おばけのブログだってね、 -4ページ目

おばけのブログだってね、

The 26th Anniversary of Formation

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

骨を鳴らして喜ぶ「こきこき」の話

妖怪オーケストラの演奏会に出掛けた。

パーカッション担当の化けに見覚えがあり、かっぱは演奏が終了すると同時に急いで会場を後にした。

ここまで来れば大丈夫、と駅の階段をのぼっていたら後ろから声がする。

「かっぱちゃんでしょ?」

振り向くと『こきこき』が満面の笑顔で立っていた。

 

『こきこき』は中学校の同級生だった。

化け達者になりたいと燃えていたかっぱは、中学入学後、すぐに演劇部に仮入部した。そこにいたのが『こきこき』だ。人なつこくかっぱの手を握りながら仲良くしてねと言う。

そう言いながら自分の首や肩の骨をコキコキ鳴らす『こきこき』を、すいぶん器用だねと褒めたのがそもそもの間違いだった。

かっぱちゃんも鳴るよと言いながら、かっぱの指の関節を強制的にコキコキと鳴らし始めた。怖いやら痛いやらで、もう止めてくれと言っても、へらへら笑って手を離さない。

連日のコキコキ攻撃で演劇部をあきらめたかっぱは合唱部に入り、それが歌うきっかけになった。

数年ぶりに会った『こきこき』は、パーカッショニストになっていた。

腕前を認められて引っ張りだこだと、背骨をコキコキ鳴らしながら言う。

かっぱちゃんは何をしているの?と訊かれてつい、バンドの話をしてしまい、それなら手伝ってあげると、『こきこき』は半ば強引に妖怪バンドに入ってきた。

 

全身の骨をリズミカルに鳴らす派手な『こきこき』のパフォーマンスはライブでも評判になり、一気に動員も増えた。

ある日のこと、後ろでパーカッションを鳴らしていた『こきこき』がステージの前方に出てきて、歌っているかっぱの手をつかんで、コキコキと指の骨を鳴らし始めた。

ドッとウケるお客さん。

かっぱは嫌だったが、お客さんが喜ぶならと我慢していた。

ウケて調子に乗った『こきこき』は、かっぱの首をつかんで、コキッ、コキッ。さらにはバチでかっぱの皿をカンカン叩く。

新しいパフォーマンスに戸惑いながらも、みんなは歓声を上げた。

それをきっかけに『こきこき』は客席に飛び込み、最前列の女の子にしがみついて彼女の骨をコキコキと鳴らし始めたからさあ大変。

歓声は悲鳴にかわり、お客さんは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

妖怪バンドはそのライブハウスを出入り禁止になり、『こきこき』はバンドを辞めた。

 

みんなもあるでしょう、関節がコキッて言うこと。

頻繁に鳴るようになったら『こきこき』に取り憑かれている証拠だよ。

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

ひとの毛をまとう可愛い化け「けむしり」の話

同居している猫又が、ある日、不思議なネズミをくわえて戻ってきた。

それは毛がなく、寒そうにぶるぶる震えている。

猫用ヒーターを入れてやると、猫又とネズミは仲良く並んで眠っている。

そこに、にんげんの友達、千秋ちゃんがやってきた。

千秋ちゃんは毛深いのが悩みの女の子だ。

あら可愛い、と手を伸ばした千秋ちゃんのその腕に、いきなりネズミがしがみついた。

一瞬ひるんだ千秋ちゃんだったが、ネズミのつぶらな瞳に見つめられてそのままにさせている。私って小動物にとっても好かれるタイプなの、と嬉しそう。

しばらくするとネズミはモソモソと動き始め、手先を上手に使って、なんと千秋ちゃんの腕の毛を抜き始めたのだ。

抜いた毛はすぐさま自分の背中に植え付けるネズミ。抜いては植え、抜いては植え、あっと言う間に千秋ちゃんの腕はつるつるになり、ネズミはふさふさになった。

大喜びの千秋ちゃんはこのネズミを連れて帰りたい、と粘ったが、今夜はひとまずお帰りくださいと丁重に追い出した。 

 

開国以来、外国から入ってきた妖怪が増えている。

昭和に急増したこの『けむしり』もそのひとつで、日本では女性に大人気だが、男性に最も恐れられている妖怪だ。

『けむしり』の基本形は体毛のないつるつる状態だが、寒いときはひとに取り憑いてちょうど良い長さの毛を抜き、それを自分に植付けて暖を取るという面白い習性を持つ。そのため女性の長い髪には興味を示さない。またひと以外の動物には取り憑かない。

痛みゼロでお肌はツルツル、とくに体毛やヒゲの処理のため、東南アジアでは美しくなりたいひとが密かにこの化けを手に入れてペットにしていると聞いた。

 

先日は、近所のタイ式エステ店でこっそり飼われていた『けむしり』が逃げ出して大騒ぎになった。

『けむしり』は足元から登ってくる場合が多く、いつの間にかスネ毛がすっきりしていたらこの化けがしがみついている可能性は高い。

しかし本当に鈍い人になると、頭髪に登ってくるまで気づかないこともあるので、短髪の男性はとくに注意しよう。

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

ドロドロと渦巻いて増殖する「悔しまみれ」の話

その日、電車のなかは異様な雰囲気だった。

乗客の幾人かがあきらかにイライラしている。

仕事で誰かに叱られたのか、限定ランチを食べ損ねたのか、額にシワを寄せて口をへの字に曲げ、その顔はまるで般若のようだ。

あぶら汗を流し、悔しい!と口に出すひともいた。

次の駅に到着し、数人が立ちあがったその時、かっぱは見た。

イラつく人々のお尻にべったりと『悔しまみれ』が張り付いているのを。

 

かっぱが初めて『悔しまみれ』に出会ったのは、ダンス大会の舞台袖だった。

さあ出番だ!と張り切って舞台に走り出そうとした瞬間、何かに足を取られてつんのめった。

転がりながら舞台に飛び出してお客さんの笑いを買ったが、それをきっかけにメンバーも肩の力が抜けてうまく踊れたそうで、まあ良かったけれど。

後で舞台袖の床を調べると、小さい黒い渦を巻いて触手を伸ばしている気持ちの悪いものがぺたりと張り付いている。

耳を澄ますと、悔しい悔しい、と言う声が輪唱のように聴こえてきた。

 

『悔しまみれ』は人が心に抱く、悔しいという気持ちが化けたものだ。

ひとりや二人なら、こんなにはならない。

たくさんの人々の、あらゆる悔しいという気持ちが集まって、ドロドロした渦巻きになり、やがて立派な妖怪になるのだ。

舞台袖には、うまく出来なかった自分への悔しさ、主役をとられた他人への悔しさなど、喜びと同じくらいの悔しさが落ちている。

電車にはそれこそ、人の数ほどの悔しさが乗り込んで来る。

シートに残された『悔しまみれ』は、次に座る人にくっついて、悔しい気持ちを増殖させていく。

これはいけない。

封じ込めないと世の中、般若の顔をした人であふれてしまう。

『悔しまみれ』の撃退方は簡単、とにかく笑うことだ。

 

次の駅で赤ちゃんとお母さんが乗り込んできた。

赤ちゃんが笑うたびに周囲に笑顔が伝染し、『悔しまみれ』はいつのまにか見えなくなった。