
受験の心療内科
共通テストで受験生が自殺?「トンネル効果」の予防法

今日のテーマは、大学入学共通テストが終わった今の時期に増加する受験生の自殺行為についてです。
大半は自殺未遂で終わるのですが、命を落とす可能性もあり、親御様は決して油断してはいけません。
今どきの受験生はメンタルがとてもデリケートです。
共通テストで思っていたような点数が取れなかったら、私大入試や国公立二次試験で十分に逆転合格できる状況であっても、自殺を図ってしまうというケースが少なくないのです。
なぜ、受験生は、そのような状況で自殺を図るのか?
原因は、受験生の脳や心に関して、メンタル医学で「トンネル効果」と呼ばれる現象が起きているためだということがわかってきました。
「トンネル効果」とは、いったい、どういうものなのか?
悲劇を起こさないために、ご家族がやるべき対策は、どんなものなのか?
受験生を専門に診療している心療内科医としての経験と専門知識をもとに、わかりやすく解説します。

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毎年、共通テストの後に増加する受験生の自殺!
大変に残念なことですが、大学入学共通テストが終わった後の今の時期、受験生が自殺を図るケースが増加します。
これは、共通テストが始まる前のセンター試験の時代から続いている傾向です。
受験生ご自身はもちろん、受験生のご家族の方も、ぜひ、注意していただきたいです。
受験生の自殺は、私大入試や国公立大学の二次試験が終わり、合格発表があって、不合格が確定してから増えると想像している方が多いと思います。
もちろん、その時期にも受験生の自殺はありうるので、ご家族は油断しないでいただきたいのですが、実は、まだ入試の日程が残っている時期のほうが、受験生の自殺は多いのです。
なぜかというと、入試の日程が全て終わり、不合格が確定すると、受験生は当面、何かしなければならないということはなくなります。
これによって脳も心も、休息を取ることができるので、受験生の自殺に歯止めがかかるのです。
それに対し、まだ、入試の日程が残っていると、過去問を解くとか、復習するとか、一生懸命に頑張ってやらなければならないことがあります。
このとき、今日のテーマである、メンタル医学で「トンネル効果」と呼ばれる作用が働くため、自殺を図ってしまうわけです。
もちろん、共通テストやセンター試験が期待していたほど良い点数ではなかったら、落ち込んでしまうというのは、受験生なら誰にでも起こることです。
受験生の親御様も、かつて、ご自分が受験生だった時期には、そんな経験をした思い出があったはずです。
ただし、親御様の世代では、そのまま自殺を図るというところまでメンタルが追い詰められる人は、多くはありませんでした。
ところが、メンタルが脆弱な今どきの受験生は、落ち込んだ感情をコントロールする力が十分に育っておらず、そのまま自殺に結びつくケースが多いのです。
いったい、受験生の脳や心で何が起きているのでしょうか?
その大きな要因として指摘されているのが、まさしく、メンタル医学で「トンネル効果」と呼ばれている現象なのです。
今どきの受験生が自殺を図る大きな要因となっている「トンネル効果」とは、いったい、どんなものでしょうか?
自動車でも電車でもいいので、トンネルを通る時の様子を思い出してください。
真っ暗いトンネルの中で、ずっと先にあるの出口の部分だけが明るく見えるはずです。
視野の全体の中で、ごく一部だけがよく見えていて、それ以外の大部分は真っ黒でよく見えない・・・。
これがトンネルの特徴ですね。
脳の認識も、こうしたトンネルの中にいるときの視野と同じような状態になるのが、メンタル医学で「トンネル効果」と呼ばれているものなのです。
柔軟な発想を奪う「トンネル効果」の怖さとは?
では、「トンネル効果」によって、どうして受験生は自殺という最悪の選択肢を選んでしまうのでしょうか?
原因は、柔軟な発想力が「トンネル効果」によって奪われてしまうからです。
自殺を図った受験生に対して、私の受験生専門の心療内科クリニックで問診を行うと、こんな答えが返ってきます。
「共通テストの成績が悪かったから、もうおしまいだ・・・」
「東大に合格できないから、僕の人生は終わってしまった・・・」
しかし、実際に共通テストの自己採点のスコアを見せてもらうと、確かに良い成績ではないものの、受験生本人が思うほどは壊滅的な結果ではない場合が大半です。
また、百歩譲って受験に失敗したとしても、その後の努力次第で、長い人生で挽回することは十分に可能です。
しかし、「トンネル効果」に蝕まれている受験生の脳の認知機能は、そうした柔軟な考え方が出来なくなってしまっているのです。
受験生の脳の中では、トンネルの出口にあたる認識できる部分は、「志望校に落ちる成績だ」といったネガティブな現実のごく一部だけです。
「挽回できる」という、その他の多様な現実は、トンネルの中の暗い闇に相当する部分に飲み込まれてしまい、まったく認識できなくなっているのです。
試験の成績も悪化の原因も「トンネル効果」にある!
受験生にとって、もう一つ「トンネル効果」がもたらす大きな弊害があります。
それは、成績の悪化自体の要因も、実は「トンネル効果」にあるということです。
「トンネル効果」は、脳による柔軟な発想力を奪ってしまうため、応用問題の正解率がとりわけ劇的に低下してしまいます。
また、一つの事に気を取られてしまうため、「トンネル効果」によってケアレスミスも増加してしまうのです。
さらに、全体を俯瞰して認識することが苦手になってしまうため、「トンネル効果」が強まると、英語や国語の読解力も低下し、文章全体の大意がつかめなくなってしまいます。
特に、センター試験の時代に比較し、現在の共通テストは、思考力は発想の柔軟さを求める出題傾向に大きく舵が切れられました。
このため、受験生の脳が「トンネル効果」を起こしてしまうと、得点力は壊滅的に低下してしまうこともあるのです。
しかも、この傾向は共通テストだけではなく、中学入試から大学入試まで、入試全体に言えることです。
「トンネル効果」を予防することは、もちろん自殺を防ぐということが最も大事ですが、試験の点数をアップさせるということについても、とても重要なものだといことです。
では、「トンネル効果」と予防するには、ご家庭では、どのようなことを行えば良いのでしょうか?
受験生に限って言えば、「トンネル効果」の大半は、脳内で扁桃体と呼ばれる部分が過剰に刺激を受け、それによって前頭前野と呼ばれる部分が機能不全を起こすことによって生じます。
ですから、こうした脳内のアンバランスをなくせば、「トンネル効果」を予防することができるのです。
具体的には、以下については、こうした効果が実証されていますので、ぜひ、実践することをおすすめします。
・同じ科目を連続して勉強するのではなく、様々な科目をローテーションで勉強していく。
・勉強するときに背筋を伸ばし、テキストに目を近づけすぎないようにする。
・散歩をするなど、屋外で体を動かす習慣を身につける。
・食事中に家族と談笑するなど、受験以外の話題で会話をする。
・将来の夢や目標を考え、目の前の受験を脳内で相対化させる。
・スマホを長時間見ないようにする。
・どうしてもスマホが見たければ、テレビ画面にキャストして、大画面で見るようにする。
いきなり以上のすべてを実践するのは難しいと思うので、可能なものから一つずつ取り入れていきましょう。
また、受験生の方が、どうしても志望校に合格したいという意思が強い場合は、私のクリニックの「磁気刺激治療(受験うつ)早期合格コース」をご検討ください。
脳への磁気刺激を通して前頭前野がバランスよく活動できるようになると同時に、扁桃体の暴走を止める効果が生じます。
その結果、「トンネル効果」がなくなることにより、自殺の予防効果が期待できるのは当然ですが、あわせて応用問題の得点力や読解力の向上が図れます。
これにより、うつ病の治療や自殺の予防とともに、志望校への合格を両立させることが可能になる診療プログラムです。