おばけのブログだってね、 -3ページ目

おばけのブログだってね、

The 26th Anniversary of Formation

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

酔っぱらい気分の美人泥棒「酒ノリ子」の話

 

化け物横丁の入口に、こざっぱりとした飲み屋がある。

かっぱ初のバイトはそこの皿洗いだった。

ろくろ首の姐さんが経営するこの店は化けたちが通う店だったが、お客さんの大半はそうとは知らない普通のにんげんだった。

あるとき、綺麗なお姉さんがやってきた。

お姉さんは他のお客さんとも打ち解けて、気づくとテーブルを一つにして呑んでいる。

このお姉さんが勧め上手で、さあもう一杯、さあもう一口と勧めると、誰も断れずどんどん呑んでしまう。ただ呑んでも呑んでも酔わないらしく、おかしいな美人と呑むと酔わないね、などと言いながら、かっぱちゃんビールもう一本ねと追加オーダーが入るため、ろくろ首の姐さんはニコニコだった。

綺麗なお姉さんはグラスに口を付ける程度だったが、すっかり酔って上機嫌だ。

酔わない酔わないと言ってたお客さんだが、さあ店じまいだよというと突然、ばたんと倒れ、ぐーぐーとイビキをかきだした。

ろくろ首の姐さんは、勧め上手なお姉さんをとても気にいって、お店を手伝ってくれないか?と声をかけた。

お姉さんが働くようになってお店は大繁盛だった。

お客さんはお姉さん目当てで押し掛け、お姉さんは、もっと呑め呑めとグラスを空けさせた。おかげで山と積んであったお酒のストックが底をつく日もあった。

そして閉店になるとお客さんはバタバタ倒れてイビキをかく、の繰り返しだった。

お酒を口にしなくても閉店時には酔ったように上機嫌なお姉さんを誰かが『酒ノリ子』と呼び始めた。

 

そのうち「先日はたくさん呑んだのに少しも酔わず、ひどい二日酔いだけが残った」と、お客さんが口を揃えて言うようになる。

ある日のこと、フロアで片付けをしていたかっぱは見てしまった。

お客さんの腰に触れていたノリ子姉さんの手のひらが、お客さんの体の中にぐんぐんめり込んでいくのを。

お客さんのほうはちっとも気づかない様子。

かっぱは慌ててろくろ首の姐さんにそのことを報告したところ、とっくに知っているわよと笑った。

『酒ノリ子』姉さんは手のひらから相手の酔っぱらい気分を吸い取る化けで、ろくろ首の姐さんは初めて会ったときに気づき、これは使える!と思ったらしい。

大人の世界は本当に怖いや。

しばらくお店の好景気は続いたが、やがてノリ子姉さん目当ての常連さんが次々とからだを壊してお店に顔を出さなくなり、売り上げがガクっと落ちた頃、『酒ノリ子』姉さんはぷいと消えてしまった。

ノリ子姉さん、きっと今でもどこかの誰かの横で、酔っぱらい気分を横取りしているんだろうな。

みんなも、いくら呑んでも酔わないときは、周囲に美人がいないか確認してね。

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

骨を鳴らして喜ぶ「こきこき」の話

妖怪オーケストラの演奏会に出掛けた。

パーカッション担当の化けに見覚えがあり、かっぱは演奏が終了すると同時に急いで会場を後にした。

ここまで来れば大丈夫、と駅の階段をのぼっていたら後ろから声がする。

「かっぱちゃんでしょ?」

振り向くと『こきこき』が満面の笑顔で立っていた。

 

『こきこき』は中学校の同級生だった。

化け達者になりたいと燃えていたかっぱは、中学入学後、すぐに演劇部に仮入部した。そこにいたのが『こきこき』だ。人なつこくかっぱの手を握りながら仲良くしてねと言う。

そう言いながら自分の首や肩の骨をコキコキ鳴らす『こきこき』を、すいぶん器用だねと褒めたのがそもそもの間違いだった。

かっぱちゃんも鳴るよと言いながら、かっぱの指の関節を強制的にコキコキと鳴らし始めた。怖いやら痛いやらで、もう止めてくれと言っても、へらへら笑って手を離さない。

連日のコキコキ攻撃で演劇部をあきらめたかっぱは合唱部に入り、それが歌うきっかけになった。

数年ぶりに会った『こきこき』は、パーカッショニストになっていた。

腕前を認められて引っ張りだこだと、背骨をコキコキ鳴らしながら言う。

かっぱちゃんは何をしているの?と訊かれてつい、バンドの話をしてしまい、それなら手伝ってあげると、『こきこき』は半ば強引に妖怪バンドに入ってきた。

 

全身の骨をリズミカルに鳴らす派手な『こきこき』のパフォーマンスはライブでも評判になり、一気に動員も増えた。

ある日のこと、後ろでパーカッションを鳴らしていた『こきこき』がステージの前方に出てきて、歌っているかっぱの手をつかんで、コキコキと指の骨を鳴らし始めた。

ドッとウケるお客さん。

かっぱは嫌だったが、お客さんが喜ぶならと我慢していた。

ウケて調子に乗った『こきこき』は、かっぱの首をつかんで、コキッ、コキッ。さらにはバチでかっぱの皿をカンカン叩く。

新しいパフォーマンスに戸惑いながらも、みんなは歓声を上げた。

それをきっかけに『こきこき』は客席に飛び込み、最前列の女の子にしがみついて彼女の骨をコキコキと鳴らし始めたからさあ大変。

歓声は悲鳴にかわり、お客さんは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

妖怪バンドはそのライブハウスを出入り禁止になり、『こきこき』はバンドを辞めた。

 

みんなもあるでしょう、関節がコキッて言うこと。

頻繁に鳴るようになったら『こきこき』に取り憑かれている証拠だよ。

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

ひとの毛をまとう可愛い化け「けむしり」の話

同居している猫又が、ある日、不思議なネズミをくわえて戻ってきた。

それは毛がなく、寒そうにぶるぶる震えている。

猫用ヒーターを入れてやると、猫又とネズミは仲良く並んで眠っている。

そこに、にんげんの友達、千秋ちゃんがやってきた。

千秋ちゃんは毛深いのが悩みの女の子だ。

あら可愛い、と手を伸ばした千秋ちゃんのその腕に、いきなりネズミがしがみついた。

一瞬ひるんだ千秋ちゃんだったが、ネズミのつぶらな瞳に見つめられてそのままにさせている。私って小動物にとっても好かれるタイプなの、と嬉しそう。

しばらくするとネズミはモソモソと動き始め、手先を上手に使って、なんと千秋ちゃんの腕の毛を抜き始めたのだ。

抜いた毛はすぐさま自分の背中に植え付けるネズミ。抜いては植え、抜いては植え、あっと言う間に千秋ちゃんの腕はつるつるになり、ネズミはふさふさになった。

大喜びの千秋ちゃんはこのネズミを連れて帰りたい、と粘ったが、今夜はひとまずお帰りくださいと丁重に追い出した。 

 

開国以来、外国から入ってきた妖怪が増えている。

昭和に急増したこの『けむしり』もそのひとつで、日本では女性に大人気だが、男性に最も恐れられている妖怪だ。

『けむしり』の基本形は体毛のないつるつる状態だが、寒いときはひとに取り憑いてちょうど良い長さの毛を抜き、それを自分に植付けて暖を取るという面白い習性を持つ。そのため女性の長い髪には興味を示さない。またひと以外の動物には取り憑かない。

痛みゼロでお肌はツルツル、とくに体毛やヒゲの処理のため、東南アジアでは美しくなりたいひとが密かにこの化けを手に入れてペットにしていると聞いた。

 

先日は、近所のタイ式エステ店でこっそり飼われていた『けむしり』が逃げ出して大騒ぎになった。

『けむしり』は足元から登ってくる場合が多く、いつの間にかスネ毛がすっきりしていたらこの化けがしがみついている可能性は高い。

しかし本当に鈍い人になると、頭髪に登ってくるまで気づかないこともあるので、短髪の男性はとくに注意しよう。