おばけのブログだってね、 -6ページ目

おばけのブログだってね、

The 26th Anniversary of Formation

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

悪いことを先回りして叫ぶ「縁起婆」の話

月のない暗い晩のこと、怖さを紛らわそうと口笛を吹きながらひとり歩いていた。

すると、少し先に背中の丸いお婆さんがこちらを向いて立っている。

なんだか気味悪いな。

かっぱはさらに大きな口笛を吹いてお婆さんの横を通り過ぎようとした。

すると突然、そのお婆さんが叫んだ。

「夜に口笛を吹くとヘビが出るよ、縁起が悪いね!」と。

かっぱは何よりその大声にびっくりしてよろけ、落ちていた細長いヒモに足を引っ掛けて転んでしまった。

ヘビではなかったが、それに似たもので痛い目に遭ってしまった。

数日後の昼下がり、またあのお婆さんに遭遇する。

何か言われるんじゃないかと身構えるかっぱの目の前を黒猫が横切った。

間髪入れずに

「黒猫が横切るなんて縁起悪い!」

と叫び、得意満面のお婆さん。

かっぱは次の瞬間、横道から飛び出してきた自転車に驚いて転んでしまった。

 

かっぱはこのお婆さんを『縁起婆』と呼ぶことにした。

それからも『縁起婆』はどこからともなく現れては縁起の悪いことを叫び、そのたびにかっぱは転んだり滑ったりと散々だったが、このままじゃいけないと反撃に出た。

『縁起婆』を探し、半日かけて見つけた四つ葉のクローバーを目の前にかざし、こう言い放った。

「見て!葉っぱが4枚で縁起がいいよ!」

するとお婆さんは事も無げに葉を一枚むしりとって、高笑いした。

家に戻り、作戦を練り直す。

今度はまんじゅうとお茶を持って出掛けた。

美味しいのでどうぞ、と差し出すと、『縁起婆』は黙って食べ始めた。

お婆さんがふたつのまんじゅうを食べ終えたと同時にかっぱは叫んだ。

「おめでたい紅白まんじゅうは美味しくて縁起がいい!」

さすがの『縁起婆』も黙ってかっぱを睨んでいる。

「そう怒らずにお茶をどうぞ」

お婆さんはかっぱが用意した湯のみをさっと受け取ってゴクゴクと飲み干した。

すかさずかっぱは叫ぶ、

「茶柱の立ったお茶は縁起がいいね!」

実はきれいな茶柱を立てるのに苦労したんだって打ち明けて、それから『縁起婆』とは仲良しになった。

皆さんの周りにもこんな『縁起婆』いるんじゃない?

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

ベテラン鵜匠を悩ませる「鵜もどき」の話

かっぱオヤジが鵜飼いを観たいというので、岐阜県長良川に出掛けたことがある。

鵜飼いとは、鵜の首を緩やかに紐で締めて飲み込んだ鮎を吐き出させる漁法だ。

すっかり日が落ちた頃、川辺で待っていると鵜匠の乗った細長い船が次々とやってきた。

船を先導するのは首に綱を巻かれた10羽ほどの鳥たち。あれが鵜(う)だね。

ほどなく船先のかがり火に引き寄せられるように、鮎がキラキラと集まって来た。

それを見たかっぱとオヤジは川に滑り込み、そっと小舟に近づき魚を狙った。

ところがだ。

鵜は川面を出たり入ったりするかっぱとオヤジの頭のお皿を、カンカンと突き始めた。

くちばしは思った以上に鋭く、痛い。

かっぱとオヤジは即、撤退。

それでもあきらめずに今度は、鵜の吐き出した魚がたんまり乗っている船を狙うことにした。

暗い後方からそっと乗り込んだが、すぐに見つかり、船頭さんにサオでバンバンお尻を叩かれたオヤジが、ついおならをもらした。

ご存知の通り、河童類のおならは非常に臭い。

臭すぎて鵜飼いも一時中断だ。

皿を突かれ、お尻を叩かれて機嫌の悪くなったオヤジは、くだらねぇや湯の中で尻こだま狙うほうがましだと吐き捨てるように言い、温泉街へ消えて行った。

 

やがて鵜飼いは再開し、川辺から船を眺めていたかっぱは、鵜の群れの中に挙動の違うものがいることに気づく。

鵜によく似たその鳥は猛烈な勢いで次々と鮎を飲み込むので、本当の鵜たちは魚が穫れず、鵜匠も不漁に困惑している。

試しにかっぱが手招きすると、その『鵜もどき』はこちらにスルスル泳いできた。

平安時代から続くといわれる鵜飼い。その歴史のなかで不本意ながらお払い箱になった鵜たちがいつしか化けになり、こうして現役達にまじって川面を泳ぎ回っているようだ。

お土産だよと数匹の鮎をかっぱにくれた『鵜もどき』に、またオヤジと遊びに来るよと約束したが、この半年後、オヤジは河童の川流れならぬ河童の風呂溺れとなり、それは叶わなかった。

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

巨大焼き芋、魅惑の味の秘密とは?「石焼きの翁」の話

秋風が吹くとやってくる石焼き芋屋のおじさん。

ピーーッと蒸気を上げながら、今ではほとんど見なくなったリヤカーを引っ張って春先まで売り歩く。

おじさんは子供くらいの背丈しかないが歩くのは驚くほど速く、芋が欲しいかっぱは夕方になると財布を握って耳を澄ませ、蒸気の音が聞こえるや否や、ダッシュで家を飛び出しておじさんをつかまえた。そうでもしないと芋は手に入らない。

おじさんの焼き芋は巨大で、飛び切り美味しかった。

こんがり焼けた皮の香ばしい匂いに、黄金色の大きなサツマイモはしっとりと甘く、猫舌のかっぱは、ふーふー言いながら夕飯前に全部平らげ、晩ご飯を残して叱られた。

毎年やってくる石焼き芋のおじさんは何年経っても老けることはなく、それがかっぱには謎だった。

ある冬の日、いつものように芋を買いに行って、何気なくその美味しい芋はどこで仕入れるのと尋ねてみた。するとおじさんは、自分の畑で育てた芋だと言う。

この返答に園芸好きのかっぱは食いついた。おじさんの畑ってどこ?芋の種類は何?上手に育てる秘訣はあるの?などなど。

しかし、おじさんは笑うだけで答えない。企業秘密というわけか。

何かある。かっぱはこっそりおじさんの後をつけた。

夜も更け、商売を終えたおじさんは町外れの小さな家までリヤカーを引く。

家の横には猫のひたいほどの畑があった。そうだ、これが企業秘密だな。

こっそり掘ってみたところ、そこのサツマイモは拍子抜けするほど小さい。

おかしいな。

しばらくするとおじさんが家から出てきた。

物影から様子をうかがうと、おじさんは畑に入り、やおらズボンを下げて芋の苗にオシッコを掛け始めた。思わず、えーっ!?って叫びそうになるのをなんとか抑える。

そのオシッコときたら止まることを知らず、小さな畑はまんべんなく潤い、すると芋のツルが動き出し、土の中から芋が顔を出したかと思ったらみるみる大きくなっていった。動きが収まるのを待って、おじさんは巨大化した芋を次々と掘り出していく。

秘密は、これだったのか!

かっぱはショックを受けて帰宅した。

やがて春になり、石焼き芋のおじさんも来なくなったある日の昼下がり、あの畑をもう一度確かめようと行ってみた。

確かこのあたりと思った場所には家も畑もなく、草が生い茂った空き地の奥には古ぼけたほこらがポツンと置かれている。ほこらの中には何もなく、ただ小さな芽を吹いたサツマイモがひとつ転がっていた。

それ以来、かっぱはあのおじさんを『石焼きの翁』と呼んでいる。

秋になると毎年、ピーーッという蒸気音が町に響くが、かっぱはあれから一度も買いに出たことはない。