2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※
街から街へ人生を盗んで歩く「手相盗り」の話
女の子は占いが大好きだ。
最近、かっぱの棲む町にも手相占い師が現れ、友達がさっそく行って来た。よく当たるのよ、と興奮している。
その子は、恋愛の相談でズバリと当てられた上に、数週間後にまた来なさい、と言われたそうだ。
それを聞いてかっぱもさっそく行列に並んだ。
並んでいるほとんどは女性で、友達同士できゃあきゃあ騒いでいるのもいれば、思い詰めた表情で順番を待つ人もいる。
正直言うとかっぱは悩みなんてないし、訊きたいこともなかったが、手相占いは未体験だったのであくまで興味本位である。
いよいよ順番が回ってきた。
小さな机と椅子、その向こうに座る占い師はかなり高齢のようで、深くマントをかぶったまま背中を丸くしている。向こうの顔も見えないし、こちらを見る様子もない。
「手のひらを拝見します」と言うので差し出すと、シワシワの手でかっぱの手のひらをなぞったりこすったりしていたがすぐに、あなたにんげんじゃないねと言い当てた。水かきはあるのに手のひらにシワがない、とガッカリした様子だ。
悩みもないようだから、もう帰っておくれ、と言う。
すごい!全て当たっている!
たいしたものだ、と感心しながら帰宅した。
さて、例の友達はあれから数回、占い師の元に通ったのだがその都度、かっぱに結果報告してきた。
毎回、実践的なアドバイスを受けて、恋愛もトントン拍子みたいだ。
ただ、最近、シワがなくなっているような気がすると言ってかっぱに手のひらを見せた。確かに、縦横に伸びるシワがどれも極端に短い。生命線など手のひらの真ん中で終わっている。
まあ、シワシワになるよりいいじゃん、とかっぱは笑った。
間もなく、友達は占い師のアドバイス通りに恋愛を成就させ、めでたく結婚にたどり着いたのだが数ヶ月後、あっけなく死んでしまった。
そのときになって、かっぱは友達の手のひらからシワが消えたことを思い出し、疑念を胸に再び、占い師を訪ねた。
相変わらずマントを深くかぶり顔は隠していたが、今日は背筋がシャキッと伸びている。
「手のひらを拝見します」と伸ばしてきた手も子供のようにつるつるだ。
間違いなくこの占い師は若返っていた。
そして前回同様、かっぱの手のひらを見て、あなたはにんげんじゃないね、奪うシワもないから帰っておくれ、とマントをひるがえして言った占い師の顔は、どうみても10代の若者だった。
手相から人生を少しずつ奪い取り、それを自分のエネルギーにしているこの妖怪は『手相盗り』と呼ばれているそうだ。
運命線を取られた人は、待っていたはずのドラマチックな出来事に出会うことなく、生命線を奪われた人は、長生きはできない。
そして街角の占い師は姿を消した。
今度はどこの街に現れるのだろう。