2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※
抜き差しならぬは許さんと尻を叩く「せっぱつまり」の話
毎週このコラムを書くのは大変だ。
机に向かうがちっとも進まず、おやつを食べてうたた寝して、何も書けずに終わる日もある。
そんなとき、かっぱには奥の手がある。
『せっぱつまり』先生に来てもらい、尻をきつめに叩いてもらうのだ。
涙が出るほど痛いが、ダラダラした気分が吹き飛んで、集中せずにはいられなくなる。
『せっぱつまり』と呼ばれるこの妖怪、傷のある額にいつも汗を浮かべ、なんとなく風格があるのは元々、武士だったからだ。
浪人だった『せっぱつまり』は江戸の町で寺子屋を開き、近所の子供たちに読み書きを教えていた。
教え方も上手で子供たちに人気の先生、寺子屋はいつもにぎわっていた。
しかしあるとき、ひょんなことから喧嘩に巻き込まれ、浪人先生は刀を抜かざるを得ない状況に追い込まれる。ところが刀は錆び付き、サヤから抜こうにもびくとも動かなかった。
無念の死をとげた浪人先生はやがて、額に受けた傷そのままに、寺子屋に化けて出るようになる。
「アタマもカタナも日頃の手入れを怠るな、切羽詰まって抜き差しならぬとなったら大いに恥ぞ!」とハッパを掛ける。
子供たちも化けに尻を叩かれてはのんびりしていられない。
怖いの半分、発奮半分で一生懸命、勉学に励むのであった。
『せっぱつまり』お化け先生のおかげで、この寺子屋出身の子供たちはみんな成績優秀となり世間で大いに活躍するため、噂を聞きつけてわざわざ遠くから子供を通わせる親御さんもいた。空きがないと断られてもあきらめず、千両箱を寺子屋の前に積む親も現れた。
当然、現代でも『せっぱつまり』先生は活躍中、有名学習塾で子供たちの尻を叩いているようだ。
叩かれた子供たちは成績をグングン伸ばし、『せっぱつまり』先生は令和の世の中でも注文を浴びている。
「切羽詰まってからでは手遅れ、勉強するなら今でしょう!」と額に汗を浮かべて叫ぶ『せっぱつまり』先生に、かっぱは今週もまたやっかいになったのである。