分で買いに行くようになるだろう。

1階のリビングに降りると篝火さんが、朝っぱらからやっぱり煙草を吸っていた。下手したら24時間吸っているんじゃないかと思うほどの勢いだった。篝火さんはかなりのヘビースモーカーだ。
「今日はちょっと出かけてきますね…。」
「あぁ、気をつけて行ってこいよ。」
会話終了。
適当に朝食を済ませた後、ある程度身なりを整えて、待ち合わせ場所である守塚駅へ向かった。

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9時50分。待ち合わせ10分前の時刻。駅へ着くとすでにそこには吉野がいた。やっぱり制服姿で。
「早いな。そして制服か。」
「うん。遅れるよりはいいと思って。あ、あと制服は気にしないほうがいいよ?」
「あぁそれは分かったが…待たせたか?」
「ううん。私も今来たばっかりだから大丈夫だよ。」
それなら良かったと俺がほっとしていると、待ち合わせしたのは良いが、どこを回るのかは決めていなかったことを思いついた。
「とりあえず…どこへ行く?」
「うーん。あんまり考えて無いしとりあえず、歩いてみない?」

駅前をスタート地点にこの町を俺達は適当に歩くことにした。
この町には特に観光名所と呼ばれるようなものは無い。枯れない桜も地元の人しか知らない。まぁ、ここも悪いところではないと思うんだがな。
駅前から5分ぐらい歩くとデパートを見つけた。吉野は何か思い出すように言った。
「懐かしいなぁ…このデパート。子供の頃よくお父さんにつれてきてもらったなぁ…。」
「少し寄っていくか?屋上からこの町を見ていくのもいいんじゃないか?」
「うーん、デパートの中は見て行きたい気もするけど、屋上は別にいいや。」
「じゃ、少し寄ってくか。」
店に入ると、綺麗な装飾品の店が並んでいた。目がチカチカする。カバンとか、服とか、アクセサリーとか、女の子が好きそうな物がずらりとそろっている。吉野はやっぱり女の子だし、キラキラした物に弱いみたいだ。
「これ、可愛いけど…高いなぁ…。」
ぶつぶつ何かを呟きながら帰ってきた。
「ここの商品はとっても良い物がそろっているけれど、高いし私には買えないや!」
すっぱり諦めたらしい。

デパートから出て次の目的地を決めあぐねていると、目の前にはゲームセンターがあった。
「なぁ、吉野…。」
「ん?何?」
「げーむせんたー…だろ?あれは。行ってみないか…?俺行ったこと無いんだよ…。」
これは本当のことだった。学校の行き帰りに寄って行った事は無いし、休日にわざわざゲームセンターに行こうなんて思ったことはなかった。
「ふぅ…そういう時だけ箱入り息子っぷりを発揮しないでよ…まぁいいけどね。」
なんとか吉野を説得し、ゲームセンターに入ってみるとそこは未知の世界だった。色々面白そうなアーケードゲームが並んでいる。お、あれがUFOキャッチャーとかいうやつか。
そのなかで、一番目を引いたのは太鼓が二つ並んでいるゲームだった。
「なぁ、吉野。これやってみないか?」
俺が指差したのは『太鼓の素人』というゲームだった。1人PLAY100円、2人PLAY200円と書いてある。吉野は俺のことを見て、
「音ゲーが好きなの…?」
「俺、太鼓なんてたたいたこと無いし、なんか面白そうじゃん。吉野はこのゲームやったことあるのか?」
「まぁ、多少はあるけどね…。」
「じゃあ、やってみよーぜー。」
俺は早く遊んでみたくて、先に100円を入れた。
「先にやっていいよ。染井君。あたしは後でやるからさ。」
「いいのか?」
「うん。」
吉野の先に『太鼓の素人』をプレイすることにした。
「やさしい」「ふつう」「むずかしい」があるが、俺は初めてなので、とりあえず「やさしい」を選択し、曲を選んだ。
…見ている分には簡単そうに見えるがやってみると案外難しいものだ。ノルマクリアはしたものの、フルコンボとはいかなかった。そんな感じで、2曲打ち終わった後、吉野に替わった。
吉野は100円を入れてバチを持った。おぉ、難易度は「むずかしい」でプレイするらしい。結局、吉野は目にもとまらぬバチさばきで2曲ともフルコンボで終え、堂々のハイスコアをたたき出し、名前を残していったのだった…。

ゲームセンターから出て、ファーストフード店で少し小腹を満たした後、古い店が並んでいる通りを歩きまわった。
「ねぇ、ちょっとあそこの店寄ってみない?」
吉野が指差した店は、アクセサリーを中心に売っている店らしい。ガラス細工が店頭に並んでいる。なかば、吉野に引きずられるようにして店に入ると中には棚いっぱいにガラス細工が並んでいた。時間は昼過ぎということもあり、太陽の光が反射して綺麗に光っている。店長であろうか、カウンターに座っているじいさんは、寝てしまっている。のんきなものだ。
「これとか、染井君に似合いそうじゃない?」
吉野が出してきたものは桜の花びらを綺麗にかたどった携帯ストラップだった。
「うん…俺に似合うかどうか分からないけど、吉野には似合うと思うぜ。」
「じゃあ、おそろいにしよっか。」
吉野がレジへ代金を支払おうとしたのを制して、無理矢理言いくるめ、俺が二人分のガラス細工の代金を支払った。男のせめてもの気遣いだと思う。
店を出て、この町を見渡せる場所に行きたいというので、高台に向かった。
…これは余談だが、店のじいさんに「若いって良いねぇ…。」とか言われ、二人で顔を赤くしたのは、秘密だ。

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高台に着いたころにはすでに夕方になっていた。吉野と俺は綺麗な茜色に染まった町を見下ろしている。何故か、ふと見た吉野の横顔は何か儚い感じがした。
少しでも触れてしまえば、ガラガラと音を立てて壊れてしまいそうだった。
彼女にそんな顔をして欲しくなかった。欲を言えば、転校なんてして欲しくなかった。色々、俺に新鮮なものを教えてくれる彼女。俺のことをいつも考えてくれている彼女。
ここ数日で俺は完全に、吉野に対する気持ちは幼馴染の気が許せるヤツから恋人に変化していた。しかしその事は、まだ口にはしていない。どこかよそよそしい喋り方をしていた。そんなことを考えているとこちらの視線に吉野が気づいたらしい。
「綺麗な夕日…。」
「なぁ、聞いていいか?」
俺は今日聞いておきたいことがあった。
「なんで転校することになったんだ?」
「そうだね…そろそろ言わなきゃいけないよね…。実はね、行方不明だったお母さんが見つかったの。」
「母親…?」
そういえば、吉野の口からは父親の話しかでてこなかった。母親の話を吉野から聞くのは初めてだ。
「それでね、私とお父さん2人でお母さんの所へ引っ越すことを決めたのよ。」
何か重大な問題があるんだろうとは思っていたが、やはり動揺は隠せなかったようだった。
「最後に桜公園に寄って行きたいんだけど付いてきてくれる?」
「もちろん。今日は吉野のリクエストに答えるって言っただろ!」
夕日は沈んでいく…。

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桜公園に着くと、そこには変わり果てた桜の木が俺たちを待っていた。そこには満開の桜ではなく、枯れ果てた木しかなかった。
ほぼ花びらはついていない。強い風でも吹いたら全て散ってしまいそうだった。
「…う…えな…かな…。」
「ん?何か言ったか?よく聞き取れなかったんだけど。」
「え?ああ!いや!全然気にしないで!」
そうは言っているものの吉野の顔はどこか暗い。
「ねぇ…。今日はさ!私のわがままに付き合ってくれて…ありがとね。染井君との思い出も出来たし、私は思い残すことはないよ。だから…はなればなれになっても染井君、現実から目をそむけないって約束してくれる?…これは最後の私のわがままだけどね…。」
俺に否定する理由はない。
「あぁ、もちろんだ。」
そして、俺は気づいた。吉野の目には涙が浮かんでいることを。
「一応言っておくね…。さようなら。」
「まだ、早いだろ。出発は明日の月曜日なんだろ?…それに俺も実は1つ言いたいことがあるんだ。」
「何?」
「それは…。」
その時。
強い風が吹いた。突風のような。
一瞬目が開けられなかった。風がやんだころ。そこにはもうすでに、彼女の姿はなかった。
俺の頭では、もう帰ってしまったのかなとか、そんな馬鹿らしい考えしか浮かんでこない。あぁ、そうだ。こういうときの携帯電話ではないか。
吉野の携帯電話に発信する。
お願いだ、出てくれ…という希望も空しく散り、俺の耳に聞こえてきたのは、『この電話番号は現在使われておりません…』
「くそっ!」
俺は駆け出した。桜公園を出て、手当たり次第に探した。畜生、こんなことになるなら初めから言えばよかった。言うのが恥ずかしかったから?相手からの好意に気づいていたのに?何故。何故言えなかったんだ。こんなの理由になるわけがない。俺の中の好きだという気持ちは絶対変わらないはず。ゆるぎない物だったはずなのに…。
言うタイミングだっていくらだってあった。
「俺は…俺はお前のことが好きだったのに!」
空しく響く叫びは暗い暗い闇に溶けていった。
まっくらな そらには ほしが きれいに かがやいていた。