おばけのブログだってね、 -5ページ目

おばけのブログだってね、

The 26th Anniversary of Formation

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

胃袋にくちばしを突っ込む「肝吸い」の話

昭和の初め頃、東北の小さな村で働き盛りの男性が変死した。

朝になっても起きてこなかったのだ。

突然死だと思われていたが、近隣の村でも同じように亡くなる人がぽつりぽつりと出たため、これはおかしいという話になった。

亡くなった人達は皆、酒豪であり、最近、目に見えて痩せ細り、また死体には口やお尻から微量の出血があった。

当時、真っ先に疑われたのは河童だ。

死体は腹部が不自然にぺったんこだったため、これは河童が尻こだまを抜いて殺したに違いないと騒ぎになった。

川には河童捕獲の罠が仕掛けられ、畑には毒を塗ったキュウリがぶら下がった。

しかし、河童たちは知っていた。犯人は『肝吸い』だってことを。

 

『肝吸い』はその名の通り、人の肝を吸い取る妖怪だ。

とはいえ、内臓まで吸うわけではない。

酔って正体を失くしたひとの枕元にやってきて、長いくちばしを口に差し込み、チューチューと胃袋の中身を吸い取る。

とくに、美味しい肴と大量のお酒が入り混じった胃袋の中身が大好物らしい。

吸われたほうは全く気がつかず、目覚めても、一晩寝たらすっかりお腹が減って健康だなぁぐらいのものだ。

ただ『肝吸い』に一旦気に入られてしまうとやっかい。

夜な夜な、胃袋の夕飯をごっそり吸われてしまい、みるみる痩せていく。

ときには『肝吸い』もくちばしを誤って胃壁を削り取ったり、腸まで吸い込むことがあり、吸われた人は理由がわからないまま絶命することになる。

酒飲みで大食漢なのに痩せていく人がいたらこの化けが毎夜通って来ている可能性が高い。突然死を避けたい場合は飲酒を控えて様子をみよう。

積極的に『肝吸い』を遠ざけたいなら、猫又を飼うといい。

追い払うか、ときには食い殺してくれる。

ただ、現在の飼い猫を猫又に育てあげるうちに、あなたが『肝吸い』に吸い殺されなければの話だ。

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

イライラさせるヤツめ!「かんしゃく木魚」の話

かっぱがハードロックバンドでギラギラしていた頃の話。

当時ドラムだった小豆洗いが中古楽器屋さんから木魚を仕入れてきて、新曲ではこれをアクセントに使うと言う。それはおもしろいとみんな賛成した。

その直後だ。

ああ腹が立つキーっ!と叫んで、小豆洗いは買ったばかりの木魚をぽかぽか叩き出した。 

普段は気の弱い小豆洗いが、化けが変わったようにかんしゃくを起こす様子に、メンバーは唖然とした。

それ以来、小豆洗いは何かにつけキーっ!と叫んでは中古木魚をぽかぽか叩くので、みんな怖くて何も言えない状態が続き、バンドの練習は息苦しいものになった。

木魚を持って来なくなったとたん、小豆洗いは元のおとなしい化けに戻った。メンバーはみんなで、あの木魚に何かあるんじゃないかとささやき合い、かっぱに話を訊いて来いと言う。

 

練習が終ったその足で、かっぱは中古楽器屋さんに出掛けて木魚の話をすると、店主はやっぱりかと言う顔をして事情を説明してくれた。

町内にあるお寺の息子がギターを買いにきたが、持ち金が足らず、残りはこれでとヒビの入った木魚を持参したと言う。これは由緒ある品なんですという話など全く信じなかったが、店主は少年の熱意に負けたそうだ。

引き取った木魚はすぐに買い手がついたが、しばらくすると返品されてきた。陳列するとすぐに売れる、ところがまた返品と、これの繰り返しを不思議に思った店主は、お寺に事情を聞きに行った。

息子が古い木魚を処分したことを知らなかった住職は驚いたが、この木魚にまつわる話をしてくれた。

小さいながらも歴史あるこのお寺には昔、大変なかんしゃく持ちのお坊さんがいたそうだ。

周りが手を焼くほどかんしゃくを爆発させたままキーキーとお経を読むので、死人も驚いて生き返ったという噂が立つほどだった。

イライラしながら力任せに木魚を叩いてバチが折れる。しまいには木魚にヒビが入り、叩いてもうんともすんとも言わなくなった。

かんしゃく和尚は腹立ちまぎれに木魚を蹴っ飛ばしたが、その勢いで自分は後ろにひっくり返り、したたかに頭を打って息絶えてしまった。

それ以来、『かんしゃく木魚』はお寺の片隅に仕舞われたまま、ギター息子に引っ張り出されるまで長い年月眠っていた。

 

しばらくして、あるライブ会場に行ったときのこと。

誰かが金切り声を上げて怒鳴っているのが聞こえて来た。

そのバンドを観てびっくり、ボーカリストが例の『かんしゃく木魚』を叩きながら歌っていたのだ。おかげでキーキーと声もよく出ていた。

みなさんの手元にも妖しい楽器はありませんか?

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

子供たちは興奮のるつぼ「音頭鳥」の話

そろそろ夏祭り。

裏山の神社からはピーヒャララとお囃子の音が聞こえてくる。

夏祭りのクライマックスである子供神輿はもうスタートしていて、一番手の神輿が飛ぶように山から降りてきた。

神輿のてっぺんには鮮やかな色の鳥が乗っかって、羽をひらひらさせながらワッショイワッショイと掛け声を発している。担ぎ手の子供たちはその鳥を見上げながら興奮した面持ちでこれまた大声をあげている。

 

今では町全体が盛り上がるこのお祭りも、数年前には廃止寸前だった。

世話役の氏子たちも高齢化が進み、祭りの支度もままならず、当日は関係者が集まって呑んでカラオケ歌っておしまいという、なんとも尻つぼみな状態だった。

神輿目当てに私設応援団として駆けつけたかっぱだったが、せっかくの子供神輿も担ぎ手がいなくては話にならない。今年いっぱいかな、と言う世話役のおじいさんのつぶやきを耳にして、かっぱは誰より慌てた。

神輿を担ぐ子供たちを応援しつつ尻こだまを抜きつつ、夏の到来を感じるのが何より楽しみだったからだ。

そこで思い出したのが、東京・神田で参加した子供神輿のこと。

飛び入りしたお祭り、そこで子供神輿が盛り上がる理由を初めて知った。

神輿の上に『音頭鳥』という化けが乗っかって、その掛け声たるやリンリンと町内に響き渡っていたのだ。

きれいな鳥が乗っているよ、とかっぱが騒いでも、うなずくのは子供たちばかり。大人には見えないらしい。

『音頭鳥』の乗った子供神輿は驚くほど軽やかに進んでいく。

まるで雲を担いでいるように軽くて、鳥の声にうっとりしながらいつの間にか終点に到着したよと、小さな担ぎ手たちは興奮して話してくれた。

あれだ!あの鳥を連れてこよう!

そこでかっぱは『音頭鳥』の好物を調べ、おびき出す作戦に出た。

町内にある鰻屋さんに頼んで、ウナギの頭ばかり譲ってもらい、それを串に差して、長い竹竿の先にくくりつけて立てておく。

するとお囃子の音を聞きつけた『音頭鳥』が、好物目指して一目散にすっとんで来るというわけだ。

『音頭鳥』に釣られて町内の子供たちが子供神輿に群がり、やがては大人たちも顔を揃え、ついに夏祭りはにぎわいを取り戻した。

ウナギの頭をもらうついでになぜか鰻重をごちそうになったりして、このお祭りの成功で一番気を良くしているのは、間違いなくこのかっぱだな。