2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※
悪いことを先回りして叫ぶ「縁起婆」の話
月のない暗い晩のこと、怖さを紛らわそうと口笛を吹きながらひとり歩いていた。
すると、少し先に背中の丸いお婆さんがこちらを向いて立っている。
なんだか気味悪いな。
かっぱはさらに大きな口笛を吹いてお婆さんの横を通り過ぎようとした。
すると突然、そのお婆さんが叫んだ。
「夜に口笛を吹くとヘビが出るよ、縁起が悪いね!」と。
かっぱは何よりその大声にびっくりしてよろけ、落ちていた細長いヒモに足を引っ掛けて転んでしまった。
ヘビではなかったが、それに似たもので痛い目に遭ってしまった。
数日後の昼下がり、またあのお婆さんに遭遇する。
何か言われるんじゃないかと身構えるかっぱの目の前を黒猫が横切った。
間髪入れずに
「黒猫が横切るなんて縁起悪い!」
と叫び、得意満面のお婆さん。
かっぱは次の瞬間、横道から飛び出してきた自転車に驚いて転んでしまった。
かっぱはこのお婆さんを『縁起婆』と呼ぶことにした。
それからも『縁起婆』はどこからともなく現れては縁起の悪いことを叫び、そのたびにかっぱは転んだり滑ったりと散々だったが、このままじゃいけないと反撃に出た。
『縁起婆』を探し、半日かけて見つけた四つ葉のクローバーを目の前にかざし、こう言い放った。
「見て!葉っぱが4枚で縁起がいいよ!」
するとお婆さんは事も無げに葉を一枚むしりとって、高笑いした。
家に戻り、作戦を練り直す。
今度はまんじゅうとお茶を持って出掛けた。
美味しいのでどうぞ、と差し出すと、『縁起婆』は黙って食べ始めた。
お婆さんがふたつのまんじゅうを食べ終えたと同時にかっぱは叫んだ。
「おめでたい紅白まんじゅうは美味しくて縁起がいい!」
さすがの『縁起婆』も黙ってかっぱを睨んでいる。
「そう怒らずにお茶をどうぞ」
お婆さんはかっぱが用意した湯のみをさっと受け取ってゴクゴクと飲み干した。
すかさずかっぱは叫ぶ、
「茶柱の立ったお茶は縁起がいいね!」
実はきれいな茶柱を立てるのに苦労したんだって打ち明けて、それから『縁起婆』とは仲良しになった。
皆さんの周りにもこんな『縁起婆』いるんじゃない?