2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※
骨を鳴らして喜ぶ「こきこき」の話
妖怪オーケストラの演奏会に出掛けた。
パーカッション担当の化けに見覚えがあり、かっぱは演奏が終了すると同時に急いで会場を後にした。
ここまで来れば大丈夫、と駅の階段をのぼっていたら後ろから声がする。
「かっぱちゃんでしょ?」
振り向くと『こきこき』が満面の笑顔で立っていた。
『こきこき』は中学校の同級生だった。
化け達者になりたいと燃えていたかっぱは、中学入学後、すぐに演劇部に仮入部した。そこにいたのが『こきこき』だ。人なつこくかっぱの手を握りながら仲良くしてねと言う。
そう言いながら自分の首や肩の骨をコキコキ鳴らす『こきこき』を、すいぶん器用だねと褒めたのがそもそもの間違いだった。
かっぱちゃんも鳴るよと言いながら、かっぱの指の関節を強制的にコキコキと鳴らし始めた。怖いやら痛いやらで、もう止めてくれと言っても、へらへら笑って手を離さない。
連日のコキコキ攻撃で演劇部をあきらめたかっぱは合唱部に入り、それが歌うきっかけになった。
数年ぶりに会った『こきこき』は、パーカッショニストになっていた。
腕前を認められて引っ張りだこだと、背骨をコキコキ鳴らしながら言う。
かっぱちゃんは何をしているの?と訊かれてつい、バンドの話をしてしまい、それなら手伝ってあげると、『こきこき』は半ば強引に妖怪バンドに入ってきた。
全身の骨をリズミカルに鳴らす派手な『こきこき』のパフォーマンスはライブでも評判になり、一気に動員も増えた。
ある日のこと、後ろでパーカッションを鳴らしていた『こきこき』がステージの前方に出てきて、歌っているかっぱの手をつかんで、コキコキと指の骨を鳴らし始めた。
ドッとウケるお客さん。
かっぱは嫌だったが、お客さんが喜ぶならと我慢していた。
ウケて調子に乗った『こきこき』は、かっぱの首をつかんで、コキッ、コキッ。さらにはバチでかっぱの皿をカンカン叩く。
新しいパフォーマンスに戸惑いながらも、みんなは歓声を上げた。
それをきっかけに『こきこき』は客席に飛び込み、最前列の女の子にしがみついて彼女の骨をコキコキと鳴らし始めたからさあ大変。
歓声は悲鳴にかわり、お客さんは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
妖怪バンドはそのライブハウスを出入り禁止になり、『こきこき』はバンドを辞めた。
みんなもあるでしょう、関節がコキッて言うこと。
頻繁に鳴るようになったら『こきこき』に取り憑かれている証拠だよ。