おばけのブログだってね、 -7ページ目

おばけのブログだってね、

The 26th Anniversary of Formation

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話まで創作妖怪たちが登場します※

 

あの世までそっと寄り添う「アイカタ」の話

かっぱの仲間を紹介するこのコラムも6周目に突入、またレアで旬な妖怪をあいうえお順で紹介していこう。

ただ今回の主人公は妖怪じゃなくて妖精だ。

 

かっぱが仲良くしている『アイカタ』ちゃんはその名前の通り、必要なときに、そっと側に寄り添ってくれる妖精。余計なことをしゃべらず、静かに微笑んでいるキュートな存在だ。

かっぱは何かと『アイカタ』ちゃんを呼び出す。

先日は、友達から「大きいケーキと小さいケーキ、好きなほうをあげるよ」と言われて、欲張ったかっぱは大きい箱を抱えて帰って来たのだけれど、半分も食べないうちにギブアップ。

『アイカタ』ちゃんを呼び出して、残りのケーキを食べてもらった。

ついでに、ゲームの相手もお願いし、眠るまで側にいてもらった。

優しくて頼りがいのある『アイカタ』ちゃんだが、来てくれるのは1対1のときだけ。

墓場の肝試し大会には小僧妖怪たちと『アイカタ』ちゃんに声を掛けたんだけれど決局、彼女は姿を見せなかった。

ところがその帰り道、みんなと別れてひとりになったかっぱは急に怖くなってぶるぶる震えてしまった。そこにスッと現れたのが『アイカタ』ちゃん。かっぱの手を取って家まで一緒に歩いてくれたんだ。

でも、『アイカタ』ちゃんの本当のお相手は、死期の近づいたひと。

ひとりであの世に旅立つひとの側に寄り添い、手を握ったり、話をじっと聞いてあげるのが『アイカタ』ちゃんのお役目で、お年寄りのなかにはその存在を知っているひともいる。

あの世への道を一緒に歩いてくれる『アイカタ』ちゃん、寄り添われたひとはみんな心静かに旅立っていくよ。

同じような存在なのに俺はなぜか嫌われ者だって、ぼやいているのが『死神』だ。

だから『アイカタ』ちゃんを見習って、まずその黒い衣装をピンク色に変えてみたらってかっぱは言うんだけど。

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

 

腰から下は秘密の妖怪「わいら」の話

かっぱでも判らない妖怪はたくさんいる。

よく見かける『わいら』もそのひとつ。

おっとりした気のいい化けで、会えば天気の話などをする仲だ。

モグラのようにトンネルを掘って移動するらしく、神出鬼没なうえに、いつも地面の穴や薮の中から上半身しか出していないので、下半身がどうなっているか判らない。

判らないと余計に観たい。

尻こだまはどうなっているのか。

一度、マンホールのふたを持ち上げて挨拶されたことがあったので、大急ぎで隣のマンホールから潜り、地下から『わいら』を見上げところ、下向きになってこちらを待っていた。

次に会ったときには、公園に置いてある土管から顔を出していたので、世間話をしつつ反対側へ廻ってみたらいつの間にかそこから顔が出ていた。

もう一度、向こうに廻ってもやはりそこに顔。

スピードをあげてグルグル廻っていたら、

「かっぱくん、せわしないですね」と笑われてしまった。

かっぱは正直に、『わいら』くんの腰から下を観てみたい、と告白したら、私も観た事がないので興味ありますなんて言う。よし話は決まった。

早速、『わいら』の手をつかんで土管から引っ張り出そうとしたが、びくともしない。

力持ちの見越し入道を呼んで『わいら』を引っ張ったがやはりダメ。その際、かっぱは土管の反対側からモゾモゾと入ってみたが『わいら』の下半身に触れることなく気づけば土管の中で『わいら』と顔を並べていた。

これは大いに謎だ。

色々とやったあげく、巨大な妖怪『手洗い鬼』と『ダイダラボッチ』に来てもらい、『わいら』の片腕ずつ引っ張ってくれと頼んだ。

ぎりぎり、ぎりぎり、ぎりぎり、ぎりぎり。

引っ張って引っ張って、よし抜けた!と思った瞬間、地球が裏返しになっていた。

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

 

人形は夜戦う「夜の楽屋」の話

今から170年ほど前に妖怪カタログ『絵本百物語』が発刊された。

カラー版で、小豆あらいや寝肥、豆狸といったおなじみの妖怪が登場するなか、『夜の楽屋』というページがある。

これは人形浄瑠璃の楽屋で、かたき同士の人形たちが一晩中、喧嘩をしていたという話だ。

人形は魂が宿りやすいというのは本当で、髪の毛が伸びた、表情が変わった、移動していたなんて話は皆さんも耳にしたことがあるはず。

 

いつもライブに来てくれる器用な子が作ってくれたかっぱの人形。

かっぱはとても気に入っていつも持ち歩いていた。

ある時、同じ会場で数日間、続けてライブをすることになった。

その楽屋には元々、テディベアの可愛いぬいぐるみが飾られていて、初日の晩、かっぱは自分の人形をその横にそっと並べて帰った。

翌日、楽屋に入ると、棚の上に置いたはずのかっぱ人形はテーブルの上に、そしてテディベアは床に落ちていた。腕はぶらぶらで首も少し曲がっている。こんなだったかな?

テディベアとかっぱ人形をまた棚に仲良く並べて、かっぱはステージに出た。

その晩の帰宅途中、かっぱ人形を置いてきたことが気になって楽屋に引き返した。すると部屋の中から、どたんばたん、と音がする。

ドアの隙間からのぞいてびっくり。

かっぱ人形とテディベアが相撲を取っていた。

クマのほうが、参った降参だと言っているのに、かっぱ人形は、まだまだもう一番、としつこい。

これはおもしろい。

翌日は、大小取り混ぜたテディベアを持ち込んで並べて帰り、またしても夜中にのぞきに戻ると、果たして一番大きなクマのぬいぐるみに、かっぱ人形が吊り上げられている。このまま寄り切りか、と思った瞬間、テディベアは後ろに投げ飛ばされた。さすが相撲の強さは人形であっても変わらない。

次の日は五月人形を持ち込んだ。兜付きの金太郎は小さいながら筋骨隆々で鋭い目つきだ。

『夜の楽屋』の取り組み、金太郎はさすがに強く、ついにかっぱ人形はテーブルの土俵から転落した。

扉の隙間から最後の取り組みを見守って、かっぱはそっと『夜の楽屋』を後にした。

翌朝、楽屋に戻ってまたびっくり。

お尻に大きな穴の開いた金太郎人形が床に転がり、かっぱ人形がその上にまたがっていたのだ。