『かっぱの妖怪べりまっち』115話「べとべとさん」 | おばけのブログだってね、

おばけのブログだってね、

The 25th Anniversary of Formation

2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。

11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。

当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。

 

黙って後ろをついてくる「べとべとさん」の話

あれはかっぱが相撲の稽古で金太郎を訪ねた帰り道のこと。山道を下っていると後ろから足音が聞こえる。おや金太郎かな?と振り返ったが誰もいない。歩き出すとまた足音。

これが噂の『べとべとさん』だった。

姿はなく足音だけがついてくるお化け『べとべとさん』、関西では有名だが東日本では静岡県にしかいないそうだ。

お先にどうぞ、と声を掛ければ追い越して行くのだが、これは珍しい、みんなに紹介しようとそのまま一緒に山道を歩く。

「このあたりに棲んでいるの?」

「キュウリは好き?」

などと質問してみたが答えはない。

ただ、yesのときはべとっ、noの場合はべとべとっ、とリズムで返事をすることに気付き、『べとべとさん』の身上調査をしながら、かっぱの家まで一緒に戻ってきた。

 

それからしばらく『べとべとさん』との生活は続いた。

散歩中の犬に吠えられたり、エスカレーターにつまづいたりしながらも、街の生活を楽しんでいた『べとべとさん』。

ダンスの稽古ではかっぱと一緒にステップを踏み、ライブではステージに乗って激しく踊る『べとべとさん』を気に入ったバンドメンバーたちは、パーカッションとして参加しないかと『べとべとさん』を誘った。

そんなある日、駅のホームで電車を待っていたかっぱは、後ろのベビーカーのお母さんにこう声かけた。

「お先にどうぞ」

 

『べとべとさん』の足音はかっぱを通り越し、駅の雑踏に消えた。