ラジオ!Yotsugi Busters!! -5ページ目

サラエボの恋人

どーも、オハラです。

僕は今、人生の局面を迎えています。
留学ブログばかりで、何も僕の近況を伝えておりませんでしたが、
まずどこから話していいものか…。

このブログにも以前に書きましたが僕はブラック企業を抜け出し現在の安心して働ける企業に
就職をしていますが、この仕事ももうすぐで終焉を迎えそうです。
理由は詳しく書けませんが、まあ商品に問題があったということです。

こうなると全部のお客さん、お取引先から賠償金問題などが上がるでしょう。
この会社にはそんなお金は無いので、もう終わりを迎えると思います。
僕は営業なので、今までお客さんをだましていたことになります。
もちろん僕はその商品不備を工場から連絡されておらず、知らないで営業してました。

小さい会社なので、営業は僕一人です。この場合は社長と一緒に謝罪に回って、怒鳴られ場合によっては殴られるでしょう。
今から不安でいっぱいです。

そんな時に僕の心の支えになってくれるのは彼女でした。
しかしながら、僕がこんな窮地にいると知っていながら、なぜか昨日彼女に振られてしまいました。

電話越しに23時頃にお互いスカイプで顔を見ながら話しました。
しかしあまりに唐突で、何がいけないのか全く見当がつかないまま別れられました。
彼女も支離滅裂な言葉を繰り返していて、自分の中でまとまっていない様子でした。

これは全く意味不明、奇妙奇天烈摩訶不思議、その実僕と彼女は2日前にも電話で普通に恋人っぽい会話をして盛り上がり、
挙句の果てには今週の土曜日にデートに行く約束もしっかりと取り付けてあったのである。
水族館に昼間にいき、夜は焼き鳥でも食べて酒を飲もうという話をしていたのである。

本当はこうして電話で話すのではなく、土曜日に直接この別れ話を言おうと思っていたとのことだった。
一体彼女はどうするつもりだったのだろう?昼間に水族館でれっきとしたカップルとして手をつないで互いにくっつきじゃれ合い、キスもしいしい、そして夜になったら豹変して別れを切り出すつもりだったのだろうか?

昼間は楽しいデートで夜は別れ話をするつもりだったのか?こんな残酷なことがあるだろうか?
人をなんだと思ってやがる?鬼畜の所業極まりない。
現に、今こんな仕事がキツイ状況で支えてくれる存在であるべき彼女があまつさえ別れを切り出し、僕をさらなるどん底へ突き落したのだ。何もこんな時期に言わなくてもいいじゃないか一段落してからでもいいじゃないか、知っていてあえてやっているとしか思えない。

理由を聞いても「うーん」とか「たぶん…じゃないかな」なんてどこか第三者的な自己分析を交えた言い分ばかりでまったくその真意がつかめなかった。女特有の抽象的な感覚で物を言う感じだろうか?

何とか要約すると、
・僕との未来が見えない。
・最近会えないでいても何故かさみしくなかった。
・自分には結婚願望がない。
・あなたの望むような女じゃない。
・あなたを支えられるような女じゃない。
・実は言いたいことや心の内を我慢して付き合っていた etc。

ということだった。

一緒に同棲する話は度々出て、もちろん結婚も意識していたが向こうも乗り気だった。そんなにいつまでに結婚をするなんて強要した覚えはないし、彼女もいずれは結婚を考えているということだった。その通り、僕も今すぐ結婚するつもりはさらさらなかった。

ただ、僕との未来をふと考えると全くうまくいってる様子が浮かばないという。二人の未来がはっきり思い描けないという。逆に聞くがそんなのはっきり思い描ける人間がいるのか?ましてや付き合って1年がようやく過ぎようとしているだけの互いに若輩者でどうしてそこまでしておく必要があるのだ?

最近会えなくても平気だったという言い分にはすこぶる腹が立った。最後に会ったのはバレンタインの時、つまり3週間前くらいである。もちろんこの時に手作りのお菓子をもらいメッセージカードで「これからも宜しく、お慕い申しております」という内容がつづられていた。それ以降はなかなか会えず僕はずっとさみしい思いでやきもきしていたのだが、この忙しい状況は彼女が作り出したものだった。もうすぐで仕事を退職し、大学院に進む彼女は2月はほぼ週末が会えないくらい仕事で埋め尽くしたのだ。この状況を作り出してる張本人が別に会わなくても平気だったから別れたいとは全く理解に苦しむ言い分である。こっちはずっと我慢していたのだ、会いたくても会えないから仕方なしにスカイプなどで顔を見ながら話す、週に2,3回はそれをしていた。しかも不可解なことにこれを彼女は迷惑がっておらず、中には彼女から話そうと誘ってきたことも何度もあった。こういうことになるから「あまり無茶はするな」「詰め込みすぎるな」とくぎを刺しておいたのだ。

以上のことから、一度冷静になってみてはいかがかと提案したが頑として聞かず、「もう無理なんだよ」とか「未来が浮かばない」とかのあやふやな文言ばかり。

最終的には自分の心の内をずっと我慢していたということにまで発展。いよいよ話がおかしい方向になってきた。人見知りの激しい彼女だったが僕の前では緊張しないで安心すると言っていたが、どうやらそれは大嘘で会うたびに緊張していたと暴露、実は言いたいことがいっぱいあったがそれらを言わずしてずっと心の内に留めておいたなどなど。

しまいには僕のことが好きだけと「LoveじゃなくてLikeだと思う」とませた中学生みたいなことまで言い始める始末。じゃあ好きじゃなかったということだ。「一緒にいて楽しいけど、でも楽しいだけじゃただの友達だし」とまで言い始め、いよいよ頭がおかしくなり始めた僕はずっと宙を仰いでは天井のシミを意味もなく数えたりしていた。

何なのだろう?今までのは全部仮初めの恋人を演じていただけだったのか?あの日みた映画も、東京湾に沈む夕日も、一緒に食べたごはん、酒、重ねた唇も肌も全部演技だったのか?先日のアカデミー主演女優賞は彼女にあげよう、アカデミー受賞大学院生(お茶くみ)おほほ、おもろ。

何度彼女に考え直すように迫っても無駄だった。女は一度決めたらもう捨身、頑として覆さない。しぶしぶ僕は電話を切って、二人の関係を終わらせた。

しばらくボーっと部屋を眺めこの一年を振り返ってみた。壁のコルクボードには彼女の写真が2枚ピンでとめてあった。僕がお気に入りだった自分撮りを送ってくれたものと大学に受かった時に焼肉を食べにいきその時に僕が祝いの花束を渡した時の写真だった。いったい僕の何がいけなかったのだろうと思い返してみたが、何も非が見当たらなかった、むしろ前日つまり数十時間前まではLineで「大好き」のスタンプを押しあう仲のいいカップルだったのだ。(たとえそれが傍らが演技だったとしても)

体の体温は上がりきっていて、一気に汗が噴き出ていた。脳内であまりなじみのない物質が駆け巡っているのがわかり交感神経が高ぶっていた。どうして僕はいつもこうなのだろう?きっと僕は人を愛するのが下手なのかもしれない。

前の彼女も丁度一周年記念日に別れた。今回も本来ならホワイトデーが一周年記念だった。もうそのためのプレゼントもちゃんと用意してあって、その日は一緒にどこか大浴場がある都内の安いホテルでも泊まろうかという話もしていた。この宿泊案も彼女からのものだ、あやうく2日前に予約を取るところまで行っていた。

これらのことからどう考えても彼女は衝動的に僕と別れたとしか思えなかった。生理前なのか、仕事でいっぱいいっぱいなのかわからないが、彼女は必ずこの早まった決断を後悔するだろう。ガキの使いじゃないのになぜちょっとした意見の擦れ違いくらいで別れるまで至るのだろう?あまりに幼稚すぎて手におえない。なんで即決なのだ?ちょっと相談すればいいことじゃないか、そんなに僕は頼りないのか?

それにしてもよりにもよってこんな大変な時期に一方的に意味不明に別れられてしまった僕はすっかり路頭に迷ってしまった。もしかしたら前述のように仕事を失うかもしれない、まさか彼女まで一緒に失うことになるとはどこまで僕は不幸な男なのだろうか?

女という生き物に振り回される人生にほとほと嫌気がさしてきた。いっそこのまま消えちまいたい。もしこれが土曜日に直接会って夜に切り出されていたら、僕は帰り道に万世橋から飛び降りていただろう。とある人が言っていた「結婚する女以外は人間と思うことなかれ」まったくもって正論だ。犬もしくは畜生だとでも思った方が良い。何が男女平等だ、平等に扱ったとたんに文句をたれる癖に、ちょっとでも辛いとすぐに泣きわめく増上慢共。優しくすりゃすぐに付け上がりやがって、もういい人の仮面なんか捨ててやる、やってられっか。

もうこんなくだらないブログも辞めてやる。こんな長文駄文を読んでる暇があったらさっさと外に出て女の1人でもナンパしてくればいいんだ。みんな猿のようにパコパコ、建前なんていりません、愛だの恋だのそんなものは汚染水と一緒に海にでも垂れ流してやればいいんだ。

グッド バイ、オウ ルヴォワール、アウフヴィーダーゼーエン、アリィヴェデルチ、アスタルエゴ、アデウス、ブレス、トット ツインス、スローンラート、ファーヴェル、アジュー、ネケミーン、ヴィーソギヤロ、ダ スウィダーニャ、ド ヴィゼニア、ド ヴィジダネ、ナ シュレダノウ、ド ヴィジェニア、ドヴィジェニャ、ドヴィデェーニャ、ドグレダニエ、ナスヴィーデニエ、ラレヴェデーレ、ヴィソン トラータシュラ、ド ポバチェンニヤ、アラハウスマルラドゥク、ヘレテ、シャローム、コーデ ヘフェヅ、マアッサラーマ、ウァレ、クワ ヘリ、カレシュ、ナマステ、ナマステー、アーユポーワン、スラマッ ジャラーン、スラマト ティンガル、ラーコン、トァゥダォーメ、チョモリアプ リーア、ヒンタムビェット、バイル タェ、ホシ、ツァイ ツェン、アンニョンヒ カシプシオ、さようなら

そして親愛なる読者の皆様に仮初めの愛を込めて。
くそ久しく。

終わり

長編ブログ「オハラのイギリス留学4年間」 語学留学編 08

男はその鋭い眼光をぎろっと僕に向けた。こういっちゃ失礼だが、ちょっと犯罪者のような怪しさをたたえていた。「あ、どうも」僕が軽く会釈すると、男はわざとらしいくらいに首を上下に振って僕に会釈をした。男が僕の方に近づいてきた。「あ、どうも日本人ですか?」男は意外に気さくで笑うと歯が見えた、上の前歯の2本がどういう訳か真っ黒だった。「こ、こ、こんにちは。ぼ、僕はケースケです」と握手を求めてきた。赤いフランネルのシャツとレギュラージーンズといういでたちで、最初は秋葉系かと思ったがどうもそうではないようだ。背丈は僕と同じくらいで体はそれなりにしっかりしていた。

ケースケはどこか挙動不審で話すときは必ずヘラヘラ笑いながら受け答えをして、時々吃音者のように詰まる癖があった。簡単にいうと変わり者であった。その日本語のおぼつかなさから最初は韓国人が頑張って日本語で話しているのかと思ったが、純正日本人のようで、ためしに英語で話しかけてみたが「I,I…I came from J, Japan!」みたいな変なテンションでつっかえつっかえ言うさまがかなり滑稽だった。

ケースケはパソコンに詳しく、この日本語で文字うちができる機能はケースケがこの学校の日本人に伝道してそれが普及したようだ。ケースケは謎が多い人物だった。本当かうそかわからないが、ケースケがイギリスに入国するときにトラブルを起こして大変だったらしい。入国審査の時に審査官のイギリス人が何を言ってるかわっぱりわからず、挙動不審になっていると別室に連れていかれたらしい。そこでも全く会話が成立せず仕方がなく、緊急で日本語がわかる通訳のような人間を招集し彼の入国審査を手伝ったという。結局、入国は許可されたが、その通訳の発動にかなりの金を請求されたらしい。

「まあ、よろしく」僕は適当に会話を切り上げて、煙草をもう一服すると階段を上がり教室へと向かった。午後の授業はConversationクラス、すなわち会話を重点的にやるクラスである。この午後の授業はせいぜい45分くらいで終わりの短い授業だった。午前のクラスの半分くらいのせまい教室で人数も10人もいないくらいの小さなものだった。狭い教室に小さめな丸いテーブルが乱雑に置かれていて、それぞれ勝手に席に座った。良く見ると部屋に暖炉があった。もう暖炉の穴はふさいであるが、昔はここで薪を燃やして暖をとっていたのだなとイギリスの昔の生活様式を感じた。

さおりもこのクラスは一緒のようだ。どうやら、さおりは午前のクラスは僕より1つ下のレベルらしく、そのクラスメイトの同い年くらいの日本人女子と仲良くなったようでその子もこのConversationクラスに参加していた。類は友を呼ぶというのか、さおりの友人はさおりと同じようなすらっとした体型でファッションセンスも似た感じ、肌は色白で髪は長めの明るい茶髪だった。「こんにちは、ユミです」彼女はユミと言ってさおりと同じく大学生だった。子犬のように艶のあるくりくりとした瞳が愛らしく、当時人気だった小倉優子のような容姿に似て、大学では相当もてているんだなと感じた。可愛いのだが、少しほうれい線が目立つ顔だった。AKBの指原のように若くても口回りにうっすらと出てしまう女子がいるが、ユミがまさにそうだった。可愛いとは思ったがそれまでだった、なんだかユミは自分がもてるとわかっていて、男を翻弄しそうな雰囲気があった。僕はそういう小悪魔な女子が好きだったが、ほうれい線が深い女子は僕はタイプではなかった。小悪魔には小悪魔の素質とそして美貌が必要だ、しかしながら、こうして強がっているがユミが万一僕のことが好きであざとく腕を組んで来たり胸を押し付けてきたりしたら、僕は彼女を簡単に受け入れるだろう、つくづく自分が嫌だった。

教室のドアが開いた。「OK、授業を始めるわよ」女性の先生が勢いよく入ってきた。ハイブリーチはしていないナチュラルなブロンドの髪を肩より少し上で切りそろえたショートボブのような髪型、所々皺があるが白くて綺麗な肌にヘイゼル色の瞳。細身の長身で早歩きのきびきびした様から何事も時間内にこなす神経質でかつ要領のいい性格がうかがえた。

「今日新しく入ってきたのはあなたね?宜しく、私はフランソワよ」と先生は挨拶した。フランソワはにっこり僕に微笑んだ。

続く

Yotsugi Bustersの走れ!マイロード!新シリーズ第3回「女子高生のスマホ事情」



ラジオ第3回をアップしました。

今回は最近の女子高生の平均スマホ使用時間が約7時間という話題をピックアップ。
果たして彼女達はスマホで何をしているのか?
アラサーのパーソナリティ2人が高校時代を振り返りつつ、昨今の若者のマナーに警鐘をならす!?

そして何故か高橋ジョージの話題へ!?

聞いてね!!

長編ブログ「オハラのイギリス留学4年間」 語学留学編 07

「あ、どうも」僕も軽く頭を下げた。いつイギリスに来たのかなどの他愛もない話をした。さおりは細見のジーンズに黒いフード付きのゆったりとしたパーカーのような服装だった。僕は口元に手を当てながら彼女の目を時々見ては時々逸らして話をした。僕は女性と話すときに口に手を当てるのが癖だった。自分の息がくさくて女性が不快に思うだろうという不安からだった。当時の僕は煙草を吸っていた、だからもちろん息はヤニくさいだろう。でもそれを除けば別に胃が悪いわけでも虫歯治療をほったらかしにしているわけでもない普通のにおいだった。なのに僕は女性に対するコンプレックスからか、自分の息をなるべく女性には浴びせずに嫌われまいと努力していた。またも僕の無意味な不安だった。良く考えれば無駄にダイエットを敢行する女性の息の方がくさい場合が多い。息は唾液の分泌と関係していて、何も食べないと口腔内に唾液が分泌されず、口が渇く。そうすると余計になんとなく灰色を連想させるような乾いた重たい息になってしまう。

相変わらず僕の思考回路は愚かだった。こうして夏に出会った女性と再会したことが運命なのではないだろうかと感じていた。まるで漫画のように、これこそが運命の人、性行為の様子がまず頭に浮かび、成田空港で長い留学を終えて帰ってきた僕に飛びつくさおり、二人で一緒に狭いアパートで暮らしている様子などが一瞬に頭を巡っていた。しかしながら、同時に童貞特有の「この女でいいのか?」という謎の歯止めがかかった。さおりは別段太っていない、どちらかというとスリムな体型でこうして近くに寄ればほのかなフローラルな香りが鼻をくすぐる、何とも女性的だが「もっと目がアニメキャラのようにパッチリしていて、アニメが好きで声が声優のように綺麗でコスプレ好きで…」などという注文が無限に湧いて出た。

本当はもっと話したいくせに僕はクールに飾って、煙草を吸いに行った。東京とは違って澄んだ空気と青空のもと吹かす煙草は格別だった。若干のヤニくらが僕を襲い、こうして1ストローク吸うたびに自分の肺の中を確実に煙が汚しているのだと思うと何度も煙草をやめようかという気になった。

黒い鉄柵の下、ひびの入った黄ばんだ壁にもたれて煙草を吸っているとマリアが入ってきた。濁った灰色の目が僕を見つけると「Hi」と小さく挨拶をした。マリアは顔に似合わず喫煙者だった。マリアは身長は僕より少し低い165cmくらいでスタイルの良いやせ形で、顔が少し幼く、ぱっと見た感じ19歳くらいに思った。「やあ、君も煙草を吸うのかい?」と彼女に話しかけると「Why not?」と返してきた。

ヨーロッパの女性の喫煙率はかなり高い。イギリスでももちろん多くの女性が喫煙している。どうやら妊娠中もお構いなく吸ってしまう人がいるみたいで「妊娠中の喫煙リスクを考えよう」みたいなポスターもいたるところで貼られていた。

さて、昼食の時間になり近所に何かおいしいところがあればいいが、何を食べていいか全く見当がつかなかった。午後にも授業があるが13:30からなので、始業まで1時間30分。とりあえず学校の周りをうろついてみることにした。Hastingsは決して都会ではない、はっきり言うとかなりの田舎だ。学校目の前のWarrior Squareガーデンとは逆の方の道を行ってみた。ちょうど学校裏手の方の細い路地へ行くとちょっとした商店が並んでいた。学校の裏手に隣接している低い建物は電気屋さんのようだ。ブラウン管のテレビやオーディオセットが広いフロアにたくさん並べてあった。その隣がなんと葬儀屋だった。墓石の見本や綺麗に装飾された艶のある黒い棺がショーウインドウに飾ってあった。その隣にあるのがgrocery store、つまり日用雑貨の店だ。イギリスにはコンビニがあるにはあるが日本みたいに充実していない。いわゆる個人商店、昔の日本で言うちょっとしたお菓子やトイレットペーパーなども購入できるタバコ屋さんみたいな感じだ。

狭い二車線を挟んだ向こう側は八百屋さんや床屋さんなどが並んでいた。とにかく何かサンドイッチみたいなものくらいはあるだろうとgrocery storeに入った。薄暗い店内は有線なんかもちろんかかっておらず、シーンと静まり返った店内に日用品、食糧やお菓子などが陳列してあった。ちょっとオリエンタルな食材や東南アジアのどこかで売ってそうなカップラーメンのラインナップなどもあった。イギリスにはPod Noodleというインスタントラーメンがあるが、よくこんなにまずいものが作れるなというくらいおいしくないカップめんだ。冷蔵庫にジュースなどと並んでサンドイッチが入っていた。味の種類も4種類くらいあり、ツナコーンやエビマヨネーズ、ベジタリアン用の野菜しか入っていないサンドなどがあった。僕はツナコーンを手に取りレジへ向かった。レジに立っている女性はアジア人だった。少しぽっちゃりしていて胸が大きく、いつもその胸を強調する服装をしていた。顔はまあタイプじゃなかった。後で聞いた話だがこの女性はイギリスに住んでいるマレーシア人のようだ。

ツナサンドとスプライトを購入した僕は学校の地下の食堂へと向かった。さっきより人が少なくなった。テーブルにいるのは幾人かの日本人ばかりだった。適当にテーブルについてサンドイッチに口をつけたが、これがまた何とも味気が無いサンドイッチだった。マヨネーズとツナとコーンがミックスされている具が黒パンに挟まっているのだが、マヨネーズにも味がないしツナもパサパサ、コーンはただのコーンである。前述したように僕は東京のカフェで働いておりサンドイッチの仕込みもやっていたが、えらい違いだった。サンドイッチの本場はイギリスじゃなかったか?こんなまずいサンドイッチに1.65ポンドも払ったと思うと癪に障る、でも郷に入っては郷に従えという言葉通り、僕はこのイギリスの習わしに迎合しなければいけない。

まずいサンドイッチをコーヒーで飲みこんでやっとの思いで食べ終えた。サンドイッチだけなのですぐにお腹がすくだろうことはなんとなく予想がついた。13:00を回り、授業があと30分ほどで始まる時間になるとちらほらと生徒がこのダイニングに入ってきた。さおりもどこかでお昼を平らげてきたようで、僕に一瞥すると備え付けのパソコンの前に座り、何かメールでもチェックしているようだった。僕もメールをチェックしたかった。親に到着したという連絡と、狩野さんにメールをしようと思っていた。僕はつくづく最低な人間だと思った。狩野さんにメールを送って、僕は彼氏気取りなのか?僕は何様なんだろう?

しかしながら、パソコンのキーボードが全部英語表記で、もちろんひらがな打ちの機能なんて備わっていない。全部ローマ字で送るわけにもいかず途方に暮れているとさおりが僕に日本語の打ち方を教えてくれた。どうやら謎のサイトにアクセスし、文字入力画面にてctlと7番だか4番だかのボタンを押すと不思議なことに日本語のかな打ちがそのままできるようだ。しかも漢字変換の機能もついている。「すごいね、これどこで見つけたの?」さおりに訊くと「あの人が教えてくれたの」とテーブルでゆで卵を食べている日本人男性を指差した。男はやたら鋭い眼光で少々面長、髪は少し伸びた無造作なサッカー選手のような髪型だった。

続く

長編ブログ「オハラのイギリス留学4年間」 語学留学編 06

地下は大きく分けて2部屋になっていた。階段下りて右手側は10m×12mくらいの広めの部屋だがおそらく本来ならダイニングスペースに使われている場所で壁にカウンターのように白い板が取り付けてあり、windowsのパソコンがずらっと5,6台並べてあった。真ん中にはもうがたついているステンレスのテーブルが2つくっつけてあり、そこでみんなランチを食べたりできるようになっていた。このダイニングの奥にひっそりと狭いキッチンがあり、そこでちょっとした料理もできるようだ。大小さまざまなマグカップが取り揃えてあり、好きなものを使って備え付けの紅茶やインスタントコーヒーなどが飲めるようになっていた。ダイニングには非常扉が備え付けてありレバーを押しながら開けるタイプのドアで、ここから外に出れる。そこは本来ならガーデニングなどを楽しむちょっとしたスペースで左手の壁には石造りの階段が10段ほど地上へと伸びていて低めの黒い鉄柵の扉に繋がっていた。その扉の向こう側は学校の正面玄関と真逆の歌路地に面した狭い通りで鉄柵扉には鍵がかかっていた。

地下から見上げる黒い鉄柵と太陽の光はまるで収容所にでもいられているようだった。このちょっとしたスペースは何をするかというとsmoking areaだ。煙草を吸う生徒はみなここで一服するシステムのようで、何人かの男の生徒がコーヒーのマグカップ片手に煙草をふかしていた。僕も自分でコーヒーを作って非常ドアを開けて喫煙者たちに混じった。日本から持ってきたマルボロメンソールライトに火をつけてフーと煙を吐いた。風は冷たいが春が近いことを告げる穏やかな日差しがとても気持ち良かった。

2,3人の男が煙草を吸っていた。その中で気さくに僕に話しかけてくれたのは炭のように真っ黒な髪に浅黒の肌、耳の下から顎を伝って生えている無精ひげがやけにワイルドなこの男、「へい、どっから来たんだい?」とタバコ片手に聞いてきた。男は赤いマルボロを吸っていた。「日本だよ」というと「ああ、今俺のクラスにもたくさんいるよ」と彼は言った。どうやら彼と僕は同じクラスだが、彼の方が先に入学している先輩だ。「宜しく、僕はオハラだ」と言うと「俺はアルトゥだ。トルコ出身だ」と名乗った。どうやらトルコ人のようだ。

僕の人生でトルコにあまりかかわることが無かったからどういう人種がいるのかも全く分からなかったが、こういうオリエンタルな顔立ちだとその時初めて分かった。トルコ人はアメリカよりもイギリスの方が圧倒的に近いので、多くの生徒が留学に来ているが、この時は珍しくアルトゥしかトルコ人はいなかった。

煙草を吸い終え非常ドアを開けて中に戻った。生徒が相変わらず忙しなく騒々しくお茶を飲んだりパソコンでメールをチェックしたりしていた。この部屋の隣にも何か部屋があるようで、覗いてみるとそこはまあまあ広いフローリングの部屋で真ん中にビリヤードが置いてあった。ちなみに英語では誰もビリヤードとは呼ばず、Poolと言っていった。部屋の奥に大きめなPanasonicのコンポが置いてあった。おそらくダンスしたりする場所でもあるのだろう。

授業開始までにトイレを済ませておこうと地上階に出た。ちなみにイギリスでは階の呼び方が少し異なる。日本の1階つまり地上階はイギリスではGround Floorと呼ぶ、そして次の2階のことを「First Floor」と呼ぶ、そこから3階をsecond floor…と数えていく。最初は混乱するが慣れてくるとその感覚が良くわかる。前にも説明したが、イギリスはどの家屋にも必ず地下(Basement)があるから、地下を必ず勘定に入れなくてはいけない、そうすると地上階という専門用語としてGround Floorがあった方がしっくりくるのだ。

Ground Floorを抜けてそのままFirst Floorへ、その途中の階段踊り場に男子トイレがあった。扉をあけると天井がやや高めのトイレで奥の壁に男子用が壁にかけてあり、男子が並んでするような仕組みになっていた。1個1個陶器のトイレが壁に独立してかけてあるわけではなく、この男性小便器は田舎の駅のトイレにありそうなステンレス製の1つの壁のようになっていて、男がだいたい3人ぐらい並んでできるタイプの小便器だ。

小便をおえて教室に戻った。イギリスに到着してようやく最初の授業が始まった。このUpper Intermediateのクラスは本当に人数が多く、日本人の女の子がほぼクラスの半分ほどを占めていた。やはり日本人同士で固まって座っているが、授業が始まればちゃんと英語で会話をしていた。担任のリネットが授業を再開した。テキストはもうLesson4くらいまで進んでおり、ちょうどLesson4はファッションのことについてトークしようみたいな内容だった。

新参者だった僕とマリア、ゴルカ、エルザの4人は固まって座った。「じゃあ、あなたの好きなファッションスタイルについて、二組で討論してみて」とリネットが仕切り、僕は隣のマリアと話を始めた。別にファッションにはとりわけ興味がなかったが、何とか話を合わせようと、僕はブルーのジーンズが好きで動きやすい恰好が好きだとか適当に話をしたが、うまく言葉が出てこなかった。一方でマリアはもう英語を習う必要がないくらいペラペラといろんな単語が出てきて僕を驚かせた。

実は以前にイギリスのサマースクールに高校の時に参加したときも感じたが、隣の席のイタリア人が同じ16歳なのに英語力が段違いだったのをよく覚えている。もしかしたら彼らの言葉使いも間違いだらけかもしれない。でも、とにかく物怖じをせずさも母国語のように話せる彼らの精神は見習うべきだと思った。

初回から早速自分の英語力の低さを痛感した。でも冷静に考えたら、彼らは母国で同じアルファベットを使っているのだ、スペルや発音は違えどラテン語をベースにした言葉が多いから、日本人よりはるかに習得は楽なのは当たり前な気がする。マリアはSwitzerland出身でフランス語とドイツ語が共通語らしい。大きく分けてフランス語圏、ドイツ語圏(あとイタリア語も少々)と分かれているそうだ。マリアはフランス語を普段話しているという。

午前の授業が終わり、僕は下の食堂にもう一度戻った。相変わらず生徒たちでごった返していて、その中に見覚えのある女性がいた。6:4に分けたセミロングの茶髪に黒くばっちりお化粧を施した細い目。「あ、どうも。こんにちは」女性がこくっと頭を下げた。あの時、留学のカウンセリングを一緒に受けた、さおりだった。

続く

Yotsugi Bustersの走れ!マイロード!新シリーズ第2回「トマピケティ」



ラジオ新シリーズ第二回をアップしました。

今回は経済のニュースをピックアップ!話題の著書トマピケティ氏「21世紀の資本」を取り上げ現在の日本経済を切る!!

ウィリーの独自の経済理論を展開、後半は何故か若者のセックス離れについて言及!?

聞いてね!!

長編ブログ「オハラのイギリス留学4年間」 語学留学編 05

「Hi, where are you from?」留学生同士なら必ずこのセリフから言葉が始まる。僕は隣にいた金髪の女の子に声をかけてみた。「私はSwitzerlandよ」と答えた。Switzerland、ちょっと前まではスイスで通じると思っていたが、国名はSwitzerland。色が白くてウェーブのかかったブロンドの髪を後ろで一つにまとめ、濁った灰色の目が印象的な子だった。彼女の名前はマリア、笑うと八重歯が出てとても人懐っこい笑顔で薄い水色のパーカーがブロンドの髪にとても似合っていた。

伝言ゲームのように今度はMariaの隣の男性に同じ質問が行った。「僕はSpainだ」トムクルーズの目をもう少しパッチリさせたような少し幼顔のあどけなさが残るひげ面のイケメンだった。このイケメンの名前はゴルカだった。背も高くすらっとしてそれはそれは本国でモテているのだろうと感じた。もう一人は結構歳の行った太目のおばちゃんで「私はドイツよ」と答えた。このおばちゃんはエルザという名前だった。恰幅のいいおばちゃんで髪はショートボブに少し赤色が混じっていて、メガネをかけていた。

4人は各々の留学プランなどを簡単に話たりして、時間を潰した。会話開始のきっかけを作った僕は妙な優越を感じていた。ほどなくして先ほどの女性が現れ、教室へと移動になった。もう11:00近くなっていた。僕たち4人はどうやら同じレベルだったらしく、Upper intermediateという真ん中よりちょっと上のクラスに配属された。

教室は4階でどうやら一番大きい教室のようだった。広さでいうと一般的な高校の教室の半分より少し大きめくらいの広さだった。教室に入ると12人ほどの生徒が授業を受けている最中だった。長方形のテーブルを6個くらい使ってみんなで囲うようにして輪になり、ホワイトボードの前に立っている女の先生をみんな見つめていた。

「Hi, みんな新しい生徒よ」引率の女性がそう紹介して、僕たち4人を適当な席に座るように促した。生徒の数は12人と多く少々面食らったが、なんと半分ほどが日本人の女だったのだ。全員歳は20前後という感じでおそらくは大学在学中にショートステイでこっちに来ているだけのようだ、就職試験でこの経験をアピールするのだろう。外人だらけの環境を想像していた僕は少しがっかりした。

クラスの先生はリネットという女性だった。38歳くらいの少し浅黒の女性で度がきつそうな大き目なメガネをかけていた。髪は艶のない黒髪で全体的に強めのウェーブがかかっていた。背は165cmくらいでちょっと年齢から腰回りが膨れ始めていた。ハリウッド映画のスクールコメディに出てくるまじめな女教頭みたいな、外人先生顔だが、いつも白い歯を見せて笑っていて、声が元気な男の子のように高かった。

早速授業に取り掛かるつもりだったが、イギリスでは11:00前後に「Elevenses」と呼ばれる小休止があった。生徒はみな教室を出て階段を下りて行った。僕も階段を下りて、みんなの後について行った。どうやら地下がキッチンになっていて、そこで紅茶やコーヒーを淹れられるらしい。受付の階まで下りてさらに下へと降りて行った。いろんな国の言葉が飛び交っていた。

続く

Yotsugi Bustersの走れ!マイロード!新ラジオ爆誕!

お待たせしました。

Yotsugi Bustersのラジオがついに復活です。

オハラとウィリーの二人でお送りする約15分。
新シリーズからは世の中のニュースを切る、放送ギリギリの社会派番組へと変身。
第一回目はイスラム国の人質事件について。

取り上げてほしいニュースなどお待ちしております。

長編ブログ「オハラのイギリス留学4年間」 語学留学編 04

「ピピピ」目覚ましが鳴った。天井は水色のペンキでむらなく着色されていて、僕に他人の家に泊まっていたことを思い出させた。窓からは白い日差しが入っていた。どうやら快晴のようだ。下へと降りていくとエリオットおばさんはもうとっくに起きていて、テレビからBBCの朝のニュースが大音量で流れていた。「Breakfastはできてるわよ」と言われキッチンへと移動した。トーストが2枚と小さなボウルにはコーンフレークがよそってあった。パンにつけるものはジャムやバター、そしてチョコペーストもあった。僕はこの「Nutella」というチョコペーストが好きだった。トーストにこんな甘ったらしいものを塗って食べる発想がなんともヨーロッパっぽくて好きだった。

昨晩のスカッシュと違って、100%オレンジジュースが出てきた。どうやらエリオット家では朝は100%ジュースのようだ。ビタミンCはこういう100%ジュースから採取するらしい。トーストを平らげてコーヒーで流し込んだ。冷たい水で顔を洗って、歯を磨いて髪型を整えた。

初日ということでエリオットおばさんが車で送ってくれた。昨日の夜は暗くてわからなかったがエリオット家の周りは芝生と木に囲まれた緑豊かな通りに構えていた。ちょっと遠くに目をやると大きな芝生作りのサッカー場が見えた。こういう環境が身近にあるから優秀なサッカー選手が生まれるのかもしれない。

車で道を下って行った。文字通りの下り、Hastingsは坂が多い街だった。3月だが若干暖かい陽気でイギリスは天気が悪い国と聞いていたが珍しい快晴だった。坂を下っていくと海沿いに出た。話に聞いていた通り、Hastingsは海に面していて、ちゃんと語学学校も海のすぐそばだった。Warrior Squareという名前通りの四角い広場が住宅地の真ん中に大きく構えてあり、この広場の左手側の建物の1つに語学学校はあった。ぱっと見た感じは学校とは思えなかった。イギリスは外観を守る国、4Fくらいの白い壁の大きな建物がそれぞれの区画に構えてあった。これらはコンバーションフラットという住宅様式で、もとは大きなマンションみたいな一軒家を改装して集合住宅みたいにしたものだ。

もとは1つの大きな家に壁の敷居、玄関などを増設して4つか5つの家に無理やり分けたようなそんな感じだ。たぶんエリオットさんの家もそんな感じだと思う。そんな海沿いの住宅地の中ぽっかりとこのWarrior Squareという大きな広場が構えていた。海のかなたをにらむように凛々しい顔をした女性の像が立っていた。花壇には綺麗な黄色い花がたくさん咲いていて、定期的に手入れをしているために一年中この花を見ることができるらしい。

車を止めて、「あの青いドアがあなたの学校よ」エリオットさんはそういうと「Bye」と言ってしまった。Square左手の集合住宅のちょうど真ん中あたりに位置する青色のドア、その上にLanguage Schoolの看板があった。大き目な玄関の扉を開けるとマットレスが敷いてあってさらにもう一枚の扉がある。これはイギリスではどの家でも設けてある防火扉というものだ。これは寒気を防いで家の中を温かく保つ工夫でもあるようだ。

防火扉を開けると目の前に上へと続く階段があった。学校と言うにはちょっと狭い建物だが多くの人の話声やいろんな人種の生徒たちが階段を上がったり下がったりしてかなり賑やかだった。

防火扉を抜けてすぐ横に受付があった。「Hello」と声をかけると受付の女性が顔をあげた。メガネをかけた焦げ茶色の長い髪を後ろで1つにまとめた若い女性だった。眼鏡越しに見ると女性の目は大きくクルクルと良く動いて見えた。「今日が僕の初日です」と告げると「名前は?」と聞かれた。「日本から来た、オハラです」と言うと「オハラね、Welcome」と言って、そばにいた別の女性がこっちへ来てと誘導してくれた。最上階までそのまま吹き抜けになっている階段を上って3階の奥の部屋に通された。

既にそこには3人ほど先客が座っていた。どうやらここはリスニングを強化するための部屋のようで、古い機材のリスニング用のテープ再生機器と大きなヘッドホンのセットが4つほど並んでいる狭い部屋だった。今はあまり使っていないようで物置になっているようだ。3人の先客の真ん中の席に僕は通されて、「それではこれからクラス分けのテストをします」とさっきの引率の女性が説明を始めた。内容は簡単な筆記試験とリスニングのテストだった。

試験は10分ほどで終わり、プリントを提出。「すこし待っててね」と女性は行ってしまった。「…」4人の間に妙な沈黙を流れた。僕は自分を変える第一歩だと勇気を振り絞って沈黙を破った。

長編ブログ「オハラのイギリス留学4年間」 語学留学編 03

「The next station is Hastings」アナウンスが流れた。やっとの思いで目指す街、Hastingsに到着だ。この長距離列車はボタンを押して自分でドアを開ける仕様だった。ホームに降り立つとちょっと面食らった。ずっと暗闇で田舎の道を来たと思ったが、Hastingsの駅自体はモダンな作りだった。外観をいじってはいけないイギリスに似つかわしくない近代的な天井の高いガラス張りの駅舎でまだ建設からそんなに時間がたっていないことがうかがえた。床も綺麗なタイルで統一されていて、イメージとだいぶ違っていた。改札を抜けて外に出た。とりあえず、ホストファミリーに電話をしようと電話ボックスを探した。駅の前は大きなバスのロータリーになっていて、そのロータリーの向かい側に4つほど電話ボックスが並んでいるのが見えた。

しかしながら、暗い。街灯が日本と比べ圧倒的に少なく、このガラス張りの駅から漏れる光と1本だけの街灯を頼りに暗闇の中に電話ボックスを見つけた。びっくりすることに電話ボックスには灯りがともっていなかった。壊れているのかと思いながら恐る恐る電話を掛ける。ホストファミリーが出た。「今つきました、Hastingsの駅にいます」というと「OK、すぐ行くわ」と電話を切られた。辺りは真っ暗なのでこの駅周辺がどうなっているかなんて検討がつかなかった。とりあえず、駅でタバコを吸って待っていると赤い車がやってきた。中から恰幅の良いおばさんが出てきて「オハラね?」と声をかけてきた。握手をしてスーツケースをトランクにいれて車に乗った。イギリスは日本と同じ左側通行の右ハンドルだった。

車内で何かを話そうと努めたが、どうも空気が重かった。というのもこのホストファミリーのおばちゃん、エリオット夫妻、はなんか怖い。眼が座っていてぜんぜん笑わない。ティアドロップタイプの老眼鏡から放たれる鋭い眼光はホームステイ初の人間を威圧するのに十分だった。駅から車で15分ほどでエリオット家についた。周りは静かな暗闇が広がっていて、空気のにおいから芝や木々が生い茂っているのが感じられた。2車線の通りを挟んで赤いレンガつくりの家々が並んでいて、街灯は頼りなく2.3個あるだけだった。

ここらへん一帯は独立した家というよりか横に連なっている家になっていてエリオットもその連なった家の一画だった。二階建ての質素なレンガ造りの白い壁の家だった。開錠して中に入ると大きくて黒いラブラドールレトリバーがしっぽを振りながら出てきた。居間に入るともう1匹老犬のラブラドールがいて、足が悪いようで僕を一瞥してそのまままた眠りに戻ってしまった。どうやらあと2匹の猫もいるらしい。

これは完全な手違いだった。僕はペットの毛のアレルギーがあると伝えておいたはずだが、なぜかこんな毛だらけの家に配属された。「疲れたでしょ?夕飯はできているわよ」と言われまずは部屋に通された。僕の部屋は階段を上がってすぐ目の前の部屋だった。エリオット家は物音一つしないマットレスの床であまり天井も高くない日本家屋に通ずるものがあった。僕の部屋は2畳半くらいのせまい部屋だった。ベッドが右手の壁にあって、小さなクローゼットがドア横に、そして左手側は腰の高さほどの黒い箪笥のようなものが窓の下に並べられていた。一応その箪笥の上に年代物の小さなテレビが備えてあった。つまり机がない。

ベッドは綺麗にメイキングされており海外の柔軟剤のにおいがした。荷物を置いて上着を脱ぐと下に降りてキッチンへ向かった。家の壁は綺麗に白色に舗装されていた。階段の横がキッチンに繋がっていて広めのキッチンの中に4人用の大きなテーブルがあった。夕飯はピザと小さなボウルに入ったサラダだった。スカッシュという飲み物も置いてあった。スカッシュはいわゆるカルピスみたいな原液ジュースでオレンジやブドウなどいろいろな味の原液を水で薄めて飲む。この家ではオレンジのスカッシュが好みのようだ。

飯の時は一人にされた。いろいろこれから仲良くやっていこうと話をしてみたかったがどうやらこのホストはそういう陽気なタイプじゃないみたいだ。よくイギリス人は個人主義が多いという。「みんなで楽しもうぜ」みたいなアメリカンなノリではなく、たとえばパブで一人で酒を飲んでる人がいたら「あの人は一人で楽しんでるんだな」と放っておくらしい。なんとなくそれがわかった気がする。エリオットはたぶん悪い人じゃないけどそういう陽気な人ではないのだ。あきらかにレンジで温めたようなまずいピザを食べながらキッチンを眺めていると猫が寄ってきた。白に所々黒のぶちがあった。こっちはなかなか懐っこい猫でもう1匹はすぐに逃げてしまう猫のようだ。

リビングから大き目なテレビの音が聞こえた。おいしくはなかったがピザをがんばって食べ終えて、食後のタバコを吸いにリビングへ行った。リビングには大きなフラットテレビがあり、エリオットおばさんはテレビを見ながら何かお菓子のようなものをつまんでいた。「夕食ごちそうさまでした」というと「OK」と軽く笑った。煙草はリビングを通り抜けて庭に出て吸ってくれと言われた。全面ガラス張りの白い取っ手のドアを開けて庭へ出た。奥に広い庭で草が生えていたが、適当な高さに切りそろえてあり、所々観賞用に自分で育てている花があった。あまりエリオットはガーデニングに熱心ではないようだった。

家が並んで隣接してあるため、庭ももちろん隣とくっついている。丁度僕の顔の高さくらいの板の塀がこの庭を長方形に囲ってあって少し背伸びすれば隣の庭の遊具のブランコが丸見えだった。真っ暗の夜なので塀の奥の向こう側は闇に包まれていた。タバコに火をつけて夜空を見上げた。東京と違って灯りが少ない分、星がきれいに見えた。煙草を吸っているとさっきの黒犬のマーフィが寄ってきた。この家で僕にfriendlyなのは彼だけな気がした。僕は犬や猫にほとんど触れない人生だった。自分が鼻炎アレルギーということもあるけど、周りで犬を飼っている人がほぼいなかった。でも、こうして傍に寄ってきてくれる犬がとても新鮮でかわいく思えて、アレルギーながらに辛抱してここに住んでみようと思った。マーフィの黒い艶のある頭をなでてやるととても嬉しそうにしっぽを振っていた。

タバコを吸い終え、僕のために用意してくれた灰皿に捨て「今日はありがとうございます。おやすみなさい」とあいさつして部屋に戻った。シャワーを浴びようと準備して浴室へ向かった。ユニットバスタイプで白い大きめなバスタブにカーテンがついていた。シャワーヘッドが立てかけてあって、横に摘みが二つついた白い装置があった。どうやら温水器みたいなもので、この摘みを回すと丁度いい温度のお湯が出る仕組みみたいだ。日本から持ってきたシャンプーとボディソープで丁寧に体を洗ったが心なしかイギリスは水が硬水なので泡立ちが悪く感じた。

ベッドに入って明日からのことを考えた。これから長いイギリスの生活が始まる、電車で旅をしているときには来なかった不安と寂しさが少し襲ってきた。「なるようになるか」と自分に言い聞かせて僕は眠りについた。もう23時を過ぎていた。

続く