米国特許取得ランキングから見える景色 | 知財業界で仕事スル

知財業界で仕事スル

知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

米特許取得ランキング、IBMが25年連続首位

日本経済新聞 2018/1/11

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25547580R10C18A1000000/

>米国の特許情報調査会社のIFI CLAIMSパテントサービスはこのほど、2017年に米特許商標庁(USPTO)に登録された特許件数の企業別ランキングを発表した。トップは米IBMの9043件で25年連続の首位。16年比12%増、10年前に比べて3倍の件数だという。2位は韓国サムスン電子で16年比6%増の5837件、3位はキヤノンで10%減の3285件だった。

 

このランキングの詳細については、例えばここにあります。

2017 Top 50 US Patent Assignees

https://www.ificlaims.com/rankings-top-50-2017.htm

 

 

私は、このブログで過去に、このランキングの変遷を調べて記したことがあります。

米国特許取得数ベスト10

2006-05-17

https://ameblo.jp/yoshikunpat/entry-10755683145.html

 

そのときの内容に2015年と2017年のデータを加えて、以下に示しておきます。

 

1985

1. General Electric 778

2. Hitachi

3. Toshiba

4. IBM

5. US Philips

6. RCA

7. Canon

8. Siemens

9. AT&T

10. Fuji Photo

 

1995

1. IBM 1,383

2. Canon

3. Motorola

4. NEC

5. Mitsubishi Denki

6. Toshiba

7. Hitachi

8. Matsushita

9. Eastman Kodak

10. General Electric

 

2005

1. IBM 2,941

2. Hitachi

3. Canon

4. Matsushita

5. Hewlett-Packard

6. Samsung Electronics

7. Micron Tech.

8. Intel

9. Siemens

10. Toshiba

 

2015

1. IBM 7,355

2. Samsung Electronics

3. Canon

4. Qualcomm

5. Google

6. Toshiba

7. Sony

8. LG Electronics

9. Intel

10. Microsoft

 

2017

1. IBM 9,043

2. Samsung Electronics

3. Canon

4. Intel Corp

5. LG Electronics

6. Qualcomm Inc

7. Google

8. Microsoft

9. Taiwan Semiconductor Manufacturing (TSMC)

10. Samsung Display

 

この10年単位でみた推移から、1995年あたりに日本のパワーのピークがあったということがわかります。そこから下り坂で、その下降傾向が今に近づくにつれてはっきりしてきているようにみえます。

 

上の情報からわかる重要なことがもうひとつあります。それは、件数の増加です。上のまとめでは1位のみの数字だけしか示していませんが(昔、まとめたときにそうしたので)、2015年と2017年のわずか2年間でさえ、大きな数字の伸びがみられます。2017年の10位であるSamsung Displayでさえ2,273件あります。1985年、1995年であったならば、これは断トツ1位の数字です。2005年でも、おそらく2位か3位に入るでしょう。これが、日本企業の順位を押し下げる最大の要因だと思われます。日本だけが特許件数において成長できていないのです。

 

上で引用した

2017 Top 50 US Patent Assignees

https://www.ificlaims.com/rankings-top-50-2017.htm

での上位20社をみると、11位~20位に、ソニー、トヨタ、東芝、富士通が入っていますが、特殊な経営問題で揺れた東芝以外は、ほとんど減っていません(トヨタは激増しています)。19位の富士通が1,538件で、それを1995年に当てはめると、IBMに勝ってトップになります。日本企業の出願件数が減っているというより、日本に比較して米国、韓国(そして中国)が伸びているのです。

 

私が大阪からDCに引っ越して来たのが1995年です。当時の世界の製造業界は日本一色といって過言ではなく、日本企業から流れてくる特許業務を引き受ける日本の特許業界も世界の中で強い存在感がありました。それだけでなく、1995年頃は、日本人にとって米国の何もかもの物価がとても安かったのです。「日本の半額」と言っても過言ではありませんでした。そのような時代に弊所では、「米国特許をとるのに、日本人はできるだけ関与せず、米国人にできるだけ任せるのが正しい」と主張し、米国人と組んで日本企業向けの米国特許ビジネスを始めました。

 

ところが今や、日本がパワフルだった「古き良き」時代は過ぎ去り、日本の物価の方が「米国の半額」みたいなことになって、日本人・日本企業の米国での購買力が落ちています。しかし見方を変えると、これは米国人と価格競争すれば日本人が容易に勝てる時代になったということです。米国特許に関しては米国人がネーティブで有利ですが、今や値段がとても高い。日本人はノンネーティブですが、価格競争でなら普通にして楽勝です。

 

さらに、日本人の発明者に対するコミュニケーション、日本企業に対するコミュニケーションでは、米国人に比べて日本人が圧倒的に有利です。「かゆいところに手が届く」サービスを競争力のある価格で提供することができるからです。

 

 

特許事務所ビジネスも今や成熟化し、ビジネス環境としては20年前、30年前に比べて儲けにくくなっているのは間違いありません。特許の価値はその国の市場の価値で決まるので、米国や中国の後塵を拝する日本の特許を扱うのが本来の専門である日本の特許事務所は容易なビジネス環境にはありません。日本企業でさえ日本特許にそれほど価値をみない時代になっています。にもかかわらず、弁理士の数が増えました(昔は「無資格技術者」が大量にいましたので、特許サービス提供者の総数としてはあまり変わらないのではないかと思いますが)。この環境下で生き残っていくには、我々はどのように努力したらよいのでしょうか?

 

ありきたりの表現になりますが、私は、英語力を磨くことに尽きると考えています。昔から言われる弁理士にとって必要な3つの基礎能力、すなわち技術力、法律力、語学力のうち、プロとして業務を進めるために市場で必要とされるレベルに達していないケースは圧倒的に語学力(英語力)の領域でみうけられます。英語力を高めると、米国特許についても相当なレベルまで日本人が自分でこなせるようになっていきますので、値段が高い米国アトーニーに対して、値段の安さと日本人相手のコミュニケーションの細やかさとで勝負していけば勝ち目は十分にあります。

 

この方向で弁理士に明るい将来が開けると思います。