大怪獣出現(1957年)監督 アーノルド・レビン 主演 ティム・ホルト(日本)
カリフォルニアの海軍基地付近の海底で、地震による裂け目から、核実験の放射能により巨大化した古代カタツムリの怪獣が出現する。運河を通り各地に出現する怪獣とアメリカ海軍との壮絶な戦いが始まる…。
一瞬某人気着ぐるみに見えたのは秘密
本作は日本ではまともな形で劇場公開されたことがない、不遇の作品で、日本初公開は1960年。この時は43分に短縮され、さらに1968年「大怪獣メギラ」と名前を変えて「サンダーバード6号」と併映されたという作品。監督の「目撃者は語らず」のアーノルド・レビン。主演は「荒野の決闘」ティム・ホルト。
映画は、原爆実験が原因ででソルトン湖周辺で地震が起きるところから始まる。しばらくして海軍のパラシュートによる水面降下訓練が行われ、ボートで回収に向かうが両者とも行方不明に。隊長の、ティム・ホルトが演じるトゥリンガー少佐が調査に向かうが、そこにねばねばした物質と、干からびた死体と恐怖の表情を浮かべた、水兵の死体を発見する。
その後、トゥリンガー自ら現場の海底に潜って調査、ほどなく不思議な球体を発見、引き上げる。ここで待ちに待った怪物出現。一瞬ガチャピンに見えたのは秘密だ。手にしたモリで目を潰し何とか撃退するが、一人が殺されてしまう。そのあとロジャー博士により、あの怪物が古代のカタツムリであることが判明する。危険だから、軍により遊泳禁止にされるが「商売にならん」と怒るおっちゃんがいたりするところ、「ジョーズ」に影響を与えたのでは思われるシーンもある。
その後軍により怪物の包囲作戦と、巣の探索が行われ、同時進行でトゥリンガー少佐と博士の助手オードリー・ダルトン演じるゲイルとのラブストーリー、そして彼女の娘が可愛がる実験室のウサギの話が並行して描かれ、地下水路の地図が発見されたことから、怪物の巣が発見される。トゥリンガー少佐らが、爆薬を抱えて爆破に向かい、番狂わせはあったものの、無事巣の爆破に成功し、大団円かと思ったら最後に大事件が起きてしまうという2段落ちになっている。
脚本の出来がよく、最後まで飽きさせない工夫がされている。役者に目立ったスターがいないが、かえって先の展開が読めず緊張感を生じさせることに成功している。
実物大モデルの存在が、ラストの迫力に貢献している
製作したグラマン・ピクチャーズは、これが第一作目。新興会社だけあって、相当きついスケジュールだったらしく、25万ドルの予算で撮影期間は16日だった。それにもかかわらず本作は丁寧に作られていて、怪物は3メートル台の実物大のモデルまで作られている。本作ラストの研究室でのシーンの迫力は、この実物大モデルの存在が大きい。最近の低予算映画にありがちの安っぽいCGだと、あの迫力は出ない。
太古の生物が今頃になって出現した理由は、湖底にあった耐久卵が地震により水が流れ込んだ事から孵化したと説明されていたが、それにしてはふ化した後の成長速度が早いような気もするが、ラストの研究室では成長した姿で出現していたので、そうした種類なのか、あるいはこれから更に巨大になるのかもしれない。
本作の怪物は、モリで目を潰されたり、銃撃で簡単に殺されたりするからそれほどの脅威でないように思えるが、本編でロジャー博士が言っていた通り、最大の脅威は繁殖力。一般のカタツムリは1度に30個程度、大きいのだと1000個ぐらい生むから、外に逃げ出し生態系を壊すぐらい繁殖すれば、人類滅亡どころの話ではない。そうした生態系の破壊にこの時期に目を付けたあたり、本作の先進性が見て取れる。
最近のモンスターパニック映画では役に立たない軍隊が、本作ではちゃんと仕事をしている
監督のアーノルド・レビンは、調べた限り怪獣映画はこれ1本のみ。「レリック」のピーター・ハイアムズを思わせるが、本作に限って言うとそれが良い方向に振れていると思われるので、本当に映画はわからない。
なお、映画の中でロジャー博士が、生き物がいなかった湖に海老が大発生した例を挙げているが、実はあの記事存在する。1955年10月17日号のライフに掲載されていて、映画でも実際のその号が小道具として使われていた。
余談だが、舞台となったソルトン湖は、1905年に灌漑工事の開発に伴い偶然生まれた一種の人工湖。50年代には映画で描かれていた通り、リゾート施設として大いに繁盛していたが、最初から水の逃げ場が確保されていたかったことから、水質が悪化し塩分濃度の上昇も相まって、魚が大量死を起こし現在では周辺はゴーストタウンと化している。往時のソルトん湖の姿を残した記録という意味でも、反策は貴重なものとなる。
ミステリータッチで始まり、そのあと怪物の巣を見つけるサスペンス展開。巣を見つけ、めでたしめでたしかと思わせておいて、最後に最大の見せ場を用意する等、最後まで観客を引き付ける構成は見事。新興会社ゆえか、あまり売れなかったようだがモンスター・パニック映画の隠れた名作と言って良いと思う。
ライフ紙を見る一同。この記事は実在し、小道具にもその号が使われている
もう一つ余談だが、邦題になっている“メギラ”だが、本編では一切呼ばれていない。ただ一部の海外で“ゴルナクシス“と呼ばれることもあるようだ。いかにも日本らしい”メギラ“に比べ、ギリシャ神話に出てきそうな”ゴルナクシス“。この辺りも国による文化の違いと言えるのではないだろうか。