『かっぱの妖怪べりまっち』215話「石焼きの翁」 | おばけのブログだってね、

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2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

※214~257話までオリジナル妖怪たちが登場します※

 

巨大焼き芋、魅惑の味の秘密とは?「石焼きの翁」の話

秋風が吹くとやってくる石焼き芋屋のおじさん。

ピーーッと蒸気を上げながら、今ではほとんど見なくなったリヤカーを引っ張って春先まで売り歩く。

おじさんは子供くらいの背丈しかないが歩くのは驚くほど速く、芋が欲しいかっぱは夕方になると財布を握って耳を澄ませ、蒸気の音が聞こえるや否や、ダッシュで家を飛び出しておじさんをつかまえた。そうでもしないと芋は手に入らない。

おじさんの焼き芋は巨大で、飛び切り美味しかった。

こんがり焼けた皮の香ばしい匂いに、黄金色の大きなサツマイモはしっとりと甘く、猫舌のかっぱは、ふーふー言いながら夕飯前に全部平らげ、晩ご飯を残して叱られた。

毎年やってくる石焼き芋のおじさんは何年経っても老けることはなく、それがかっぱには謎だった。

ある冬の日、いつものように芋を買いに行って、何気なくその美味しい芋はどこで仕入れるのと尋ねてみた。するとおじさんは、自分の畑で育てた芋だと言う。

この返答に園芸好きのかっぱは食いついた。おじさんの畑ってどこ?芋の種類は何?上手に育てる秘訣はあるの?などなど。

しかし、おじさんは笑うだけで答えない。企業秘密というわけか。

何かある。かっぱはこっそりおじさんの後をつけた。

夜も更け、商売を終えたおじさんは町外れの小さな家までリヤカーを引く。

家の横には猫のひたいほどの畑があった。そうだ、これが企業秘密だな。

こっそり掘ってみたところ、そこのサツマイモは拍子抜けするほど小さい。

おかしいな。

しばらくするとおじさんが家から出てきた。

物影から様子をうかがうと、おじさんは畑に入り、やおらズボンを下げて芋の苗にオシッコを掛け始めた。思わず、えーっ!?って叫びそうになるのをなんとか抑える。

そのオシッコときたら止まることを知らず、小さな畑はまんべんなく潤い、すると芋のツルが動き出し、土の中から芋が顔を出したかと思ったらみるみる大きくなっていった。動きが収まるのを待って、おじさんは巨大化した芋を次々と掘り出していく。

秘密は、これだったのか!

かっぱはショックを受けて帰宅した。

やがて春になり、石焼き芋のおじさんも来なくなったある日の昼下がり、あの畑をもう一度確かめようと行ってみた。

確かこのあたりと思った場所には家も畑もなく、草が生い茂った空き地の奥には古ぼけたほこらがポツンと置かれている。ほこらの中には何もなく、ただ小さな芽を吹いたサツマイモがひとつ転がっていた。

それ以来、かっぱはあのおじさんを『石焼きの翁』と呼んでいる。

秋になると毎年、ピーーッという蒸気音が町に響くが、かっぱはあれから一度も買いに出たことはない。