2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※
子供たちは興奮のるつぼ「音頭鳥」の話
そろそろ夏祭り。
裏山の神社からはピーヒャララとお囃子の音が聞こえてくる。
夏祭りのクライマックスである子供神輿はもうスタートしていて、一番手の神輿が飛ぶように山から降りてきた。
神輿のてっぺんには鮮やかな色の鳥が乗っかって、羽をひらひらさせながらワッショイワッショイと掛け声を発している。担ぎ手の子供たちはその鳥を見上げながら興奮した面持ちでこれまた大声をあげている。
今では町全体が盛り上がるこのお祭りも、数年前には廃止寸前だった。
世話役の氏子たちも高齢化が進み、祭りの支度もままならず、当日は関係者が集まって呑んでカラオケ歌っておしまいという、なんとも尻つぼみな状態だった。
神輿目当てに私設応援団として駆けつけたかっぱだったが、せっかくの子供神輿も担ぎ手がいなくては話にならない。今年いっぱいかな、と言う世話役のおじいさんのつぶやきを耳にして、かっぱは誰より慌てた。
神輿を担ぐ子供たちを応援しつつ尻こだまを抜きつつ、夏の到来を感じるのが何より楽しみだったからだ。
そこで思い出したのが、東京・神田で参加した子供神輿のこと。
飛び入りしたお祭り、そこで子供神輿が盛り上がる理由を初めて知った。
神輿の上に『音頭鳥』という化けが乗っかって、その掛け声たるやリンリンと町内に響き渡っていたのだ。
きれいな鳥が乗っているよ、とかっぱが騒いでも、うなずくのは子供たちばかり。大人には見えないらしい。
『音頭鳥』の乗った子供神輿は驚くほど軽やかに進んでいく。
まるで雲を担いでいるように軽くて、鳥の声にうっとりしながらいつの間にか終点に到着したよと、小さな担ぎ手たちは興奮して話してくれた。
あれだ!あの鳥を連れてこよう!
そこでかっぱは『音頭鳥』の好物を調べ、おびき出す作戦に出た。
町内にある鰻屋さんに頼んで、ウナギの頭ばかり譲ってもらい、それを串に差して、長い竹竿の先にくくりつけて立てておく。
するとお囃子の音を聞きつけた『音頭鳥』が、好物目指して一目散にすっとんで来るというわけだ。
『音頭鳥』に釣られて町内の子供たちが子供神輿に群がり、やがては大人たちも顔を揃え、ついに夏祭りはにぎわいを取り戻した。
ウナギの頭をもらうついでになぜか鰻重をごちそうになったりして、このお祭りの成功で一番気を良くしているのは、間違いなくこのかっぱだな。