2020年12月末に配信終了となった『携帯サイト新耳袋』。
11年間に亘り連載していた短編、『かっぱの妖怪べりまっち』は、第563回で終了となりました。
当時の掲載作を週1編ずつこちらのサイトへ転載しています。
あの世ヘの水先案内人『センポクカンポク』の話
大きなヒキガエルのような体に人間の顔を持つ『センポクカンポク』は、富山県南砺市に伝わる妖怪。死者を側で見守り、4週間経つと魂をあの世に導くといわれる。
富山に住むにんげんの友達を訪ねたときのこと。
近所で不幸があったから少し出掛けてくると言われ、広間で昼寝をしていたら、大きなカエルがキョロキョロしながらあがってきた。にんげんのおじさんみたいな顔をして、何かを探している様子。
やあ随分キミはデカいね、と話しかけると向こうは、河童がこんなところでゴロゴロしているとはつまらない、などと言う。
この近くに素敵な沼があるからと誘われ、それじゃあ暇つぶしにと一緒に出掛けた。
入り口は小さい沼だったが入ってみると底は深く、泳げど泳げどたどり着かない。もう面倒臭くなった頃、ようやくお城が見えてきた。
いわゆる竜宮城みたいなものを観たのはこれが初めて。
きれいなお姉さんが出迎えてくれて、お城の奥に案内された。お姉さんは黄金色に輝くキュウリの山を指差し、いくらでも遠慮せず食べろと言う。カッコいい音楽が鳴り始めると、カエルも魚もカニまでもがクネクネと踊り出す。かっぱも浮かれてみんなと朝まで踊り明かした。
あまりにも楽しくてかっぱはもう一日、もう一日と過ごしたけれど、さすがに家に置いてきた猫が心配になってきた。
「カエルくん、そろそろ地上に戻るよ」
するとカエルは顔を曇らせて、
「明日で4週間、もっと素敵なところに案内するからもう一晩泊まれば?」と言う。
翌朝、カエルはお城の向こうにある金色に輝く山を指差して、さあ出掛けようとかっぱの手をひいたその瞬間だ。
どこからか「ニャー!」という猫の声が聴こえたような気がして我に返ったかっぱ。
やっぱり帰るよバイバイ、と言い残し、沼の入り口を目指して猛烈な勢いで泳いだ。
はっと気がつくとかっぱは友達の家の土間でひっくり返っていた。
みんな心配そうな顔でのぞきこんでいる。なんでも、友達が家に戻ったら、かっぱは干涸びて虫の息だったそうだ。
さらに不思議なことに、お葬式を出すはずだった近所の人が突然息を吹き返したらしい。
…そこで思い出した。富山には『センポクカンポク』っていう妖怪がいて、死んだ人の魂をあの世まで導く仕事をしているってことを。あのカエル、かっぱを誰かと間違えたのかな。
あれから数年経ち、すっかりそのことも忘れていた。天狗さんが飼い始めたというカエルの顔を見るまではね。