2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※
胃袋にくちばしを突っ込む「肝吸い」の話
昭和の初め頃、東北の小さな村で働き盛りの男性が変死した。
朝になっても起きてこなかったのだ。
突然死だと思われていたが、近隣の村でも同じように亡くなる人がぽつりぽつりと出たため、これはおかしいという話になった。
亡くなった人達は皆、酒豪であり、最近、目に見えて痩せ細り、また死体には口やお尻から微量の出血があった。
当時、真っ先に疑われたのは河童だ。
死体は腹部が不自然にぺったんこだったため、これは河童が尻こだまを抜いて殺したに違いないと騒ぎになった。
川には河童捕獲の罠が仕掛けられ、畑には毒を塗ったキュウリがぶら下がった。
しかし、河童たちは知っていた。犯人は『肝吸い』だってことを。
『肝吸い』はその名の通り、人の肝を吸い取る妖怪だ。
とはいえ、内臓まで吸うわけではない。
酔って正体を失くしたひとの枕元にやってきて、長いくちばしを口に差し込み、チューチューと胃袋の中身を吸い取る。
とくに、美味しい肴と大量のお酒が入り混じった胃袋の中身が大好物らしい。
吸われたほうは全く気がつかず、目覚めても、一晩寝たらすっかりお腹が減って健康だなぁぐらいのものだ。
ただ『肝吸い』に一旦気に入られてしまうとやっかい。
夜な夜な、胃袋の夕飯をごっそり吸われてしまい、みるみる痩せていく。
ときには『肝吸い』もくちばしを誤って胃壁を削り取ったり、腸まで吸い込むことがあり、吸われた人は理由がわからないまま絶命することになる。
酒飲みで大食漢なのに痩せていく人がいたらこの化けが毎夜通って来ている可能性が高い。突然死を避けたい場合は飲酒を控えて様子をみよう。
積極的に『肝吸い』を遠ざけたいなら、猫又を飼うといい。
追い払うか、ときには食い殺してくれる。
ただ、現在の飼い猫を猫又に育てあげるうちに、あなたが『肝吸い』に吸い殺されなければの話だ。