2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
怨みを胸に飛んでくる「寺つつき」の話
真夏になると農園にやってくる野鳥は減った。
みんな山に帰り、残っているのは山鳩とスズメだけ。
そのなかに、見慣れない鳥がまじっていた。
その鳥はかっぱが用意した穀物を食べるわけでもなく、イライラとあちこちを突いて、しまいには隣の木造アパートの壁にアタックしている。
凶暴だ。
どうも普通の鳥ではない。
やがて鳥は野太い声で話しかけてきた。
「自分は日本の神々を信仰してきた者だが、新たに伝来した仏教の信徒に討伐された悔しさからこんな姿になり、それ以来、寺を突いている」とのこと。
かっぱはあきれて、今ではお寺も神社もキリストさんも仲良くやっているのでそんな怨み言は時代遅れもはなはだしい、と言ってきかした。
『寺つつき』と呼ばれるその鳥はようやく納得したが、それでも自分は寺を突つくことしか出来ないので、どこか手頃なお寺を紹介してくれ、と言う。
そんな寺はない、と断ったが、泣いて頼むので仕方なく、なじみの寺があるので、そこなら少しだけ突いても良いと場所を教えた。
そんなこともすっかり忘れた頃、品川のお寺を訪ねた。
お坊さんは留守で、お手伝いのおばさんが出てきた。
おばさんは実質、この小さなお寺を牛耳っている。
軽い世間話などしていたが最後に、ところでご住職はお元気ですか?と何気なく尋ねたところ、とたんに表情が変わり、よくぞ訊いてくれましたとばかりにしゃべり始めた。
なんでも、住職は心の病になってしまい、暗い顔で寝込んでいるそうだ。
最近は法事も面倒がり、そのたびにおばさんがなだめすかしてお尻を叩いているらしい。何よりお葬式を嫌って、檀家から死人が出たと連絡が来ると、なんだかんだ言って断ろうとするんです、とおばさんはため息。
気の毒だとは思ったが、檀家の葬式を嫌がる坊主がいると聞き、思わず吹き出しそうになった。
心の病になったきっかけは、夜中の物音らしい。
1年ほど前から夜中になるとコツコツ、コツコツと小さな音がし始めた。
最初はたいして気に留めなかった住職だったが、毎晩、毎晩、明け方まで続くとさすがに気になり、ついには一睡も出来なくなってしまったそうだ。
誰かのいたずらかと思い、隠れて見ていたら、犯人は小さな鳥だった、とそこまで話を聞いてようやく『寺つつき』のことを思い出した。
マズい。
お寺の壁が多少、崩壊すれば『寺つつき』も納得して飛び去るだろうが、その前に住職が崩壊しそうである。





