幻想交響世界エクスマキナ Ep.5-1 権謀の渦 City of Light⇔Darkness | 幽玲の妄想ふぁんたじあ

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Part 1/4


 バンドール共和国の《首都ヴァルキュリア》は、共和国議会場、裁判所、各種省庁の集中する大都市であり、居住区こそあるが、そこに住むのは政治家や政府関係者ばかりで、中央集権的色彩が濃いバンドールを象徴している。

 都市の中心に位置する大統領官邸はかつての王宮をそのまま利用したもので、花々で色づく広大な庭を正面に据え、綿密に計算されたクラシック調の建造美の結晶となっている。

 その一室、大きな円卓の置かれた部屋がある。席の位置によって序列を定めないという趣旨で設けられた円卓には、内務大臣、外務大臣、国防大臣といった11人の閣僚と行政府の長たる首相、そして国家元首たる大統領が並ぶ。今まさに彼らが顔を揃えていた。しかし、それは週2回定期的に招集される閣議ではなく、大統領が臨時に招集したものである。大臣達の誰もが招集命令を聞いた時、その議題に心当たりがあった。

「ソウルギアの軍勢は依然としてノワールに駐留したきり他のエリアへの侵攻の動きを見せておりません。ですが、各地でデモや暴動が発生しております」

「今、国防大臣は『軍勢』と言ったが、そもそもソウルギアは『軍隊』なのですかな? そうともなれば、国際法に則った対応も必要となりましょう?」

「情報局からの情報によれば、ソウルギアの母体は旧アネル皇国軍の残存勢力だとのこと。だいいち、規模が限られていたとはいえ、既に三度も我が軍を退けるだけの軍事力をもってノワールを侵攻したのです。これをテロで済ますわけにはいかんでしょう」

「ノワールを抑えられたことにより、我が国の生産・流通ラインは事実上、麻痺に陥っています。株価も急落しておりますし……戦争の事しか考えておられない方々がノワールの守りを手薄にした結果がこれだ」

「聞き捨てなりませんな! 敵艦の砲火が届かぬ机上で勘定だけをしている者に戦争の何が分かるか! 敵の顔色を窺うことしかしない弱腰外交をこうも続けられれば、国境線戦に人員を割くことになるは必然!」

「外交とは高度に繊細なものなのですよ。これだから戦争屋は……」

「貴様ぁっ!」

「おやめなさいっ!」興奮する老人達を一喝する女の声が円卓上の空気を震わせると、それまでの喧騒がぴたりと止んだ。

「ノワール奪還にこれ以上の戦力を割くことができない以上、ソウルギアを軍隊と認めた上で外交交渉を行い、今は時間を稼ぎましょう。速やかに外交ルートを構築し、使節団を派遣して下さい」

 前政権の帝国主義的な政策に疑いを抱いた国民の強い支持を受けて成立したのが現政権。現大統領フレデリカ・エヴァン・チャイルドは、齢40を過ぎているとは思えない美貌に目を付けられて担ぎ出されたお飾りであった。お飾りであることの自覚はチャイルドにあったものの、自己保身に長けた老人達に囲まれていい加減嫌気がさしていた。どの大臣も将来の大統領選への布石として職務を果たそうとしているにすぎず、いざ問題が起きれば責任の擦り付け合いで躍起になる。信頼できる者など限られていた。

 数少ないその内の1人が、大統領以前からチャイルドに政治のいろはを教えてくれたスイック・マーラーである。政治家としてのチャイルドの父といって良いほどに信頼の置ける彼は、今も首相として老人達を取りまとめ、チャイルドを補佐している。老人達の大好きな政治の裏部分を一手に引き受けるマーラーは、チャイルドの女房役として最大限の力を発揮していた。

 閣議が終わり、部屋にはチャイルドとマーラーだけが残っていた。

「彼らは世界の体制をひっくり返そうなどと本気で考えていると思いますか?」円卓に肘をつけた右手で俯く額を支えながらマーラーに尋ねた。

 閣議では沈黙を守っていた重い口が開いた。「……世界など脆いものだよ。我々が考えている以上にね。たった一つの小石が投げ入れられてできた波紋は、やがて国をも飲み込む大津波となる」

「ソウルギアは小石に過ぎないと?」

「私の想像だがね。だが、前政権のツケが回ってきたことで現に支持率が急落している。このままでは飲み込まれるよ」

 前政権のツケ――当時バンドールが有する国土面積の25分の1にも満たない小国《アネル皇国》は、その豊富なアニマ輝石の埋蔵量に前政権から目を付けられて侵攻を許し、滅亡した。現在は《アネル行政自治区》とされ、建前上は一定の自治権を与えられているが、常にヴァルキュリアから派遣された総督の監視下に置かれており、事実上は完全に自由を失っている。それを良しとしない者達が決起したというのだから、ツケを払わされようとしているに違いない。

 しかし、それはいずれ誰かが支払わなければならないもの。その誰かが自分となる覚悟をもって大統領選に立候補した。たとえお飾りであったとしても。

つづく